20年ぶりの円安という好機:原発再稼働が必要な理由
本来、円安は日本経済にとって多大な恩恵をもたらします。対外純債権国である日本にとって、外貨建ての対外債権の円換算額が上昇しますし、輸出競争力も増え、輸入代替効果が生じて国内産業も息を吹き返すはずだからです。もっとも、貿易統計で見れば一目瞭然ですが、日本の貿易赤字の原因は、多くの原発が稼働停止に追い込まれていることにあります。こうした状況で円安が進行すれば、電力供給が不安定なままでエネルギー価格が上昇するという状況が避けられません。
日本の貿易収支
日本の貿易収支の構造を追いかけてみるとわかるのが、2010年代以降、日本が貿易赤字状態に突入したという事実です(図表1)。
図表1 日本の貿易高と貿易収支(1996年以降)
(【出所】財務省税関『普通貿易統計』を参考に著者作成。貿易収支と輸出額・輸入額については軸が異なっている点に注意)
財務省税関が公表する『普通貿易統計』のデータを1996年から辿ってみると、日本の貿易黒字幅は2007年ごろまでは年間10兆円前後の水準で推移していましたが、2011年に2.56兆円の貿易赤字を計上(輸出65.55兆円、輸入68.11兆円)。
その後は赤字幅が毎年のように拡大し、「最悪期」の2014年には貿易赤字額は12.8兆円にも達しました(輸出73.09兆円、輸入85.91兆円)が、2015年には赤字幅が2.79兆円に圧縮され、2016年には3.99兆円の貿易黒字を記録しています。
もっとも、その後も日本の貿易収支は黒字、赤字のラインスレスレで行き来している状況が続いています。かつての「儲け過ぎの輸出大国・日本」のイメージを持っている人にとっては、まさに隔世の感があるのではないでしょうか。
その原因は鉱物性燃料の輸入量増大
もっとも、日本の貿易赤字の原因が何にあるのかといわれれば、「原発停止を原因に挙げざるを得ません。
図表2は、日本の輸入高を「鉱物性燃料」と「それ以外」に分けて図表1を書き換えたものです。
図表2 日本の貿易高と貿易収支(1996年以降)
(【出所】財務省税関『普通貿易統計』を参考に著者作成。貿易収支と輸出額・輸入額については軸が異なっている点に注意)
これで見ると、「鉱物性燃料」(石油、石炭、天然ガスなど)の輸入高が大きく伸びていることが判明します。また、これに伴って、貿易赤字が拡大していることも確認できるでしょう。
ただし、図表1、図表2は貿易額と貿易収支の軸が左右で異なっており、ちょっとわかり辛いのが難点です。そこで、軸の基準をあわせたうえで、鉱物性燃料の輸入額と貿易収支の1枚のグラフに示したものが、次の図表3です。
図表3 日本の貿易収支と鉱物性燃料の輸入額(1996年以降)
(【出所】財務省税関『普通貿易統計』を参考に著者作成)
こちらの図表3で見ると、よりいっそう、鉱物性燃料の輸入の増加が日本経済の足を大きく引っ張っていることがわかります。もしも鉱物性燃料の輸入額が半分だったと仮定すれば、少なくとも2011年以降の貿易赤字は生じていなかったからです(図表4中の「A+C」)。
図表4 鉱物性燃料の輸入額が実際の半額だった場合の貿易収支(1996年以降)
(【出所】財務省税関『普通貿易統計』を参考に著者作成)
電力不足と日本経済
そういえば、今年3月には首都圏で深刻な電力危機が生じました。3月にしては異例の寒波に襲われたことに加え、悪天候で太陽光の発電量が激減し、さらには地震で火力発電所が停止したためです(※どうでも良い話ですが、著者自身も寒さのなか、厚着をして暖房を切るなど、ささやかな協力をしました)。
地震で火力発電所12基が一時停止、電力融通も実施
―――2022年3月17日 18:11付 日本経済新聞電子版より
ちょっと火力発電所が停止するだけで電力危機が訪れるというのは、とくに東日本大震災以降、電力を筆頭に、日本経済がカツカツの状況で回っているという証拠にほかなりません。こうした不安定な電力環境で、日本の製造業の「国内回帰」が順調に進むとも思えないのです。
こうしたなか、外為市場では日本時間の本日早朝ごろから1ドル=129円台に突入しました。2002年4月24日以来、およそ20年ぶりの円安水準です(図表5)。
図表5 USDJPYの推移(1969年12月以降)
(【出所】the Bank for International Settlements, US dollar exchange rates)
本来、日本のような製造業に強みがある技術立国・純債権国であれば、自国通貨安は良い影響を多くもたらします。輸出競争力が増えること、輸入品物価上昇を通じて国内で輸入代替効果が生じること、さらには外貨建ての債権の円換算額が増えること、などです。
西側諸国のためにも原発再稼働を!
