二次的制裁の影響で中国の大手銀行が対露取引手控えか

「西側諸国がロシアを金融制裁の対象にしたところで、まったく意味がない。ますます国際的な通用度を高めている中国の通貨・人民元決済があるから、(西側諸国による)ロシア制裁はまったく効かない」。こんなことを豪語していた、ごく一部のロシア・フレンズの皆さまには、謹んで悲報をお送りしたいと思います。米国などのセカンダリー・サンクション(二次的制裁)の影響で、中国の大手銀行がロシアとの取引を手控え始めたとする分析が出てきたのです。

西側諸国の対露制裁は、効いているのか、いないのか

ロシアによるウクライナ侵攻を受けた西側主要国による経済・金融制裁措置は、果たしてロシア経済に打撃を与えているのか、いないのか。

これについては、「打撃を与えていないわけがない」ことは間違いないにせよ、さまざまな情報を統合していくと、西側諸国の政府関係者らが考えているほどには、現実が甘いものではないこともまた間違いありません。

たとえば以前の『現在のロシアは意外と豊か…経済制裁は効いているのか』でも取り上げたとおり、今年に入ってからロシアを観光で訪れた、とあるYouTuberの方(※リンクは敢えて示しません)によれば、とりあえず首都・モスクワや第二の都市・サンクトペテルブルクでは、日常生活物資に不足は生じていないそうです。

物価水準は日本人の感覚からすれば全体的に安く、また、治安も良好で、スーパーにも商品がたくさん並んでいるなど、市民生活が立ち行かなくなっているという印象はないのだとか。

(※もちろん、外国人観光客にとっては主要ブランドでのクレジットカード決済ができなくなるなどの不便が生じているほか、マクド社やスタバ社、丸亀製麺など外資系のフードチェーンが軒並みロシアから撤退したため、モスクワ市民は西側諸国の食品から遠ざかってしまったようですが…。)

ロシアは資源国・食料生産国…「脱ドル化」進む?

考えてみれば、これもある意味で当然といえるかもしれません。

そもそもロシアは資源国であり、また、穀物、天然ガスなどの輸出国でもあるため、外国から経済制裁を喰らったとしても、食品、エネルギーなどの自給はできますし、また、旧ソ連時代から宇宙開発に力を入れてきたこともあり、産業基盤もある程度は揃っています(民生品分野に強いかどうかは別として)。

これに加え、ロシア制裁には中国、インドなどが加わっておらず、西側諸国が輸出統制を強化しようとしたところで、いくらでも規制の「穴」は空いているという状況にあります。

実際、西側諸国はロシアを金融システムから除外する措置を講じ、ロシアの主力企業・銀行などは西側諸国通貨(米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円、スイスフランなど)を使うことができなくなっているものの、中国の通貨・人民元を使った国際取引の決済などの「抜け道」が存在していることもまた事実でしょう。

そして、ロシア大統領にして国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪で逮捕状を発行されているウラジミル・プーチン容疑者あたりは、最近、「脱ドル化」をしきりに口にします。

上海機構参加国との取引の9割が自国通貨決済=ロシア』でも紹介したとおり、プーチン容疑者は今月4日、カザフスタンの首都・アスタナで開かれた上海協力機構(SCO)の首脳会談で、ロシアがSCO諸国との貿易において、決済の9割を自国通貨で行っていると述べています。

SCO諸国は相互決済における自国通貨の使用を増やしており、SCO加盟国とのロシアの商取引におけるSCO諸国のシェアは、2024年の最初の4ヵ月間ですでに92%を超えている」。

「国際的な商取引を決済することができるような自国通貨」、といわれても、困惑します。

プーチン容疑者がいう「SCO諸国」にどこまでが含まれているかは微妙ですが(正式な加盟国は10ヵ国、ほかにオブザーバー2ヵ国、対話パートナー14ヵ国を含めると26ヵ国)、これらの諸国の通貨で「国際的な商取引の決済」に適した通貨は、非常に限られています。

ロシアが金融制裁を受ける前であれば、いちおう、ロシアの通貨・ルーブルも国際的な決済に使えなくはなかったのですが、現在は少なくともSWIFTが事実上、ルーブルを扱っていないため、結局、「国際的な決済」で使える最もマシな通貨は人民元くらいしか考えられません。

あとはせいぜい、経済規模が大きな国の通貨・インドのルピーくらいですが、ルピーも資本の持出規制などが厳しいため、正直、ロシア企業がルピーを手にしても困惑するのが実情ではないかと思います。

肝心の人民元決済も伸び悩むのか?

