岸田首相は「勝負に負けた」?焦点は改造ではなく解散
現時点で報道されている内容だけで見れば、予想通り、サプライズはありません。すでに複数メディアが報じている通り、岸田文雄首相(自民党総裁)は来週13日前後に内閣改造と党役員人事を断行するそうですが、報道では主要閣僚・主要幹部らは留任し、国交相ポストも公明党に引き続き配分するなどとされており、そのとおりならばサプライズなしです。というよりも、党内外の力学に照らし、岸田首相に冒険はできません。今年6月に解散できなかった時点で、「勝負あり」、なのです。
2023/09/08 13:30追記
リード文の誤植を修正しています。「某県」ではなく「冒険」です。
目次
「6月解散」が岸田首相に取ってベストシナリオだった理由
今となっては「後講釈」ですが、岸田文雄首相にとって、政治的にもっとも都合が良い行動は、6月の時点で衆院を解散することだったのではないでしょうか。
2021年10月の衆院選の結果などを参考にした当ウェブサイトの試算に基づけば、もしも岸田首相が6月の時点で衆院解散を決断していたならば、自民党は過半数を維持するか、下手をしたら「維新タナボタ効果」もあり、現有勢力(約260議席)を上回る可能性すらありました。
その理由は簡単で、野党第2党である日本維新の会が全国的に支持を伸ばしているなかではあるにせよ、維新にとっては今年6月の時点ではまだ十分な数の候補者を擁立することができていなかったからです。
日本の衆議院議員選挙制度は「小選挙区比例代表並立制」を採用しており、とりわけ定数465議席のうち、289議席が小選挙区から選ばれます。小選挙区では1位の候補者のみが勝利し、2位以下の候補者は敗退します(その意味では「2位じゃダメ」なのです)。
解散のチャンス逸した岸田首相:維新は粛々と準備中
こうしたなかで、1位と2位の候補者の得票差が2万票未満だった議員は、自民党で58人、立憲民主党で41人いますが(『数字で予測する衆院選:大量移籍で維新躍進が可能に?』参照)、維新候補者が立民候補者から中途半端に票を奪えば、結果的に自民の当選者が増える可能性がありました。
しかし、結論的にいえば、岸田首相は6月の解散を見送りました。
これによりLGBT法が可決されてしまいましたし、(一部の政治評論家の指摘では)「岩盤保守層の自民党離れ」と呼ばれる現象も懸念されている状況なのだそうです(実際、各種世論調査でも自民党の政党支持率は微妙に下落しています)。
これに加え、時間が経過することで維新が徐々に候補者の擁立を進めています。
具体的には、「地盤」である大阪府以外でも、各地で衆議院議員の公認を進めていることに加え、4人の参議院議員が衆議院への鞍替えを表明しているほか、立憲民主党や自民党などから維新への移籍も少しずつ進んでいるのです。
自民党側では例の「エッフェル塔オバサン」事件や秋本真利氏(自民党離党済み)の逮捕などもあり、政権への打撃が続くなかで、岸田首相としても解散総選挙のタイミングはなかなかに難しそうです。だからこそ、外部から見るならば、「あのときに解散しておけばよかったのに」、という感想を抱かざるを得ないのかもしれません。
相次ぐ内閣改造報道:内容は「まったく予想通り」?
そして、危惧(?)したとおり、やはり岸田首相は身動きがとり辛くなっているように見受けられます。
7日から8日にかけて、「岸田首相が来週13日ににも内閣改造と党役員人事を行う」、と、複数のメディアが報じています。
茂木幹事長・麻生副総裁続投へ 内閣改造13日にも/松野氏・萩生田氏は要職
―――2023年9月7日 22:23付 日本経済新聞電子版より
萩生田氏を党幹部か重要閣僚の要職で起用へ、麻生副総裁は続投…来週にも内閣改造・党役員人事
―――2023/09/07 05:00付 読売新聞オンラインより
茂木幹事長、続投へ 斉藤国交相留任で調整―岸田首相、13日にも内閣改造
―――2023年09月08日07時13分付 時事通信より
これらの報道によれば、岸田首相は現在の政権・党の骨格を、おおむね維持するようです。
すなわち、元副総理兼財相でもある麻生太郎総理を現在の自民党副総裁職にとどめるほか、茂木敏充幹事長や林芳正外相らを留任させ、国交省ポストについては引き続き公明党に割り当てる方針である、などとされています。
正直、サプライズはほとんどありません。
敢えていえば、萩生田光一政調会長を留任させるのか、党幹部か重要閣僚の要職に起用するほか、松野博一官房長官についても留任ないし党幹部か重要閣僚などの要職に抜擢することを検討している、ということですが、これも「横滑り」、といったところでしょう。
サプライズ演じるにも無理がある
もしこれらの報道通りなら、党内第4派閥である宏池会出身の岸田政権を第2・第3派閥である麻生派、茂木派が支え、最大派閥である安倍派にも一定の配慮をするという、現在の「大宏池会連立政権」の骨格がほぼ維持されます。
