予想通り、韓国では朴槿恵政権時代に戒厳令が検討されていた
当ウェブサイトでは以前から「朝鮮半島の将来シナリオ」について考察して来たのですが、ここで、以前から当ウェブサイトで「可能性がある」として提示して来た「軍事クーデター・戒厳令シナリオ」については、実際に韓国軍が検討していたことが判明しました。
目次
朝鮮半島、8つのシナリオ
「朝鮮半島の将来シナリオ」というシミュレーション分析は、当ウェブサイトの「看板コンテンツ」の1つです。最新版は『大好評・「朝鮮半島の将来シナリオ」2018年6月版』に掲載したとおりですが、先月時点での各シナリオと実現可能性は、図表のとおりです。
図表 朝鮮半島の将来シナリオ8つと実現可能性
シナリオ名称 | 概要 | 予想確率 |
---|---|---|
①赤化統一 | 北朝鮮主導で南北朝鮮が統一される(いわゆる「高麗連邦」シナリオ) | 30% |
②韓国の中華属国化 | 北朝鮮という国が存続したまま、韓国だけが中国の属国となる | 20% |
③南北クロス承認 | 北朝鮮を日米両国が国家承認し、韓国が中国の属国となる | 25% |
④統一朝鮮の中華属国化 | 朝鮮半島統一が実現し、かつ、その統一朝鮮が中国の影響下に入る | 10% |
⑤北朝鮮分割 | 中国やロシアが北朝鮮に軍事侵攻して分割占領し、韓国が中国の属国となる | 10% |
⑥現状維持 | とりあえず朝鮮半島の現状が維持される | 5% |
⑦米国による斬首作戦 | 米国が北朝鮮に全面攻撃を仕掛け、国家崩壊した北朝鮮を韓国が吸収する | 0% |
⑧軍事クーデター | 韓国で軍事クーデターが発生して極左の文在寅(ぶん・ざいいん)大統領を拘束・排除し、日米との友好関係を回復する | 0% |
(【出所】著者作成)
ところが、図表1をみていただければわかりますが、シナリオの本数は8つあるのに、当ウェブサイトでは「6つのシナリオ」と呼んでいます。その理由は、韓国で文在寅(ぶん・ざいいん)政権が成立したことで、シナリオ⑦、⑧が実現する可能性は、ほぼゼロ%になったと考えたからです。
それ以外のシナリオ①~⑤については、いずれも米韓同盟が消滅(あるいは縮小)し、米国、中国、日本、ロシアなどとの関係が変容する、という仮定を置いています。米韓関係が現在と変わらずに維持されるシナリオは⑥だけであり、しかも実現可能性は、先月の段階で5%にまで引き下げています。
なお、これまで執筆して来た主な記事のうち、昨年秋以降のものは次のとおりであり、いずれもご自由にお読みいただくことができます。
- 2017年11月20日付『韓国は7割の確率で中華属国化する』
- 2017年12月27日付『朝鮮半島は2割の確率で赤化統一される』
- 2018年1月10日付『平昌の欺瞞:赤化統一に一歩近づいた韓国』
- 2018年2月9日付『平昌直前:「6つのシナリオ」アップデート』
- 2018年3月13日付『朝鮮半島の将来シナリオ・2018年3月版』
- 2018年4月28日付『史上3回目の南北首脳会談と朝鮮半島6つのシナリオ』
- 2018年5月17日付『緊急更新「朝鮮半島の6つのシナリオ」仮定版』
ぜひ、ご参照ください。
土台が揺らぐ、米韓同盟
シナリオを米韓同盟との関係で考える
私自身が考える「8つのシナリオ」とその実現可能性については、現状では「①赤化統一」が30%であり、その一方で「②韓国(だけ)が中国の属国になる」シナリオを20%、「韓国が中国の影響下に入る一方で米国と北朝鮮が関係を改善する確率(③南北クロス承認)」を25%と置いています。
つまり、この3つのシナリオだけで確率は75%に達します。また、それ以外のシナリオは、「④南北朝鮮が統一され、そのまま中国の属国になる」が10%、「⑤中国、ロシア、米国などが北朝鮮に侵攻し、分割するシナリオ」が10%、「⑥現状維持」が5%ですが、要するに「可能性は低い」ということです。
これらのシナリオと、米韓同盟の関係を考察することは、非常に重要です。
まず、韓国と北朝鮮が統一するシナリオ①、④については、暗黙の前提として、米韓同盟が消滅し、在韓米軍が撤収している、という仮定を置いています。また、シナリオ③、⑤の場合でも、北朝鮮という脅威が消滅する以上、在韓米軍の存在意義は極めて乏しくなります。
さらに、シナリオ②の場合は、韓国が中国の「核の傘」に入るということであり、必然的に在韓米軍は撤収しなければなりません。以上から私は、シナリオ①~⑤のどれが実現したとしても、米韓同盟は変質(あるいは消滅)し、在韓米軍については縮減ないしは撤収の可能性が非常に高いと見ているのです。
韓国ウォッチャーの鈴置氏の「米韓同盟消滅論」
