【速報】米国のイラン核合意離脱と「PVID」、そして金正恩の焦り
日本時間の今朝未明、米国が2015年の「イラン核合意」から離脱すると発表しました。これ自体は予想されていたことではありますが、私が注目したいのは、イランと北朝鮮の密接な関係と米国の強い意思、そして金正恩(きん・しょうおん)の「焦り」です。
目次
イラン核合意離脱の衝撃
日本時間早朝、米国がイラン核合意から離脱を表明
米国時間の昨日午後2時過ぎ(日本時間の今朝3時過ぎ)、米国のドナルド・トランプ大統領は記者会見を行い、米国がイランとの2015年の核合意から離脱すると発表しました。
この核合意は英語で “Joint Comprehensive Plan of Action” と呼ばれており、JCPOAと略されています。正確には「合同包括行動計画」とでも翻訳すべきでしょうが、本稿ではわかりやすく「イラン核合意」、「核合意」、「JCPOA」などと呼称することにしたいと思います。
ホワイトハウスはこれに関連し、いくつかのプレス・リリースを出しています。
- Remarks by President Trump on the Joint Comprehensive Plan of Action
- Ceasing U.S. Participation in the JCPOA and Taking Additional Action to Counter Iran’s Malign Influence and Deny Iran All Paths to a Nuclear Weapon
- President Donald J. Trump is Ending United States Participation in an Unacceptable Iran Deal
- Press Briefing by National Security Advisor John Bolton on Iran
そこで、本日はこれらのリンクのいくつかを紹介しておきましょう。
核合意破棄の趣旨
一連のホワイトハウスの声明文のうち、まずはこの記事を眺めてみます。
President Donald J. Trump is Ending United States Participation in an Unacceptable Iran Deal(2018/05/08付 ホワイトハウスHPより)
この記事は、のっけからこんな文章で始まります。
“The Iran Deal was one of the worst and most one-sided transactions the United States has ever entered into.” President Donald J. Trump(「イラン核合意はこれまでにアメリカ合衆国が関与したなかで、最もひどい、そして最も片務的な取引のひとつだ。」(ドナルド・J・トランプ大統領))
そのうえで、本文は箇条書きで、次のように続きます。
PROTECTING AMERICA FROM A BAD DEAL: President Donald J. Trump is terminating the United States’ participation in the Joint Comprehensive Plan of Action (JCPOA) with Iran and re-imposing sanctions lifted under the deal.(米国を不法行為から守るために:ドナルド・J・トランプ大統領はイランとのJCPOAへの参加を終了し、この合意に基づき解除された制裁を再び導入する。)
IRAN’S BAD FAITH AND BAD ACTIONS: Iran negotiated the JCPOA in bad faith, and the deal gave the Iranian regime too much in exchange for too little.(イランの悪い信念と悪い行い:イランはJCPOAを悪用し、その結果、この合意によりイランが放棄したものとくらべ、あまりにも多くのものを与えた。)
ADDRESSING IRANIAN AGGRESSION: President Trump is committed to ensuring Iran has no possible path to a nuclear weapon and is addressing the threats posed by the regime’s malign activities.(イランの脅威への取り組み:トランプ大統領はイランの核武装を阻止するとともに、この体制の悪質な活動がもたらす脅威に対処することを確約する。)
それぞれの項目では、たとえば、
「JCPOAはイランの核研究開発を多少遅らせる程度の効果はあったが、結果的にイランの政権に経済的利益を与え、悪意のある行動を可能にした」
などとイラン核合意を批判したうえで、
- 「大統領は、JCPOAで解除された制裁措置を直ちに再開するよう、政府各部局に指示した」
- 「制裁措置はエネルギー、石油化学、金融など、イラン経済の重要な分野を対象に再導入される」
- 「現にイランで事業を行っている企業には、撤退するための経過猶予を与える」
と、具体的な方策を列挙しています。そのうえで、トランプ氏はこの狙いについて、
「世界的に不法なテロや核開発への資金供給を絶つこと」
と指摘しているのです。
記者会見では北朝鮮を名指し
一方で、トランプ大統領は米国東海岸時間午後2時13分(日本時間で今朝3時13分)に記者会見を行いました。
Remarks by President Trump on the Joint Comprehensive Plan of Action(米国時間2018/05/08 14:13付=日本時間2018/05/09 03:13付 ホワイトハウスHPより)
会見の冒頭でトランプ大統領は、ヒズボラ、ハマス、タリバン、アルカイダなどの名前を列挙したうえで、イランについて、「国家としてこれらのテロリストに対する支援を与えている」と批判。そのうえで2015年のイラン核合意がイランに核開発の猶予を与えただけだったと述べて、核合意から離脱する目的を説明します。
ただ、先ほどの声明文と異なり、トランプ大統領の発言には、さらに踏み込んで、北朝鮮の独裁者・金正恩(きん・しょうおん)を名指しし、次のように発言します。
Today’s action sends a critical message: The United States no longer makes empty threats. When I make promises, I keep them. In fact, at this very moment, Secretary Pompeo is on his way to North Korea in preparation for my upcoming meeting with Kim Jong-un. Plans are being made. Relationships are building. Hopefully, a deal will happen and, with the help of China, South Korea, and Japan, a future of great prosperity and security can be achieved for everyone.