また、報道等にはありませんが、想像するに、岸田首相は「エッフェル党ポーズ」で有名になった人物を閣僚などの要職で起用する方針だったところ、「例の事件」でそうした構想も潰えてしまった可能性は濃厚です。
正直、内閣改造と党役員人事で「サプライズ」を演じるには無理があります。
この点、昔から「首相は内閣改造をすればするほど求心力を失い、解散総選挙をすればするほど求心力を獲得する」、などと指摘されてきました。
岸田首相は菅義偉総理大臣から政権を引き継ぐ形で2021年10月4日に発足し、今日まで通算で705日間在任していますが(※これは通算ベースで歴代27位)、昨年8月に1回、内閣改造を行っていますので、今回が2回目の改造です。
もしもこれらの報道通り、目立ったサプライズを演じることができなければ、支持率もジリ貧となり、もしも解散のタイミングを逸したままで来年9月の自民党総裁選を迎えればそのまま敗退、といったシナリオは十分に考えられるでしょう(※誰に敗退するかは別として)。
ただ、逆に現在の岸田首相の立ち位置で「サプライズ人事」(たとえば茂木氏を幹事長から退任させる、国交省ポストを公明党から没収する、など)を演じようとしたら、それだけで党内外から「岸田おろし」の流れが発生しかねません。
だからこそ、岸田首相には「冒険」ができないのです。結局、6月に解散するという決断ができなかった時点で、岸田首相にとっては、勝負はついてしまったのかもしれません。
今後の焦点は「改造」ではなく「解散」か
もちろん、現在の日本は内外に課題が山積していて、重要閣僚については留任が望ましい、といった点については、「一般論としては」間違いないのですが、現在の岸田内閣の重要閣僚は外相を筆頭に、「適材適所」というよりも「政治力学」を重視した配置でもあります(※著者私見)。
岸田首相や岸田内閣を支える自民党重鎮たちが、こうした事情を聡明な日本の有権者から見透かされないと思っているのだとしたら、我々日本国民も舐められたものです。
敢えて大型の「サプライズ」を演じるとしたら、菅義偉総理を副総理兼財相などの要職に起用できるかどうか、といったところですが、麻生総理と菅総理の関係を考えると、それもかなり難しいのではないでしょうか(※これも著者自身の勝手な感想です)。
いずれにせよ、人事の概要自体は来週にも判明すると思われますが(そして政権や党の骨格は維持され、大したサプライズもないとは思いますが)、それよりもむしろ注目すべきは、ずばり、「岸田首相が来年9月までに解散できるのかどうか」、ではないかと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。
ツイート @新宿会計士をフォロー
読者コメント一覧
※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。
やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。
※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。
※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。
当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。
コメントを残す
【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
たしかに6月解散だったら、より多くの議席を得た可能性があったでしょう。一方でより多くの贅肉を身体にまとい、今以上の醜聞にまみれた可能性がありそうです。
結局のところ、頭領が駄目なら図体が大きいだけのでくのぼうになるだけ。より打たれ弱いサンドバックになった気がします。
やはりビジョンと実行力に優れた頭領、或いは、そのどちらかが足りない場合は足りない方を補佐する優れた右腕なくして大きい所帯はまとめられない。でかい図体は継続できないと思います。
だれが泥船濃厚の閣内にのこりたいんだ?ハッキリいって、リーダーシップなし
政治信念なし、得意技が海外バラマキと補償、支援金、増税のネガティブなものばかり。茂木留任は閣内にとりこんでの出馬封じだし斎藤留任は公明党への秋波だろう。なにが「適材適所」なんだ?使えないジジイとお馬鹿なエッフェル一派は論外で猟官運動するやつは大臣病にかかったクズばかり。ま、沈むな。にほんは。安倍晋三がいればなぁ。
得失を天秤にかけて何かを捨てる覚悟で決断する発想はなく、リスクばかりを重視して決断できないんでしょう。決断が遅れて失うものにも目がいかず。
100点取れなきゃダメってわけじゃないんですけどね。
岸田氏が解散するとしたら、周りから「解散しないの?」と散々問われて、解散することが相場観として当たり前になったときじゃないですかね。
