日中韓首脳会談は「成果なし」こそ最大の成果
やる前から成果がないとわかっている会談があったとしても、外交の世界では「会うだけでも意味がある」ということがありえます。ましてや公然と日本の国益を損ねようとする国であればなおさら、一応会っておいて「意見が違う」ということを天下に知らしめるだけでも、十分な成果といえるのです。
目次
やる前から「成果なし」?
果たして彼らは何をしに来るのか?
明日(5月9日)、東京で日中韓「首脳」会談が行われます。
韓国の文在寅(ぶん・ざいいん)大統領は初来日です。朴槿恵(ぼく・きんけい)前大統領が在任中、ただの1度も日本を訪れなかったため、韓国大統領としての来日は2011年12月の李明博(り・めいはく)元大統領以来、実に6年半ぶりのことです。
ただ、中国からの参加者は国家元首で最高権力者の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席ではなく、ナンバーツーの李克強(り・こっきょう)首相です。実質的な権限を持たない李首相が「中国首脳」かと言われればはなはだ疑問であり、この時点で何か実りのある会談ができるとは思えません。
その意味で、今回の日中韓「首脳」会談とは、「日中韓3ヵ国がいちおう会談を持ったよ」という「実績作り」のためのものであり、酷い言い方をすれば「会議のための会議」です。むしろ実質的に何か意味がある会談だとは思わない方が良いでしょう。
もちろん、あくまで一般論としては、意見が一致しない相手であっても、直接、首脳同士が会って話をすることは大切です。しかし、北朝鮮の核開発問題を筆頭とする、東アジアのさまざまな懸案において、日中韓3ヵ国の意見がまったく違うということが、露骨に示される場になってしまう可能性すらあります。
とくに、「日本」vs「中韓」という対立構造が出来上がれば、「蚊帳の外理論」(※)を唱える日本のマス・メディアが「そら見たことか!」と大騒ぎするのは目に見えています。その意味で、安倍総理は一種の政治的リスクを負って、中韓首脳を招くのだという言い方もできます。
(※「蚊帳の外理論」とは、朝日新聞などのオールド・メディアが好む、「日本が朝鮮半島問題その他の国際問題において『蚊帳の外』に置かれている」とする珍説のこと。なお、この理論の間違いについては、たとえば『【夜刊】北朝鮮情勢:弱い犬ほどよく吠える』などでも触れていますのでご参照ください。)
このように考えていけば、「もりかけ・セクハラ・日報問題」で支持率が急落しているなかで、敢えて中韓首脳を招き、政権批判の題材にされかねない首脳会合を招く安倍総理には、それなりの自信があるのだと見ることもできるかもしれません。
CVIDも拉致も入らない
ただ、さっそく前途多難な兆候が見えています。なぜなら、日中韓首脳会談の特別声明に「CVIDが入らないだろう」とする見方を、昨日、韓国大統領府自身が明らかにしたからです。
韓日中首脳会談の特別声明に「CVID入らず」=韓国大統領府(2018/05/07 11:59)
この「CVID」とは、 “Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement” 、つまり「完全、検証可能、不可逆的な方法による廃棄」のことであり、「核・大量兵器のCVID」といえば、いわゆる「リビア方式での核放棄」を意味しています。
私は以前から、現状のままでは北朝鮮がCVIDに応じることは絶対にないと考えています。なぜなら、北朝鮮が核・大量破壊兵器を開発する理由は、それを日本や米国などに対して「実戦使用」するためではないからです。
北朝鮮が核やミサイル、生物・化学兵器などをいっしょうけんめいに開発する理由は、中東のテロ支援国家やテロリストあたりに転売すれば儲かるからであり、また、これらの兵器を持っていれば、「それ自体が抑止力として機能する(と金正恩(きん・しょうおん)が思っている)からです。
それだけではありません。金正恩からしたら、国境を接する中国とロシアが実質的に北朝鮮を支援し続けてくれているがために、安心して核・ミサイル開発を続けてきたという経緯があります。おそらく、仮に北朝鮮が中露両国と国境を接していなければ、とうの昔に米国は北朝鮮攻撃に踏み切っていたはずです。
