受信料「減収」でも417億円の黒字を確保したNHK
昨年の民間平均給与433万円だったそうですが、NHKの平均給与はその約2.4倍の1054万円に達しています。任天堂やトヨタ自動車よりもさらに上です。そのNHKが昨日発表した決算では、昨年10月の35円の値下げの影響で若干の減収だったそうですが、NHK側は「何とか黒字を確保したい」と述べているのだとか。あれ?NHKさん、自分で「公共放送は営利を目的としない」とおっしゃっていませんでしたっけ?
目次
任天堂とトヨタの平均給与
私たちが暮らす日本という国は、本来、「自由・民主主義国である」とされています。
簡単にいえば、ある会社が「儲かる」ためには、その会社が自由主義経済の原則に基づき、人々から受け入れられるような財・サービスを提供しなければなりません。
任天堂が儲かっている理由は同社が提供するゲーム機やサービスなどが日本や世界中の人々から高く評価されているからであり、トヨタ自動車が儲かっている理由も、同社が製造する自動車などが世界中で高く評価されているからです。
そして、儲かっている企業は従業員に対し、高い給与を支払うことができます。
任天堂株式会社の2021年3月期有価証券報告書(P9)によると、2021年3月末時点で任天堂本体の従業員は2498人、年間平均給与は971万円だそうです。
また、トヨタ自動車株式会社の2021年3月期有価証券報告書(P13)によると、2021年3月末時点でトヨタ自動車本体の従業員は71,373人、平均年間給与は858万円と記載されています。
これを高いと見るか、低いと見るかは微妙です。
ただ、国税庁ウェブサイト『民間給与実態統計調査』によると、2020年12月31日時点における給与所得者(※1年勤続者、5245万人)の平均給与は433万円なので、任天堂もトヨタ自動車も、「給与水準は平均と比べて高い」と結論付けても良いでしょう。
いずれにせよ、任天堂もトヨタ自動車も、傑出した製品を作り、それで世界から高く評価されている企業ですので、そのような企業が従業員に高い給与を支払うことに対し、私たち外部者が文句を言う筋合いはありません。
個人的に、両社を含めたエクセレント・カンパニーに対しては、引き続き世の中から高く評価される製品を作り続け、それにより従業員に給与を支払い、納税し、株主に配当金を支払うなどの活動を続けていただきたいと思う次第です。
NHKの異常な人件費
ところが、こうした「自由主義に基づく経済競争の結果、儲かれば高い給与を従業員に支払う」という原則から大きく逸脱した企業が、日本には少なくとも1社存在します。
それが、NHKです。
『NHK「1人あたり人件費1573万円」の衝撃的事実』でも取り上げましたが、NHKは給与、賞与、福利厚生費、退職給付といった、広い意味での人件費が、職員1人あたりで単純換算すると1600万円近くにも達しているのです。
NHKが公表している決算には、連結ベースの財務諸表、単体ベースの財務諸表などがあり、また、損益計算書だけでなくさまざまな付表、注記などがあって、それぞれの数値がちゃんとわかりやすく繋がっているとは言い難いのですが、それでもそのNHKの決算を読み解くと、やはり大変に問題があると言わざるを得ません。
問題のNHKの人件費(2021年3月期)が、これです(図表1)。
図表1 NHKの人件費(2021年3月期)
区分 | 金額 | 前期比増減 |
---|---|---|
職員給与(①) | 1090億4925万円 | ▲20億円(▲1.80%) |
役員報酬(②) | 3億8693万円 | ▲0億円(▲1.52%) |
退職手当(③) | 325億1377万円 | +38億円(+11.66%) |
厚生保健費(④) | 211億6687万円 | +3億円(+1.29%) |
①~④合計 | 1631億1681万円 | +21億円(+1.28%) |
①、③、④合計 | 1627億2989万円 | +21億円(+1.29%) |
(【出所】NHK『令和2年度 財務諸表』P65より著者作成)
平均給与で比べても異常なNHKの人件費
上記①~④のうち、②については役員報酬であるため、「職員」に対する人件費は②を除いた金額、すなわち①+③+④です(ただし、厳密には「退職手当」や「厚生保健費」に役員にかかるものが含まれているようですが、それについて分けることができないため、ここではその点を無視します)。
この点、NHK『よくある質問集』によると、2020年度のNHKの職員は10,343人(うち男8,285人、女2,058人)だとされています。
役員報酬部分を除いた「①+③+④」の合計額(1627億2989万円)を、この10,343人で単純に割ると、職員1人あたり1573万3335円と計算できます(ちなみに同じ方法で計算すると、2020年度は1554万5538円でした)。