決断の責任が薄まるので。
そうだとすると、宿命的にサプライズ解散できないですね。(笑)
任期満了総選挙の可能性もそれなりに高そうな気がします。
岸田首相は、来年9月の自民党総裁選での再選を最も優先していると思われ、解散は来年の年明け早々ではないでしょうか。
解散は、自民党の勝利(自公での過半数確保)がほぼほぼ予想されており(維新の躍進はあるでしょうが)、それを大義名分に有力候補の立候補見送りが起こるような気がします。ひょっとしたら、総選挙での勝利で、内閣支持率アップする可能性もそれなりにあると思われます。
加えて、今回の内閣改造・党役員人事で、岸田首相は、次期総裁選での踏み絵を迫っているものと推察され、もともと岸田支持の麻生氏の留任は確定、和戦両様とも言われた茂木幹事長も岸田支持に舵をきりました。あとは菅前首相との連携が言われる荻生田政調会長、存在感の薄い松野官房長官、早くも岸田再選支持を明言した世耕参院会長など、安倍派の処遇をどうするか、でしょう。河野デジタル大臣も、麻生氏の意向に反しての総裁選出馬はありえないと思います。そこを明確にさせた上で、留任にような気がします(このポジションは誰がやっても貧乏くじ)。
岸田首相はみかけとは異なり、なかなかの策士です(政局に強い)。
世耕さんが岸田首相を支持した時点で、派閥の会長を決められない安倍派の敗北ですね。岸田首相の勝ちかどうか分かりませんが。
世耕さんも、内閣改造くらいで岸田首相に譲歩するというのは頂けないですね。
岸田首相は、まだ解散しないのと言われるまで解散できないと思います。
維新に有利な状態に向かっているようですが、馬場幹事長の自民との連立
可能性発言は頂けないですね。隙を見せてしまったように思います。
また、公明党が選挙区調整で自民党に譲歩しましたので、維新は自民党に塩を送ったような形になってしまいました。
馬場さんにはブレないで頂きたいです。
常日頃から異次元とか言っているから、我々の住む世界とは異なる次元に住む異次元人なのでしょう。金星人だかの同類ですね。
内閣改造ではなく、内閣解散ならワンチャンあるかもなんですがね
>岸田首相に某県はできません。
某県??? どんな深い意味があるのかな?
>某県
oh…
後は高市封じが続くかくらいですかねえ。福田政権を思い出します岸田政権は
個人的には、6月の解散見送りは、「LGBTを廃案とできぬ理由(米国からの要求?)」によるものではないかと思ってたりします。
好意的にとらえれば「維新の台頭で改憲が早まる」って効果は期待できそうなんですけどね。
>首相は内閣改造をすればするほど求心力を失い、解散総選挙をすればするほど求心力を獲得する
改造は、”規律の乱れ”を正すべく執行される内輪でのその場凌ぎ。
解散は、選挙(禊ぎ)を経た分だけ強くなるとしたものでしょうか?
・・・・・
政権は、「起立! 礼!! 着席」で始まり。
そして、「規律! 零!! 退席」で終わる。
・・ものだと思ってます。(規律が大事)
フランケンシュタインの怪物は
殺人鬼の脳を使ったため問題が生じました
原作ではアイデンティティに悩まされ辺境を彷徨う事になります
まあブルガーコフの「犬の心臓」なんてのもありました
組織に問題が発生し改革する必要に駆られたとき
三流会社、官庁、学校等の腐った組織(すべてとは決めつけません)にありがちなのは
末端だけを入れ替えて解決を図ろうとすることです
某大のように有名人をお飾りにトップに据えてる場合もありますが
腐った脳を入れ替えなければ何も変わりません
まして末端をいじって延命を図ろうなんて言語道断です
手塚治虫の「人工太陽の巻」では
ロボット嫌いの名探偵シャーロックホームスパン氏は
最後に残っていた自分の脳を人工頭脳に入れ替えて
その機械の体に誇りを感じるよう生まれ変わることができました
さても我らが危地田氏も末端をこねこねこねこねいじくってないで
問題のクリティカル発生源となっている部分を改革すべきではないでしょうか
こんな己の利益しか考えていない政権党は、選挙で野党に引きずり下ろしたい所だけど、代わりになる党が無い。自民党に下剋上をやるような壮士もいない。特定野党なんかが大きな顔をしても国政が停滞するだけ。政策論争のできる野党の成長を期待するしかない。
それにしても岸田氏ほど人事の下手な総理はいない。側近含め岸田派に使える人材がいないという事かも。リーダーに志が無いと、優秀な人も集まらないのかな。どんなトンデモ改造をするのか、逆に楽しみです。
盆明けに岸田おろしが始まるかも〜などという話があった気がしますが、結局ほぼ面子に変わりのない内閣改造()ということになったのですかね。
維新ですが、そんなに能力あるかなぁ…と大阪府民としては疑問に思っております。まあこちらではかなりの議席を取っていますので、一般的な大阪府民とはズレているのかもしれません(苦笑)