【昼刊】米朝首脳会談、真の成果は「時間稼ぎ」にあり?

昨日の米朝首脳会談の結果を受けて、内外さまざまなメディアがさまざまな記事・論評を出しています。なかには呆れるほどレベルが低いものもあり、そうした記事を、当ウェブサイトでねちねち取り上げてツッコミを入れる、という作業もしたいところではあります。ただ、今この瞬間については、そこまでの余裕はありませんので、ここではとりあえず、今朝の『米朝共同宣言のまとめと所感』で取り上げられなかった論点をフォローしておきたいと思います。

米大統領の発言と首脳会談の狙い

「米韓同盟終了」を示唆?

ただ、昨日の米朝首脳会談については、正直、解釈が難しいと思います。当ウェブサイトでは昨日からこの話題を取り上げていて、とくにドナルド・J・トランプ米大統領と北朝鮮の独裁者・金正恩との首脳会談については、米系メディアがYouTubeで配信する動画でリアルタイムでチェックしていました。

ただ、大きく騒がれている割には、いまひとつ、米国の当局者らから出てくる発言、公表物の主張がハッキリしません。たとえば、ホワイトハウスから共同声明文が公表されているのですが、これについては『米朝共同宣言のまとめと所感』で述べたとおり、非常にあいまいで具体性に乏しい代物です。

こうしたなか、昨日夕方にトランプ大統領がシンガポールで記者会見に応じているのですが、この会見を巡り、次の米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のレポートには、非常に気になる下りが出て来ます。それは、「米韓同盟の終焉」です。

Trump, Kim Begin New Phase of Diplomacy (米国夏時間2018/06/12(火) 19:58付=日本時間2018/06/13(水) 08:58付 WSJより)

WSJが「米韓同盟が終わる」と述べている、という意味ではありません。あくまでも、WSJが報じたトランプ氏の発言のなかに、それを示唆するものがある、という意味です。該当するくだりは次のとおりです。

Mr. Trump said that reducing the number of U.S. forces in South Korea isn’t part of the negotiation, but that he would eventually like to bring home the 28,500 U.S. troops based in South Korea to save money.(トランプ氏は南朝鮮に駐留する米軍の数を減らすこと自体、今回の協議の議題ではないとしつつも、費用削減の観点から現在28,500人の米兵を少しずつ撤収させる意向を示した。)

これは、あくまでも駐韓米軍の人数の削減ですが、米朝両国の関係改善にともない、朝鮮半島の緊張が緩和され、米韓同盟が消滅する、といった議論は、それが朝鮮半島の実情にフィットしているかどうかはともかくとして、最近の米国メディアではよく目にします。

NBOの鈴置氏も米韓同盟廃棄説?

一方、鈴置高史・日本経済新聞社元編集委員(※3月末に退職)は、もっとストレートに米韓同盟の廃棄に言及しています。日経ビジネスオンライン(NBO)の大人気コンテンツの1つで、鈴置氏が執筆する『早読み深読み朝鮮半島』シリーズの最新版が昨日、公表されています。

から騒ぎに終わった米朝首脳会談/北朝鮮が非核化を受け入れれば米韓同盟は廃棄?(2018/06/12付 日経ビジネスオンラインより)

鈴置氏も今回の米朝首脳会談については、「実質的な進展なしに終わった」と評していますが、それよりも重要なことは、トランプ氏がなぜ、このように中身のない合意に署名したのか、という、鈴置氏の分析の方です。

鈴置氏は、米国が「奥の手」として、「朝鮮半島すべての非核化」、すなわち「米韓同盟の廃棄」を持ち出してくる、という仮説を提示しているのです。少し長いのですが、該当する下りを確認しておきましょう。

5月10日の演説でトランプ大統領は「半島全てを非核化する」(denuclearize that entire peninsula)と語りました。(「『米韓同盟破棄』カードを切ったトランプ」参照)/核の傘を韓国に供与しない、ということは米韓同盟を解消することに等しい。それを交渉材料に北朝鮮に「本気で核を全て手放せ」と迫るつもりかもしれません。というか、もう、それを武器に交渉を始めているのかもしれません。/6月12日の会見でトランプ大統領は「在韓米軍はいずれ引いて行く」と語りました。米韓合同軍事演習の中止も示唆しました。米韓同盟を堅持するつもりがあるのなら、安易に演習は中止しないはずです。/文在寅(ムン・ジェイン)大統領はもともと米韓同盟に懐疑的な人ですから、北の完全な非核化の見返りに米韓同盟を解消すると言われても反対しないでしょう。

この「米韓同盟終了」については、当ウェブサイトでもずいぶん前からテーマに挙げて来たのですが、大手メディアに掲載されている議論のなかで、ここまで堂々と「米韓同盟廃棄」の可能性に言及しているのは、私が知る限り、鈴置氏以外にはあまり見当たりません。

いずれにせよ、昨日の米朝首脳会談は、韓国にとっては「米韓同盟終了のお知らせ」という悲報だったのかもしれません。

非核化費用を日本が負担?冗談じゃない!