この “empty threats” とは、辞書で調べれば「空虚な脅し」、つまり「前任のオバマ政権を含めた歴代政権の、実力を伴わない口先だけの脅し」という意味でしょう。それを踏まえたうえで、この下りを意訳すると、次のとおりです。
「本日の決定には重要な意味がある。米国は今後、二度と空虚な脅しを使わない。私が約束すれば、それらをしっかり守る、ということだ。実際、現在はとても重要な局面にある。ポンペオ国務長官は現在、金正恩と私との会談に備え、北朝鮮に向かっている途中にある。そこで予定が練られるだろう。関係が構築されつつある。(北朝鮮との)合意が形成され、中国、南朝鮮、そして日本の協力のもとに、将来の偉大な繁栄と安全保障がすべての人にもたらされることを期待したい。」
今回のイラン核合意からの離脱は、第一義的にはイランの潜在的な核開発能力を除去するという意味合いがありますが、これに加えて、「米国はいかなる国の核開発も絶対に許さない」という強い意思を北朝鮮に見せつけるという副次的効果も期待していると考えられます。
金正恩の焦り
CVIDからPVIDに格上げ
ところで、4月27日の南北首脳会談により、韓国国内(と一部の日本のメディア)は「金正恩は意外と良い人だ」、「もうこれで朝鮮半島に平和が訪れる」、「朝鮮戦争が終了だ」といった能天気な論調を流しまくっていました。
しかし、日本が連休中だった先週、米国ではひそかに、非常に重要なメッセージが出て来ています。
As Trump visits State Department, Pompeo says North Korea must denuclearize(2018/05/03 12:45付 ロイターより)
ロイターによると、先週水曜日、新たに国務長官に就任したマイク・ポンペオ氏が就任式典で、次のように明らかにしたのです。
“We are committed to the permanent, verifiable, irreversible dismantling of North Korea’s weapons of mass destruction program and to do so without delay.”(※下線部は引用者による加工)
ここで、核兵器の「完全、検証可能、不可逆的な方法による廃棄」を、英語では “Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement” と表現し、「CVID」と略しているのですが、ポンペオ氏は「CVID」ではなく「PVID」と述べたのです。
complete(完全な)がpermanent(恒久的な)に置き換わった趣旨について、米国務省のナウアート報道官は、明確な説明を避けつつも、「これまでの(米国政府の)説明どおり、北朝鮮に対する最大限の圧力を掛け続けるという意味だ」と述べています。
Department Press Briefing – May 3, 2018(米国時間2018/05/03 15:00付=日本時間2018/05/04 04:00付 米国務省HPより)
わが国では、北朝鮮が南北首脳会談で「苦境を打開した」とするトンチンカンな社説もあったようですが、こうした見方は完全な間違いであるということが裏付けられたと考えて良いでしょう。
異例な金正恩の2回目の訪中
米国のなかで、「CVID」が「PVID」に置き換わったということは、北朝鮮は、より一層、非核化に向けたハードルが上がったという意味だと解釈した可能性があります。実際、金正恩は7~8日に中国遼寧省の大連を訪れ、習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席と面会したそうです。
金正恩氏が再び訪中、習近平主席と会談(2018/5/8 20:07付 日本経済新聞電子版より)
3月末に北京を訪問したばかりなのに、再び中国を訪問して国家主席と会談するとは、どう考えても異例です。というのも、中朝両国首脳は、頻繁に電話会談をする日米両国首脳のような関係ではないからです。
それに、外交プロトコル上は、自国の国家元首級が相手国を訪問した場合、答礼として相手国の国家元首級が自国を訪問することが通例です。
金正恩就任以来、ただの1度も中朝首脳会談が行われなかったにも関わらず、今年3月に入り、唐突に金正恩が訪中し、首脳会談が行われたこと。それから2ヵ月も間をおかずに、再び金正恩が訪中したこと。これだけで、いかに異例であるかがわかります。
見方を変えれば、それだけ金正恩が追い込まれているという証拠ともいえるでしょう。
北朝鮮はCVID/PVIDに応じない?
