【夕刊】案外バカにできない、金正恩の「無条件降伏」シナリオ

いよいよ明日、米朝首脳会談が行われるのでしょうか。あくまでも理論的な「お遊び」ですが、明日の米朝首脳会談の可能性は、基本的に4つだと考えています。

明日の米朝首脳会談の行方

基本的に可能性は4つ

既報のとおり、北朝鮮の独裁者である金正恩(きん・しょうおん)が米朝首脳会談を控え、すでに昨日の段階で、シンガポールに到着しているのだそうです。明日の米朝首脳会談がどのような結果になるのかは、現時点ではわかりません。私個人的には、次の4つの可能性があると考えています。

  • ①金正恩が米朝首脳会談に現れず、逃げる
  • ②米朝首脳会談自体は行われるが、決裂する
  • ③米朝首脳会談の結果、決裂はしないが合意も行われない
  • ④米朝首脳会談の結果、何らかの合意が行われる

このうち①については、金正恩自身がすでにシンガポールに到着した以上、可能性はそれほど高くありません(※ただし、到着した金正恩が、本当に「影武者」ではなく本人かどうか、という問題はあるかもしれませんが…)。

一方、②については、ドナルド・J・トランプ米大統領が常々、「成果がなければ席を蹴って立つ」と公言していますし、また、6月10日付で「この1回の機会が無駄にならないことを期待する」と述べ、北朝鮮に強い圧力を掛けた格好となっています。

I am on my way to Singapore where we have a chance to achieve a truly wonderful result for North Korea and the World. It will certainly be an exciting day and I know that Kim Jong-un will work very hard to do something that has rarely been done before…2018年6月10日 5:58付 ツイッターより

…Create peace and great prosperity for his land. I look forward to meeting him and have a feeling that this one-time opportunity will not be wasted!2018年6月10日 5:58付 ツイッターより)(※下線部は引用者による加工)

トランプ氏が北朝鮮が核・ミサイル・大量破壊兵器のCVID(「完全な、検証可能な、かつ不可逆な方法での廃棄」(Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement)のこと)以外で合意する可能性は、現段階では高くないと見るべきでしょう。

リスク・シナリオ

ただし、リスク・シナリオとして、③と④については気を付ける必要があります。

とくに③(合意もしないが決裂もしない、という可能性)については、6月1日のトランプ大統領の記者会見が参考になります。

Remarks by President Trump after Meeting with Vice Chairman Kim Yong Chol of the Democratic People’s Republic of Korea(2018/06/01付 ホワイトハウスHPより)

トランプ氏は記者から「北朝鮮がCVIDに応じるかどうか」と尋ねられ、これに対して次のように述べています。

We talked about about a lot of things. We really did. But the big deal will be on June 12th. And again, it’s a process. It doesn’t go — we’re not going to sign a — we’re not going to go in and sign something on June 12th and we never were. We’re going to start a process. And I told them today, “Take your time. We can go fast. We can go slowly.” But I think they’d like to see something happen. And if we can work that out, that will be good. But the process will begin on June 12th in Singapore.(※下線部は引用者による加工)

トランプ氏は「6月12日のシンガポールの会談はプロセスの始まり(に過ぎない)」、「北朝鮮に対しては(CVIDを)早く手を付けても良いし、ゆっくりやっても良いと伝えている」、と述べていて、金正恩と顔だけ合わせて「また会いましょうね」、となる可能性があります。

もっとも、トランプ氏のこの発言は、先ほど引用したツイートにあった「1回の機会(one-time opportunity)」という内容と矛盾します。トランプ氏の発言には、こうした細かいブレが非常に多く、この点が非常に気になる点です。

警戒シナリオはむしろ④

そして、④(何らかの合意が行われること)については、合意次第ではわが国としては歓迎すべきですし、合意次第では、安倍総理はキレて良いと思います。

一番理想的なシナリオとしては、北朝鮮が核・大量破壊兵器の全面的なCVIDに加え、日本人拉致事件をはじめとする過去の全てのテロ行為を清算すると確約することです。この場合、日本としても「日朝平壌宣言」の精神に従い、北朝鮮との国交正常化交渉に入る、というシナリオが見えて来ます。

一方、日本が絶対に容認できないシナリオは、北朝鮮が米国に届くICBMを開発しないことを確約すること(つまり北朝鮮が核兵器を保有したまま)で、米朝国交正常化や朝鮮戦争の終戦などで合意されることでしょう。

金正恩の「無条件降伏」?

