「悪い円安」が今年の流行語のトップテンに入っていた
当ウェブサイトではスルーしてしまっていましたが、先週は「流行語大賞」で「悪い円安」なるものがトップ10入りしていたようです。製造業の国内回帰の動きが相次ぐ一方、法人企業統計で製造業が過去最高益をたたき出した直後だけに、これはなかなかに衝撃的です。それに、そもそも「Jカーブ効果」といった項目も華麗にスルーされているように思えてなりません。
目次
円安の効果:過去最高益と製造業国内回帰
先日の『「円安ショック」?製造業の経常利益水準が過去最大に』でも取り上げたとおり、直近の「法人企業統計」によれば、日本の製造業では2022年9月期の経常利益水準(季節調整後)が過去最大を記録したことが判明しました。
もちろん、業種によっても事情はさまざまであり、非製造業に関しては必ずしも過去最高益とは限りませんが(とくに海外から安い製品を購入して消費者向けに販売するようなビジネスが苦しいようです)、それでも総じて日本企業の業績は堅調です。
こうしたなかで、昨日の『悪い円安論はどこへ?「製造業の国内回帰」の流れ続く』などでも取り上げたとおり、製造業の国内回帰という動きも目立ってきました。
もちろん、製造拠点の再編は、安倍政権の時代から続く、サプライチェーンの再構築や経済安全保障などの観点からの製造拠点集約、といった側面もありますが、やはり経営意思決定上、足元の為替動向も、背中を押す材料のひとつであることは間違いありません。
こんな当たり前なことをわざわざ図表化するとは…
ただ、「円安にはさまざまなメリットとデメリットがあるが、現在の日本にとっては円安はデメリットよりもメリットをもたらす」という点については、以前から当ウェブサイトでも解き明かしてきたとおりです。これについて手掛かりとなるのが、次の図表です。
図表 円高・円安の日本経済に対する影響
区分 | 円高 | 円安 |
---|---|---|
輸出競争力 | ×輸出競争力は下がる | 〇輸出競争力は上がる |
輸入購買力 | 〇輸入購買力は上がる | ×輸入購買力は下がる |
国産品需要 | ×輸入品に押され需要減 | 〇輸入代替効果で需要増 |
製造拠点 | ×海外で作った方が有利になる | 〇国内で作った方が有利になる |
海外旅行 | 〇海外旅行に行きやすくなる | ×海外旅行に行き辛くなる |
国内旅行 | ×海外旅行に押され需要減 | 〇海外旅行の代替で需要増 |
訪日観光客 | ×外国人は来づらくなる | 〇外国人が来やすくなる |
外貨建資産 | ×為替評価損が生じる | 〇為替評価益が生じる |
外貨建負債 | 〇為替評価益が生じる | ×為替評価損が生じる |
(【出所】著者作成)
こんなこと、本来ならばわざわざ図表にまとめる必要もない話ですが、それでもごくまれに、「今の円安は悪い円安」、「円安で日本経済は滅びる」などと真顔でコメントを書き込む方もいらっしゃるので、念のために何度でも掲載するようにしているのです。
日本の外貨建債務はせいぜい5000億ドル程度か
上記図表でいう「円安のデメリット」といえば、「輸入購買力が下がる」、「海外旅行に行き辛くなる」、「外貨建負債の評価損が生じる」、といったものくらいですが、ここで「悪い円安論者」の皆さまがなかば意図的に無視しているのが、この「外貨建資産負債」という論点です。
もしも日本企業が大々的に外貨で負債を調達していたとしたら、円安が進めば、借入金の返済負担が重くなってしまい、大変なことになりかねません。
ただ、先月の『世界最大の債権国・日本はどこにいくら貸しているのか』でも取り上げたとおり、2022年6月末時点において、日本の金融機関は対外与信が4.6兆ドルに達しているのに対し、対外債務は1.2兆ドル少々に過ぎません。
