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「日韓スワップは中長期的に日本にメリット」=ラジオ

「日韓通貨スワップは中・長期的、見て、日本にもメリットをもたらす」。こんな珍説が出てきました。外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦氏が出演したラジオ番組で、こんなことを述べたのだそうです。ただ、該当する記事をいくら読んでみても、「中・長期的に見た日本にとってのメリット」に関する具体的な説明はほとんどありません。

日韓通貨スワップは韓国にのみメリットをもたらす

これまでに当ウェブサイトでは何度となくお伝えしてきたとおり、日韓通貨スワップは、韓国に対してのみ、一方的な利益をもたらします。

日本の場合はそもそも自国通貨である円が国際的なハード・カレンシーであり、国内企業が外貨を必要としておらず、しかも1兆ドルを超す巨額の外貨準備を保有するなど、通貨危機とは縁遠い国です(というよりも、日本にそこまで巨額の外貨準備は不要ではないかと思いますが…)。

これに対し韓国は、十年単位で見てしばしば通貨危機を発生させる国です。その理由は、韓国の通貨・ウォンが国際的に見ると通用度が低いソフト・カレンシーであり、また、外貨準備は一見潤沢ですが、国内企業などが巨額の外貨資金を借りているため、しばしば外貨不足に陥るからです。

したがって、日韓通貨スワップ自体、「通貨ポジションが強い日本が、通貨ポジションの弱い韓国を一方的に支援する」という構図であると見ておけば間違いないでしょう。

なお、この地球上には、著者自身の試算で165~175の通貨が存在しますが(※「通貨」の数は「通貨」の定義によってもブレがあります)、それらのすべてが日本円のような「ハード・カレンシー」ではありません。

日本は現在、アジアの6つの国と通貨スワップ協定を締結していますが(財務省『アジア諸国との二国間通貨スワップ取極』参照)、これらの相手国にはいずれも、「通貨の国際的通用度は日本円よりも劣る」という共通点があります。

もちろん、シンガポールのように「準ハード・カレンシー」と呼べる通貨もあれば、インドネシアのように、しばしば通貨危機を発生させる国の通貨もあるのですが、いずれにせよ通貨の国際的通用度は国によってまったく異なるのです。

メリットを捏造する者たち

それはともかくとして、この日韓通貨スワップ協定、結論的にいえば、日本にとってのメリットはほぼありません。

財務省関係者や外務省関係者などを中心に、スワップの「日本にとってのメリット」を無理やりに「捏造」する向きもあるのですが、さすがにここまであからさまに、日本にとってメリットがまったくない協定を、「日本にもメリットがある」、などと騙るには、かなりの無理があります。

ちなみに先週の『【インチキ論説】日韓は通貨スワップ通じ信頼醸成図れ』は、この「日韓通貨スワップの締結は日本にとってもメリットがある」と主張する者たちをおちょくる目的で掲載したものです。

やっぱりというか、日韓通貨スワップの復活を受け、例の「旧宿会計士」なる者が、当ウェブサイトにインチキ論説を奇行してきたようです。「論考」と呼ぶにもおこがましい、明らかなインチキというレベルの駄文ですが、ただ、これを読んでいただくと、現実に日本の外務省関係者や財務省関係者がなにを主張してきたのか、ざっと振り返ることで、頭を整理することくらいはできるかもしれません。またしてもあの奇行当ウェブサイトにときどき、インチキ論説を奇行する「旧宿会計士」なる者が存在するようです。昨日は日本のポンコツ財相が...
【インチキ論説】日韓は通貨スワップ通じ信頼醸成図れ - 新宿会計士の政治経済評論

ところが、よのなかには面白いもので、この「インチキ論説」の斜め下を行く、なかなかに強烈な記事も出ているようです。

「日韓通貨スワップ再開」は日本にも大きなメリット 中長期的、政治的に考えた場合

―――2023/07/02 11:25付 Yahoo!ニュースより【※ニッポン放送配信】

記事タイトルにもありますが、これは、ニッポン放送『飯田浩司のOK! Cozy up!』に出演した「外交評論家」で内閣官房参与の宮家邦彦氏が、日韓通貨スワップの再開は「日本にも大きなメリット」があると述べた、などとする記事です。

なぜ日韓関係を「高度化」していく必要があるのだろうか?

宮家氏によると、「短期的・経済的に見ると」、日韓通貨スワップはたしかに「日本にはメリットが乏しい」としつつも、「中長期的に」、「政治的・戦略的に見ると」、「中国経済がどうなるかわからないなかで、日韓の金融レベルでの連携は大きなメリットがある」、などと述べるものです。

そもそも日韓関係を政治的に、戦略的により高度なものにしていかなくてはいけない。それは必要な動きだと思います」。

こんなことを述べる者が内閣官房参与を務めているという時点で、岸田文雄政権に対しては多大なる不安を覚えるという人も多いかもしれませんが、こうした感覚は正しいものです。どうして日本が、韓国などと「政治的、戦略的に高度な関係」とやらを築く必要があるのでしょうか?