ところで、私が小耳にはさんだうわさのなかで、少し気になるものがあるとすれば、それは、金正恩の「無条件降伏」シナリオです。

簡単に言えば、金正恩が米国に「全面降伏」し、核・大量破壊兵器のCVIDを呑むだけでなく、日本人拉致事件などの全容解明などにも応じるとともに、米国と国交を開設し、場合によっては米朝軍事同盟まで受け入れる、というものです。

もちろん、こうした可能性が「荒唐無稽だ」と指摘する人もいるかもしれませんが、私自身は、北朝鮮という国が瀬戸際外交を繰り返してきた国である、という事実を軽く見るべきでもないと思います。

当ウェブサイトの大人気コンテンツ「朝鮮半島の将来シナリオ」(最新版は『史上3回目の南北首脳会談と朝鮮半島6つのシナリオ』、仮定版は『緊急更新「朝鮮半島の6つのシナリオ」仮定版』で読めます)のなかで申し上げた、シナリオ③(あるいはその類似シナリオ)が実現する可能性がある、ということです(図表)。

図表 朝鮮半島の「8つのシナリオ」
シナリオ名称概要予想確率
①赤化統一北朝鮮主導で南北朝鮮が統一される(いわゆる「高麗連邦」シナリオ)30%
②韓国の中華属国化北朝鮮という国が存続したまま、韓国だけが中国の属国となる20%
③南北クロス承認北朝鮮を日米両国が国家承認し、韓国が中国の属国となる20%
④統一朝鮮の中華属国化朝鮮半島統一が実現し、かつ、その統一朝鮮が中国の影響下に入る10%
⑤北朝鮮分割中国やロシアが北朝鮮に軍事侵攻して分割占領し、韓国が中国の属国となる10%
⑥現状維持とりあえず朝鮮半島の現状が維持される10%
⑦米国による斬首作戦米国が北朝鮮に全面攻撃を仕掛け、国家崩壊した北朝鮮を韓国が吸収する0%
⑧軍事クーデター韓国で軍事クーデターが発生して極左の文在寅(ぶん・ざいいん)大統領を拘束・排除し、日米との友好関係を回復する0%

(【出所】著者作成。なお、「予想確率」は最新版記事である4月時点の『史上3回目の南北首脳会談と朝鮮半島6つのシナリオ』で示したもの)

さて、今回、シンガポールに中国の航空機でやってきた金正恩が、万が一、「米国への無条件降伏」に応じたならば、いったいどうなってしまうのでしょうか?

少なくとも中国はこれを「北朝鮮の裏切り」と見なす可能性が高く、中国との関係でも大きな波乱が生じそうです。

こうした「ウルトラC」が実現するのか、それとも米朝首脳会談は決裂するのか。そもそも金正恩が土壇場で逃げるのか。明日の米朝首脳会談には注目したいと思います。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    < 更新ありがとうございます。
    < 日本にとっては最悪の展開④『ICBMを除く中型以下のミサイル黙認、朝鮮戦争終戦締結、拉致問題は放ったらかし』これが一番マズイですが、その次の③『合意もしないが決裂もしない』の可能性がやや高いかなと思ってます。北にとっては日を延ばせる。日米は経済圧力強化継続になります。これが私個人的には、他人のせいにする、卑怯者である、プライドだけは高い朝鮮人に一番合ったやり方と思う。
    < 金正恩の降伏は無いとはいえませんが、その動きを見せたら、ヒコーキ貸した中国が黙ってないでしょう(笑)。表明する前に消すと思います。『裏切り者』ですから、容赦しない。版図まで米国に取られて、米国が直ぐそば!中華は絶対阻止したいし、韓国を属国扱いにして挟み撃ちにするのでは。
    < それとここに来ても、トランプ大統領の本音が何処にあるのか、大変読みづらいです。アノ人はタダのホテル不動産業のビジネスマンで、貿易だけなのか、北東アジアの安定に力を出すのか、ちょいと心配ですね。
    < 失礼します。

  2. 非国民 より:

    案外、めちゃくちゃになるかもね。金正恩が暗殺又は亡命して北朝鮮からいなくなると、軍部が暴走。それに中国の瀋陽軍区が北朝鮮の核ミサイルを所有して中国から独立なんてこともありうる。金一族がいなくなると北朝鮮の求心力が無くなって何が起こるかわからない。北朝鮮にとって核爆弾は最後のよりどころ。それを狙って中国もロシアも介入してくるし、しかも中国の軍部の不満も多いし。場合によってはイスラム系テロリストだってくるだろうし。とにかく何がおきてもおかしくないのが北朝鮮。CVIDは望ましいけど、その前提として北朝鮮にとりあえずまともな政府が存在するというのが条件。

  3. 歴史好きの軍国主義者 より:

    いつも知的好奇心を刺激する記事の配信有り難うございます。

    事大主義の視点で見るなら仕えるのがどこかによって運命が変わります。

    中国
    捨て石にされるリスク。領土は増えて韓国迄。

    ロシア
    当方が安倍首相ならドナドナのリスク(笑)
    事大主は貧乏。

    アメリカ

    親方星条旗。領土は韓国に加え日本と旧満州が得られる可能性がある。
    主権は形式上放棄する必要がある。
    ついでにプライドも棄てる必要がある(笑)

    アメリカに事大は悪くは無いと思います。

    日本には悪夢ですが。

    さて本日が歴史的1日になるでしょうか?

    黒電話がエアフォースワンでお帰りなら日本に取って悪夢です。

    以上です。駄文失礼しました。

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