報道によると、安倍晋三内閣総理大臣は明日から訪中し、26日の日中首脳会談で日中通貨スワップ協定の締結に合意する見込みなのだそうです。こうしたなか、昨日は韓国の中央銀行総裁が日韓通貨スワップ協定の必要性に言及しており、世の中的には再び「通貨スワップ」「為替スワップ」などに注目が集まっているようです。そこで、本稿では通貨スワップと為替スワップに論点を絞って、それらの特徴と現状について、解説を加えてみたいと思います。
目次
再び「スワップ」に注目集まる
韓国の中央銀行にあたる韓国銀行の李柱烈(り・ちゅうれつ)総裁が22日、韓国国会で日本との通貨スワップ協定の再開に言及したという話題は、昨日、『韓銀総裁が日韓スワップ待望?まず約束守れ、話はそれからだ』で取り上げました。
繰り返しですが、李総裁が国会で述べたとされる内容を私なりに要約し、箇条書きにすると、次のとおりです。
- 日本との(通貨スワップ協定)を再締結しない経済的理由は見当たらないし、韓国が日本との通貨スワップ協定再開を望むなら経済的問題はない
- 米韓通貨スワップや日韓通貨スワップがあれば外国為替健全性次元で良い装置となる
- 米国は基軸通貨国(※)以外の国と通貨スワップを締結していないため、米韓通貨スワップは難しい
- 日本の場合、いくらでも再開できる可能性があるが、まだ条件は整っていないと判断する
ここで、「基軸通貨国との通貨スワップ」とは、この場合、「通貨スワップ」ではなく、ニューヨーク連銀が日本、英国、スイス、カナダの4ヵ国の中央銀行と欧州中央銀行(ECB)との間で締結している「為替スワップ」のことを指しているものと思われます。
また、折しも明日から安倍総理が訪中し、26日に行われる日中首脳会談では、日中通貨スワップ協定の締結で合意するのではないかとの報道も出ていますが、その協定の本質についても、世の中には少し誤解もあるようです。
この通貨スワップや為替スワップについては、当ウェブサイトでも今までかなり議論して来ましたが、考えてみれば、最近になって新たに当ウェブサイトを訪れてくださる方も増えています。そこで、これまでの議論をまとめておきたいと思います。
スワップの基本
スワップ4種類
まず、基本的な用語を確認しておきましょう。
国際金融協力の世界でいう「通貨スワップ協定」とは、二ヵ国間の通貨当局などがお互いに通貨を交換する協定のことであり、英語では “Bilateral currency Swap Agreement” と呼びます。そして、わが国の財務省は、これを略して「BSA」と称しています。
また、通貨スワップと似たような日銀用語に「為替スワップ」というものがあります。これは、お互いの国の民間銀行に対して通貨を供給するというオペレーションのことですが、私自身は “Bilateral Liquidity swap Agreement” を略して「BLA」と呼ぶこともあります。
なお、デリバティブの世界では、通貨スワップ(Cross Currency Swap, CCS)や為替スワップ( Buy-Sell / Sell-Buy )という用語はまったく違う意味になりますが、これについては『総論:通貨スワップと為替スワップとは?』で説明しましたので、興味がある方は参考にしてください。
そして、本稿で「通貨スワップ」と呼ぶときはCCSではなくBSA、「為替スワップ」と呼ぶときには “Buy-Sell / Sell-Buy” ではなくBLAのことを指すことにしますので、ご注意ください。
紛らわしい「スワップ」の用語
- 通貨スワップ(BSA)…二ヵ国間の通貨当局が通貨を交換する協定
- 為替スワップ(BLA)…二ヵ国間の通貨当局が民間金融機関に通貨を供給する協定
- 通貨スワップ(CCS)…ISDAベースの通貨交換とベーシス・スワップを伴うデリバティブ
- 為替スワップ(Buy-Sell / Sell-Buy)…直物外為取引と先物外為取引の組合せ
ごく稀に、当ウェブサイトで「BLA」の方の為替スワップについて議論しているときに、「バイセル・セルバイ」の方の為替スワップの話と誤解する人もいますが、本稿はデリバティブの話ではありませんので、くれぐれもご注意ください。