さて、ここから先はあくまでも私見です。
北朝鮮が核開発を続ける理由は、いったい何でしょうか?
それは、「実戦使用するため」、ではありません。「脅すため」と「売るため」です。要するに、「わが国は核武装国だ」と主張して日本や米国を牽制し、あわよくば韓国を赤化統一し、中国やロシアとも対等に渡り合っていくためであり、また、イランを含めた中東諸国やテロ組織などに転売して儲けるためです。
一方、CVIDにはリビアという先例があります。しかし、リビアはCVIDに応じて7年後に政権が転覆してしまいました。金正恩はこのことをじっくり見ているはずです。CVID/PVIDに応じてしまえば、丸裸にされ、やがて体制転覆が待っている――。これを北朝鮮は極端に恐れているのです。
ただ、だからといって、北朝鮮を攻撃すれば、それによって問題が解決するというほど単純なものではありません。なぜなら、北朝鮮はロシア、中国と国境を接していて、両国から陰に陽に支援を受けることができるからです。
このように考えていけば、結局、最善のアプローチとは、国際社会を巻き込んだ大々的な経済制裁以外にありません。北朝鮮のCVID/PIVDを実現するためには、金正恩体制を経済的に締め上げ、時間を稼ぎながら、少なくとも中国かロシアのいずれかを巻き込み、金正恩体制を崩壊させることで、核問題と日本人拉致問題を同時に解決するしかないと私は考えているのです。
その意味で、安倍晋三総理大臣が現在主導しているアプローチは、北朝鮮問題に関しては、パーフェクトな対応だと言えます。「日本が蚊帳の外」とか主張している人たちこそ、こうした現実が見えていないのでしょう。
いずれにせよ、現実に北朝鮮がどう動くのか、そして米国がどう動くのか――。まずは米朝首脳会談が本当に開かれるのか、そして開かられるならどこで開かれるのかに注目したいと思います。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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< ポンペオ氏は『パーマネント』、PVID!更に米国の強い決意が滲み出た言葉ですね。
イランは無論ですが、金正恩は不眠症におそわれたのではないか(笑)。またまた中国に馳せ参じ、庇護を受けようとしているのか、PVIDは絶対認めない、中国もその方向で頼む、と言ったのか。
< 金正日の跡を継いだ頃の、中国にもロシアにも頭を下げず、無頼のイメージを作ってましたが、人間落ち目になると、憐れですな(笑)。なんか、これで金の行く末が見れた感じです。中国の隷下になれば除去もあり。ここで決定的な弱みを握られると、北(統一朝鮮でも)は生き延びても属国だな。
< それに米国発表では半島問題に絡む国として、南北当事国と米国、中国、そして日本が入ってます。これも『日本外し』『日本は蚊帳の外』を垂れ流してた南北当局、日本のマスゴミ、野党らは聞きたくない事実です(笑)。キッチリハッキリクッキリ日本が入っている。当然だ。今までの献身的な援助、理解、支援を最もして来たのは日本だ。
< 口を挟むというのではなく、日本の安全保障に関わる事だから、真剣に取り組んでいる。正に安倍首相の行動、発言に間違いなし。ブレもない。失礼します。
アメリカがまさに今朝ピンポイントでイラン核合意を破棄しました
別に昨日でも明日でも良いのに
つまり、今日起きるイベントにむけた布石であり、日本としてはかなり強気な外交ができそうです
日本がここまで影響力をもっていたとは驚きです