「日本は財政再建が必要」という世紀の大ウソに騙されるな!
財務省が、またしても「国の借金は1088兆円」というインチキ理論を提示して来ました。国民から正当な選挙で選ばれたわけでもない財務官僚が巨大な権限を握っている現状は、非常に困った状況にあります。私たち日本国民が正しい経済理論を学び、「国の借金1088兆円」「国民1人当たり860万円の借金」「今すぐ財政再建が必要」といった大ウソに騙されないための理論武装をすることが求められていることは間違いありません。
目次
財務省のインチキ理論
国民1人当たり860万円の「借金」
財務省は先週金曜日、「国の借金」が6月末で1088兆円になったと発表しました。これについて時事通信は、「国民1人当たりの借金は860万円」などと報じています。
6月末、国の借金1088兆円=1人当たり860万円(2018/08/10-17:31付 時事通信より)
この「国の借金は1088兆円」、「国民1人当たり860万円の借金」と言われると、まるで「生まれたばかりの赤ちゃんからお年寄りに至るまで、全員が860万円の借金を負っている」かの言い草であり、私たちの実感としては、何やらとてつもない借金を負わされているような気がします。
たとえば、「お父さん、お母さん、子供2人」という4人家族の例だと、860万円×4人、3440万円もの借金を負っている、ということです。お母さんが専業主婦で、お父さんが1馬力で働いているのだとしたら、住宅ローンや教育費などのほかに、国の借金を3440万円も負っているのか、と思ってしまいますね。
そのうえで、「なんでこんなに借金がたくさんあるのか?」「この借金を何とかしなければならない」、などと思う人はたくさんいることでしょう。来年10月から消費税・地方消費税の税率が合計10%に引き上げられる予定ですが、それも仕方がない、あるいはそれでも足りないのではないか、という懸念もあります。
実際、財務省の試算だと、消費税率を10%に引き上げたところで、財政再建が進むというものでもありません。このように巨額の借金は、増税により少しずつ返して行かないと、将来、取り返しがつかないことになる、といった意見もあります。
「国の借金」論はインチキなトンデモ理論
経済学、財政学、会計学などを知らない大勢の一般国民からすれば、この「国民1人当たり860万円」という数字を突きつけられたら、「日本の財政は、何やら大変なことになっている!」と勘違いしても仕方がありません。
実際、私の知り合いの弁護士さんも、「国の借金は大変なことになっているんでしょ?」「このままだと日本は財政破綻するんでしょ?」と、真顔で信じ込んでいたほどです。では、この「国民1人当たり860万円」、「今すぐ財政再建に着手しないと財政破綻する!」という「国の借金」論、果たして正しいのでしょうか?
結論的に言えば、インチキなトンデモ理論です。
その前に、仮に日本が「閉鎖経済」、つまり外国との貿易や投資などを一切行っておらず、経済活動が日本国内で完結しているのだと仮定しましょう。
この場合、一国における経済主体は、大きく家計、企業、政府の3種類があり、これらの経済主体の資金貸借をつなぐ存在として、金融機関・生命保険・年金基金などの「金融セクター」がある、という基本構造を知っておく必要があります。
そして、これらの経済主体間では、おカネが余っている主体(日本の場合は家計)から、金融機関(銀行など)を通して、おカネが足りない主体(同じく企業や政府)におカネが貸し付けられる、という形で経済が回っているのです。
「借金」イコール「悪」という勘違い
もう1つの誤解は、「借金」は「悪いものだ」、という勘違いです。