通貨スワップ、2つの類型
さて、通貨スワップ取引には2つの類型があります。
1つ目は、韓国や中国など、資金不足に悩む国が強烈に欲しがっている、「米ドルを提供するタイプのスワップ」です。そして、伝統的に、わが国が外国と締結する通貨スワップは、この「米ドルを提供するタイプのスワップ」が多かったのです(図表1)。
図表1 日本が外国と締結している通貨スワップ(協定変更前)
相手国 | 日本から提供する通貨 | 相手から受け取る通貨 |
---|---|---|
インドネシア | 227.6億米ドル | インドネシア・ルピア(金額不明) |
フィリピン | 120.0億米ドル | フィリピン・ペソ(金額不明) |
シンガポール | 30.0億米ドル | シンガポール・ドル(金額不明) |
タイ | 30.0億米ドル | タイ・バーツ(金額不明) |
合計 | 407.6億米ドル | (金額不明) |
(【出所】財務省ウェブサイトより著者作成。なお、インドネシア以外の各国は相手国から日本が米ドルを受け取るという条項も含まれているが、記載を割愛している)
おそらく先ほどの報道に出てきた、韓国銀行の李総裁が欲しがっているスワップは、この「日本に韓国ウォンを渡し、日本から米ドルを提供するタイプのスワップ」のことでしょう(※ただし、図表1のスワップは、インドネシアを除き、現在は日本円での引出もできるように協定が変更されています)。
これに対して2つ目は、米ドルではなく、「お互いの通貨」を提供し合うタイプのスワップもあります。国によっては、これを “Local Currency Swap Agreement” 、つまり「ローカル通貨(自国通貨)建てのスワップ協定」と呼ぶこともあるようです(あえて略せば「LCSA」、でしょうか?)。
韓国が外国と締結しているスワップは、いずれもこの「ローカル・カレンシー・スワップ」です(図表2)。
図表2 韓国が外国と締結しているスワップ
相手国 | 韓国が受け取る通貨 | 韓国が引き渡す通貨 |
---|---|---|
オーストラリア | 100億豪ドル(約71億米ドル) | 9.0兆ウォン |
マレーシア | 150億リンギット(約36米億ドル) | 5.0兆ウォン |
インドネシア | 115兆ルピア(約76億米ドル) | 11.0兆ウォン |
スイス | 100億スイスフラン(約100億米ドル) | 11.2兆ウォン |
合計 | 約282億米ドル相当額 | 36.2兆ウォン |
(【出所】著者調べ。なお、米ドル換算額は米国時間2018/10/22終値などを参照。なお、韓国銀行は中国との間でも、3600億元・64兆ウォンの通貨スワップ協定を保持していると主張しているが、これについては公式には2017年10月10日時点で失効している)
図表2の合計欄を見てみると、米ドル換算額は約282億米ドルですが、これは、「韓国が36.2兆ウォン(約319億ドル)をこれら4ヵ国に渡せば、282億米ドルを受け取ることができる」、という意味ではありません。
あくまでも受け取ることができるのは相手国の通貨であり、米ドルではないのです。
そして、豪ドルやスイスフランなどの「国際的に通用するハード・カレンシー」であれば、外為市場で100億ドル程度の米ドルを入手するのは簡単です。しかし、マレーシアやインドネシアの通貨は、「国際的に通用し辛いソフト・カレンシー」であり、巨額の為替取引をしたら、相手国通貨も暴落してしまいます。
つまり、韓国がもし通貨危機になって、マレーシアから150億リンギット、インドネシアから115兆ルピアを入手しても、それらを米ドルに両替する際に、マレーシアとインドネシアの通貨も同時に暴落してしまい、韓国発の通貨危機が両国に波及することになりかねないのです。
通貨スワップはどう役立つのか?
以上、通貨スワップには「米ドルの提供を受けるタイプのスワップ」と「各国の通貨を単純に交換するタイプのスワップ」(ローカル通貨スワップ)の2種類があることがわかりましたが、これについてはいったいどう使うのでしょうか?
