【昼刊】韓国で「トリプル安」は発生するのか?

韓国で、果たして「トリプル安」は発生するのでしょうか?

韓国が恐れるのは「トリプル安」

株安・通貨安を大々的に報じる韓国メディア

今朝方、韓国メディアの『中央日報』(日本語版)に、こんな記事が掲載されていました。

米中貿易戦争を懸念…韓国株価が今年の最安値(2018年06月22日07時48分付 中央日報日本語版より)

中央日報は韓国総合株価指数(KOSPI)が9ヵ月ぶりの安値となったことと、韓国ウォンが前日比米ドルに対して値下がりしたことの2点を指摘。そのうえで、「米中貿易戦争が加熱し、外国人・機関投資家ともに韓国株式市場から手を引いている」とロジックを述べています。

ついこの20年で見ても、韓国は1997年と2008年の2回、通貨危機に見舞われています。この通貨危機とは、韓国から外貨資金が逃げてしまう現象です。1997年の危機の際には国際通貨基金(IMF)の、2008年の危機の際には日本などから通貨スワップの、それぞれ支援を受けて乗り切りました。

こうした通貨危機が「トラウマ」となっているためでしょうか、中央日報などの韓国メディアを眺めていると、ちょっと株価が下落した、あるいはちょっと韓国ウォンが(米ドルに対して)下落した、といった経済現象が発生すれば、これを大きく取り上げて報じる傾向があるように思えます。

では、昨日の株価、為替、債券市場の3つを眺めてみましょう。

図表 2018年6月21日の終値
指標終値変化
株価(KOSPI)2337.83▲26.08
ドル/韓国ウォン1110.55+0.57
韓国10年債利回り2.605%▲0.014

(【出所】WSJなどから著者作成)

これを見ると、確かに株価自体は1%程度下落していますが、為替相場についてはウォン安となっている(プラス表示)ものの、大した下落幅ではありません。さらに、債券市場を見ると、10年債利回りはむしろ0.014%ポイント、低下しています(※利回りの低下は債券価格の上昇を意味します)。

つまり、金融の専門家的な観点からすれば、株価が下落しただけの話であり、為替市場、債券市場にはそれほどの混乱は生じていません。こうした状況を見れば、中央日報の「株安・通貨安」という報道は、少し神経質すぎる気がします。

株価ではなく債券利回りと為替相場

極端な話、株価は上昇したり、下落したりする性質を持っています。「経済が危機になれば株価が下落する」のは事実ですが、「株安になったら経済が危機になる」、という性質のものではありません。因果関係は逆です。

しかし、本当に危機の兆候が出てくるのは、株式市場ではなく債券市場と為替市場です。とくに韓国のように外需依存度が高く、通貨が国際的に通用しない「ソフト・カレンシー」である国の場合、外国との貿易や投資の決済は、外貨で行わなければなりません。

このため、もし韓国の通貨・ウォンが不自然なほどに急落したり、債券利回りが上昇(=債券価格が下落)したりすれば、これは、一部の大口の外国人債券投資家などが資金を引き揚げている可能性がある、ということです。

しかし、それだけでは終わりません。もし債券安・通貨安となれば、それを見たほかの外国人投資家も、パニック的に韓国から資金を引き揚げる可能性が出て来るからです。その意味で、「債券安になったら経済が危機になる」、「通貨安になったら経済が危機になる」、という側面があるのです。

これが、株式市場と債券市場、為替市場の違いです。

「トリプル安」とは?

冷静に考えてみれば、株式はいったん発行されれば償還されることはありません。株価については発行済株式の市場価格であり、別に株価が下落したところで、株式の発行企業が経営危機になるわけではなく、むしろ、安くなった自社株の買い入れなどのチャンスでもあります。

しかし、債券価格の下落(=債券利回りの上昇)は、発行体である国や企業にとっては、困った問題です。なぜなら、債券は発行されたあとで償還されるものであり、償還時点で利回りが上昇していたら、借換債の発行コストが上昇してしまうからです。

これに加えて、通貨の下落は、その国にとっては外貨での借入金の負債価値が上昇するという意味であり、通貨が下落し過ぎれば、極端な話、一国経済が破綻してしまうこともあります。

さらに、市場でときどき発生するのは、「トリプル安」です。これは、株安、債券安、通貨安が同時に発生することであり、韓国のように金融基盤が脆弱な国がトリプル安に見舞われたら、それが通貨危機につながる危険性もあります。

しかも、得てしてこの「トリプル安」は、リーマン・ショックのような世界的な通貨危機でも発生します。しかし、もともと韓国は外貨調達が多く(詳しい試算については『【準保存版】韓国の外貨準備統計のウソと通貨スワップ』をご参照ください)、何の前触れもなく「トリプル安」が生じるおそれもあるのです。

ムンジェノミクスと金利

さて、『「利上げしても地獄、利下げしても地獄」の韓国』でも言及しましたが、現在の韓国は、非常に厳しい状況にあります。

たとえば現在の韓国の場合は利上げすれば失業率が上昇し、家計債務負担が重くなり、生活破綻する人が急増しますし、だからとって利下げすればウォン安と通貨危機の問題に直結します(どうして利上げと失業率が関係しているのかについては、前出の記事をご参照ください)。

どうも文在寅(ぶん・ざいいん)政権の経済運営センスには不安を抱きます。韓国国内では文在寅氏の掲げる経済ポリシーのことを「ムンジェノミクス」などと呼ばれているようですが、「クネノミクス」「チョイノミクス」と並んで、韓国の政治家は経済学についてきちんとした知識を持っているようには見えないのです。

(※もっとも、「正しい経済知識がない」という意味では、日本の財務省や野党、日本経済新聞などのマス・メディアも五十歩百歩かもしれませんが…。)

いずれにせよ、最近では米国と北朝鮮との関係が話題になっていて、最近、わが国の論壇では、すっかり韓国の存在感がなくなって来ました。しかし、隣国が経済的にいつ危機になってもおかしくないことを考えると、決してこの問題は軽く見て良いものではないことを強調しておきたいと思います。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 黄昏せんべい より:

    いきつけの立ち呑み屋の『夕焼けセット』は
    ・生ビール(中)
    ・枝豆
    ・冷奴
    ・日替わり一品

    で、『小焼けセット』となるとビールが(小)

    『チョイノミクス』のネーミングいいっすね
    『チョイ呑ミクス』で提案してみるか
    なんだろ、キムチはアレだしチヂミでも入れるかな

    最近めっきり酒弱くなっちゃって
    焼酎のビール割3杯でdown
    https://www.youtube.com/watch?v=wT5ms2Nvpco

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