また、中国が北朝鮮の核開発を事実上、黙認している理由は、国際社会から北朝鮮が注目されれば、自分たちの国・中国が南シナ海や東シナ海などで行っている狼藉から国際社会の目が逸れるという利点もあるからでしょう。
そのように考えていけば、中国が入った瞬間、CVIDに賛同しないであろうことは、容易に想像がつく話です。
「日本」対「中韓」の対立構造が明らかに
問題はそれだけではありません。
もし韓国がまともな判断をする国であれば、北朝鮮が核保有国になることを絶対に容認しないはずです。しかし、残念ながら、現在の韓国は「まともな判断」ができる国ではありません。というのも、現在の文在寅政権は、完全に「北朝鮮寄り」になってしまっているからです。
例えば、先月27日に南北首脳会談が行われ、「板門店宣言」なる共同宣言が出て来ましたが、この中では日本や米国が求めていたCVIDも拉致問題も「ゼロ回答」に終わりました(『【速報】南北首脳会談、拉致もCVIDも「ゼロ回答」』、『韓国も経済制裁の対象にすべき』参照)。
もはや韓国は日本と利益も価値も共有していない、単なる迷惑な隣国でしかありません。いったいいつまで日本の外務省は、この韓国という国を「重要な隣国」と言い続けるつもりなのか――と思っていたら、さすがに今年に入り、外務省ウェブサイトから韓国に関する「最も重要な隣国」という下りが削除されました(『韓国が「最も重要な隣国」ではなくなったのは当然』参照)。
つまり、日本にとって韓国は、名実ともに、価値も利益も共有しない「単なる隣国」に成り果てているのです。そんな国の大統領を日本に招いて3ヵ国首脳会談を開いたとしても、「1対2」になって負けることはわかり切っています。
このように考えていくならば、「日中韓3ヵ国首脳会談」では、「日本」対「中国+韓国」という対立構造が明らかになっておしまい、という展開になることは、容易に予想できます。果たして、これで問題はないのでしょうか?
着々と布石打つ安倍政権
豪加巻き込み軍事協力を推進する安倍政権
結論から申し上げれば、日中韓3ヵ国首脳会談において、「『日本』対『中韓』という対立構造」が浮き彫りになったとしても、それ自体は問題ではありません。こうした構造は今に始まったものではなく、韓国の崩壊は朴槿恵・文在寅の両政権を通じて進行していたからです。
いや、韓国が日本や米国などの「海洋勢力」と完全に対立する関係になってしまっているということを国際社会に対して大々的に見せつけるという意味では、むしろ日本にとっては非常に有用な場となるでしょう。日本としても、もとからこの会議で中国と韓国を「味方に引き入れる」ことは期待していないはずです。
その証拠が、「多国間軍事協力」です。以前、『【夕刊】「蚊帳の外」なのはむしろ韓国と北朝鮮の方』のなかでも紹介しましたが、日本はオーストラリアとカナダを巻き込んだ「北朝鮮に対する実質的な海上封鎖の強化」に踏み切りました。
豪加、米嘉手納基地から監視 北朝鮮制裁逃れ防止(2018/4/28 13:30付 日本経済新聞電子版より)
これは、沖縄県の米軍嘉手納基地を拠点に、米国、オーストラリア、カナダの3ヵ国が「北朝鮮による瀬取りの監視活動」を強化するというもので、日本は豪加両国と、監視活動の情報共有で協力するとしています。
ここで「瀬取り」とは、海上でこっそり行われる積み荷の移し替えのことであり、北朝鮮が国際的な経済制裁を逃れる手段として多用しているものです(米WSJの報じた航空写真などについては、『マス・メディアが日本のボトルネック』などをご参照ください)。
要するに、実質的な海上封鎖であり、北朝鮮をますます締め上げるものであり、海上ルートを使った物資のやり取りが、きわめて困難になります。北朝鮮が石油関連製品を密輸入しようとしても、核物質などを密輸出しようとしても、海上で摘発される可能性が高い、ということです。
