トランプ政権下で対韓経済制裁の可能性
韓国政府の経済官庁の要職経験者クラス、韓国の経済メディアの記者らは、いまだに「量的緩和と為替介入の違い」を理解していません。米国政府をはじめとする世界各国から、あれほど何度も「量的緩和と為替介入は別物だ」と言われていながら、全くそれを理解していない記事が、再び某隣国のメディアに掲載されており、呆れて物もいえません。ただ、米国でトランプ政権が成立した場合、トランプ政権は真っ先に中国と韓国とドイツの3か国を「敵視」するような通商政策を採用する可能性があります。これについて、基本的な考え方と一緒に確認しておきましょう。
目次
金融政策と為替介入の違い
先週は、米大統領選でのトランプ候補勝利、TPP関連法案可決、あるいは「日韓スワップ報道」や韓国政府の機能停止状態、GSOMIAなど、いくつもの「ネタ」がありました。しかし、私自身が現在、数本の原稿を抱えて多忙であるという事情もあり、正直、これらについて追いかけきれていません(※)
※「多忙だ」という割には、こちらのウェブサイトを毎日更新していたりするのですが…(笑)
ただ、あちらこちら「目移り」していても仕方がありませんから、一つずつこなしていくしかないというのが現状です。
いまだに金融政策と為替介入を混同する韓国メディア
こうした中、某隣国のメディアの報道に、果てしなく絶望的に「経済を理解していない」記事を発見しました。
<トランプの米国>トランプノミクスにアベノミクスが枯死の危機(2016年11月11日07時46分付 中央日報日本語版より)
著作権の問題があるので、全文を引用するのは控えますが、この記事は冒頭で
ブルームバーグ通信は10日、円安を誘導して輸出企業の利益を増やす「アベノミクス」がトランプ氏の保護貿易政策基調で厳しい状況を迎えると報じた。
と記載しています。
Bloombergがこんな記事を配信したのかどうかはわかりませんが、少なくとも中央日報日本語版の記者は、
アベノミクスとは円安を誘導して輸出企業の利益を増やすこと
だと理解していることだけはよくわかります。呆れて物も言えません。
この記者は「財政政策」と「金融政策」の違い、「金融政策」と「為替介入」の違いなど、経済の基本的な概念を全く理解していないのです。
量的緩和の目的は為替ではなく物価
基本的な事柄ですが、日本銀行が2013年4月に開始した「量的・質的金融緩和」(QQE)の最大の目的は、「物価上昇」(デフレ脱却)です。
デフレーションとは、物価が下落する局面ですが、人々が「物価が下落する」と思い込んでいると、消費や投資が落ち込み、GDPは低成長(あるいはマイナス成長)が続きます。20年に及ぶデフレから脱却することは、日本経済にとっては一種の「悲願」です。
日本銀行が行っている政策は、債券市場から流通国債などの有価証券を買い上げ、市中にマネタリーベースを増やすというものであり、実際に市場金利は急低下しています。ただ、残念なことに、有効な財政政策が欠落している状況に加え、2014年4月に消費増税が行われたことで、「アベノミクス」はいったん、腰折れしてしまいました。
しかし、それでも有効求人倍率は1倍を超え、失業率水準も3%を割り込みそうになっているなど、日本経済はこの数年でほぼ「完全雇用状態」が達成されました。その意味では、間違いなく「黒田緩和」は日本経済にプラスのインパクトを与えているのです。
余談ですが、「黒田緩和」を一番恨んでいるのは、民進党・共産党などの反日勢力や「債券村」に所属する一部の大手証券会社のエコノミストであり、それ以外の日本国民は、大なり小なり、この緩和により恩恵を受けています。
公然と為替介入を行う韓国
ただし、韓国メディアにこんな記事が出て来てしまう以上、韓国という国では「金融政策」と「為替介入」の違いが正しく認識されていないという証拠の一つだと見て良いでしょう。
韓国会計士協会会長の的外れな分析
以前、当ウェブサイトでは、「『韓国公認会計士協会会長』という要職にある人物が、量的緩和と為替介入を混同している」とする情報を掲載したことがあります(『量的緩和と為替介入をごっちゃにする韓国会計士協会長』参照)。この話題で取り上げたのは、次の報道です。
韓経:「韓国の為替介入を問題視する米国、アベノミクスは容認…韓国の外交失敗が理由」(1)(2016年10月24日13時07分付 中央日報日本語版より)
(※記事には「(2)」もあるものの、ここでは省略)
記事の中で日本について触れられている部分を抜粋すると、次の通りです。
過去3年間は一言でいうと、日本が太平洋戦争を起こした戦犯国の汚名をそそいで米国の堂々たる軍事パートナーとして華麗に再登場した時期と規定できる。米国が中国の軍事力膨張を防ぐために要請した日本の再武装を安倍首相が受け入れた結果だろう。その代わり日本は再武装財源確保のために日本円を無制限に供給する『アベノミクス』を容認してほしいと米国に要請し、米国はこれを受け入れた。米国が日本の過度な円安を容認しながらも韓国の小規模な為替介入を厳格に牽制するのはこうした背景のためとみている
「日本は戦犯国」とか「日本の再軍備」とか、そういう韓国国内でしか通用しないキーワードがちりばめられている時点でウンザリしてしまいますが、それでも敢えて記事を読むならば、この「韓国公認会計士協会会長」とやらは、