これは、国際決済銀行(BIS)が四半期に一度作成し、公表している『国際与信統計』(Consolidated Banking Statistics, CBS)のデータを用いた分析ですが、これについてもう少し正確な数値を述べておくと、こんな具合です。
最終リスクべース・対外債務(邦貨建+外貨建の合計、金額単位:百万ドル)
- 全セクター…1,219,787
- うち、銀行…273,882
- うち、非金融…110,380
- うち、ノンバンク…269,874
- うち、家計等…9,730
- うち、公的セクター…540,869
所在地ベース・対外債務
- 全セクター…1,196,939
- うち現地通貨建て…708,986
このデータから推察されることは、日本が国を挙げ、外国金融機関から1.2兆ドル前後のカネを借りていることは事実であるにせよ、このうち外貨建ての債務はせいぜい5000億ドル程度に過ぎず、しかもそれらを借り入れているのはおそらくは銀行、ノンバンクなどの金融セクターが中心である、という点でしょう。
正直、円安がもたらす最大の「脅威」である、「円安で外貨建債務の返済負担が膨れ上がり、日本企業のバランスシートが毀損する」という現象が、ほとんど発生しないと考えられるのです。
いずれにせよ、これで「悪い円安」というのも、無理があるのではないでしょうか。
流行語大賞が発表されていました(1週間前に)
こうしたなか、個人的にここ数年、まったく関心がなく、ほぼ取り上げていないテーマがあるとしたら、「流行語大賞」でしょう。近年、この「流行語大賞」を巡っては、主にネット空間では、「流行も していないのに 流行語」、といった書き込みが散見されるなど、どうも流行語の選定が公正ではないのではないか、との指摘もあります。
ただ、身も蓋もない話ですが、正直、流行語大賞の選定が恣意的であっても、あまり問題視すべきではありません。なぜなら、しょせんは民間企業が選定しているものであり、(おそらくは)何らかの公的資金で運営されているものではない(と思われる)からです。
これが税金で運営されている大会であれば、「流行も していないのに 流行語」などという状態は大いに問題ですが、民間企業がスポンサーとなり、民間人だけでやっている分には、好きになされば良いと思います。もしも人々がそれに疑念を抱くようになれば、自然と権威は剥落していくからです。
トップ10入りしていた「悪い円安」
こうしたなか、先週はこんな記事が出ていたのを見過ごしていました。
【流行語大賞】「悪い円安」トップ10入り 食料品、日用品、電気など空前の値上げラッシュ
―――2022年12月01日14時01分付 日刊スポーツより
日刊スポーツによると、この「流行語大賞」に「悪い円安」とやらがトップ10入りしていたのです。
「22年は物価の上昇が経済をおそった。賃金が上がらない中での物価高により生活が厳しく圧迫。円相場は1ドル145円台まで下がり、98年以来24年ぶりの円安。新型コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻など、急激な円安を背景に、食料品、日用品、電気、ガスなどあらゆる分野で値上げが相次いだ」。
「円相場が1ドル=145円台まで下がった」とありますが、BISの為替データによれば、円安はもっと進んでいます。10月21日に1ドル=151.69と、1990年6月29日の152.20円以来32年ぶりの円安となっているからです。
また、「急激な円安を背景に」、「あらゆる分野で値上げが相次いだ」などとありますが、ここでCPIなどのデータが出てこないのはご愛敬でしょうか?