ただし、西側諸国がロシアに対する経済・金融制裁の穴を、いつまでも放置している、というわけにはいきません。

先月のG7サミットでは、G7諸国はロシアに対する「セカンダリー・サンクション」、つまりロシアの軍産複合体などと取引している第三国の企業・金融機関等に対する経済制裁の強化を打ち出したからです(『ウクライナ支援…G7がロシアに対する二次的制裁強化』等参照)。

これを受けて先般より、ロシアの企業が人民元建ての取引すらできなくなってきた、とする話題がいくつか出て来ていますが(たとえば『一部露企業の人民元決済が停止?ICCは新たな逮捕状』等参照)、こんな「続報」も出て来ています。

ロシアの人民元利用が伸び悩み、二次制裁リスクで中国の銀行が尻込み

―――2024年7月9日 19:41 JST付 Bloombergより

ブルームバーグの記事によると、ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のロシア担当エコノミストのアレックス・イサコフ氏は「米国の二次制裁の脅威が(中国の)銀行を委縮させている」と指摘。市場の動きからは、ロシアでの人民元不足や中国の銀行のロシアに対する貸し渋りの傾向が示唆される、などとしています。

これについてブルームバーグは、ここ2年間、中国がロシアの石油等のコモディティを割安な値段で購入する一方、ロシアは中国から消費財やハイテク製品などを幅広く購入するなどの関係で、中露貿易額が60%あまり増えたと指摘。

結果的に、ウクライナ侵攻前の2022年初め時点でほぼゼロだったロシアの人民元利用が急増し、いまやロシアの外為市場における取引の半分が人民元で占められている、などとしています。

また、中国の貿易に占める人民元建て決済が急増するなか、2021年以降の増加分のうち29%をロシアが占めていて、ロシアの対中貿易はほぼすべてが人民元建てであるものの、今年1-5月の中露貿易の増大には急ブレーキがかかっている、ということだそうです。

これについてBEのイサコフ氏は、こう述べています。

ロシアの人民元利用は23年にピークを付けた可能性がある」。

中国の大手金融機関がロシア取引を手控える

その理由として、「第三国が依然として人民元での支払いの受入に消極的なこと」と並んであげられているのが、これです。

二次制裁の恐れから中国大手金融機関の一部がロシアとの取引を手控えている」。

これは、さまざまなメディアの報道とも一致していますが、まさに人民元建ての取引の限界そのものでもあります。

人民元は通貨として使い勝手が悪く、現実には外貨準備に組み入れられる金額も減っていることについては、『データを無視した「BRICS台頭・ドル覇権終了」論』などでも指摘したとおりですが、これに加えて米国などのセカンダリー・サンクションが、ジワジワと効き始めていることは間違いありません。

いずれにせよ、「人民元決済があるから(西側諸国による)ロシア制裁はまったく効かない」、などと豪語していた、ごく一部のロシア・フレンズの皆さまには、この悲報にどう反応なさるのか。

ちょっと見てみたい気もしないではない今日この頃です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 伊江太 より:

    チャイナがIMFに加盟した際にも、またWTOの一員に加えられた際にも、これらの国際組織が、平和で安定的な世界経済の発展を維持すべく打ち出していた種々のルールを、彼等もまた遵守することを約束していたわけですが、それは加盟を認めさせるための方便に過ぎず、一旦目標を遂げてしまえば、望む成果だけはがっちり抱え込むものの、本来それに伴って果たすべき義務を全く負う気がないことを、臆面もなく世界に示してきました。そして、それを咎められることを防ぐために、メンバー国の弱いところを狙い撃ちにカネで買収し、また重要ポストを占めるための努力だけは怠ってきませんでした。

    彼等にしたら、これまでの経緯はしてやったりの思いなんでしょう。しかし、国際社会の中で、そんな中二病的な得手勝手が許されるべくもない。国際的信用という、自国にとって何にも代えがたいはずの財産を、只管毀損し続けてきたということに、現体制の指導層が気付いてもいないことは、この国の未来を暗澹たるものにしていると思います。