「国民1人当たり860万円の借金」などと言われると、どうしても私たちは「誰かからおカネを借りている状態は、何か気持ちが悪い」と感じてしまいます。「多少、生活を切りつめても良いから、借金はさっさと返してしまうべきだ」と思う人もいることでしょう。
これこそ盛大なる勘違いです。
「借金」は、必ずしも「悪いもの」ではありません。たとえば、金利が年間1%だったとすれば、1億円のおカネを借りて、支払う利息は100万円です。ただ、この借りた1億円で毎年1千万円の利益が生まれる事業を営むことができるのなら、その人はおカネを借りるべきです。これは当たり前の話ですね。
少し会計学に詳しい人ならば、「レバレッジ」の議論もご存知だと思います。
たとえば、自己資本が1億円の会社が存在したとしましょう。この企業の年間の営業利益は1千万円だったと仮定します。つまり、営業利益を自己資本で割った「自己資本営業利益率」は10%だということですね。
しかし、あと1億円借りて事業を拡大すれば、営業利益が1千万円増え、2千万円になることがわかっていたとすれば、どうすれば良いでしょうか?この場合、自己資本を増やさなくても、「自己資本営業利益率」を20%に拡大することができる、ということです。
ケース(A)【自己資本1億円の会社】
- ①自己資本:1億円
- ②負債総額:0円
- ③総資産:1億円(=①+②)
- ④営業利益:1千万円
- ⑤自己資本営業利益率…10%(=④÷①)
- ⑥総資産営業利益率…10%(=④÷③)
ケース(B)【この会社が1億円借りた場合】
- ⑦自己資本:1億円
- ⑧負債総額:1億円
- ⑨総資産:2億円(=⑦+⑧)
- ⑩営業利益:2千万円
- ⑪自己資本営業利益率…20%(=⑩÷⑦)
- ⑫総資産営業利益率…10%(=⑩÷⑨)
ケース(A)の場合とケース(B)の場合で比べると、営業利益の額が増えても、総資産(=自己資本+負債総額)も同じように増えるため、「総資産営業利益率」は同じです。しかし、株主・事業主に帰属する「自己資本営業利益率」は、ケース(B)が20%と、ケース(A)の倍になるのです。
経済主体ごとに見た「金融資産負債」の状況
「国の借金」という概念は間違い
もう1つの間違いは、「国の借金」という概念そのものにあります。そもそも、金融資産・金融負債の残高は、経済主体・部門ごとに把握しなければなりません。正しくいえば、「政府部門の金融負債」であり、「家計部門の負債」ではありません。
一般に、金融資産と金融負債の残高を一覧形式にしたものを「貸借対照表」と呼びます。そして、財務省が発表した「国の借金」とは、確かに1100兆円近くに達していますが、それと同時に、中央政府や地方政府は売却可能な金融資産も多く保有しています。
日本銀行が公表する「資金循環統計」上の「一般政府部門」(中央政府、地方政府、社会保障基金などの合算)で見ると、金融負債の残高は1287兆円ですが(※地方政府などの「借金」をカウントしているため、財務省発表値より増えます)、金融資産残高も574兆円に達しています(図表1)。
図表1 一般政府部門の金融資産・金融負債の状況(2018年3月末)
項目 | 金額 | 主な内訳 |
---|---|---|
金融資産(A) | 574兆1098億円 | 株式等125兆円、対外証券投資185兆円、債務証券82兆円 |
金融負債(B) | 1287兆2614億円 | 国債893兆円、国庫短期証券101兆円、貸出159兆円 |
純債務【(B)-(A)】 | 713兆1516億円 |
(【出所】日銀「資金循環統計」データより著者作成。なお、「主な内訳」欄は兆円未満を四捨五入)
つまり、中央政府、地方政府が抱えている借金の総額は1287兆円と、確かに莫大な金額ではありますが、資産(外貨準備や株式、債券など)を売却すれば、債務の純額は713兆円に過ぎません。
あれ?思ったほど多くありませんね?