このあたり、宮家氏を含め、多くの論者が勘違いしているのが、「安全保障上、日本は韓国との関係を強化しなければならない」、などとする思い込みです。正直、韓国との関係を強化、あるいは「改善」したところで、日本の安全保障上の地位を高めることにはつながりません。

当ウェブサイトではこれまで、この「韓国との関係強化が必要だ」とする考え方の例として、「朝鮮半島生命線説」というものを提示してきました。これは、「朝鮮半島が敵対勢力下に入らないよう、日本はあらゆるコストを払ってでも、韓国(ないし朝鮮半島)を日本の友好国にしていなければならない」、などとする言説です。

朝鮮半島生命線説

韓国は地理的に見て日本に非常に近く、この地域が日本の敵対勢力に入れば、日本の安全保障に深刻な脅威をもたらす。だからこそ、日本はあらゆるコストを払ってでも、朝鮮半島を日本の友好国に引きとどめておかなければならない。

具体論についてほとんど指摘できていない人たち

ただ、この「日韓友好論」は、ほかにもいくつかのパターンがあります。

たとえば「朝鮮半島生命線説」の延長線上にあるものとしては、「北朝鮮抑止のためには日韓連携が必要だ」、「中国と対峙するためには日韓連携が必要だ」、といった具合に、おもに安全保障面での主張がみられます(宮家氏の主張もこのパターンでしょう)。

また、財務省の山崎達雄・国際局長(当時)の国会答弁では、「日韓通貨スワップには日本の側にもメリットがある」とする珍説を、経済・金融面から主張していましたが(『【資料】2014年4月16日の日韓スワップの議事録』等参照)、これも朝鮮半島生命線説のパターンのひとつなのかもしれません。

そして、彼らの多くは、「日本にとってのメリット」を観念論でしか語ることができず、その具体例を、ひとつとして挙げることはできません。

今回のニッポン放送の記事に書かれた宮家氏の主張など、その典型例でしょう。記事をどれだけ読み込んでみても、「中長期的に見た日韓通貨スワップの日本にとってのメリット」に関する具体的な説明は、ほとんど見当たらないからです。

敢えて言えば、「日韓通貨スワップという『韓国側から見てメリットが大きい協定』を持ったことで、外交上のカードになる」、といった趣旨の記述がそれかもしれません。

大変失礼ながら、もしそれが「日本にとってのメリット」だと本気で思っているのだとしたら、この宮家氏という人物は、本当に「外交評論家」なのでしょうか?

いずれにせよ、こうした「外交評論家」の方々が「日韓通貨スワップの日本にとってのメリット」を強引にこじつけるのは自由ですが、彼らを含めた日本政府関係者、とりわけ岸田文雄首相らは、少々、国民のことをバカにし過ぎでしょう。

新宿会計士:

View Comments (25)

  • スワップに基づいて資金を引き出した場合の利息はいくらなのか。

    まさか無利子ってことないだろうな。

  • こんな認識の人が長年外交に携わっていた事実から、害務省は国益をおろそかにしたどうしようもない外交を行ってきた証左になりますね。あきませんわ。罪務省と害務省を解体して立て直さないと日本国は良くなりませんね。まずは宏池会の解体から始めよ。

  • 最近は、鈴置・真田さんもテレビで見かけなくなった。安倍さんまでは、まだ政治主導だったのに、最近は、あからさまな官僚主導がひどすぎる。ホワイト国復帰やスワップ締結でも明らか。自らの出世と天下り先を探すこと、国民への言い訳を考えること(しかもほとんどが理由にすらなっていない)だけしかしない過去問だけしか解けない官僚のレベルの低さには、呆れるしかない。

  • 宮家氏の発言は政権の考え方でもあるのでしょう。短期的視点で対米融和の政権ができればアメを与え、親北政権ができれば冷たくする(ムチとまで言えない)を実行しているつもりなのでしょうが、この考え方は元首相が述べた、

    「私たちの子や孫、その先の世代の子供たちに謝罪し続ける宿命を背負わせるわけにはいかない」

    の観点を軽視していると思うんですよね。「どうでもいい」くらいに。誇りを捨てるようなもんだと思います。
    日本が譲歩すれば過去の狼藉は日本が全て受け入れたと考えるような韓国の民意や、韓国メディアの特性を踏まえれば、ゴネ得を絶対に許さないことが関係改善への道だと思うのですが。岸田政権が日韓関係を全部巻き戻したと思う理由は、ゴネ得を許しまくるからです。

