「日中韓3ヵ国連携」の考え方はすでに機能を喪失した
「日中韓3ヵ国連携」自体、機能を喪失しつつある――。米中対立が深まる局面で、明確に米国と協力してFOIPの実現を目指す日本、その日本を含めた近隣国を挑発する中国、そして米中双方でどっちつかずの態度を取り続けている韓国、という実態を踏まえるならば、「日中韓3ヵ国連携」は、すでにその役割を終えたと見るべきではないでしょうか。
目次
価値外交と日本
「日本外交は近隣国重視型からFOIP重視型に舵を切った」――。
『外交青書:基本的価値の共有相手は韓国ではなく台湾だ』などでも報告したとおり、日本の外交は昨年、「自由で開かれたインド太平洋」に大きく舵を切りました。
この「自由で開かれたインド太平洋」、英語の “a Free and Open Indo-Pacific” を略して、「FOIP」と呼ぶこともあります。そして、このFIOPにとくに強くコミットしている4ヵ国が、日本、米国、豪州、インドの4ヵ国(クアッド)です。
なぜこの「FOIP」や「クアッド」がそこまで重要なのかといえば、これが一種の「価値同盟」としての性格を持っているからです。具体的には、クアッドはいずれも「自由、民主主義、法の支配、基本的人権尊重」といった基本的価値を共有している、とされています。
(※個人的に、インドが欧米的な自由・民主主義社会なのかと問われると、若干疑問ではありますが…。)
中国、そして日中韓3ヵ国連携
日本は中国と基本的価値を共有していない
もっといえば、この基本的価値を共有する国と、そうでない国については、扱いが異なってくる可能性がある、ということでもあります。
日本とこれらの基本的価値を共有していない国の代表格といえば、中国でしょう。
中国は中国共産党一党独裁体制が続いており、基本的に言論の自由はなく、民主主義もなければ法の支配もありませんし、新疆ウイグル自治区やチベット、香港の事例でもわかるとおり、中国では人権が非常に軽視されています。
日中両国は、本当にさまざまな点でまったく異なる国、というわけですが、あろうことか、日本はそんな国が「最大の貿易相手国」でもあります。考えてみれば、本当に困った話です。
中国といえば、日本に対し、レアアースなどの禁輸措置(2010年)や反日デモ(2005年、2012年)といった不法行為を仕掛けてきていますし、また、最近だと日本領である尖閣諸島近海に、公船を頻繁に派遣してきています。
国際法で決まっている領土を挑発行為などにより変更しようとする試み自体、国際法秩序に対する挑戦でもあります。
基本的価値を共有していない国と付き合う必要もあるのだが…
ただ、中国がこうした不法行為、挑発行為を仕掛ける相手は、べつに日本だけではありません。
南シナ海ではフィリピン、インドネシア、ベトナムなどとの間でもさまざまな摩擦を起こしていますし、最近だと、インドが実効支配している地域で、2019年8月から2020年11月頃までの間に、約100戸からなる集落を建設した、といった話題もありました。
中国がインド北東部の州内に集落建設、付近には軍駐屯地も…支配の既成事実化図る
―――2021/01/20 06:58付 読売新聞オンラインより
いわば、中国は同時多発的に、さまざまな国に対して挑発行為を行っている、ということであり、まさに「法の支配」とはかけ離れた行為だと思わざるを得ません。
この点、普段から当ウェブサイトで申し上げているとおり、外交の世界では、基本的価値を共有しない相手であっても、利害関係の観点からは、それなりにうまく付き合っていかねばならない、という事例はあります。
もちろん、日本が中国との間で経済・産業面での相互依存を強めることは、本来であれば避けるべきでした。また、今からでも良いので、日本は国として、中国への依存から脱却する努力をしなければならないことは、言うまでもありません。
しかし、それと同時に、地理的に近いという要因だけでなく、現時点においては、日本はとくに産業面での中国とのかかわりが非常に強い、という事情もあります。少なくとも軍事的衝突については避ける努力をしなければなりませんし、日中間での意思疎通を欠かすことはできません。
日中韓3ヵ国連携という考え方
このように考えていくならば、日本が中国との間で、二国間だけではなく、多国間でもうまく対話をしていく仕組みを作り上げることが望ましいといえます。もっといえば、日本と中国に加え、日本と基本的価値を共有している国をもう1ヵ国引き込み、3ヵ国の協議体にする、という発想です。
こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日、こんな記事が掲載されていました。
韓日中協力事務局長「米中の競争、3カ国協力の障害にならない」
―――2022.01.26 16:06付 中央日報日本語版より
これは、日中韓協力事務局(TCS)の欧渤芊(おう・ぼつせん)事務局長が20日、韓国・ソウルにあるTCSの事務所で中央日報のインタビューに応じ、「中日韓3ヵ国はすでに相互依存度が高い互恵的関係として定着してきた」などと述べた、とするものです。