ここで、為替介入には「売り介入」と「買い介入」があります。
「売り介入」とは、自国の通貨を売って外貨を買い入れる為替介入であり、自国の通貨が上昇し過ぎるのを防ぐために行われることが一般的です。いわば、自国通貨を刷れば、理屈の上では無限に為替介入が可能です(ただし通貨を刷り過ぎればインフレになってしまいます)。
これに対し、「買い介入」とは、外貨を売って自国の通貨を買い入れる為替介入であり、一般に自国通貨の暴落を防止するための通貨防衛として行われることがあります。しかし、この「買い介入」は、保有している外貨準備の額までしかできません。
万が一、通貨危機の最中に、外貨準備が尽きてしまえば、それ以上、為替介入を行うことはできなくなります。そうなれば、あとは自国通貨がフリーフォール状態になり、外貨建てでおカネを借りている企業は債務不履行(デフォルト)・倒産の危機が現実化しますし、輸入品価格も暴騰します。
要するに、国民生活は大混乱に陥りかねないのです。
そこで、通貨危機になった場合には、まずは中央銀行がスワップ締結相手国に自国通貨を預けて外貨を貸してもらい、それで危機を乗り切る、ということが考えられます。
その際、スワップの金額は多ければ多いほど良く、また、実際にスワップを発動しなくても、投機筋に対しては「わが国はこれだけのスワップがある」とアナウンスする効果も期待できます。
ただし、世界の基軸通貨は米ドルです。為替相場でも、まずは、「米ドルと自国通貨との交換レート」を表示することが一般的です。したがって、通貨危機が発生した際にも、まず必要になるのは米ドルです。なぜなら、通貨危機の際には、米ドルを売って自国通貨を買い支えなければならないからです。
このため、ローカル通貨建てスワップは、じつはあまり実用的ではありません。なぜなら、相手国通貨でおカネを引き出しても、それが円、ユーロ、英ポンドといった準基軸通貨でもない限り、それを直接の為替介入に使うことは困難だからです。
ましてや、ソフト・カレンシーである中国人民元とのローカル通貨建てスワップは、中国本土でパンダ債を発行した銀行を救済することくらいにしか使えません。通貨防衛という意味ではトイレット・ペーパーほども役に立たないのではないでしょうか?
スワップの色々
通貨スワップとCMIM
ところで、日韓通貨スワップもそうですが、日本とアジア諸国との通貨スワップ協定は、「1997年のアジア通貨危機が」引き金になったことは事実です。このアジア通貨危機とは、最初はタイ、次にインドネシア、さらには韓国の通貨が国際的に売り浴びせられ、通貨が大暴落した事件です。
こうした通貨危機が再発しないようにしたいという意向もあり、日本が発案する形で、2000年5月にタイのチェンマイで行われた「ASEAN+3」会合で成立したのが「チェンマイ・イニシアティブ」という枠組みです。
これは、もともとは日中韓とASEAN5ヵ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ)の間で、「自国通貨を担保に差し出すことで、米ドルを提供する」という協定が網の目のように結ばれたものです(※もっとも、実質的には日本が中韓とASEAN5ヵ国を支援するというものでしたが…)。
しかし、このやり方だと、協定がたくさんできてしまい、とてもややこしくなります。たとえば、日本が関わる部分だけでも、
「▼日韓通貨スワップ協定、▼日中通貨スワップ協定、▼日泰通貨スワップ協定、▼日新通貨スワップ協定、▼日馬通貨スワップ協定、▼日尼通貨スワップ協定、▼日比通貨スワップ協定」
と、7本もの協定が成立してしまいます。
つまり、8ヵ国がお互い協定を結びあえば、28本もの協定が成立する計算であり、この28本の協定をいちいち管理するのは大変です。そこで、2009年には、「チェンマイ・イニシアティブ・マルチ化協定」(CMIM)が成立。このチェンマイ・イニシアティブは発展的に解消しました(図表3)。
図表3 CMIM
国 | 拠出額 | 引出可能額 |
---|---|---|
日本 | 768億ドル | 384億ドル |
中国(※) | 768億ドル | 405億ドル |
韓国 | 384億ドル | 384億ドル |
インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン | 各 91.04億ドル | 各 227.6億ドル |
ベトナム | 20億ドル | 100億ドル |
カンボジア | 2.4億ドル | 12億ドル |
ミャンマー | 1.2億ドル | 6億ドル |
ブルネイ、ラオス | 各0.6億ドル | 各3億ドル |
合計 | 2400億ドル | 2400億ドル |
(【出所】財務省・2014年7月17日付ウェブサイト「別添2」。ただし、中国については香港との合算値。また、香港はIMFに加盟していないため、中国の引出可能額に占める「IMFデリンク」の額は他の国と異なる)
このCMIM加盟国は、引出可能額まで米ドルを引き出すことが可能です。ただし、「IMFデリンク条項」があるため、IMFの「デリンク」(つまり国際通貨基金が介入して来ない限度額)は、引出可能額の30%までです。
以上より、韓国の例でいえば、IMFの支援を得ずとも、ローカル通貨スワップで約169億米ドル、CMIMで115.2億米ドルを引き出すことができますが、これらの合計額はざっと300億米ドル弱、といったところでしょうか。
- オーストラリアから100億豪ドルを引き出して外為市場で約70億米ドルに両替する。
- スイスから100億スイスフランを引き出して外為市場で約99億米ドルに両替する。
- CMIMからIMFデリンク限度額115.2億ドル(=384億ドル×30%)を引き出す。
ただ、『外貨準備統計巡る韓国のウソと通貨スワップ、そして通貨制裁』でも議論したとおり、そもそも危機の際には韓国が必要とする外貨の額は、少なくとも1200億ドルではないかとの指摘もあるようです。
だからこそ、韓国が日本に対して、500~1000億ドルの米ドル建ての日韓通貨スワップ協定を求めているのだと思います(『韓銀総裁が日韓スワップ待望?まず約束守れ、話はそれからだ』参照)。
為替スワップ
一方、スワップ協定の中には、「為替スワップ」という仕組みもあります。
これは、中央銀行同士がお互いに自国の通貨を相手国の民間金融機関に対して提供するというスワップであり、通貨スワップ(BSA)とは少し性格が異なります。
たとえば、日本国内の金融機関が米ドルやユーロなど、相手国の通貨の提供を受けるためには、金融機関はまず日銀に担保を提供し、日銀が円資金を相手の中央銀行に提供し、相手の中央銀行から相手国通貨を受け取る、という仕組みです。
日本円は、国際的な通貨市場では、いわば「準基軸通貨」のようなものですが、他の「基軸通貨」「準基軸通貨」である米ドル、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、カナダドルの5つの通貨当局との間で、金額無制限の為替スワップ協定を常設化させています。
また、これらとは別に、オーストラリア、シンガポールとの間でも、金額上限はあるものの、為替スワップ協定を締結しています(図表4)。
図表4 日本と外国との為替スワップ
相手 | 上限 | 引出通貨 |
---|---|---|
米国(FRB・NY連銀) | 無制限 | 米ドル |
欧州中央銀行(ECB) | 無制限 | ユーロ |
イングランド銀行(BOE) | 無制限 | 英ポンド |
スイス国立銀行(SNB) | 無制限 | スイス・フラン |
カナダ銀行(BOC) | 無制限 | カナダ・ドル |
豪州準備銀行(RBA) | 1.6兆円/200億豪ドル | 豪ドル |
シンガポール通貨庁(MAS) | 1.1兆円/150億Sドル | シンガポール・ドル |
(【出所】日本銀行『海外中銀との協力』より著者作成)
ちなみに、昨年11月には、お隣の韓国がカナダとの間で「期間も金額も無制限の通貨スワップ協定を締結した」と大喜びしていたようですが、よく読むと、これは通貨スワップではなく為替スワップだった、というオチがつきました(『【速報】カナダ・韓国間の為替スワップは通貨スワップではない!』参照)。
為替スワップだと、通貨スワップと異なり、基本的には民間金融機関に対して資金が供給されます。このため、「通貨危機の際に、通貨当局が為替スワップで通貨を引き出して通貨防衛に使う」、といった使い方はできません。
日本が締結する人民元スワップは?