ちなみに電気、ガスなどの値上げは、円安だけの問題ではなく、世界的なエネルギー価格高騰という要因も大きく、当ウェブサイトで何度も指摘している通り、原発再稼働や原発新増設を進めていくことで、ある程度は解消できる問題でもあります。
したがって、これを「円安だけの問題」に集約してしまうのは、かなりミスリーディングであり、また、事実誤認の疑いが濃厚です。
そもそもJカーブ効果というものがありまして…
ところで、この「悪い円安」で受賞したのは、昨年9月29日に日経新聞の朝刊『漂う悪い円安、経済に逆風』の記事を書いた、日本経済新聞社編集委員の方だそうです(大変失礼ながら、日経新聞という時点で妙に納得してしまうという人も多いのではないでしょうか)。
日刊スポーツによると、この方は次のように述べたのだそうです。
「この言葉は日本経済の大きな転換点となった2022年を象徴すると思います。今年は過去最大の貿易赤字になりそうです。また、物価が上がらない国と言われていましたが、空前の値上げラッシュが起こりました。この2つの大きな転換点を言い表す言葉として『悪い円安』がふさわしいんじゃないかなと思っています」。
お言葉ですが、この世には「Jカーブ効果」というものが存在しています。
これは、外為市場で円高や円安が急激に進んだ際、当初は貿易収支が好転または悪化するものの、その後は徐々に悪化または好転する、という効果のことで、現在生じている貿易赤字も(エネルギー価格上昇による要因を除けば)このJカーブ効果でだいたいの説明がつきます。
また、現在の物価上昇がいわゆるコストプッシュ型だとされることも多いのですが、現実に有効求人倍率1.35倍(11月末時点)であり、しかも前月比で小幅上昇しています。つまり、げんざいの局面は雇用の創出を伴っているため、いわゆる「スタグフレーション」型ではありません。
(※もっとも、雇用は遅行指数でもあるため、今後、雇用が悪化しないという保証はありませんが…。)
いずれにせよ、「経済新聞」を名乗るメディアが「Jカーブ効果」や「先行指数・一致指数・遅行指数」、「CPI」といった基礎的な概念ではなく、貿易収支と「値上げラッシュ」だけで「悪い円安」という表現を導き出したという意味においては、ある意味で衝撃的でもあります。
どうでも良いのですが、法人統計で日本の製造業の経常利益が過去最大を更新したことも「悪い円安」なのでしょうか?
謎は深まるばかりです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
日経=狼少年集団
クオリティー報道記事を連発してほっかむり。劣後ジャーナリズムの二大巨頭です。
どっかの流行語っぽい造語大賞はともかく、小学生にアンケートとって得た小学生流行語大賞は
「それってあなたの感想ですよね」
で草
まあ、日経新聞とらなくても、証券会社の株式購入アプリのニュースで事足りますし
>「Jカーブ効果」や「先行指数・一致指数・遅行指数」、「CPI」といった基礎的な概念
ここでは実践的な経済用語の使い方、勉強になります。
この世に生きている以上、森羅万象、世の中を動かしている法則、知っておきたいです。
理系関係は無理ですが・・・・
>「経済新聞」を名乗るメディア
産経だけ?ですよね・・。
ユーキャンはいわゆる「反日企業」でしょ。
だから「神ってる」が大賞になった際レンホー氏が国会で使っていた。
そうなんですよね
中国死ね → ヘイト
韓国死ね → ヘイト
日本死ね → 流行語
日本を落とせれば何でもokとしか見えないんですよね
>新聞やテレビなどを通じて、この言葉を訴えてきた、日本経済新聞社編集委員小栗太さん
犯人が名乗り出たんですか。勇気ありますね。
「訴えた」って言っても為替操作できるわけでもなく、円安環境に適応するだけの話でしょうにね。誰に何をすべきと訴えたのやら。
ネット上の全く関係ない話題の掲示板などでも、突然「円安で日本は滅亡」のようなことを書き込むやつ現れるんですよ。「悪い円安」がネガティブ感の蔓延の役にしか立ってないなら、日経の主張は経済にマイナスでしかなかったんじゃないのと感じる今日このごろです。
元ジェネラリスト様
ご無沙汰してます。
日本経済新聞社編集委員で日本の経済行く末を独自の屁理屈理論で強力に推して、日本のみならず世界に日本経済新聞の看板背負って発信するのって文学部卒の夢想文筆家なんですね…
この2年くらいだけでも日本経済新聞社や東洋経済新報社など、宗男氏や橋下氏の如く正体現した面々が多かったこと…
ずっとスリーパーやってた方々が北と同様に露中に連動して蠢いた1年でした。
プーチンの10日間電撃戦が幻になって、さぞ慌てた1年だったのではないでしょうか?