さて、米朝首脳会談に関して、もう1つ紹介しておきたい、重要な論点があります。それは、「非核化費用の負担」、という論点です。ホワイトハウスのウェブサイトには、シンガポールでのトランプ氏の一問一答が掲載されていますが、そのなかで私が聞き捨てならないと思ったのは、次の下りです。

Q    Mr. President, did you also discuss the cost of denuclearization and how North Korea is about to foot the bill while the crippling sanctions remain in place?  I’m from (inaudible) News Agency Singapore.

THE PRESIDENT:  Well, I think that South Korea and I think that Japan will help them very greatly.  I think they’re prepared to help them.  They know they’re going to have to help them.  I think they’re going to help them very greatly.  We won’t have to help them.  The United States has been paying a big price in a lot of different places.  But South Korea, which obviously is right next door, and Japan, which essentially is next door, they’re going to be helping them.  And I think they’re going to be doing a very generous job and a terrific job.  So they will be helping them.(下線部は引用者による加工)

これは、経済制裁を受けていて金欠状態の北朝鮮には非核化のコストを負担することができないのではないかという質問に対し、トランプ氏が「南朝鮮(※韓国のこと)と日本が負担する」と述べた、というものです。

まったく冗談ではありません。

北朝鮮は1910年の韓国併合以来、35年の統治時代に日本が建設した莫大なインフラにタダ乗りしてできた国です。国交正常化の前に、まずはこの日本が朝鮮半島に残してきた莫大なインフラの整備代金を支払ってもらう必要があります。

それだけではありません。北朝鮮は日本国内に工作員を侵入させ、無辜の日本国民を大量に誘拐し、自国に連行するという犯罪を働いた国家です。このことについて、被害者全員の損害を賠償し、日本国民に土下座して謝罪するなどの清算をしていただく必要もあります。

さらには、日本が北朝鮮にカネを支払うとしたら、「金王朝を助け、北朝鮮のインフラを整備するためのODA」ではなく、逆に、「金王朝を滅ぼし、北朝鮮を焼け野原にするための戦費」であっても良いはずです。なぜ「日本が北朝鮮を支援する」ということを、トランプ氏が勝手に決めるのでしょうか?

ふざけるのも大概にしてほしいと思います。

真の目的は「時間稼ぎ」?

以上、昨日の米朝首脳会談について、いくつかフォロー・アップを行ってみました。

昨日の会談の「意義」を、無理やりにでも説明するならば、「北朝鮮の独裁者である金正恩を国際的な首脳会談の場に引っ張り出し、何らかの合意文書に署名させたことだ」、つまり、「会議をやったこと自体に意味がある」、ということだと思います。

しかし、やはりこうした説明だと、不自然です。私の目には、やはり米国(や日本)に、「何らかの裏の目的」があるように思えてなりません。

それは、ずばり「時間稼ぎ」ではないかと思います。先ほど例に挙げた鈴置説だと、「ドナルド・トランプ大統領が米国の中間選挙までの時間を稼ぐため」だという説明でしたが、これに加えて、「時間稼ぎ」をするインセンティブは、実は日本側にもあります。

そう、日本の場合は、マス・メディアや野党が「もりかけ・セクハラ・日報問題」で徹底的に国政の足を引っ張っている、という状況にあるのです。おそらくその狙いは、憲法改正の阻止にあるのでしょう。

今回、トランプ氏がやや強引に、北朝鮮を合意文書に署名させたことで、一時的にではありますが、朝鮮半島核危機が遠のいた、という雰囲気が出来上がっていることは間違いありません。日本にとっては、衆議院を解散し、総選挙を実施して、立憲民主党などの野党勢力を壊滅させるチャンスかもしれません。