TCSのウェブサイトで確認すると、欧渤芊氏は中国の外交部の出身で、2021年8月に、道上尚史氏の後任として事務局長に就任したようです。
「2対1」という発想
中央日報によると欧渤芊氏は日中韓3ヵ国連携を巡り、「中米(競争)関係は中日韓の協力を発展させるうえで障害にならない」、「日中韓3ヵ国は互いに重要な隣国だ」、などと述べたのだそうですが、これについても少しじっくり考える必要があります。
先ほども指摘したとおり、日本と中国は基本的価値を共有していませんが、日本が基本的価値を共有しない中国との間で、もう1ヵ国、日本と基本的価値を共有する国を引き込めば、「2対1」でうまく中国を誘導することができる、という発想は成り立つでしょう。
想像するに、日中韓3ヵ国連携は、日本にとっては「基本的価値と戦略的利益を共有する、最も重要な隣国」である韓国を引き込むことで、中国に対し、国際的なルールを守らせ、秩序ある協力関係を築き上げることができる、といった期待感があったのではないでしょうか。
ちなみに外務省が公表している資料(※PDF版)によると、このTCSは、2009年10月10日、第2回日中韓サミットで李明博(り・めいはく)韓国大統領(当時)の提案に基づき、2011年9月からソウルにて活動を開始した事務局です。
当時の日本は民主党政権であり、とくに2011年10月には、欧州債務危機の折、日本が韓国との間での通貨スワップ協定を総額700億ドルにまで拡大してあげたことで、世界的な金融フローが不安定化していたなか、韓国は通貨危機に陥ることを回避することができたのは、有名な話でしょう。
行き詰まる韓国との関係
日本は韓国とは基本的価値を共有していない
ただ、非常に残念なことに、もしも当時の日本政府(≒民主党政権)が、「韓国は日本と基本的価値を共有する国だから、日中韓3ヵ国連携が有効だ」、などと判断したのだとしたら、その判断は大いに誤っていたといわざるを得ません。その前提条件が間違っていたからです。
近年だと、2018年10月の、いわゆる「自称元徴用工判決問題」に象徴されるとおり、あるいは2015年12月に日韓が取り交わした「日韓慰安婦合意」を、2017年5月に発足した文在寅(ぶん・ざいいん)政権が破ったことでも象徴されるとおり、残念ながら、韓国は日本と基本的な価値を共有していません。
また、韓国が日本と基本的価値を共有していないことについては、安倍晋三総理大臣やその後継者である菅義偉総理大臣、あるいは岸田文雄・現首相あたりが、国会の所信表明演説、施政方針演説などの場で、しばしば間接的に表明しています。
いや、むしろ「日中韓3ヵ国連携」は、いまや、日本にとっては負担でしかないのではないでしょうか。
なぜなら、現在の韓国は、心情的には、日本というよりもむしろ中国に近いように思えてならないからです。
事実、韓国はFOIPに頑なにコミットしようとしていませんし、これに対し、日本政府の側も、たとえば防衛省が公表する『防衛白書』などの記述を読んでも、FOIPの範囲から韓国を明示的に除外していることがわかります(図表)。
図表 FOIPからは韓国が除外されている
(【出所】防衛白書)
この点、韓国政府の立場を確認するならば、現時点において、韓国政府はべつに「中国につく」と決めたわけではありません。というよりも、韓国は「戦略的あいまい性」と称し、米中双方の間でどっちつかずの対応を続けているフシがあります。
だからこそ、むしろタチが悪い、という言い方もできるのかもしれません。
日本が一方的譲歩することを前提とするな
こうしたなか、先ほどの欧渤芊氏のインタビュー記事に戻ると、こんなやり取りがありました。
(インタビュワー)韓日および日中の2国間関係が悪化しているという点は韓日中3カ国の協力にも悪材料になりそうだ
(欧渤芊氏)異見と葛藤がない2国間関係はない。重要なのはいくつかの困難を克服して協力関係を築こうという意志だ。現実的に中韓日の協力も一部で困難はあるが、各国の国益に基づいて3カ国の協力は発展して強まると確信する
このあたり、日中、日韓のそれぞれの2国関係においては、おもに中国の日本に対する不法行為、あるいは韓国の日本に対する不法行為により、行き詰まりが生じ始めている、という点を無視してはなりません。そして、おそらく欧渤芊氏の言う「いくつかの困難の克服」とは、「日本の一方的譲歩」を意味します。
中国の日本に対する尖閣諸島での挑発、東シナ海におけるガス田開発、韓国の日本に対する自称元徴用工・慰安婦問題、竹島不法占拠問題などが、その典型例です。
もちろん、日中、日韓が「隣り合う国同士」として、お互いに尊敬し合い、ともに手を取り合って未来に向けて発展していけるような関係を構築することができれば、それが理想的ですが、残念ながら、私たち日本が理想とする関係を、中国、韓国の両国と構築することは、難しいのが現状でしょう。
「日中韓」はすでに機能を喪失