    観韓をするようになって思ったのは、韓国の特性を知る人と知らない人の差ですが、私の周囲の人々を見ていてもまだ多くの人たちは知らない(どうでもいい)ので、宮家氏が述べたような「もっともらしい」説に納得するのだと思います。
    宮家氏がお人好しとは思わないですが、それに乗っかってる人々は、訪問販売や新興宗教に引っかかる「お人好し」と同じものを感じます。
    米国との取引に安易に乗ってしまう(知恵を絞った形跡が見られない)お公家様や宮様の外交では、失うものが多い気がします。

  • 結局突き詰めていくと、日本の安全保障、経済的繁栄を核とする国益維持・向上の為に韓国とはどのような付き合い方をしていくのか、という事でしょう。歴史的に同国(広く朝鮮半島の民族と言い換えても可)が何をしてきたのか、そして韓国が現にとっている政策及びその実行内容、又、AI先端分野、宇宙分野の活用も含む現代の兵器レベルの現状と今後の進化等、全てを総合的に考慮すれば、同国とは飽くまで是々非々、日本の国益が明確である場合を除き、極々一般的な付き合いをしていけばよいだけの話です。
    米国の現民主党政権のいいなりに無原則且つ一方的に韓国に利益を与え続ける岸田政権(林外相も含め)は、もはや真向から日本の国益に反する政権と化してしまいました。しかし今になってもそれを自覚せずに、自分のposition維持に汲々としています。一国民としては、単なる評論家にならずに、自分の周りに対して、同政権が如何にダメなのかを引き続き語っていき(勿論、対韓政策のみならず、その増税・国民負担増政策、LGBT法等々も含めた害悪)、その輪を一層広げていく事が肝要かと。

  • 本当にこんな事を宮家邦彦氏が述べたのでしょうか?
    宮家氏は外務省の高級官僚出ですが、中国担当歴が長い、いわゆる「チャイナスクール」です。普段の論考ではむしろやや中韓には否定的な発言を目にします。ニッポン放送の針小棒大報道であって欲しいですね。ちょっと信じられません。

    • 宮家さん「らしくない」のですが、確かに根拠不明の発言をしているようです。宮家さんはプライムニュースにも度々ゲスト出演し「その通り」と賛同できるコメントを述べ、わたくし的には最も信頼できるコメンテーターの一人だと思っていたのですが、今回のコメントは残念です。

  • 問題の本質は地政学的に韓国が必要か否かに帰結する。
    日清戦争、日露戦争、朝鮮戦争
    考えてみれば多大なコストをかけて守ってきたもんだ。

    • その源流って現在では忌み嫌われているはずの「征韓論」なんですよね。どんなに離れていてもミサイル一つで攻撃できる今日では神聖視するほどのものではありません。それにいかに譲歩しても韓国が日本の側につかなくなったらどうするのでしょう?その議論が全くされていません。

  • そもそも宮家氏は外務省勤務時から安倍晋太郎秘書官だった安倍晋三さんと近い筈なのに、外務省独特の事無かれ主義者の権化であり、安倍さんの掲げた日本の外務省各国大使に訓示した「各国の主張する歴史戦に反論せよ」と真逆で既に世界にばら蒔かれた歴史戦を放置して未来志向との考え方。阿比留記者・西岡力共著「安倍晋三の歴史戦」にも掲載されています。安倍さんは、LGBTQ法案化は自民党を分裂させると心配していましたが、キシダの韓国全面降伏政策は保守派を分裂させてしまう。因に産経新聞、読売新聞も揃って日韓融和を評価しています‼️キシダの罪は重い。信頼する青山議員は大反対してます。女神櫻井よし子さんの感想を聞きたい。また鈴置・真田さんの意見も聞きたい‼️

  • 巨額売国野田スワップで
    韓国が通貨崩壊免れての
    恩仇ウォン安誘導で
    海外市場で日本製品駆逐して
    日本に大量の派遣切りなど
    深刻な被害を与えたあとも
    しばらくはこの手の
    半島とウッシッシ主張は
    ありましたがそのご消滅してました。

    今、岸田が韓流政党民主党の
    お株を奪ってウッシッシに走る中で
    食器棚の影から這い出して
    まず目立たぬようにラジオからとの
    この手の主張は断固追求する必要が
    あります。
    この調子では、程なく
    韓流の吽国際経済学者?の
    舛添さんとかも這い出てきそうです

  • 結局の所、アメリカが「日韓友好」って嫌がらせ圧力を掛けてるんですよね・・・。
    どうにかして対米比重を減らして行くしかないでしょう。今やアメリカ空軍は中国空軍より飛行時間の短い張り子の虎なので、台湾でも最終的に引くでしょうから

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