邦銀国際与信が再び5兆ドル突破

日本の金融機関にとって韓国は「1%未満の国」

日銀が25日に公表した国際与信データによれば、昨年12月の日本の金融機関の海外に対する与信が「最終リスクベース」で過去最大となる5兆0435億ドルを記録しました。国際与信が5兆ドルの大台に乗せるのは、2022年3月以来のことです。ただ、日本の国際与信が5兆ドルを超えたという点もさることながら、もうひとつ目に付くのは、近隣諸国(中国、韓国、台湾、香港など)に対する与信の少なさです。

最新版・国際与信統計(2023年12月末時点)

『国際与信統計』とは、「報告国」31ヵ国からの国境を越えたおカネのやり取りを集計したもので、世界のデータは国際決済銀行(BIS)が取りまとめ、四半期に1度公表しています( “Consolidated Banking Statistics” を略してCBSとも称します)。

その最新版データ、すなわち2023年9月末時点の状況については『邦銀世界一は8年連続も…非常に少ない近隣国向け与信』でも取り上げたとおりです。日本の金融機関の国際与信は「最終リスクベース」で見て、じつに8年連続で「世界一」になった、というものです。

こうしたなか、日銀が25日、『国際与信統計(日本集計分)』のデータを公開しました。

このCBSデータのうちの日本集計分については、BISが発表するよりも前の段階で日銀が公表するのが前例ですが(BISデータはその1~2ヵ月後に公表されることが多いです)、今回公開されたのは2023年12月末時点のデータです。

図表1 日本の対外与信相手国一覧(上位20件、2023年12月末時点、最終リスクベース)

(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成。以下同じ)

「5兆ドル台乗せ」は1年半ぶり

今回も、非常に印象的な図表が出てきました。

日本の対外与信の合計額(図中で「対非居住者合計」)は5兆0435億ドルで、5兆0115億ドルだった2022年3月末以来、約1年半ぶりに5兆ドルの大台に乗せた格好です。

ちなみにこの5兆ドルあまりの行き先は米国がトップで2兆2696億ドル、すなわち全体の45%が米国向けで、これに続きカリブ海に浮かぶ風光明媚な小島であるケイマン諸島に6537億ドルを貸していて、米国とケイマン諸島の2ヵ国・地域だけで全体の約58%を占めている計算です。

ただし、ケイマン向け融資については、基本的には邦銀の投資ビークルとして使用されているスキームがケイマン籍SPEなどを多用していることによるものと考えられ(著者私見)、本当の意味で、邦銀がケイマンにおカネを貸しているというものではないという可能性がある点には注意が必要です。

また、日本の国際与信の「欧米偏重」は変わっておらず、3位から8位までは欧州諸国、カナダ、豪州であり、米国・ケイマン向けとあわせると、国際与信のじつに約77%がこれら諸国・地域で占められている計算です。

アジア向け与信に関しては、9位にタイ(975億ドル・1.93%)、10位に中国(833億ドル・1.65%)、11位にシンガポール(789億ドル・1.56%)がそれぞれ入っていますが、香港は491億ドルで16位、韓国は481億ドルで18位であり、インドが486億ドルで韓国を抜いて17位に浮上しています。

このことから、「金融面のつながり」という観点からすれば、日本は欧米諸国(とくに米国)と密接に結びついている一方で、アジアでは中国よりもタイ、香港よりもシンガポール、韓国よりもインドを重視しているという傾向が見えてくることは間違いありません。

ちなみにロシア向けの与信は56億ドルでランクは42位、日本の対外与信全体に占める割合は0.11%、北朝鮮向けの与信はゼロです。

アジア・近隣諸国向け与信の状況

日本の対外与信について、アジア・近隣諸国向けの状況をまとめておくと、図表2のとおりです。

図表2 日本の対外与信(アジア・近隣国向け、2023年12月末時点、最終リスクベース)

これによると近隣6ヵ国・地域向けの与信は2144億ドルで、ASEAN各国向け与信は2694億ドルであり、地理的により離れたASEAN向けの与信の方が、近隣6ヵ国向けの与信の額を上回っていることがわかります。

また、近隣6ヵ国向けに関していえば、香港向け・ロシア向けを除いていずれも前四半期比で上昇していますが、その要因については、CBSのデータだけでは詳しいことはわかりません。CBSデータでは国際与信の金額の通貨別構成は判明しないからです。

あくまでも一般論としていえば、現地通貨建ての与信はドル安になれば膨らみ、ドル高になれば減少するため、今回の増減についても為替変動という要因が大きいのではないか、といった仮説は成り立ちます。

ただ、米国向けの与信が前四半期と比べて+1805億ドル(+7.95%)と強く伸びていることを踏まえるならば、邦銀の外国向けの与信が引き続き増えているという可能性も高く、邦銀が投融資の地域別配分において、近隣国よりASEAN、ASEANより欧米豪を重視していることは間違いありません。

周辺国向けの与信シェアはおしなべて低い

なにより、邦銀の周辺国に対する与信については、邦銀の対外与信総額に対するシェアが低下しているという事実を忘れてはなりません。

たとえば韓国向けの与信については、金額だけで見たら前四半期と比べて増加しているものの、邦銀の対外与信全体に占めるシェアは、わずか0.95%に過ぎません(図表3)。

