【夕刊】カナダG7の米欧対立と、限りなく高まる日本の存在感
カナダ時間の土曜日夜、G7に関する報道がいくつか出て来ています。本日はドナルド・トランプ米大統領のツイッターや関連する報道をベースに、「米国対欧州」という構図と米国の迷走ぶりを眺めておきたいと思います。
目次
G7会合は「米国対その他」
トランプ氏、トルドー首相を激しく口撃
カナダ・ケベック州ラ・マルベーで現地時間の金曜日から土曜日にかけ、G7首脳会合が行われています。今年の議長国はカナダであり、主催したのはジャスティン・トルドー(Justin P.J. Trudeau)首相ですが、ヒトコトでいえば酷い会合です。
はっきりしたのは、米国が主に欧州やカナダと全面的に対決する、という姿勢です。ドナルド・J・トランプ米大統領はカナダでのG7首脳会合を途中退席し、6月12日の米朝首脳会談に臨むため、シンガポールに向かう途中で、こんなツイートを発しています。
PM Justin Trudeau of Canada acted so meek and mild during our @G7 meetings only to give a news conference after I left saying that, “US Tariffs were kind of insulting” and he “will not be pushed around.” Very dishonest & weak. Our Tariffs are in response to his of 270% on dairy!(2018/06/10 08:04付 ツイッターより)
PM Justin Trudeau of Canada acted so meek and mild during our @G7 meetings only to give a news conference after I left saying that, “US Tariffs were kind of insulting” and he “will not be pushed around.” Very dishonest & weak. Our Tariffs are in response to his of 270% on dairy!
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2018年6月9日
英単語の “meek” とは、「おとなしい」、「柔和な」という意味の形容詞です。それにしても見慣れない単語ですが、おそらくこれは “weak” (弱い)と韻を踏んだものでしょう。こうした下手な韻についてはともかく、意訳すれば、
「カナダのトルドー首相はG7会合中にはしおらしく振る舞っていたが、私が会場を去った後で『カナダは米国の関税によって動揺しない』と述べた。とても不誠実で根拠薄弱だ。わが国の関税は、カナダの270%という関税に対する対抗措置に過ぎない」
といったもので、明らかに全面対決姿勢です。
では、どうしてトランプ大統領は、ここまでトルドー首相と対決しているのでしょうか?
WSJ「トランプは共同声明に賛同せず」
そのヒントが、米大手メディアであるウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の現地発の記事に詳述されています。
Trump Says U.S. Won’t Endorse G-7 Communiqué, Threatens Auto Tariffs(米国夏時間2018/06/09(土) 21:55付=日本時間2018/06/10(日) 10:55付 WSJより)
記事の日付は6月9日、つまり土曜日ですが、日本時間に直せばつい先ほどのものです。記事自体は有料コンテンツであり、かつ、英文で執筆されているため、非常に読み辛いと思いますが、ごく簡単に内容をまとめると、次のとおりです。
- トランプ氏はG7会合後、シンガポールに向かうエアフォース・ワンの機内で記者団に対し、これから発表される予定のG7最終共同声明(コミュニケ)に米国は同意しないとの方針を示した
- G7会合の議長を務めたカナダのトルドー首相はトランプ氏が去った後の記者会見で「最終的に全会一致できた」と述べたが、トランプ氏の発言はこれを正面から否定するものだ
- トランプ氏はまた、G7諸国で自由貿易協定を創設することを提案した
- トランプ氏は出発前の会合で、アンゲラ(・メルケル独首相)、エマニュエル(・マクロン仏大統領)、ジャスティン(・トルドー加首相)の3人を「a 10」に挙げたばかりだった
最後の “a 10” の下りはうまく訳すのが難しいのですが、「一番信頼している10人」という意味でしょう。しかし、この3人は、いずれもトランプ氏と「犬猿の仲」として知られる人物ばかりであり、逆に日本の安倍晋三総理大臣や英国のテリーザ・メイ首相が “a 10” に含まれていない時点で、説得力はありません。
それはともかく、「制裁関税を課す」と言ってみたり、「G7自由貿易協定を創設する」と言ってみたり、どうもトランプ氏の発言はよくわかりません。環太平洋パートナーシップ(TPP)を自分で抜け出したトランプ氏が「自由貿易協定」と言っても説得力はまったくないからです。
ロシアに秋波
一方、WSJの報道で、もう1つ気になるのが、トランプ氏が2014年に追放されたロシアを、再びG7に招致すべきだと主張したことです。これは日本時間の昨日付の記事に報じられています。
Donald Trump’s Call for Russia to Rejoin G-7 Jolts Start of Summit(米国夏時間2018/06/08(金) 18:21付=日本時間2018/06/09(土) 07:21付 WSJより)
トランプ氏が突然こんなことを言いだした理由は、よくわかりません。WSJは「朝鮮半島やイランなどの核問題を協議するうえで、より共通の課題に対処するためにロシアを引き込む狙いがある」と分析していますが、それをいきなりG7の場で述べること自体が不自然です。
これに対する6ヵ国の反応については、正直、よくわかりません。ただし、ロイターが配信したトルドー首相の記者会見の動画によれば、トルドー氏は「現時点でのロシアのG7復帰については考えていない」とシンプルに答えています。
いわば、トランプ氏が政権公約とする「通商問題」を巡っては、一人空回りするトランプ氏と、それを冷ややかに眺める欧州・カナダ、という構図が見え隠れするのです。
対照的過ぎる日本と韓国
「調停者」としての日本の隠然たる存在感
ところで、G7とは、もともとは米国、カナダ、欧州4ヵ国(英独仏伊)の6ヵ国に、日本が「オマケ」のようにくっついている会合である、というイメージで語られることが多かったのではないかと思います。実際、2012年以前だと、麻生太郎総理を除けば、歴代政権で存在感を示した首相はみあたりません。
私自身、村山富一元首相、河野洋平元外相という「無能コンビ」が欧州で開かれたG7会合でポツンと孤立している報道写真を見て、絶望を感じたこともあります。ところが、2013年以降、日本が圧倒的な存在感を示し始めます。安倍晋三総理大臣の実力のためです。
今回、WSJの記事を2本ほど紹介しましたが、いずれの記事でも、日本が記事本文に登場します。たとえば、サミット直前に配信された、「トランプ氏がロシアのG7復帰を提唱」の記事では、
A Japanese official said Japan is in sync with the Europeans on trade and is trying to persuade the U.S. to rethink its tariffs, which the Trump administration imposed on national-security grounds.
