危なっかしい米国の北朝鮮外交
「時代は『米朝対立』から『米中対立』へ…」。最近、こんな議論をあちこちで見かける気がします。現在の米国が、本気で北朝鮮問題を片付けて中国問題に国力をシフトさせようとしている節がありますが、果たしてこうした姿勢は正しいのでしょうか?
目次
米朝対立から米中対立へ?
昨日、『【昼刊】米朝会談に「中国ファクター」・福島氏の秀逸な論考』を執筆しながら思ったのですが、現在の米国政府・トランプ政権は、もしかすると、「北朝鮮問題などさっさと片付けて、中国との対決に力を割こう」と思っているのではないでしょうか?
このように考えると、6月12日の米朝首脳会談以降の流れが、すっきりと説明できるように思えてなりません。昨日紹介した福島香織氏の論考だけでなく、私が個人的に信頼しているジャーナリスト、評論家などは、現在の米国が「米朝対立」から「米中対立」に軸足をシフトしているとの仮説を提示しています。
各報道などから、その流れをまとめておくと、次のとおり、米朝首脳会談の終了を見計らったように、米国が中国に対し、知的財産権関連製品などへの追加関税措置を通告。中国がこれに反発して報復を表明するなど、あたかも「貿易戦争」の様相を呈しています。
- 6月12日:米朝首脳会談が終了
- 6月15日:トランプ政権、中国からの約500億ドルの輸入品に対し25%の関税をかけると表明
- 6月16日:中国政府、米国からの輸入品に追加関税を課す同規模の報復措置を表明
- 6月18日:トランプ政権、新たに約2000億ドル分の輸入品に10%の関税を検討すると表明
- 6月19日:中国商務省、今回の措置に対しても報復措置を取ると警告
こうした状況だけを見ると、米国は「北朝鮮との対決」に区切りをつけ、さっさと「中国との対決」に乗り換えたかのように見えるのですが、実情はどうなのでしょうか?
チーム海洋対チーム大陸
判断するにはまだ早いが…
私は、単純に「米国が6月12日の米朝首脳会談で北朝鮮と和解を果たした」、「米国はこれから北朝鮮との関係を改善し、中国との対決に全力を注ぐはずだ」と決めつけるつもりはありません。というよりも、現段階でそうだと判断するには、まだまだ材料が足りません。
ここで、あえて単純な図式を持ち出しましょう。多くの人の理解だと、現在、東アジアは、次のような2つのチームに分断されています。
- チーム海洋:米国+日本+韓国
- チーム大陸:中国+ロシア+北朝鮮
もちろん、この図式は単純すぎる、という批判があることは甘んじて受けます。
「チーム大陸」については、金正恩(きん・しょうおん)が北朝鮮の独裁者となってからの6年間で、中国と北朝鮮の仲は悪化しており、北朝鮮が「チーム大陸」の一員なのかと言われれば疑問です。また、中国とロシアの関係は悪くはありませんが、それと同時に、両国は決して「血盟関係」ではありません。
一方、「チーム海洋」側では、日米両国がかつてないほどの結束力を誇っていることは事実ですが、米韓関係、日韓関係にはそれぞれ大きな亀裂が入っており、韓国がいまや「チーム海洋」からはじき出されそうになっている状況にありますし、「チーム海洋」に重要な役割を果たす台湾を無視してしまっています。
ただし、大きな流れで見ると、東アジアは、だいたいこの「チーム海洋」対「チーム大陸」の対決という図式だと見れば、わかりやすいでしょう。たとえば、日中は通商関係にありつつも、さまざまな場面で対立していますが、これも大きな流れでは「チーム海洋」対「チーム大陸」という違いだと見て良いと思います。
そして、「チーム海洋」側はおしなべて自由・民主主義、法治主義、基本的人権の尊重といった「共通の価値」を持っています(※といっても、韓国は怪しいですが…)。しかし、「チーム大陸」側は、独裁、人権侵害、言論弾圧などが横行しており、私たち日本とは似て非なる文明圏にあると思って良いでしょう。
この理解に基づいたうえで、米国・トランプ政権が今やろうとしていることは、ずばり、「チーム大陸」から北朝鮮を引き剥がし、中国を孤立させることではないでしょうか?
