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三菱重工業の金銭債権の取立訴訟始まる=韓国メディア

尹錫悦(いん・しゃくえつ)韓国大統領の訪日に合わせて発表したのでしょうか。韓国メディアの報道によれば、自称元徴用工側の代理人が15日、三菱重工の孫会社の金銭債権の取り立てに関する訴訟を起こしたようです。報道だけだと詳しい訴訟の手続はよくわかりませんが、金銭債権の差し押さえは訴訟における定番でもあります。これを韓国の裁判所が認めた場合、いよいよ日本企業に「不当な損失」が発生することになりますが、岸田文雄・現首相ら宏池会政権はこれにどう対処するつもりでしょうか。

なぜわざわざ換金できない資産を差し押さえるのか

自称元徴用工訴訟問題を巡る「不自然な点」があるとしたら、原告側、つまり自称元徴用工やその遺族、あるいはその代理人らが、なぜか「換金できない資産」ばかり差し押さえている、ということにあります。

日本製鉄の場合は韓国国内にある非上場の合弁会社株式、三菱重工業の場合は知的財産権(特許権と商標権)が差し押さえられていますが、今月初めの『自称元徴用工の現状②その資産、換金できるのですか?』でも指摘したとおり、これらの資産の売却は「極めて困難」と言わざるを得ません。

「そもそも自称元徴用工問題って、解決する必要はあるんでしたっけ?」――。韓国の自称元徴用工らが日本企業の資産を差し押さえている問題を巡っては、こんな疑問が頭をもたげてきます。なぜなら、彼らが差し押さえている「資産」とは、(上場株式ではなく)非上場の合弁会社株式であったり、(金銭債権や不動産ではなく)知的財産権であったり、と、非常に換金し辛いものばかりだからです。差し押さえるなら換金しやすいものにするのは裁判の鉄則だと思うのですが…。ウソや捏造により法的根拠のないことを要求する韓国本稿は『自称元徴...
自称元徴用工の現状②その資産、換金できるのですか? - 新宿会計士の政治経済評論

その理由は簡単で、非上場株式にしろ、知的財産権にしろ、その売却価値の算定が難しく(売却価値を算定するだけで時間と巨額の費用が必要)、運良く売却手続にまでこぎつけたとしても、それらを買ってくれる人が出現するとは限らないからです。

たとえば今から約3年前の『非上場株式の売却、「法治国家では」とても難しい』で詳しく議論したとおり、非上場株式には譲渡制限条項が付されていることが多く、そのような株式を購入しても株主としての権利行使ができず、多くの場合、結局は手放さざるを得なくなります。

数日前より、読者雑談記事などで議論されていたのが、「非上場会社の株式を差し押さえたとして、どうやってそれを売却することができるのか」、というものです。これについては以前、『非上場株式の売却を「時限爆弾」と呼ぶ韓国メディア』で、某隣国で日本企業の在韓資産が差し押さえられているという問題を巡って、「日本企業の資産が換金される可能性は低い」と述べましたが、「法に定められた手続をまったく守らない国」において、日本と同じ議論が成り立つのか、という点については、あらためて議論しておく価値がありそうです。...
非上場株式の売却、「法治国家では」とても難しい - 新宿会計士の政治経済評論

同様に知的財産権の場合も、昨年8月の『民事執行手続で確認する知的財産権換金の「非現実性」』で詳しく議論したとおり、その差押や売却は非常に困難です。民事執行法の規定上、知的財産権も理屈の上では差押、強制執行などの手続が可能ですが、その査定が非常に難しいからです。

著者自身、とある理由で民事執行法について調べてきたのですが、やはり知的財産権の強制執行というものは、かなり時間もコストもかかるため、現実的ではない、というのが暫定的な結論です。本稿では著者自身の実体験も踏まえつつ、民事執行法の規定などをもとに、不動産、金銭債権、動産、その他資産(とくに知的財産権)についての強制執行(売却命令)について概観しておきたいと思います。2022/08/19 12:07追記一部の端末で本文が表示されないというエラーがあったようでしたので、とりあえず記事の一部のリンクを削除して対応して...
民事執行手続で確認する知的財産権換金の「非現実性」 - 新宿会計士の政治経済評論

本当の狙いは「謝罪利権の確立」

なにより、非上場株式も知的財産権も、差し押さえられているだけの状態であれば、日本企業に実害は生じません。株主としての権利行使は問題なくできますし、知的財産権の使用も可能です。差し押さえはあくまでも「その処分ができない状況」になるだけだからです。