    それに、国際的な経済機構が加盟各国に要求しているルールというのは、なにも抑制・犠牲を要求しているばかりのものと捉えるべきではないと思います。長年の経験の上に打ち出された、どの国の国内経済の運営にとっても、必要なルールでもあることを、チャイナは等閑視し続けてきた。今、そのツケが一気に噴出してきて、微修正程度ではなんともできないところにまで、自国経済の状況は悪化している。そんな風に思えます。

    対ロ支援によって、米国からセカンダリーサンクションを喰らう。そしてEU,日本も、おそらく今後それに歩調を合わせそう。これが10年も前のことなら、チャイナはそんなもの歯牙にもかけぬくらいの強気に出たんじゃないでしょうか。だけど、そんな空威張り、やりたくともとてもやれないほどに、国内の経済は痛んでいる。過剰生産、ダンピング輸出で窮地を脱出しようにも、そんな手の内は疾に見透かされてるから、余計に状況を悪化させるだけ。

    「もうロシアとの金融取引止めます」。国内経済の状況を把握している大手金融機関の上層部なら、そうした弱気の対応をとらざる得ないところにまでに追い詰められてるってことを理解しているんでしょう。習近平がどう考えようが、そうする以外に手はない。それがこの取引手控えの背景にある事情なんだろうなと推測します。

    1. カズ より:

      >対ロ支援によって、米国からセカンダリーサンクションを喰らう。

      安全保障を事由に、「債務者側の優位」を行使したのかもですね。
      「お前たちの保有米国債の換金と利払いを凍結するぞ!」ってね。

    2. 匿名 より:

      チャイナが消極的にならざるを得ない時に、印は、精一杯に仲良くしようってとこかな?

      ・ロシア産石油への制裁、プーチン氏とモディ氏の距離縮める 今度は原子力で連携
      2024.07.10 Wed posted at 15:20 JST
      https://www.cnn.co.jp/world/35221276.html

      これは、インドのチャイナへの牽制の意味合いもあるのか?
      印露間の決済は、ルピアとルーブルでやるのか?
      相手が弱ってる時に、いい所を最大限取ってやろう、なんて印の思惑も感じてしまうのだが、先行きどうなることやら?
      どちらにせよ、印には、良い所しか無い話のよう。

      ・プーチン大統領 インド首相歓待の陰で“深い悩み”
      https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000359131.html

      やはり、上手く二股掛けられる心配ですよね。

    3. ドラちゃん より:

      中二病は、そんな中国みたいな行動を示す言葉だっけ?

    1. 通りすがり より:

      中国が情報隠蔽しているので正確なデータは取れないですが,中国の金融システムが,最近おかしい気がします。ロシアとの取引制限が中国銀行に与える影響は限定的でしょうが,国債や債券や金利や為替に関する政策が,沢山の銀行を潰しかねないように感じています。
      ロシア情報も,正確には分かりませんが,武器を作るのに必用だけどロシア国内では必要量を作れない部品が沢山あるのでしょう。欧米や日本も中国部品・原料に依存している箇所もあって,ロシアを笑えないところもあると思います。

  2. クロワッサン より:

    そういえば、ロシアフレンズ?のAさんが戻って来ないですね。

    何をしてるんだろう…。

    1. 黒ごま より:

      R4氏の「2位もダメでしたショック」から立ち直れていないのではないのでしょうか?

  3. 雪だんご より:

    貨幣制度って言うのは結局は「信用の証」なんですから、信用を損ねていけば、ね……
    それでも「軍事力」やら「生産力」やらで信用の代わりにする事は出来ますが、
    いつかは限界が来る。

    「お前の国には未来がない」と見なされたら、機を見るに敏な商人たちは
    さっさと離れていく物です。

  4. 福岡在住者 より:

    中国金融業界は 経済的に危ない軍事強国に投資するほどの余裕は無いと思います。 自国のボロボロ経済に、金平共産党から「あそこに5兆円(元でいくらなの?)投資しろ!」くらいの勅令が何時下っても不思議ではない現状です。怖くて他国への出資はできないでしょうね。

    本音では長期的視野でガスプロムとかと妻がりたいなぁ~。と思っている企業はそこそこいると思いますが、プーちゃん支配の企業への出資を金平が許すことはないと思います。

  5. ちょろんぼ より:

    でも、露は食料・エネルギー関連自給国であるから
    貨幣を使用せず、貨幣相当額のバーター取引が
    できるので、当分もちそうですよね?
    バーター取引にも、ドル規制できるのでしょうか?

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