ただ、図表1から地方政府などを控除し、中央政府に限定した貸借対照表を作成してみると、金融負債の金額は1084兆円であり、これに対する金融資産の金額は221兆円に過ぎませんから、「純債務」は863兆円にも達している計算です(図表2)。
図表2 中央政府の金融資産・金融負債の状況(2018年3月末)
項目 | 金額 | 主な内訳 |
---|---|---|
金融資産(A) | 220兆7323億円 | 対外証券投資112兆円、株式等39兆円、現金・預金30兆円 |
金融負債(B) | 1083兆8276億円 | 国債893兆円、国庫短期証券101兆円、貸出55兆円 |
純債務【(B)-(A)】 | 863兆0953億円 |
(【出所】日銀「資金循環統計」データより著者作成。なお、「主な内訳」欄は兆円未満を四捨五入)
しかし、そうだったとしても、どのみち財務省が主張する「1100兆円近い『国の借金』」という額には、ほど遠いのが現状です。
日本の家計部門は恐ろしいほどの金持ち
ところで、中央政府の金融負債の大部分は、国債(国庫短期証券含む)で、ざっくり1000兆円です(※ただし、約100兆円の財投債というカテゴリーも存在しており、これはこれで大きな問題なのですが、この論点については、本日は割愛したいと思います)。
では、この「国債」、いった誰から借りているのでしょうか?
外国から借りていた場合には、アルゼンチンやギリシャのように、外国人投資家の不信を買って、誰も国債を買ってくれない事態が発生すれば、調達コスト(国債利回り)が急上昇したり、対外債務の利払い延期(デフォルト)を宣言したりしなければならなくなります。
だからこそ、たとえ中央政府であっても、「投資家からの信認」を維持することは必要不可欠なのです。
ところが、日本の場合は、「日本国内」から、「日本の通貨・日本円」で、おカネを借りています。日本の通貨・日本円は、日本銀行がその気になれば、無限に発行することができます。そして、その日本銀行の実質的な「親会社」は、日本政府です。
ということは、日本政府が「借金王」だったとしても、日本国内でおカネがあり余っていて、かつ、おカネが海外に逃げていく状況になければ、極端な話、日本国内で余っているおカネに相当する額まで国債を借りまくっても、まったく問題ありません。
では、日本国内では、おカネがあり余っている状況にあるのでしょうか?
その答えは、家計部門の金融資産・負債状況を見れば、一目瞭然です(図表3)。
図表3 家計部門の金融資産・金融負債の状況(2018年3月末時点)
項目 | 金額 | 主な内訳 |
---|---|---|
金融資産(A) | 1829兆0205億円 | 現金・預金961兆円、保険・年金・定型保証522兆円、株式等199兆円 |
金融負債(B) | 317兆5501億円 | 民間住宅貸付180兆円、その他の民間貸付77兆円、公的住宅貸付22兆円 |
純資産【(A)-(B)】 | 1511兆4704億円 |
(【出所】日銀「資金循環統計」データより著者作成。なお、「主な内訳」欄は兆円未満を四捨五入)
早い話が、家計部門が1829兆円もの資産を持っていて、そのうちの半額以上、およそ961兆円が現金・預金というかたちで、銀行、信用金庫などの「預金取扱機関」に流れ込んでいるのです。そして、「預金取扱機関」などは、家計などから預かった、あり余るおカネで、国債を競うように買っているのです。
一方、家計が金融機関などから借りているおカネ(家計部門の借金)は318兆円に過ぎず、金融資産から金融負債を差っ引いた「純資産」も、実に1511兆円に達していて、この金額がすでに財務省の言う「国の借金」とやらの金額をかなり大幅に上回っています。
要するに、家計部門がおカネをあり余るように持っている状態が続いている限り、日本国債のデフォルトはあり得ないのです。
海外投資の主体は機関投資家である!
ただし、唯一の心配要素があるとすれば、家計のおカネが海外に逃げることでしょう。
では、その可能性はどれほどあるのでしょうか?
数億円もの資産を持つ「超富裕層」ならともかく、普通の家庭であれば、いきなり香港やシンガポールあたりの租税回避地に出掛けて銀行口座を開設し、虎の子の現金を外国の銀行に預けようとは思わないのではないでしょうか?