一方、当ウェブサイトで『パンダ債と日中スワップ、そしてとても残念な読者コメント』などでも紹介して来たのが、日本が中国と締結しようとしている「日中スワップ」です。
あくまでも財務省の報道発表から判断する限り、これは、日本が外国と締結するスワップとしては珍しく、最初から「ローカル通貨スワップ」として締結されるようです。
今年5月9日付の財務省の報道発表では、「日中双方が人民元を決済するための銀行を設置すること」、「円-元の通貨スワップ協定を締結すること」、「中国当局が日系金融機関への債券業務ライセンスを早期付与すること」などが発表されています。
5月9日の日中首脳会談で合意した日中金融協力
- 中国は日本に対して2000億元(約3.4兆円)のRQFII(人民元適格外国機関投資家)枠を付与する
- 日中双方は、人民元クリアリング銀行の設置、円‐元の通貨スワップ協定の締結のための作業を早期に完了させる
- 中国は日系金融機関への債券業務ライセンスを早期に付与するとともに、日本の証券会社等の中国市場参入に関する認可申請を効率的に審査する
(【出所】財務省HP。ただし、下線部は引用者による加工)
ただし、財務省はこのスワップの規模、期限などについて、今のところは明らかにしていません。
では、この日中スワップ、いったい正体は何なのでしょうか?
財務省はこのスワップを「通貨スワップ」と呼んでいますが、私自身は、このスワップの性質は通貨スワップというよりも、限りなく「為替スワップ」に近いものだと考えています。もっといえば、日本の銀行が中国本土で発行した債券(いわゆるパンダ債)の救済を意識したものではないでしょうか?
世の中ではこの日中通貨スワップの規模が3兆円程度になるとの報道が流れており、また、日本が中国を一方的に救済するスワップだという説明もあるのですが、私はこの説明に100%同意するつもりはありません。
中国本土は資本市場も未発達であり、市場そのものが非常に不透明です。いざというときに、日本の銀行が中国本土で人民元の再調達に失敗してしまえば、日本の銀行が「テクニカル・デフォルト」状態に陥りかねません。だからこそ、この通貨スワップを日本としては為替スワップ的に使いたいのだと思います。
いずれにせよ、日本の銀行は民間銀行であるとはいえ、日本の金融当局から免許を得て、日本の金融システムを使わせてもらっている立場にあります。そんな大事な日本の金融システムを使わせてもらっているくせに、中国本土でパンダ債を発行するとは、正直、正気の沙汰とは思えません。
しかも、銀行がデフォルトになれば、日本の国民生活にも多大な悪影響が生じます。だからこそ、私の目には、今回の「3兆円スワップ」報道が、邦銀に対し「パンダ債を発行するならば3兆円を限度にしなさいよ」というメッセージにしか見えないのです。
民間企業だと「カントリー・リスク」「自己責任」ですが、銀行だと公的な枠組みで救済しなければならないというのも、実に困った話です。やはり、日本のメガバンクは国際統一基準行と国内基準行とに強制的に再分割した方が良いのかもしれませんね。
ちゃんとした知識が必要
以上、本稿ではざっと「通貨スワップ」「為替スワップ」について振り返ってみました。
本当はもう少し論点はたくさんあるのですが、ここで重要なことは、「通貨防衛」の仕組みを理解することと、通貨スワップや為替スワップなどの用語の裏にある各国の意図を理解することであり、本稿では敢えて通貨スワップと為替スワップに説明を絞りました。
そして、日中通貨スワップや日韓通貨スワップを巡っても、「金融の安定のためには必要だ」、「お互いのためになるから必要だ」、といった当局のとおりいっぺんの説明に納得してはなりません。我々は有権者として、財務省や日銀を監視する権利がありますし、監視する義務があるからです。
そのためには、財務省や日銀が勝手なことをやって暴走しないよう、ウェブ評論家の立場として、こうやって冷静に記録し、解説することが必要だと思うのです。
財務省の典型的な詭弁の実例として、財務省の山崎達雄・国際局長(※当時。2015年7月7日に退官後、現在は民間企業などに天下りしている)が2014年4月16日の「第186回国会・衆議院財務金融委員会」で答弁した内容を紹介しておきましょう。
「日韓通貨スワップを初めとする地域の金融協力は、為替市場を含む金融市場の安定を通じまして、相手国、日韓の場合は韓国だけじゃなくて、日本にとってもメリットはあります。/というのも、日本と韓国との間の貿易・投資、あるいは日本企業も多数韓国に進出して活動しているわけでありまして、その国の経済の安定というのは双方にメリットがある面、それからまた通貨という面でいうと、むしろ通貨を安定させるという面、ウォンを安定させるという面もあるわけであります。/そういうことで、私どもとしては、当時、日韓通貨スワップを拡大したのは、むしろ、韓国のためだけというよりも、日本のため、地域の経済の安定のためということがあったということだけ申し上げたいと思います。」
私はこの山崎達雄なる人物の答弁を、敢えて「恥知らず」と呼びたいと思います。
- 日韓スワップには相手国に進出している日本企業を助けるというメリットがある
- 日韓スワップには日韓間の為替相場やウォンを安定させるというメリットがある
バカらしくて思わず乾いた笑いが出ます。カントリー・リスクもろくに管理できないのに韓国に進出した日本企業を、なぜ日本国民の税金で救済しなければならないのでしょうか?
