「プーチン逮捕状発行」の赤根判事がICC所長に就任
プーチン逮捕状は現にロシアを弱体化させている!
ロシア連邦の大統領であるウラジミル・プーチンに対し、戦争犯罪容疑者としての逮捕状を発行し、ロシア側から逆に指名手配されている、国際刑事裁判所の赤根智子判事が裁判所長に、ザリオ・サルバトーレ・アイタラ判事が第一副所長に選ばれて就任したそうです。これは大変に良い話題です。ウクライナ戦争の戦況は芳しいとは言い難いにせよ、「無法国家・ロシアを許さない」という国際世論を醸成することは重要です。
目次
国際刑事裁判所(ICC)とは何者なのか
国際刑事裁判所(International Criminal Court, ICC)といえば、集団殺害犯罪、人道に対する罪、戦争犯罪に問われる個人を訴追する、独立の常設裁判所として知られています(詳しくは国連広報センター『国際刑事裁判所』や外務省のPDFファイル『国際刑事裁判所(ICC)の概要』等参照)。
ICCの概要
- 国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪(集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪)を犯した個人の訴追・処罰を任務とする歴史上初の常設の国際刑事法廷
- 所在地はオランダ・ハーグ、設立条約は『ICCローマ規程(1998年7月17日採択・2002年7月1日発効)』、2024年2月時点の加盟国は124ヵ国(日本は2007年10月1日加盟。なお、米露中は未加盟)
(【出所】国連広報センター『国際刑事裁判所』、外務省『国際刑事裁判所(ICC)の概要』を参考に作成)
このICCは、その性質上、外国国家元首らに対しても、逮捕状を発行することがあります。
たとえば、スーダンの元大統領であるオマル・アル=バシール(2019年4月のクーデターで失脚)に対しては、2009年2月、ダルフールにおける人道に対する罪、ジェノサイド罪で起訴すると発表し、翌・3月4日には逮捕状を発行しています(ICCウェブサイト “Al Bashir Case” 等参照)。
ウラジミル・プーチンに逮捕状を出した裁判所
ただ、このICCが有名になったのは、なんといってもウクライナ戦争で、ロシアの大統領であるウラジミル・プーチンに関するものではないでしょうか。
Situation in Ukraine: ICC judges issue arrest warrants against Vladimir Vladimirovich Putin and Maria Alekseyevna Lvova-Belova
―――2023/03/17付 ICCウェブサイトより
ICCは昨年3月17日、予備裁判部第2部門がプーチンに対し、「ウクライナにおける占領地からロシア連邦領内への児童の不法な移送」などの容疑で逮捕状を発行したのです。
この点、米中露などはICCに参加していませんが、ICC加盟国はわりと世界中に広がっており(図表1)、もしもプーチンがこれらの諸国に一歩でも足を踏み入れた場合は、これらの加盟国はプーチンを逮捕してICCに引き渡す義務を負っている、というわけです。
図表1 ICC加盟国
(【出所】ICCウェブサイト “Current under- and non-represented countries” )
プーチンは国際会議に出辛くなった
もちろん、世界中にはさまざまな国があり、これらのなかには国際法や国際条約を平気で破る国もありますので(日本の近隣のケースだとロシアに中国、北朝鮮などを加えた4ヵ国が有名です)、プーチンの身柄が必ず拘束されるというものではありません。
しかし、今回の逮捕状の発行で、プーチンの身動きがとり辛くなったことは事実です。
実際のところ、プーチン自身は南アフリカが輪番で昨年8月に開催した「BRICSサミット」の場に姿を見せませんでした。その理由はおそらく、『ICC逮捕状のプーチン、BRICSサミットから逃亡』でも指摘したとおり、南アフリカ自身がICCに加盟しているからでしょう。
このあたり、首脳会談ないし首脳会合というものは、首脳自身が直接、他国の首脳と会って話をするという意味では、大変に貴重な場です。この首脳会合への参加を阻まれてしまったわけですから、すでにロシアには実害が生じているわけです。
また、ICC加盟国という意味では、ブラジルも同様です。
今年のG20サミットの主催国はブラジルですが、プーチン自身の臆病さを踏まえるならば、やはりプーチンが今年のG20を欠席するという可能性があることについては、認識しておく価値があるかもしれません。