図表3 韓国に対する与信(最終リスクベース)

いわば、金額的重要性の観点からは、本邦金融機関にとって韓国は「1%未満の国」、というわけです。

また、邦銀の与信シェアの低下が激しいのは香港で、2023年12月末時点における対外与信総額に占める香港向け与信のシェアもまた1%を割り込み、0.97%となってしまいました(図表4)。

図表4 香港に対する与信(最終リスクベース)

同じ傾向は台湾についてもいえますし(図表5)、また、程度の差こそあれ、中国向けについても同様かもしれません(図表6)。

図表5 台湾に対する与信(最終リスクベース)

図表6 中国に対する与信(最終リスクベース)

いずれにせよ、日本の対外与信が再び5兆ドルの大台に乗ったこと、巨額の債権国でありながら近隣国に対する与信が意外なほどに少ないことについては、日本の金融システムを論じるうえで、ひとつの基本的なポイントのひとつであることは間違いないといえるでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 団塊 より:

     与信って何かな?
    銀行がおかねを貸すことを「与信」

    のこと。
     国際与信は、外国への貸付・海外貸付ということでよろしいのでしょうか?

  2. 伊江太 より:

    若い方は聞いたことすらないという言葉でしょうが、かつて「バノコン」なる時事用語がありました。1970年頃のはなし。言葉の由来は、バナナ、海苔、コンニャクの頭文字から来ています。

    当時のバナナの輸入先は主に台湾、海苔は今も昔も韓国、こんにゃく芋・粉はひと頃中国産が圧倒的でしたが、この言葉が出た当時はインドネシア辺りが多かったようです。

    かつて国内農家を保護する目的で、これらの品目には高率の関税と輸入枠が設けられていたのですが、輸入原価と消費者に渡る際の価格差からすれば、関税なんて知れたもの。輸入枠をもっていれば、濡れ手に粟状態の大もうけ。当然政治家の口利きがモノを言ったわけです。

    「バノコン」が時事用語となったきっかけは、海苔の輸入業者の巨額脱税の摘発がきっかけだったようですが、捜査が拡がるにつれ、政治家と輸入業者の底なしの癒着が次々に明るみに出て、ということで、一大政治スキャンダルになったというわけです。

    今から見ればショボいはなしですが、本記事の「周辺国向けの与信シェアはおしなべて低い」からのちょっとした連想です。

    周辺国との商取引で、ちょっとカネの匂いがする案件があれば、相手国との人脈をもってると称する政治家が、すぐに絡んでくる。そんな話に乗れば、相手国の政治家、経済人の顔役にも、更に多額の賄賂、リベートを支払わされるハメになる、なんてことになれば、まともな企業にとってはそりゃ勘弁ってことになるでしょう。

    単にモノの売り買いだけの貿易額で見るなら、周辺国との経済関係は結構大きいはずなんですが、与信という更に密接な商取引に関わる金額をとれば、言われてみるとビックリするくらいに希少。こんな不自然な状況が生まれたそもそもの原因は、薄汚い、前近代的な政治家達が、正常な発展を阻害し続けてきたことじゃないか、そんな気がチラッとするのですが、さて。

    そう言えば、こんな話が出るとすぐ頭に浮かぶ、大物政治家さん、次の選挙には出ないなんてニュースが、報じられてますね(笑)。

  3. 団塊 より:

    仕方がないと思いますよ
    >日本の国際与信の「欧米偏重」…3位から8位までは欧州諸国、カナダ、豪州…米国・ケイマン

    合計が
    >国際与信のじつに約77%…

    いうのは世界中が同様なんじゃありませんか?
     超大金持ち(=銀行)は貧乏人には金を貸さない。
     まして外国への貸付は、貸せば踏み倒すのが当たり前という踏み倒し常習者(国)を除外して、必ず返してくれる裕福な欧米等の白人先進国へ貸すほかありませんよ、莫大なドル・貴重な基軸通貨ドルを貸すのだから。

     銀行は、超大金持ちには大いに貸したがる。
     一方、庶民には一銭たりとも貸してくれなかった、土地購入や家を建てるときも貸してくれなかった。そもそも銀行に住宅ローンの制度がなかった。
     昔(団塊が子供の頃)、住宅建築費用を貸してくれたのは
    『土地は自分で用意しろ、借地でもなんでもいいから用意しろ。用意できたら建築費用の一部を貸してやる』
    という住宅金融公庫だけだった。
     嘗て銀行は預金を預かることはしても(大金持ちでない)庶民個人にお金を貸すことはなかった。
     この姿勢は基本的今も変わらない、外国への貸付も同じ姿勢…だからこそ日本の銀行は安心安全と世界中から信頼されているんでしょうね。

  4. 元日本共産党員名無し より:

    もしかしたら台湾向け与信の減少は、代わりにTSMC工場誘致の際の特別待遇があるのではないかと言う気がします。同様に韓国向けの与信の代わりにSamsungの事業所の特別待遇があるかも知れません。
    まぁ与信は与信であり工場誘致は工場誘致。事業所誘致は事業所誘致。分けて考えるべきですが。
    与信と言う投資による日本国内への利益の戻りはやはりアジア各国は少ないのですね

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