実は、米韓同盟についてはかなり以前から、破棄ないしは縮減が検討されているようです。これについては、わが国における「韓国ウォッチャー」の第一人者である、日本経済新聞の元編集委員の鈴置高史氏が執筆した、次の記事が参考になります。
米中貿易戦争のゴングに乗じた北朝鮮の「強気」/北朝鮮は誰の核の傘に入るのか(2018年7月10日付 日経ビジネスオンラインより)
これについては、本論はあくまでも北朝鮮の話であるように見えてますが、実は、米国と韓国との同盟関係についても詳しく論じたレポートです。詳細は当ウェブサイトでも『【昼刊】鈴置さん、韓国はお嫌いですか?』で取り上げていますが、要点を振り返っておきましょう。
鈴置氏は米韓同盟の先行きを巡り、かなり早い段階で「在韓米軍は撤収する」とする予想を提示していた人物ですが、この記事の中で、米韓同盟の破棄については次のように述べています。
「本音はともかく、文在寅(ムン・ジェイン)政権を含む左派は大いに賛成するでしょう。「米韓同盟こそが諸悪の根源」と主張している人たちですから。/普通の人や保守派は米国との同盟を失うことに恐怖を感じると思います。ただ、韓国では論理ではなくムードが物事を決定します。」
「そもそも米国にとって、戦略的な要衝ではない韓国との同盟は価値がありません。それどころかカネがかかるし、余計な紛争に巻き込まれるリスクもある。/朝鮮戦争で韓国を助けたために米国はこの半島にはまり込んでしまった。もともと朝鮮半島は米国の防衛線の外にあるのです。/2010年頃から米軍関係者は「米韓同盟は長続きしない」と日本の安保関係者に非公式に通告してきています。」
要するに、「鈴置論」でいえば、米国、韓国ともに、米韓同盟を終わらせたがっている、ということです。
もちろん、私自身はこの「鈴置論」に対し、必ずしも全面的に同意するものではありません。確かに韓国は「戦略的な要衝」ではないかもしれませんが、それと同時に、ユーラシア大陸の南端に拠点を持っておくことは、米国にとっては悪い話ではない、という側面もあるからです。
ただ、「カネもかかるし紛争のリスクもある」という点については、そのとおりでしょう。韓国という国自体が、「敵・味方」を正確に認識する能力を欠いていて、本来ならば全面的な味方であるはずの日本をやたらと敵視する一方、中国や北朝鮮に不用意に近付くという危うさを持っているからです。
ちなみに、この鈴置説の一端は、客観的な報道からも裏付けられます。その1つは、韓国政府の文正仁(ぶん・せいじん)大統領補佐官が6月11日、日本経済新聞社が主催したフォーラムで、「(南北)平和協定締結の暁には在韓米軍は撤退すべきだ」と述べた、というものです。
韓国の文補佐官、平和協定後の米軍の必要性に改めて疑念(2018/6/11 18:47付 日本経済新聞電子版より)
もともと、文在寅政権は北朝鮮寄りの政権として有名ですが、まさかここまで急激に事態が進展するとは、私にも意外でした。
米韓同盟が消えれば日韓関係も無事では済まない
鈴置氏のような「韓国ウォッチャー」の立場としては、米韓同盟が消滅するかどうかという点が非常に気になるところでしょう。ただ、金融規制などの実務家である私にとって、もっと気になる論点があります。それは、「米韓同盟が消滅(ないし後退)した場合の日韓関係」です。
日本と韓国は、軍事同盟という関係にはありません。文在寅大統領は昨年10月、中国に対し「三不の誓い」というものを立ててきましたが、この中に「日本との軍事同盟を締結しない」という項目がわざわざ含まれていたことを忘れてはなりません(『「三不協定」の衝撃:米韓同盟崩壊が視野に入った』参照)。
ただし、日本は米国との間で「日米安全保障条約」を締結しており、日米両国は、もはや切っても切り離せないほど密接な同盟関係にあります。そして、韓国が米国との同盟関係にある以上、間接的には日韓両国は同盟関係にある、と言えなくもありません。
何より、日本にとって在韓米軍自体は非常に重要な存在です。なぜなら、在韓米軍は在日米軍と有機的一体として機能しており、かつ、北朝鮮や中国に対する牽制という意味でも、日本の安全保障に寄与しているからです。
もちろん、韓国からの日本に対する相次ぐ侮辱、約束違反、不法行為の数々を受けて、すでに日本は韓国のことを「基本的価値」や「戦略的利益」を共有する相手とは見ていません(『【昼刊】外務省、遅まきながらも韓国を「単なる隣国」に格下げ』参照)。
このため、現在の日韓関係は、あくまでも米国との「三角軍事同盟」を通じた繋がりという側面が大きく、直接の日韓間の交流チャネルは消滅しつつあります。こうした状況を踏まえれば、米韓同盟が消滅すれば、日韓関係そのものも土台から揺らぐのは当然のことでしょう。
韓国を救うウルトラCとは?