その意味では、本来ならばこの円安水準は「歓迎すべき事態」としか言いようがないのですが、現在の日本経済にとっては「鉱物性燃料」の輸入額が多すぎるという問題に加え、電力の安定供給という深刻な問題を抱えています。
さらには、国際的なエネルギー価格の高止まりは、天然ガスなどの供給国であるロシアの経済を潤し、同国に対する西側諸国の経済・金融制裁を部分的に無効化し、ウクライナ戦争を遂行する能力を維持する要因のひとつとなってしまっていることも間違いありません。
このように考えていくならば、やはり日本が原発を再稼働し、電力の安定供給を実現することこそが、日本経済にとって、いや、自由と民主主義を愛するすべての西側諸国にとって、避けて通れない道なのです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
現状のエネルギー事情を打開するためには原発再稼働が不可欠なことは自明の理。
原発再稼働反対派は決して地球環境を考慮している訳ではなく、現状の悲観的な電力事情が継続することで日本が国力を弱めていくのが真の狙い。
そういった面倒くさい連中に関わりたくない岸田は総理在任中に何もしないで逃げ回る。
岸田が総理大臣でいる限り八方塞がり。
岸田首相、お公家様頭目らしく袈裟の下には鎧無し、でしょうか??
日本が原発を再稼働すると、天然ガスや石油の輸入が減少します。
つまり、世界的に高騰しているエネルギー価格を引き下げる要因となります。
また、日本の分を欧州に回すことによって、エネルギーをロシアに依存している欧州を助ける事にもなります。
日本の原発の再稼働は、日本の貿易収支の改善だけでなく、世界経済への貢献に加えてロシアへの対抗策という観点からもその効果は大きいのでは無いでしょうか?
岸田首相には、日本の国内の事情だけでなく、世界的な危機への対応という観点で判断して頂くようお願いします。
参議院議員選挙が終わるまでは、ダメでしょうね。
電気料金の値上げは生活困窮者のみならず普通の家庭にとっても辛いものです。
今回のコロナ禍で気付いたことは、何も困らない人たちが生活困窮者を顧みないことです。
岸田首相を始め今の国会議員には浮世離れした人が多いように感じます。
普通の家庭の暮らし向きをもっと知ってほしいものです。
昨年の衆議院選挙後に月の1日だけが登院日にあたっていたので、100万円を文書通信交通滞在費として貰えるような人達が普通の家庭を想像できるとは思えません。普通の家庭が分かるのは選挙に落ちてただの人になった時です。
>参議院議員選挙が終わるまでは、ダメでしょうね。
自国の事情優先では「世界の平和と繁栄を主導する日本」なんていうのは夢のまた夢ですね。
口先のきれいごとでは無く正しいことを躊躇なく行うという覚悟を岸田首相にはお願いしたいと思います。
日本が世界から敬意を払われる国になるために。
原発は停止していれば安全と思っている人が多いが、燃料棒を抜き取って処分しない限り、運転していようが停止していようがリスクは変わらない。こちらも「ケンポーキュウジョー教」信者と同じく道理が通らない人達が多いです。
宇露戦争に関連する問題は原発だけではないと思います。
半導体などの電子機器をはじめとした輸入品が遅延している事は誰もが知っていることですが、木材も大半を輸入品に頼っている為、住宅業界からも悲鳴が上がっているとのことです。
ウッドショックにすしネタ高騰 ウクライナ侵攻で企業の半数「業績に悪影響」 産経ニュース
https://www.sankei.com/article/20220418-6ZHMQAYSEBPWNNZKAQENL4SABE/
※有料会員記事の為、途中までしか見れないことは悪しからずに。
原発再稼働は必須ですが、輸入に頼り切っていたものを国内で賄える体制を整えるべきだと思います。
その為には政府が強いリーダシップを発揮しなければならないのですが、現政権は見ているだけなので、頼りになりません。
いつも拝見しています。輸出がまた振るうことで国内に資産が積みあがることを期待したいところですが、来年の10月に、消費税の値上げに引けを取らない景気の腰を折る法律の発行が待機しているようです。
電子保存法とインボイスの導入が日本の中小零細企業を直撃してデフレスパイラルを加速しそうです。
新宿会計士さんには、ぜひ取り上げていただきたいと思いますが、どうでしょうか?源泉徴収制度が国家公務員も含めて税金の徴収に不感症になっていると感じられるので国民すべての確定申告を推奨しますが、どのように考えますか?
思うところがあるようでしたらまとめていただけると幸いです。