このあたり、私たち日本人の感覚からすれば、ロシアはウクライナ戦争で、それこそ全世界から批判を受けているかのような錯覚を覚えるかもしれませんが、現実には決してそうではありません。中国、インドを含めたおもに「新興市場諸国」とされる国々の中には、ロシア制裁に参加していない国も多いからです。
しかし、「ICC加盟国にプーチンの逮捕義務を課す」という手段でプーチンの動きを封じたことは、中・長期的にはロシアの立場の孤立につながる可能性があるものです。ロシアが「首脳外交」を通じた国際的なロビー活動を封じられているからです。
そういえば、インドはICC未加盟国であるはずなのに、プーチンは昨年のインドG20サミットにも参加を見送りました。プーチンがサミットに参加しなかった理由についてはインド、ロシア双方ともに明らかにしていませんが、これも「逮捕状」が微妙な影を落としているのではないか、というのが著者自身の私見です。
ロシアが「逆ギレ」:ICC判事らに逮捕状
そして、この「逮捕状」が「効いている」という証拠は、ほかにもあります。
『指名手配に「逆ギレ」ロシア、ICC関係者を指名手配』でも取り上げたとおり、ロシア政府はICC関係者を「ロシア内務省の指名手配者データベースに追加した」のだそうです。
具体的にロシア国内で逮捕状が発行され、「指名手配」されている関係者らは、ロシアのメディア『タス通信』の次の記事に列挙されています。
International Criminal Court judge who issued arrest warrant for Putin wanted by Russia
―――2023/11/08 07:39付 タス通信英語版より
タス通信によると、逮捕状はICCのセルジオ・ジェラルド・ウガルデ・ゴディネス判事、カリム・アハマド・カーン検事、赤根智子判事、ザリオ・サルバトーレ・アイタラ判事、ピュートル・ホフマンスキー裁判所長、ルス・デル・カルメン・イバニェス・カランザ裁判所第一次長、ベルトラム・シュミット判事らに出ているのだそうです。
当たり前の話ですが、ロシアの司法権は日本、EU、英国、米国、豪州などには及びませんので、指名手配された関係者は、ロシアやその協力国に入国しなければ良いだけの話です。ただ、こうした実効性のない「逮捕状」をロシアが発行したという事実は、現在のロシアの「余裕のなさ」の証拠でしょう。
赤根氏が裁判所長、アイタラ氏が副所長に就任!
そして、そんなロシアを挑発するかのように、こんな素晴らしい話題が出てきました。
New ICC Presidency elected for 2024-2027
―――2024/03/11付 ICCウェブサイトより
ICCによると、赤根判事がホフマンスキー氏の後任の裁判所長に選出されたほか、アイタラ判事が第一副所長、レイネ・アラピニ=ガンソ判事が第二副所長にそれぞれ選ばれ、就任したそうです(図表2。左からアイタラ氏、赤根氏、ガンソ氏、なお、任期は3年)。
図表2 ICC新幹部
(【出所】ICCウェブサイト)
とりわけロシアからの「逆ギレ逮捕状」が出ている赤根、アイタラ両氏がICC幹部に選ばれたことは、大変に象徴的です。また、現在のウクライナ戦争、戦況は芳しいとは言い難いものではありますが、「無法国家・ロシアを許さない」という国際社会の世論を醸成することは重要です。
いずれにせよ、ICCが今すぐプーチンを逮捕できるとも思えませんが、それと同時に赤根氏らの「逮捕状」という努力がボディブローのようにロシアの戦争遂行能力を奪っていく、という効果については、期待したいところです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
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イスラエルはICC非加盟国との事なので、ならず者国家の首脳会議はロシアかイスラエルでやるのが良さげですね。
>ICC(国際刑事裁判所) 赤根智子 判事
「そういうメンタリティーがちょっとないですね。裁判官は仮に1人が死んだとしても、いくらでも替えが利くものですから、別に狙う価値はないわけですよね。と、私は思います」
烈女だと感嘆しました
ロシアの生活レベルは中国との通商に掛かっている。でもロシアがしょぼい?代金をドルで払わない?ので、中国がへそを曲げてロシアに冷たく当たるようになり始めている兆候があります。払えないなら代わりにシベリアを割譲せよ中国が言い出しそう。警戒が必要と思います。ウラジオストークの監視レベルは上げるべきかと。