そして、あらためて「改憲勢力」が単独で3分の2を超える議席を獲得し、憲法改正作業を急ぐ(ついでに消費増税も凍結する)、というのが、現在の日本にとって最も望ましい道ではないかと思えるのです。

今回の米朝首脳会談の「本当の成果」とは、日本が自立するための時間的余裕を得ることにある、ということなのかもしれません(もっとも、本当に安倍政権が解散総選挙を考えているのかどうかは知りませんが…)。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. いつもお世話になっておりますい より:

    制裁はそのままとのことなので、北朝鮮にとってはリスクを犯してシンガポールに呼び出されただけで、今後も首がしまり続けることには変わりませんね。

    一人負けは韓国のようですが、ムンジェインの頭の中ではそうではないのでしょう。

  2. とらじろう より:

    ブラックユーモアにはなりますが、北朝鮮に非核化支援の金を払うよりも北朝鮮を徹底的に爆撃する方に金を払う方が安上がりになるという。
    過激な発言、失礼しました。

  3. 名無しの権兵衛 より:

    北朝鮮に非核化支援の金を払うよりも、日本も防衛費を数倍に拡大し軍備を整え、
    核武装し核ミサイルによる均衡による平和を目指すべきでは?

    南北朝鮮、どちらにしても経済支援なんて必要ありません。
    滅ぶべき者は放っておけば勝手に滅びます。
    こちらに矢を向けたら叩き潰すだけ。

  4. 匿名 より:

    トランプの発言の正確性は、正直、認知症の入った老人の戯言くらいに思ってた方がいいと思うんですがね。
    今までだって、放言したわりに実際には周りに止められたと思う様な日和り方を連発してますし。
    まだ周りが止めたんだろうなあと思えるうちはいいんですがね。

  5. 黄昏せんべい より:

    フラストレーション貯まるね
    アメちゃんにはもっとガツンとやってほしかった
    圧倒的な軍事力あるんだもん
    もっとできただろおおお
    まるで飴ちゃんあげたような合意文書だもん

    まともに飛んでこれる飛行機もなければ
    泊まる部屋代誰が払うのとかって、それが国か
    誰の目にも明らかなシークレットブーツといい
    ここぞとばかりのお笑い北朝鮮の棚卸し

    いや、今回はあえてあいまいな文言にしといて
    合意破棄を口実に軍事オプションを行使する予定
    その段取りの伏線づくりなんだとか
    いや、核兵器廃棄は軍部の反発反対が最大難関
    アメちゃんに屈したとなるとメンツも潰れる
    あえて若い正恩の立場を配慮してあげたのだけど
    実を取ったのは本当はアメリカなのだとか・・・

    違うね、残念ながらこれは失敗だ
    トランプのバカもんがっ

    もうね、アメちゃんたら・・・
    https://www.youtube.com/watch?v=RsQXVJOgvNY

  6. 清明 より:

     合意に至ったことを歓迎する一方、合意内容に不満と不安の声が大分あるように思います。
    特に日本は非核化費用の負担を求められ、なぜ日本が負担しなければいけないのかとの思いが強いと思います。

     そんな声が高まりを見せる中、安倍首相はこの様に語りました。
    「核の脅威がなくなることによって平和の恩恵を被る日本などが、費用を負担するのは当然」
    小生も首相の考えに賛成する立場です。
    首脳会談の合意には双方首脳が署名した合意書が残されました、これは非常に重要なことです。
    しかし、非核化費用を誰が負担するかで揉め、北側の態度が変わったり中露が割り込んできたりすると非核化は遠のいてしまいます。

     非核化費用負担は普通は北朝鮮自身が負担すべきことですが、開発するためには国民を犠牲にしても、不本意な廃棄や撤去にかける費用負担は絶対しないことも明らかです。
    そもそも北朝鮮に費用負担できるはずもありません。
    考えるまでもなく、北朝鮮の核脅威の一番の被害国は日本であり韓国のはずです。
    北に取り込まれた韓国はともかくとして、日本は核を持たず脅威に対抗する手段(核兵器保有)も持っていません。
    ですから非核化の恩恵を受けるのは日本であるということも重要なことです。

    非核化を遅滞なく実施するためには費用の一部を日本が負担するのもやぶさかではないということです。
    費用は持つ代わりにIAEAもアメリも早いと北朝鮮の非核化を完遂しろと安倍さんは言っているのです。
    拉致問題交渉についても次回に持論を述べてみたいと思います。

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