>>犯人が名乗り出たんですか。勇気ありますね。
同感です(^^);
ただ、単独犯ではないので
日本のマスコミを占拠した
言論テロリストの下っ端の
鉄砲玉さんのような方だと感じます(笑)
まあ、どぶさよ方面ゴリ押しの
「流行語大賞?」なるものは、
昨年も、妬む隣国とともに
日本での五輪開催貶めたいために
IOC会長に「ぼったくり男爵(?)」なる
レッテル貼りを選んでましたが
それを授賞式でホルホル受け取ったのが
三文週刊誌ならまだしも
通信社を名乗る 共同通信社さんでした(笑)
これじゃあ社名を、
「挙動不審社」と社名変更したほうが・・
とコケにサれてもしかたがないありように
劣化して追い込まれた左翼さんが
お気づきになれないのは哀れで滑稽と
感じます。
https://www.jiyu.co.jp/singo/ より抜粋
———
悪い円安
小栗 太 さん(日本経済新聞社 編集委員)
:
円安を追い風として上場企業の最終利益は過去最高の見通しとなる。一方、消費者にとっては「悪い円安」。10月の消費者物価指数は前年比3.6%と40年ぶりの上昇率だ。
———
あれ? サイト主さまの記事にもあるように、円安の追い風を受けたのは上場企業に限った話では無いのでは。
この文章だと「円安で潤うのは大企業ばかり」と誤解する人がいても不思議ではありません。
文章を扱うプロならば、言葉は正確に使って欲しいものです。読者がミスリードしても良いなら別ですが…
>円安の追い風を受けたのは上場企業に限った話では無いのでは。
円安の追い風を受けたのは、ドル建ての売り上げや資産を計上している会社です。
上場企業でも、輸入が主体の会社は苦戦しています。
日本全体としては、損より益のほうが大きいという事でしょう。
また、損得を考える場合は、目先の損得ばかりでなく、「Jカーブ効果」や「先行指数・一致指数・遅行指数」なども総合的に考慮する必要があるという事をサイト主は仰っているのです。
私は、今回の円安を、日本の生命線である製造業の国内回帰を促したという面で歓迎したいと思います。
日本経済新聞 ×
日本系罪新聞 ○
今日ちょっと気になる話しを聞いて、製造業では在庫が増えている傾向にあるとの事です。
海外で好景気の市場があって、其処で日本製品がバカ売れしてれば在庫はどんどんお金に変わるのでしょうが、今のところ世界的に不景気とか景気の減速状態に見受けられ、在庫が在庫のまま溜まる割合が増える事を考えると、製造業の経常利益が過去最高であろうとも見通しは明るくないと考えます。
ちなみに、NHKとかでの当初の「悪い」円安って「急激な」円安を差して言われていたと思うのですが、最初から円安は全て悪いってニュアンスでしたっけ?
私の推測ですが、在庫管理で安全在庫という考え方がありまして、どれくらいの在庫を持てば生産ラインを止めることなく工場を動かせるかという基準を各企業毎に決めていると思います。
多分、今回のコロナ騒動で部品の供給不安が各社にとって大きなリスクになりましたので、各企業ともに供給不安が想定される部品の安全在庫の基準を引き上げているのではないかと思います。
元祖ジャストインタイムのトヨタも半導体の確保には苦労しています。
今は、半導体なら在庫を気にせず買えるだけ買っとけという感じではないでしょうか?
半導体のような重要部品でなくとも、製造業は部品一つ不足するだけで製造ラインは止まってしまいます。
ユニクロに媚びてるんでしょう