これは、確たる根拠があってそう申し上げているわけではありません。あくまでも現段階では、私の主観的判断に過ぎません。しかし、米朝首脳会談後のトランプ政権の姿勢を見ていると、どうも「北朝鮮を中国から引き剥がして『チーム海洋』に加え、中国を孤立させる」ということを目指しているように思えるのです。
価値を共有しない文明とのアライアンスは危険
もしそうだとすれば、トランプ政権に対して言いたいことは、ただ1つ――
「そんなことは、おやめなさい」
です。
もちろん、国際政治は力学が重要ですから、地政学的には力の空白が生まれないようにしなければなりません。また、現に勢力が均衡している場所では、突然、勢力の均衡が崩れれば、大混乱が生じます。これは古今東西、歴史が教える鉄則です。
まずは「チーム海洋」と「チーム大陸」という2つの勢力があって、朝鮮半島がこの2つの勢力の最前線となっているという事実を踏まえておく必要があります。そして、いきなり「チーム海洋」が韓国から引き上げても、いきなり「チーム大陸」が北朝鮮から離れても、大きな混乱が生じるのです。
私個人的には、韓国という国については非常に不快な国だと思います。ありもしない「慰安婦問題」を捏造して世界中で日本人の名誉を貶め、傷つけているくせに、自分たちが苦境に陥ったら日本に擦り寄ってくるという意味で、厚かましいし、できれば縁を切りたいとすら思います。
しかし、いきなり韓国が「チーム海洋」から離脱すれば、非常に大きな混乱が生じます。仮に、在韓米軍が韓国からいきなり撤収してしまえば、朝鮮半島に力の空白が生まれます。当然、中国、ロシア、北朝鮮などが「南朝鮮」に興味を示すでしょうし、韓国国内の政治にこれらの国が干渉するリスクもあります。
一方、「逆も真なり」で、たとえば北朝鮮がいきなり米国と「和解」し、「米朝安全保障条約」などを締結しようものなら、中国(やロシア)は全力でこれを妨害して来るでしょう。場合によっては、中国やロシアはシリアやイランなどの「米国の潜在敵国」に対し、軍事支援を行うかもしれません。
米国が北朝鮮と「和解」するにしても、安全保障条約まで結ぶのは行き過ぎです。せいぜい、「北朝鮮を国家承認する」くらいに留めるべきでしょう。
歴史に学ぶ朝鮮半島との付き合い方
朝鮮半島の歴史は繰り返す
ただ、朝鮮半島は周辺の大国を自分たちの半島に引き入れ、周辺大国を戦争に巻き込んでいくというのは、歴史の鉄則なのかもしれません。日本の側から見れば、過去に日本がかかわった対外戦役の多くが、朝鮮半島か九州を舞台にしていた、ということです。
古くは白村江の戦い(西暦663年)で、日本・百済の連合軍と唐・新羅の連合軍が戦ったことが思い起こされますが、この戦いは「大化の改新」直後の日本を疲弊させます。とくに、九州沿岸を防衛するために置かれた防人(さきもり)は、百年以上にわたり、当時の人民に大きな負担を強いました。
また、モンゴル帝国と高麗王国の連合軍が、1274年と1281年の2度にわたって日本に軍事侵攻した事件が「元寇」です。これも見方によっては、モンゴル帝国という「大国」を朝鮮半島の高麗王国がそそのかした戦乱だと言えますし、日本では鎌倉政権が崩壊する直接の原因となったとも伝えられています。
1592年と1598年には、今度は豊臣秀吉が明国の討伐を目的にして朝鮮半島に軍事侵攻しました(朝鮮出兵)。これについては「純粋に日本の側からの侵略である」とする説が主流であるようですが、「朝鮮半島を舞台にした対外戦役」という意味では、性格は良く似ています。
さらに近現代になれば、西洋諸国が東アジアにも進出して来て、植民地化を進めます。こうした並みの中で、いち早く開国し、「和魂洋才」の精神に基づいて文明開化と富国強兵に邁進し始めたのが日本ですが、前近代的な体制に拘泥して改革を拒絶したのが中国と朝鮮でした。
それだけではありません。朝鮮王国は自国の派閥争いに外国勢力を引き込み、「独立派」が日本と、「事大派」が中国(清国)と結託し、結果的に日清両国が朝鮮半島を巡る戦役に巻き込まれていきます。これが日清戦争(1894年)です。
この日清戦争は日本の勝利で終わり、朝鮮王国は清国から独立して「大韓帝国」と国号を改めましたが、今度はこの「大韓帝国」は南進するロシアと結託し、再び安全が脅かされていると感じた日本が国運を賭けてロシア相手に戦争を仕掛けます。これが日露戦争(1904~05年)です。
これをまとめておきましょう。
- 唐+新羅vs日本(白村江の戦い)
- 元+高麗vs日本(元寇)
- 明+朝鮮vs日本(朝鮮出兵)
- 清+朝鮮vs日本(日清戦争)
- 露+韓国vs日本(日露戦争)
日本がこれらの朝鮮半島戦役において、単純な被害者だというつもりはありません。しかし、秀吉の朝鮮出兵を除けば、いずれも日本という国の存立が脅かされるような事態に日本が自ら対処した、という共通点がある、ということは指摘しておく価値があるでしょう。
地政学的には主権消滅がちょうど良いのだが…
では、歴史に学ぶならば、東アジアの安定のためには、何が必要なのでしょうか?