それに、日韓通貨スワップがあれば、韓国はむしろ為替介入を常態化させます。つまり、日韓通貨スワップがあれば、日韓間の為替相場は日本企業にとって不利に働くのです。まさに「敵に塩を送る行為」そのものでしょう。
いずれにせよ、当ウェブサイトでは引き続き、「独立の立場」から、公表された情報のみをベースに、専門的な議論を心がけていきたいと思います。引き続きのご愛読とお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
View Comments (5)
< 更新ありがとうございます。
< 日本もBSAスワップ取極め国は少ないですね。東南アジアの4か国(インドネシア、シンガポール、タイ、フイリピン)、わずかに400億ドル少々。基軸通貨国同士+EUとは無期限無制限のスワップがあり、開発途上国にはCMIMがあるから、必要無いと言えばそうかもしれません。確かに他の国と結んでも『与えるだけ』の事がほとんど。でも、アジア、東欧など世界を見渡せば少額(1~100億ドル)程度はまだまだ結べる国はあると思います。
< 倒れるまで見かけのカラ元気だけは人一倍のハリボテ韓国は、韓国銀行李柱烈総裁が『あさって』の方を向いた発言をしています。【日本の場合、いくらでも再開できる可能性があるが、まだ条件は整っていないと判断する】、、ああそうですか(笑)。
< 「反日行動が激しいから経済面でも上手く行ってないだけであり、金融経済だけなら日本とは正常運転できている。また日本はスワップを韓国と結ぶべきなんだ」と言いたいのでしょうか。とても上から目線で、気分が悪くなります。中でも【いくらでも再開できる】なんて、なんと小馬鹿にした放言でしょうか。
< さて安倍首相が訪中しますが、出て来るのはまず李革強で、会談で習近平でしょう。中国としては米国に貿易戦争でやられっぱなし、何とか日米同盟の一角、日本と手を結んでおきたいところです。日本にとっても正面敵である事は間違いないですが、南北問題を抱えるだけに、握手外交して置いても今は、損はない。
< ただ、言われている3兆円規模のスワップがメガバンクのパンダ債絡みと思うと、なにやら腑に落ちませんね。勝手にシナに手を出すなッ、みずほに三菱UFJ!
そもそも論なのですが、韓国とBSAを締結するメリットってなにか存在するのでしょうか?
いってみれば、過去に事業を失敗して破産した人の連帯保証人になるような話なのに、親戚でも無ければ子分でもない赤の他人を助ける理由が考えつかないです。
(過去の日本はかつての子分だったので助けたのでしょうが)
ここまで説明しているサイトはなかなか無いのではないでしょうか。とてもわかりやすい説明ありがとうございます。
すっごい、勉強になります。
中国との大型スワップで、アメリカが何も言わない理由が理解できました。
また、今の韓国政府が経済、金融、外交の素人集団なのも、納得です。これでは、良い関係は無理ですね。
更新、楽しみにしています。
専門家の観点からすばらしいと思います。
一点、よくわからないのは、BLAのことを、
新宿会計士様は、「二ヵ国間の通貨当局が民間金融機関に通貨を供給する協定」
であると述べて、Bilateral Swap Agreementと、峻別なさりますが、
FRBのページを見ていると、そのような峻別はされていないように
見受けられます。
、日米協定のどこからでてくるのかが分からなかったことです。
ご参考までに、日米のスワップ協定の内容は、下記にあるようです。
https://www.newyorkfed.org/markets/liquidity_swap_archive.html
この協定の内容を見ますと、上記記事に対して、ふつふつと疑問がわいてきます。
調達したドル資金を、日銀は、(流動性確保等の目的で)日本の金融機関に
貸与することはできますが、契約上、調達した資金使途に制限はないように
思われます。
日本がアメリカからこの協定を通じて得た資金で自国の通貨防衛をしようが、
日銀の債務を支払おうが、他の国を助けるために使おうが、禁止されていない
のではないでしょうか。
また、FRBに作られた日銀名義の預金口座からFRBが日本の金融機関に支払いを
行ったとしても、FRBと日本の金融機関の間に契約関係が成立するものではない
という趣旨のことがFRBのHPには書かれているのではないでしょうか。