(※ちなみに、今年から香港などのオフショア口座の情報は、日本政府に伝達されることになるのですが、この点についてはまた違う機会にお伝えしたいと思います。)
ただ、日本銀行が金融緩和をやっていて、国債利回りがゼロ以下に張り付いている状況の中で、預金取扱機関などの機関投資家は、少しでも利回りが高い外債などの資産に投資をしています。
その結果、日本から海外に投資されている金額は、971兆6047億円という巨額に達しており、これと逆に、海外から日本に投資されている金額(660兆5542億円)との差額の311兆0505億円が、いわば、日本の対外純債権のような形になっています(図表4)。
図表4 海外部門の金融資産・金融負債の状況(2018年3月末)
項目 | 金額 | 主な内訳 |
---|---|---|
金融資産(A) | 660兆5542億円 | 貸出175兆円、債務証券154兆円、株式等224兆円 |
金融負債(B) | 971兆6047億円 | 対外証券投資559兆円、対外直接投資157兆円、貸出151兆円 |
純債務【(B)-(A)】 | 311兆0505億円 |
(【出所】日銀「資金循環統計」データより著者作成。なお、「主な内訳」欄は兆円未満を四捨五入)
先ほど、「日本が閉鎖経済なら、経済主体は本質的に家計、企業、政府しか存在しない」と申し上げましたが、実際には、日本はオープン経済であり、日本の機関投資家は自由に外国の金融資産を取得することができます。
いわば、日本国内に投資の場所がないからこそ、余ったおカネが日本国外に流れ出し、純額で311兆円という巨額の債権(※図表中は「海外から見たバランス」なので、表記は「純債務」)が発生している状況なのです。
裏を返して言えば、財務省が今すぐ311兆円分の国債を増発しても、この対外純債権がゼロになるだけであって、日本国内での資金需要は均衡することになります。
国家は永続する
ところで、この「国の借金は少なければ少ないほど良い」という考え方は、非常に大きな間違いです。
もちろん、本質的に「大きな政府」が良いか、「小さな政府」が良いかという議論があることはそのとおりですが、それは国全体がデフレから脱却し、経済が安定的に成長軌道に乗ってから議論すべきことであって、デフレが続く現在の日本で議論すべき話ではありません。
それよりも、経済成長率、インフレ率が2~3%程度を維持する方が重要です。なぜなら、国債は「名目値」で発行されていますが、インフレが進み、貨幣価値が下落すれば、債務負担は減少するからです。
インフレとは、「物価の上昇」のことですが、逆に言えば、「貨幣価値が下落すること」です。そして、2%程度のインフレを維持すれば、社会から雇用不安が消滅するという効果が期待できますし、(いわゆる「フィリップス曲線」の議論)、さらに30~35年経過すれば、貨幣価値はおよそ半額になります。
日本の現時点のGDPが500兆円で中央政府の金融負債が1000兆円だったとしたら、「GDP政府債務比率」は200%ですが、金融負債残高を1000兆円のままで維持し、GDPが30年後に1000兆円になれば、増税しなくても「GDP政府債務比率」は100%に低下します。
また、家計部門だと、一般に新卒採用で社会に出た若者も、30~40年経過すれば、引退します。だからこそ、家計が借金を返さなければならないわけですが、中央政府の場合は、別に30年経とうが40年経とうが、いや、1000年経とうが、「引退」「消滅」することはありません。
ましてや日本のように家計がおカネを持ちすぎていて、行き場がないカネが国内にあり余っている状況にあれば、誰かがカネを使ってくれないと、デフレ圧力が高まってしまうのです。
いずれにせよ、私の試算だと、少なく見て300兆円、理想的には500兆円ほど、今すぐ国債を増発しても、国債市場がパニックになることはあり得ません。むしろ、機関投資家が必要としているのは「投資対象としての国債」であり、投資対象の国債が不足している状態は、債券市場を破壊してしまいます。
名目は「建設国債」でも「教育国債」でも「子育て国債」でも良いので、まずは国債を増発してみるべきでしょう。日本のような「オープン経済」の国で、デフレから強力に脱却するためには、金融緩和と財政緩和をセットで実行することしかありません。
幸い、日本銀行が金融緩和を実行してくれているわけですから、むしろ日本の将来を思うならば、財政拡張、消費税の増税凍結(じゃなくて消費減税、あるいは消費税法廃止)をセットで実行しないことが、不思議でならないのです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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