米軍の全面北朝鮮攻撃は極めて考え辛い
さて、冒頭に図表で示した「8つのシナリオ」の論点に戻りましょう。
私は、この8つのシナリオについて、⑦と⑧については、現時点における実現可能性をゼロ%と置いています。
まず、シナリオ⑦については、米軍が北朝鮮に軍事侵攻し、北朝鮮の金正恩(きん・しょうおん)体制を除去する、というものです。米軍と北朝鮮軍の戦力差は圧倒的であり、米軍が本気で北朝鮮に軍事侵攻すれば、北朝鮮全土を制圧するのに1時間もかからないでしょう。
ただ、私はそれでも、シナリオ⑦の実現可能性は極めて低いと見ます。その理由は、大きく2つあります。
1つ目は、肝心の金正恩自身の身柄を確保することができるという保証がないからです。金正恩は全土に影武者を配置していると思われ、また、いざ米軍が侵攻して来たとした際には、ハサンの地下通路を通じてロシア領内に逃げ込まれでもしたら大変厄介です。
また、2つ目の理由は、北朝鮮が中国、ロシアと国境を接しているという事実です。アフガニスタンやイラクなどと事情が大きく異なるのはこの点であり、たとえば、中国の事前の了解を得ずに北朝鮮に軍事侵攻した場合には、中国人民解放軍が軍事介入してくるかもしれません。
しかも、米国は中国に対して貿易戦争を仕掛けており、米中関係は決して良好とはいえません。北朝鮮への軍事攻撃における中国からの協力が期待できない場合、米軍にできることといえば、限定爆撃(サージカル・アタックか、単なる鼻血作戦)くらいなものでしょう。
それにしたって、北朝鮮の核のCVID ((CVIDとは、CVID、つまり、「完全な、検証可能な、かつ不可逆な方法での廃棄」(Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement)のこと。)) を確実に実現しようと思うならば、やはり物理的な攻撃という手段によるのではなく、国際原子力機関(IAEA)を通じた核査察を受けさせる以外に有力な方法は見当たりません。
いずれにせよ、米国が2017年12月18日という「北朝鮮を攻撃する最良のチャンス」を逃した以上、北朝鮮攻撃の可能性は当分遠のいた(再開するとしても今年の冬以降?)と私は考えています。
韓国の自力救済
ところで、シナリオ①~⑤は、いずれも韓国が米国(と日本)から見捨てられる可能性が非常に高いものです。もちろん、米韓同盟破棄や日韓断交などについては、すぐに実現するというものではありませんが、しかし、韓国が日米両国を敵視する以上、いずれ韓国が日米から捨てられるのも時間の問題です。
現在の文在寅政権がこのまま続けば、韓国経済はガタガタになり、韓国の国民世論も北朝鮮との統一に舵を切るのではないかと見ています。少し酷い言い方をするならば、文在寅大統領自身、韓国経済を破壊し、北朝鮮との赤化統一を実現するための、北朝鮮の工作員なのかもしれません。
(なお、韓国の経済運営の危うさについては、『【準保存版】韓国の外貨準備統計のウソと通貨スワップ』や『失業率対策を致命的に失敗する文在寅大統領の経済オンチぶり』などをご参照ください。)
ただ、ここに「ウルトラC」があるとすれば、韓国国内で軍が動き、文在寅政権を強制排除する可能性です。現時点では文在寅政権が成立し、しかも、何故か知りませんが、韓国国内で高い支持率を誇っていることは事実です。このため、軍部としては、現段階でクーデターに動くことは少し難しいかもしれません。
しかし、これが朴槿恵(ぼく・きんけい)前政権時代だと、まだ少しは可能性がありました。私自身も当ウェブサイトで、朴槿恵前大統領がまだ弾劾されていなかった時点で、「朴槿恵氏が決断し、戒厳令を出して親北派の文在寅氏を拘束すれば、韓国が日米陣営に留まる可能性はある」と申し上げました。
たとえば、朴槿恵氏に対する弾劾判決が下される直前に掲載した『【続】破滅に向けて突き進む韓国社会』では、「戒厳令や軍事クーデターにより憲政を停止し、左派大統領の出現を阻止する」という可能性を議論しました。