もちろん、北朝鮮は陸上で中国、ロシアの2ヵ国と接しています。このようなことをやったところで、両国の陸上の物資供給ルートが生きていれば、北朝鮮を完全に締め上げることはできません。しかし、海からのルートが遮断されれば、北朝鮮にとっては大きな打撃であることは間違いなさそうです。
「外相・防衛相会談」の積極的開催
日本の独自の動きは、それだけではありません。「2+2会合」と呼ばれる、2国間の外相・防衛相、合計4人による会談を持つ機会が増えて来ているのです(図表)。
図表 日本と主要国との「2+2」会合
相手国 | 実施回数 | 直近の開催 |
---|---|---|
米国(14回) | 2000年9月11日に初回を開催して以来、これまでに14回開催 | 2017年8月17日 |
オーストラリア(7回) | 2007年6月6日に初回を開催して以来、これまでに7回開催 | 2017年4月20日 |
英国(3回) | 2015年1月21日に初回を開催して以来、これまでに3回開催 | 2017年12月14日 |
フランス(4回) | 2014年1月9日に初回を開催して以来、これまでに4回開催 | 2018年1月26日 |
ロシア(2回) | 2013年11月に第1回会合を開催し、昨年、2回目を開催 | 2017年3月20日 |
(【出所】外務省ウェブサイトを参考に著者作成)
たとえば、主要国では、日本にとって最も重要な同盟国である米国とはこれまでに14回開かれているほか、それ以外の国とも「2+2会合」が開かれており、オーストラリアとは2007年6月6日に始まって以来、実に7回も開かれています。
余談ですが、オーストラリアとの初回の「2+2会合」が行われたのは、第1次安倍晋三内閣において、防衛「庁」が防衛「省」に昇格した直後のことです。この時には、麻生太郎外相(当時)と久間章生防衛相(当時)がオーストラリアの外相、国防相と対話をしました。
また、第2次安倍政権発足以降は、欧州の核保有国でもあり、防衛協力の有力な連携相手でもある英仏両国とも会合が持たれるようになりました。さらに、平和条約が締結されていないロシアとの間でも、すでに2回、「2+2会合」が行われています。
ゴールデンウィーク中の閣僚の海外出張
さらに、反日6野党の皆さんが「審議拒否」で17連休を楽しんでいらっしゃる間に、安倍政権の閣僚は、安倍晋三総理大臣本人を含め、実に13人が海外に出張しています。
大型連休中の閣僚、海外出張は13人(2018/4/27付 日本経済新聞朝刊より)
安倍総理はアラブ首長国連邦、ヨルダン、パレスチナ、イスラエルの4ヵ国を訪問したほか、麻生太郎副総理兼財相はフィリピンでADB年次総会やASEAN+3財相・中央銀行総裁会議などに参加。小野寺五典防衛相は北欧のフィンランドとエストニアを、河野太郎外相はヨルダンを訪問しました。
この一見するとバラバラな訪問先、実は、「北朝鮮」というキーワードで合致しています。というのも、欧州各国は北朝鮮と国交を持っていますし、ASEANもマレーシアなどが北朝鮮と密接な関係を持っており、さらに中東は北朝鮮産の化学兵器などの「得意先」でもあります。
日刊ゲンダイは『14閣僚が物見遊山 “GW外遊ラッシュ”で浪費される血税6億円』という記事のなかで、こうした閣僚の海外出張を「物見遊山」と手厳しく批判していますが、この海外出張がどういう成果を得たのか、一目でわかるのが、北朝鮮の反応です。
『【夜刊】北朝鮮情勢:弱い犬ほどよく吠える』でも紹介しましたが、北朝鮮は国営の『朝鮮中央通信』を通じて、
朝鮮労働党の並進路線の偉大な勝利の宣言に怖じ気づいた安倍はもちろん、財務相、防衛相、外相などがわれ先に出ていわゆる完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄だの、対北制裁緩和は受け入れられないだの、最大限の圧力を続けなければならないだのと青筋を立てている
そうかとすれば、宗主の米国を次々と訪れて対朝鮮制裁・圧迫を哀願したあげく、シリアに対する米国の空爆が北に送る特別メッセージだと思うというたわごとまで並べ立てて朝鮮半島に醸成された現情勢の流れに水を差そうと血眼になって奔走している
と必死に批判しています。