- アベノミクスは再軍備財源確保のために日本円を無制限に供給する政策である
- 米国は日本の過度な円安を容認しながらも韓国の小規模な為替介入を厳格に牽制する
と主張している訳です。
しかも、これを主張している崔重卿(さい・じゅうきょう)氏は、「企画財政部第1次官と知識経済部(現産業通商資源部)長官を務めた正統経済官僚」だというのです。韓国政府の経済官庁などで要職を歴任した人物が、こんな素人的な認識では困ります。
韓国の為替介入を問題視する米国
ところで、記事の中で「韓国の為替介入を米国が問題視する」という下りについては、実際に米国政府が公表する報告書の中で確認できます。
当ウェブサイトでも、米国財務省が「為替監視対象国」として、韓国など6か国を指定したという話題(『「日本が為替監視対象国」報道の真相』参照)を取り上げたことがありましたが、その中でも引用したレポート「アメリカ合衆国の主要な貿易相手国の外国為替相場政策について(原題“FOREIGN EXCHANGE POLICIES OF MAJOR TRADING PARTNERS OF THE UNITED STATES”)」によると、韓国については次のような指摘があります。
- 韓国の経済構造は輸出に依存し過ぎており、ウォン安の是正による改善が必要だ
- 本来、為替介入は「市場が例外的に無秩序な動きをしているとき」に限定すべきだ
- 韓国の為替操作は不透明であり、財政政策などを通じた内需拡大が不十分だ
つまり、韓国が公然と為替介入を行っているという事実を、米国側も完全に把握している、ということです。
トランプ時代の米国の通商政策とは?
問題なのは中韓独
先ほど引用した米国財務省のレポート(英語版)の中から、中国、日本、韓国、台湾、ドイツ、スイスについての記載を抜粋しておきましょう(なお、より厳格な記載は、先ほど引用した当ウェブサイトの過去記事をご参照ください)。
中国について
- 中国の為替相場管理政策は不透明であり、透明性の確保が必要だ
- G20での合意に基づき、通貨安競争を防止すべきである
- 中国経済はより一層の構造改革により、国内消費振興を目的にした財政政策を採用すべきだ
日本について
- 引き続き、柔軟な財政政策や野心的な構造改革方針を継続すべきである
韓国について
- 韓国の経済構造は輸出に依存し過ぎており、ウォン安の是正による改善が必要だ
- 為替介入は「市場が例外的に無秩序な動きをしているとき」に限定すべきだ
- 韓国の為替操作は不透明であり、財政政策などを通じた内需拡大が不十分だ
台湾について
- 為替介入は「市場が例外的に無秩序な動きをしているとき」に限定すべきだ
- ただし、台湾の米国との貿易黒字額はそこまで大きくない
ドイツについて
- 財政政策を通じた内需喚起が不十分だ
スイス
- スイスは巨額の為替介入を行っているが、経済規模の小ささなどを考えると経済政策にも特殊性が求められているのも事実である
つまり、米国財務省は、中国、日本、韓国、台湾、ドイツ、スイスの6か国を「為替操作監視対象国」に設定しているのですが、その中で問題視しているのは中国、韓国、ドイツの3か国です。
日本については「アベノミクス」による金融緩和・財政政策・構造改革を「今まで通り続けること」を求めていますし、台湾については「為替介入は問題だが、対米黒字の規模がそれほど大きくない」ので事実上問題視しない姿勢です。さらに、スイスについては「国の経済規模が小さいにも関わらず巨額の資金流入に対処しなければならない状態」であるため、為替介入が常態化していることに、事実上、理解を示した格好です。
しかし、それとは対照的に中国、韓国、ドイツの3か国については、「対米黒字(あるいは経常黒字)が多すぎる」ことを強く問題視しており、これに加えて中国と韓国については「不透明な為替介入」が問題だとしています。
トランプ政権下で為替介入国への通商制裁も!
オバマ政権自身が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や環大西洋通商投資パートナーシップ協定(TTIP)などを推進したほどですから、現在の米国・オバマ政権は、基本的には「自由貿易体制」の支持者であると見て良いでしょう。ただ、そのオバマ政権下でさえ、このように強硬な報告書が出てきたという事実を、重くとらえるべきです。
米国の次期大統領に当選したドナルド・トランプ氏は、中国や韓国の貿易黒字を強く問題視しています。もちろん、いかに米国大統領であっても、「WTO協定に反するほどの保護主義政策」が許されることはありませんが、それでも、少なくとも私は、トランプ政権が中国、韓国、ドイツの3カ国を敵視する通商政策を採用するのではないかと見ています。
もちろん、トランプ次期大統領はTPP協定を破棄すると公言していますが、その点を除けば、次期トランプ政権で「日本に敵対的な通商政策」が取られる可能性は高くないと見て良いでしょう。
いずれにせよ、経済官僚を含めた韓国の指導者層が、「量的緩和と為替介入の違い」という経済学の基本を全く理解していないという事実については、私たち日本が彼らと「おつきあい」するうえで重要な前提として、知っておく必要がありそうです。
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