それに、日中韓3ヵ国サミット自体、2019年12月に中国で行われたのを最後に、開催されていません。次の主催国は韓国だとされていますが、このサミットは2年連続で見送られています。
日本もどちらかといえば「日中韓サミット」の優先順位は落ちています。岸田首相も先日の日米首脳テレビ会談で、ジョー・バイデン米大統領との間で、「日米豪印サミット」の年内開催で合意してはいますが、これなどまさに、安倍、菅両総理の遺産そのものでしょう。
敢えて中国を協議体に引き込むならば、「日本と基本的価値を共有する国」、たとえばインドを加えた「日中印3ヵ国連携」、米国を加えた「日米中3ヵ国連携」の方が自然でしょう。
(※もっとも、非常に残念なことに、昨今の米中対立局面を踏まえるならば、少なくとも「日米中3ヵ国連携」なる協議体が発足する可能性は低いと考えられますが…。)
いずれにせよ、日中韓3ヵ国連携という枠組みは、事実上、機能を喪失しつつあると結論付けて良いのではないかと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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>そして、おそらく欧渤芊氏の言う「いくつかの困難の克服」とは、「日本の一方的譲歩」を意味します。
その意味合いかも知れませんし、国際司法裁判所などに持ち込んでの平和的解決かも知れませんし。
欧氏が中国政府の代弁者でしか無ければ、平和的解決など毛頭考えておらず、「新しい国際秩序」の勢力圏を広げる事を狙っているのでしょうね。
本当に意味を喪失している日中韓連携。
中国とて日本を対等な交渉相手と考えているか怪しいものだし、韓国は中国の側についていれば二対一で日本を歴史認識やらでとっちめるのに大国中国が味方してくれるだろう程度の鉄砲玉や三下的な傘の下にいる安心感なだけ。
どのみち中韓となにを話し合っても約束は守られる事は決して無い。
全く意味が無いイベントに成り下がってしまいました。
日中韓連携は、日本が損する話。
日米中連携は、世界征服しちゃいそうだから、世界中から嫌われるでしょうね。
米中が連携するならば日本なんて全く不要です.だから連携には加えてくれませんよ.
2等分のほうが3等分よりも分け前がずっと多いのですから.
分け前が減るのを承知で米中が連携に加えるとしたら露以外にはありません.
米中露が連携すればそれ以外の国々は束になっても全く敵わないので
3国連合の命じるままに従う以外にない.
日中韓3ケ国連携を何故始めるというかやる必要があったのでしょうか?
基本全て日本が中・韓に支援(金・資産・技術等)をする為の共同体を
作りたかったのではないでしょうか?
何故かこういう国と連携を試みる人達は日本が支援しなければならないと
考えている人達が多いように感じます。
日本の支援以外他に話し合う必要が無いし、中共は大国だし・南国は先進国に
なったので、日本が支援する必要性が無くなったと思います。
他の話は外務大臣・大使がいるので問題ないと思います。
金の使い道は、よく検討しましょう! その投資は将来に利益を齎しますか?
やはり、中韓の用日が如何に日本の国益を害しているか、まるでATMの様に利用された当時の民主党政権の事件を今も鮮明に覚えている。韓国とは700億ドルもの通貨スワップ締結、中国とは不法侵入した漁船船長の即時釈放ときたわけで、民主党政権の本質をマザマザと見せ付けられた日本国民の一人として、これで日本は終わるかもと背筋が凍った記憶。
当時の民主党の面々が、党名を幾度も変えて現世も存続している姿に、民主主義の儚さ切なさを常々情けなく感じてしまう。
信用できない味方は、強大な敵よりも脅威である。
現在の日本にとって、中国、韓国がそれに当たる。
日本として、中韓との経済的相互依存を漸減するべきであるという点には全く異存はありませんが、安全保障を含む政治的側面については、少なくとも中国との対話チャンネルは可能な限り維持するべきであると考えます。歴史に鑑みても、中国は元気であれば周辺国を「侵略」しまくるものの、傾き始めると大量の中国人が外に向かって流れだすという、どのような状態であっても、周辺国から見れば傍迷惑でしかない国ではあるのですが、一定の偏向はあるものの、実利ベースでの損得勘定に基づく対話がある程度可能な国です。一方、韓国はといえば、観念的世界観に振り回されているために、そもそも対話自体が成立しません。
そう考えると、日中韓という枠組み自体、経済的な利害がたまたま一致する局面を除いては、そもそもほとんど意味をなさないと言えます。そして、その経済的な利害すら、韓国は時として踏みにじるため(経済的損得よりも妄想的価値観が優位)、ますますその意義を失わせています。従って、外交関係をマネージする意味で、儀礼的な会合を続けることに全く意味がないとまでは思いませんが、実質的には特に有意性があるわけではないと思います。
実際問題、日中韓という枠組みを喩えれば、アメリカとメキシコとプエルトリコとで枠組みを作るようなもんです。それ以上の意味はありません。