地球で最も反日的かつ反人類的な国である北朝鮮が、閣僚の相次ぐ海外出張を、これほどまでに強く批判しているのです。外交の成果を図るうえで、これほどわかりやすいものはないでしょう。
日本は独自の道を行くのが良い
ところで、読者の方は意外に思われるかもしれませんが、私は、明日行われる予定の日中韓首脳会談については、「やること自体に意味がある」と考えています。どうせ実のある合意は期待できませんが、それでも意見が対立する者同士が「会う」だけでもそれなりの成果だからです。
外交とは1つや2つの会議ですべての成果を推し量るというのではなく、総合的に判断すべき筋合いのものであり、今回の日中韓首脳会談だって例外ではありません。そして、1回の会談ですべての問題が片付くということはありません。相手に日本の立場を伝えるだけでも十分な成果です。
国益とは軍事的安全と経済的利益の追及であり、古今東西、あらゆる国は自国の国益を最大化するために動いています。そして、日本は憲法第9条第2項の制約があるため、戦争という手段で国際紛争を解決することが非常に困難です。
軍事力の裏付がない外交という、人類史上あまり例がない制約を負わせられていながら、北朝鮮のCVIDや拉致問題の解決を図らなければなりません。ということは、「使えるものは何でも使う」というしたたかさが日本には必要なのです。
中韓を「わけのわからない国」と拒絶するのではなく、一応、対話をするという努力はすべきであり、その観点から私は今回の日中韓3ヵ国会談の開催を評価したいと考えているのです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
いつも知的好奇心を刺激する記事の配信有り難うございます。
CVIDを北朝鮮に主張しなければ、全工業部品の対韓国向け輸出審査を新たな基準が出来る迄、一時停止すれば良いでしょう。その間工業部品の対韓国輸出をストップさせるのです。
とはいえ、対韓国への新たな輸出基準を作る前にモリカケ日報セクハラと安倍内閣には、やることはいっぱい有ります(笑)。
さぁ韓国の外貨準備高が本当に過去最高である証明、我々に見せて貰おうではありませんか(笑)。
サムスン電子さようなら(笑)。
以上です。
長文失礼しました。
< 今日も更新ありがとうございます。
< 明日の「日中韓」三カ国首脳会談、結論からいってとりあえず『顔を合わした』という実績作りだけじゃないのでしょうか。もっとキツイ言い方すれば『どうでもいい会談』です。中国はナンバーワンで独裁者の習近平ではなく李首相(何の決定権もない)だし、南は金王朝のメッセンジャーボーイ文大統領。
< 文は青瓦台を通して「CVIDは議題に入らない」とヌケヌケと言い、ハナから会談の骨抜きを謀っています。李首相も南北朝鮮に対して、『四者会談に入れてやってもいいぞ』と言われたのは、どこかで躾けなり意趣返しをするだろうが、核の段階的廃止に賛意を表すでしょう。
< 三者互いの意見を言うだけに終始しそうで、その時、文は安倍首相を『やっと半島の核危機から平和統一の機運が高まっているのに、日本だけが賛成しない。完全に貴国は東アジアの枠組みから外れている」などと、非難するのも想定内。
< しかし安倍首相はCVIDの完全遂行と拉致問題解決は譲らない。世界的にみても(中、南北除く)どちらが正しいかは一目瞭然だ。文氏は北寄りの統一、海洋国家から大陸側の独裁国家にシフトした。韓国は国民が選んだとはいえ、国ごと消えた。
< 会談中でも会談後でもいいが、安倍首相は一言『対北姿勢を改めぬのなら、一切日韓スワップは無いと思え』(何があっても再開しないが)と文に伝える。また李首相にも『中国は結んでいるのか?』と聞いてやればよい。多分『いや、昨年失効した』だ。その時の文の反応が是非見たい(笑)。
< それぐらいかな、明日の興味は。失礼します。
財務省が天下り先確保のためにAIIBに出資するとか言い出すんじゃねーだろーなー ほんっと日本の財務省がガンだよww
関係ないけどブログ主さんの記事が載ってたよー
https://vpoint.jp/politics/112221.html
「日本の膿」が審議復帰報道の怪