(Federal Reserve is not a counter partyで検索するとでてきます。)
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/bst_liquidityswaps.htm
BLAは、
「民間金融機関に通貨を供給する協定」であるという新宿会計士様の
定義自体がミスリーディングなのではないかとの疑問を感じました。
契約のどこにも、日本が、調達したドル資金をどう使うかについての資金使途の
制限はないように思われます。(前文の部分で金融市場の安定・流動性の
確保ということは書かれていますが、前文なので、拘束力はないと解されます。)
締結の動機が違うという部分はよくご説明から分かったのですが、
契約の条項については、(BSAもBLAも)通貨の種類と金額上限の点を除けば、
たいして変わらないのではないかと推察いたします。
なお、カナダと韓国のスワップについて、契約の文言は、日本と米国のスワップ協定と
かなり似ていると予想しています。カナダとアメリカの契約内容が、
日米のスワップ協定とそっくりなので、カナダと韓国の間も同じなのではないかと
思うのです。
韓国とカナダの協定について、
金額制限がない点をいぶかっていらっしゃるのかもしれませんが、
日本と米国のスワップ協定も、金額制限が入っていません。
日米協定では、1ヶ月前の解約告知が入っておりますので、相手の国をもう助けたくないと思えば、
解約してしまえるようになっており、韓国・カナダ間も同じなのではないでしょうか。
(すなわち、カナダが助けたくないと思えば、中途解約してしまえばよい。)
また、日米の合意内容では、スワップ協定は、基本契約にすぎず、具体的なスワップ条件は、別途
合意することになっていますので、合意できなければ、最悪、スワップに応じないという選択肢もありえるように思います。
カナダと韓国のニュースも拝見しましたが、standing agreement(基本契約)というような
文言が使われていたことから、基本契約と個別の合意の二段構成を前提としている日米協定と
契約内容が似ているのではないかと思います。
また、カナダ政府のプレスも拝見しましたが、the agreement "enables Canada to"となっており、
民間銀行への流動性の供与が可能となるという効果が書かれているだけで、
それが本協定の内容であるとは書かれていないように思われます。
(また、「対価として」との文言を新宿会計士様は翻訳で使っていらしたと思いますが、
そのようなことは、英文プレスのどこにも書いていないのではないでしょうか。)
以前の投稿者で私と似たようなコメントをなさった方に、「もっと勉強しろ」、
というようなことを新宿会計士様は書かれていらっしゃいましたが、そういう風に
お感じになるのであれば、削除で構いません。
最後に、為替スワップと通貨スワップの分類についてです。
米国FRBのサイトでは、Liquidity Swap Arrangementが、
Currency Swapの一種であると記載しています。
目的が異なるだけで、実質は、同じということではないのでしょうか。
Wikipediaでは、スワップ協定の種類について、
東京三菱銀行の方の論考を引用しており、
「①2国間で直接外貨を融通し合う(スワップ取り決め)、
②外債を売却し一定期間後に買い戻す(レポ取り決め)――の2つがある。」
と記載していますが、この分類は、普遍的なものなのでしょうか。
BSAとBLAを峻別なさる新宿会計士様のブログの記載に似ている気も
するのですが、FRB等のHPでは、そのような峻別は発見できませんでした。
(根拠法の違いについては、前者がFRB法で、後者の根拠法がNAFAであるという
ことが書かれていますが、質的な違いとしては記載されていないように思います。)
「2国間」と逆の概念は、「多国間」ですし、
「買戻し」と「融通しあう」という概念は必ずしも排斥・対立する概念ではありませんので、
この方の分類/対比については、信じてよいのか、悩んでしまいます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%9A%E8%B2%A8%E3%82%B9%E3%83%AF%E3%83%83%E3%83%97%E5%8D%94%E5%AE%9A
答えがない分野で、いろいろと批判をおそれず、投稿なさっていらっしゃるのは、素敵だと思います。