さらには、『NHKの「隠れ人件費」600万円のケースもあるのか』などでも取り上げたとおり、NHKは職員専用のかなり豪奢な社宅を格安の賃料で提供している、といった情報もあります。これが事実ならば、NHKの実質的な平均人件費の水準は、さらに上昇するでしょう。
その一方で、先ほど取り上げた民間平均給与の場合、「給与」に含まれるのは所得税が課税される金額部分だけなので、単純比較するのは若干不適切だという指摘もあるでしょう。
ただ、そうだったとしても、①の金額に限定して1人あたりを計算すると、それでも1054万3290円と、1000万円を超えます。図表2のように並べてみると、NHKの給与水準の突出ぶりは明らかでしょう。
図表2 平均給与比較
区分 | 平均給与 | 出所 |
---|---|---|
任天堂株式会社 | 9,710,405円 | 有報ベース |
トヨタ自動車株式会社 | 8,583,267円 | 有報ベース |
NHK | 10,543,290円 | 図表1①を職員数で割る |
民間平均給与 | 4,331,278円 | 国税庁 |
(【出所】著者作成)
受信料は経済競争と無関係
しかも、NHKの高額な人件費の出所は、受信料です。
この受信料、「NHKが世の中から高く評価される番組・コンテンツを提供し、その結果として、私たち一般視聴者が喜んで支払ったもの」ではありません。「放送法」という法律で、事実上、テレビを設置したら半強制的にNHKに払わなければならないとされているものです。
放送法第64条第1項本文
協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。
極端な話、テレビを設置している以上は、NHKが作っているコンテンツが素晴らしいか下らないかとは無関係に、放送法第64条第1項本文の規定に従い、NHKと受信契約を結んで受信料を払わないといけない、という義務が生じるのです。
いわば、一種の役所のようなものですね。
ただ、NHK自身は役所ではありません。
彼らは「公共放送」と名乗っていて、その公共放送については次のように定義しているようです。
公共放送とは
「営利を目的とせず、国家の統制からも自立して、公共の福祉のために行う放送」
―――NHK『公共放送とは何か』より
ということは、NHKは「国家の統制から自立している」と自分で認めているわけであり、このこと自体、法律で半強制的に受信料を集めることができる仕組みを国家から保証してもらっているという現在のNHKの在り方と猛烈に矛盾しているのではないか、という疑問が浮かびそうです。
この点、当ウェブサイトとしても、本当の意味での「公共放送」が必要だ、という議論があったとしても、それはそれで構わない、と考えていることはたしかです。ただし、かりに「公共放送は日本社会にとって必要だ」という結論が出たとして、現在のNHKにそれを担う資格があるのかはまったく別問題でしょう。
さらに、「テレビを設置したら、NHKの番組をまったく見ない人からも一律で料金を徴収する」という受信料制度自体が妥当なのかどうか、そしてその受信料の使途自体の透明性についても、きちんと議論されている形跡はありません。
やはり、電波の許認可権を握る総務省という官庁と、そこから天下りを受け入れる放送業界、さらには受信料利権で潤うNHKなどが、渾然一体として癒着関係にあり、放っている腐臭のひとつが、NHKの受信料問題だと考えた方がわかりやすいのではないでしょうか。
月額35円の値下げで減収のNHK「何とか黒字を確保したい」
さて、産経ニュースに昨日、こんな記事がありました。
NHK、2年連続で減収 受信料値下げ響く 中間決算
―――2021/11/24 19:21付 産経ニュースより
この記事も、なにかと不可解です。
これは、NHKが昨日公表した2021年9月期の中間決算の概要に関連し、「昨年10月の受信料値下げにより事業収入は2年連続の減収」となったとしつつも、「事業収支差金」は417億円の黒字を確保した、というものです。
この「昨年10月の受信料値下げ」とは、当ウェブサイトの『「金融資産1兆円以上」のNHKが月額35円値下げ』でも取り上げた、「月額35円の値下げ」によるものでしょう。
実際、NHKの『財務諸表』【※PDF】のP24にある「比較中間損益計算書」などを読むと、受信料収入は3467億円で、前中間期比113億円と約3%の減少ですが、正直、微々たるものです。
そのうえで、産経はNHKによる、こんなコメントを紹介しています。
「下期には衆議院選挙や冬季五輪・パラリンピックの経費も計上されるが、何とか黒字を確保したい」。
このあたり、公共放送の目的は「営利を目的としない」と自分で述べていることを、NHKは完全に忘れているとしか思えません。
受信契約が急増・急減でもしない限り、受信料収入の水準は大きく変わりませんから、大規模なイベントが予想されるなかで黒字を確保しようと思えば、経費を抑えるしかありません。それこそまさに、「営利性の追求」の結果、番組のクオリティが落ちる、ということを意味します。
NHKは衰退するTV業界道連れに?