やっぱり予想通り戒厳令を検討していた
こうしたなか、朴槿恵前大統領を引きずりおろすきっかけとなった「ろうそくデモ」の際に、韓国軍が戒厳令を検討していたことが明らかになりました。
ろうそく集会当時に「戒厳令」検討か 文大統領が捜査指示(2018/07/10 10:49付 聯合ニュース日本語版より)
『聯合ニュース』(日本語版)によると、戒厳令を検討していたのは軍の捜査・情報機関である国軍機務司令部であり、2016年10月以降、市民団体らが「ろうそくデモ」を行っていた最中に、戒厳令の発令を検討していたとのことです。
もっとも、もしその際に、戒厳令が発動されていたからといって、韓国が今日の左傾転覆を避けることができたとも思えません。文在寅氏が拘束(あるいは国外退去)処分となり、朴槿恵氏が今でも大統領の座にあったとしたら(あるいは軍出身者が大統領に就任したら)、いったい何が生じていたでしょうか?
韓国は1988年以来、すでに30年に及ぶ民主主義の歴史を有しています。仮に軍が強権により政権を奪取しても、韓国国民はこうした動きを支持しないでしょうし、場合によっては市民対軍という対決が生じかねず、却って政情が混乱する可能性はあります。
また、文在寅氏が拘束された場合、諸外国(たとえばドイツあたり)が韓国を手厳しく批判したでしょうし、韓国が国際社会から経済制裁などを喰らう可能性だってありました。
このように考えていけば、戒厳令を出して「ろうそくデモ」を弾圧したところで、韓国社会の左傾転覆を食い止めることは難しかったのではないかというのが私自身の感想です。
現段階での8つのシナリオ
というわけで、現段階での「朝鮮半島の8つのシナリオ」については、6月時点で更新した可能性から据え置きたいと思います。
もちろん、6月12日の米朝首脳会談以降、北朝鮮との非核化交渉などがまったく進んでいないなど、予断を許さない状況にありますが、だからといって現段階でシナリオを修正するものではありません。冒頭で示した「8つのシナリオ」の可能性については、現時点で据え置きとします。
ところで、某匿名掲示板などの議論を覗いていると、軽々しく「日韓は断交すべきだ」などと主張する書き込みなどを見掛けることもあるのですが、現実の外交は、そう単純ではありません。日韓間には人的・物的交流もあれば、金融上の結びつきも強固だからです。
なにより、私自身も日本国民の1人ですから、韓国のことを感情的には好きになるのが難しいのですが、だからといって、韓国人に対するヘイト発言を行ったりすることは許されないと思いますし、また、国が引っ越せるわけでもない以上、ぎりぎりまで関係を維持する努力をしなければならないのは当然のことです。
ただ、それでも私は、現状の不健全な形での日韓関係は長続きしないと考えていますし、何らかの形で日韓関係を清算しなければならない可能性には留意が必要だと考えています。その場合、まっさきに考えるべきは悪影響の最小化です。
もっといえば、在韓米軍の撤収と、朝鮮半島の南端部にまで、中国人民解放軍(または北朝鮮人民軍)がやってきて、日本に対して睨みを利かせる事態が発生することに備えなければなりません。「日韓断交、ざまぁ見ろ」といったシンプルな発想では許されないのです。
まずは憲法第9条第2項の無効化、そして日本国民自身が北朝鮮による日本人拉致問題を「自分の問題」として捉え、真摯に考えることが必要です。私がウェブ評論サイトを続けている理由の1つも、実は、そのことを訴えるためにあるのです。
そのことを、強調しておきたいと思います。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。
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