「トランプ氏は共同声明に賛同せず」の記事では、
And Mr. Trump’s U-turn came moments after Japanese Prime Minister Shinzo Abe praised the G-7 countries for overcoming disagreements on trade to sign the final, joint, statement./ “We know that we need to lead the global economy, that is the sense of responsibility we share,” Mr. Abe told reporters after the summit.
といった具合に、日本政府関係者や安倍総理の発言、方針が、「欧米対立」という構造ののなかに埋め込まれているのです。要するに、米欧加が対立する中で、G7全体の方向性を決定するカギを握るのが日本である、という状況にあるのが明白です。
考えてみれば、安倍総理は外国首脳の中で、現在の米国(というか、トランプ政権)に対し、最も強い影響力を行使している人物です。G7における通商問題で米国が孤立する中で、日本政府は「自由で公正な貿易を支持し、米国の一方的な関税の再考を求める」とする原則論に立っています。
日本はすでに米国から鉄鋼・アルミニウムの関税措置を喰らっています(しかも大して影響はありません)。この問題では別に米国の味方をする必要もありませんし、欧州の全面的な味方をする必要もありません。当たり障りのない原則論を述べて立場を曖昧にしておけば十分です。
それだけではありません。今後、欧米対立がどうしようもない次元にまで高まった際には、安倍総理が「調停者」として登場する可能性がある、ということです。つまり、日本の隠然たる存在感が、ますます高まったのが、今回のラマルベー・サミットだったといえるでしょう。
こうした日本の立場について、日本のマス・メディアがまともに報道するとは思えませんが、少なくとも私たち日本国民は、安倍外交の功績いう事実を知っておくべきでしょう。
「調停者」になれなかった韓国
さて、通商問題にすべてを持って行かれたようにも見受けられる今回のG7会合ですが、北朝鮮の非核化という観点からは、結束を見た格好となっています。
【G7サミット】/公正な貿易発展へ努力 北朝鮮非核化で結束(2018.6.10 09:49付 産経ニュースより)
通商問題では米国が欧州・カナダとの対決姿勢を明確に打ち出し、結束が乱れた格好ですが、産経ニュース(※共同通信配信記事)によれば、北朝鮮の「完全な非核化」という論点については、G7が合意しているのだそうです。
現時点で共同声明についての文言を確認したわけではありませんが、日本としては、核・大量破壊兵器のCVID ((CVIDとは「完全な、検証可能な、かつ不可逆な方法での廃棄」(Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement)のこと。)) 、そして理想的には「日本人拉致事件の完全解決」が盛り込まれれば、外交成果としては100点満点といえるでしょう。
ところで、この期に及んで「北の核の段階的放棄」という寝言を主張している国が、1つ、存在しています。そう、私たち日本の「同盟国」のふりをして、いつも日本を後ろから刺す、韓国という国です。当ウェブサイトでは先月、こんな記事を紹介しました。
G7/韓国参加で調整 米朝会談前、南北支援要請へ(2018年5月11日 23時09分付 毎日新聞デジタル日本語版より)
この記事が出た時点で私は、「他のメディアから同様の記事が出ていないこと」、「韓国が『調停者』として振る舞うことを米国から咎められていること」などを根拠に、この記事は「毎日新聞のいつもの『ガセネタ』に違いない」と思っていました。
実際、韓国はG7会合に招聘されず、それどころかシンガポールでは韓国のメディア関係者が北朝鮮大使公邸に不法侵入したり、撮影禁止区域で撮影したりしたとして、問題になっているほどだそうです。
韓国記者、拘束=シンガポールで取材中(2018/06/08-23:29付 時事通信より)
これが日本と韓国の決定的な違いなのかもしれませんね。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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アハ!G7が蚊帳の外だねw