ただし、NHKの受信契約については、こんな記述もあります。
「新型コロナの影響で受信契約が28万件以上減少した昨年同期と異なり、受信契約の減少は約2千件にとどまった」。
NHKの受信契約が減少するということは、テレビを持っている家庭が減少している、という意味ではないでしょうか。
考えてみれば、『衆院選での敗者は「立憲共産党」とオールドメディアだ』などでも申し上げたとおり、昨今はインターネット環境が普及し、新聞、テレビなどのオールドメディアによらずとも、さまざまな情報を手に入れることができるようになりつつあります。
ひと昔前、新聞社説やテレビの報道番組にはある程度の「社会的な権威」のようなものがありましたが、インターネット上に存在しているさまざまな論説と同じ土俵で戦い始めた結果、どうもオールドメディアの論説のレベルがあまり高くないのではないか、といった疑念が、社会全体で蔓延し始めているのかもしれません。
そうなると、「新聞を読まなくなる」、「テレビを見なくなる」という人が増えるのも頷けますし、新聞の場合は購読契約を更新しないという人が増えて来るのも当然のことです。
一方で、テレビの場合は「テレビを見なくなった」からというだけの理由で、すぐにテレビを捨てる、という行動に出ることは難しいかもしれませんが、長年、テレビを見ていない人は、テレビが壊れたタイミングで買い替えない、という人が出てくるのかもしれません。
つまり、オールドメディア業界においては、テレビは新聞と比べて10年ほど遅れて衰退する、というのが著者自身の予想なのですが、理不尽な受信料利権にしがみつくNHKがテレビ業界を道連れにして衰退していくのも、ある意味では歴史の必然なのかもしれないと思う今日この頃です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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営利の追求を禁ずるのが公的組織の建前。
人件費割増により利益抑制している現実。
利権が綴る本末転倒の物語なんですよね。
農協なんかもそんな感じなのかな・・?
農協が完全な公的組織かというと否でありつつ、特別な法に基づいて設立されていて「利益追求に走らない」と謳ってはいるので私企業ともまた違うのですが。
A-COOP含め農業資材などの取り扱い商品はどれも他民間よりなぜか高く、金融部門が幅を利かせ、営農指導員までも金融商品の勧誘をさせられながらも薄給……という、NHKとはまた違った方向で問題を抱えています。NHKと同視するのはちとカワイソウかな。
>NHKと同視するのはちとカワイソウかな。
確かに職員の待遇との点では、そのように思いますね。NHKと違って彼らにはある意味、生存のための営業努力が求められているのですものね・・。
でも農家の生まれとして、農協にはグチりたいことが、結構あるんですよね。
いまとなっては、昔々のことですけど・・。
*返信ありがとうございました。
NHK経済圏で生きているタクシー会社や飲食店、下請けは千夜に八千代にNHKが繁栄して欲しいと願っていると思います。
本社前に行ったら受信料で稼いだ万札を振り回してタクシー止めてそうですね。我が世の春を謳歌していますね。
つまり、栗鼠虎したということか?
https://news.yahoo.co.jp/articles/3496ee644732ca71ac06d4fc93cd01ac9dfcb863
フジテレビが希望退職者を募集するようです。
これは一昔前には考えられなかったこと。
これからもTV局員のリストラを目にすることがありそう。
この流れが本丸のNHKに届くかどうか…