実は、1905年の日露戦争終結後、日韓両国は「第二次日韓協約」(俗称「日韓保護条約」)を締結。韓国は外交権を喪失し、事実上、日本の保護国となりました。この条約のもとでは「大韓帝国」という国は存在しますが、外交権は存在しないため、韓国は日本を構成する州のような存在となります。
こうした状況にあれば、これ以上、韓国が外国勢力を国内に引き入れて政争を起こすという愚行を果たさなくなるはずであり、しかも、韓国という国が存続する以上、日本は手取り足取り、韓国の面倒を見る必要はない、という建前です。
しかし、結局は「日韓併合反対派」だった伊藤博文が、テロリストである安重根(あん・じゅうこん)に射殺されたことで、日韓併合の流れが加速。結局、1910年には日韓両国が「合併」する形となり、朝鮮半島は日本の一地方となったのです。
これらのエピソードは、朝鮮半島情勢を整理するうえで、非常に示唆に富んでいます。
それは、朝鮮半島が安定する統治形態とは、歴史的に見て、中途半端に国家主権を残したままの保護国という形ではなく、日本が1910年にやったような合併(合邦)形式とするか、それとも中国が半万年にわたってやってきたように、徹底的に属国として支配するか、そのいずれかである、ということです。
近代主権国家の枠組みに従えば、韓国や北朝鮮は独立した主権国家として処遇されるべきです。しかし、半万年の知恵に照らすならば、中途半端に独立した主権が与えられると、朝鮮半島の国は、必ず周辺国を引き込んで争いを起こします。
このことを、よく理解する必要があると思います。
現代版・朝鮮半島リスク
米国が関わる最悪のシナリオとは?
さて、米国は現在、貿易戦争を皮切りに、中国との全面対決姿勢を見せ始めています。
おそらく、現在のところは知的財産権やテクノロジーの侵害などを問題にしているのですが、そのうち、中国の海洋侵略と正面からぶつかる時がやってくるでしょう。オバマ前政権があまりにも中国の無法行為に無関心すぎたことに照らせば、トランプ政権の中国との対決姿勢自体は歓迎して良いと思います。
ただ、米国が中国と対決する手段の1つとして、北朝鮮を使うことについては、慎重であるべきです。なぜなら、北朝鮮も朝鮮民族の国ですから、民族のDNAとして、「外国の勢力を引き込んで自国の利益を最大化しようとする」という、非常に厄介な行動パターンが予想されるからです。
私が考える「最悪のシナリオ」とは、米国が北朝鮮と「全面的な和解」を果たし、金正恩政権に経済支援などを与え、さらには北朝鮮に米軍を進駐させる、というものです。そうなれば、中国、日本、ロシアなどを巻き込み、朝鮮半島問題を巡って不毛な争いが生じかねません。
それだけではありません。「チーム海洋」は、自由、民主主義、人権、法治主義などに基づく同盟国であり、ここに同じ価値観を持たない北朝鮮を引き入れてしまうと、「チーム海洋」が瓦解することにもつながりかねません。
今でさえ、「チーム海洋」に法治主義を理解しない韓国という無法国家が混じっているため、日韓関係が不安定化すれば、日米関係にも無用な亀裂を招きかねないという状況にあります。むしろ韓国が北朝鮮と統一して「チーム大陸」に所属すれば、日米同盟は安定します。
その意味で、米国が韓国や北朝鮮とどう付き合おうとしているのか、こうした姿勢が安定しないのは困り者なのです。
日本にとって大事な姿勢
こうしたなか、日本にとって重要な姿勢は、まずは「自分をしっかりと持つこと」です。
日本の国益とは、日本の経済発展と日本の軍事的安全の確保にあります。日韓友好、日中友好などは、日本の国益が確保された状態で、初めて成り立つ概念です。
日本は米国よりも一千年以上、朝鮮半島と長く付き合っています。安倍晋三総理大臣はドナルド・J・トランプ米大統領と非常に仲が良いそうですが、是非、朝鮮半島情勢についてもトランプ氏にきちんとレクチャーして欲しいと思います。
また、私たち日本としては、国防を米国に完全に依存する状況ではなく、一刻も早く、最低限は自分で自分の身を守ることができる体制を整えるべきですし、そうすることで米国に対する意見発信力も強くなります。
そのためには、やはり日本を変えていかなければなりません。
この期に及んで「もりかけ問題」に終始する国会議員は、次回選挙で落選させましょう。
国益を無視した偏向報道を続けるマス・メディアは、不買によって倒産させましょう。
私たち、ひとりひとりにできることは小さいですが、小さな一歩はやがて大きなうねりとなり、日本を変えていくことに繋がります。当ウェブサイトが社会の議論という池に投じられる一石であれば、私にとってはこれ以上ない幸いなのです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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