このことから、自称元徴用工らには、おそらく裁判を通じて資産を強制売却するという意思はなく、日本企業や日本政府が折れて自分たちに謝罪し、財団かなにかを通じて半永久的に損害賠償する仕組みを構築するのがその最終目的だと考えて差し支えないでしょう。

すなわち、彼らの最大の目的は、何とかして日本企業の譲歩を引き出し、新たな謝罪利権を確立することにあるのであって、日本企業の資産売却そのものには興味はないのです。

こうしたなか、ずいぶん以前から当ウェブサイトでも報告してきたとおり、もしも裁判を通じて強制換金しようと思うのであれば、差し押さえるべき資産は「換金が容易なもの」にすべきです。とくに、非上場株式や知的財産権ではなく、上場株式や不動産、金銭債権などを差し押さえるのが鉄則でしょう。

韓国政府の「解決案」で前提条件が変わった!

ただ、自称元徴用工らは不思議なことに、現時点までで金銭債権を差し押さえていません。三菱重工に関してはいったん金銭債権を差し押さえたものの、その差押えを途中で慌てて解除してしまったほどです(『【速報】自称元徴用工側が金銭債権差押を「取り下げ」』等参照)。

本稿は、「速報」です。例の自称元徴用工判決に関し、金銭債権の差押を原告側が取り下げてしまったようなのです。ある意味では予想どおりでもあったのですが、とり急ぎ、ここでは韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)の記事を紹介します。『徴用工「金銭債権の差押」の衝撃』で報告したとおり、自称元徴用工問題を巡り、韓国で原告側が金銭債権の差押に踏み切ったと発表したことは、個人的にはかなりの衝撃を受けました。これが事実なら、自称元徴用工問題の「フェーズが変わってしまった」からです。なぜなら、金銭債権の場合、...
【速報】自称元徴用工側が金銭債権差押を「取り下げ」 - 新宿会計士の政治経済評論

表向きの理由は「差し押さえた資産が三菱重工の子会社の金銭債権だったから」というものですが、これは理由になっていません。ムチャクチャな判決を下しうる韓国の裁判所のことですので、法人格否認の法理でもなんでも使い、親子会社を一体とみなして資産換金を実現すれば良かったはずでしょう。

というよりも、金銭債権の場合、差し押さえて弁済期が到来してしまうと、差し押さえられた企業にはその時点で実害が生じます。したがって、それは日本政府の言う「日本企業に不当な損害が生じること」に該当してしまうのです。

だからこそ、自称元徴用工らは差し押さえを慌てて解除した――、というのが現時点における当ウェブサイトなりの結論です。

ただ、その前提条件が変わりました。

韓国政府が6日、韓国企業の拠出金などに基づいて基金を作り、自称元徴用工らへの賠償金を支払うという構想を公表。しかも、日本政府はただちにこれを「日韓関係を健全な関係に戻すものとして歓迎する」と表明し、米国を含め世界各国もこの「日韓関係改善」を歓迎したのです。

もちろん、日本から見てこの案自体、まったく解決になっていないことは、いまさら指摘するまでもありません(『岸田ディールで垣間見える「キシダの実務能力」の低さ』等参照)。

「仮定のご質問には答えません」は岸田首相がちゃんと考えていない証拠衝撃的な「岸田ディール」。振り返れば振り返るほど「信じられない内容」と言わざるを得ません。とくに韓国の「ちゃぶ台返し」の可能性については、岸田文雄首相は記者会見で「仮定の質問には答えません」と述べ、シャットアウトしてしまいました。こうした記者団とのやり取りから浮かぶのは、「キシダ・フミオ」という政治家の「実務担当能力のなさ」、「戦略的思考力のなさ」、そして「プライドの高さ」です。不誠実な「キシダ・フミオ」岸田ディールの衝撃:首...
岸田ディールで垣間見える「キシダの実務能力」の低さ - 新宿会計士の政治経済評論

ただ、本稿で注目しておきたいのは、自称元徴用工の立場です。

彼らからすれば、半永久的に日本から謝罪と賠償を引き出すための「謝罪利権」の確立に失敗した格好であり、この「岸田ディール」あるいは「尹錫悦(イン・シーユエ)ディール」に対して強い不満を抱いていることは明らかでしょう。

金銭債権訴訟、再び!

こうしたなかで、尹錫悦(いん・しゃくえつ)韓国大統領の訪日に合わせるかのように、16日には興味深い動きが出てきました。

強制徴用被害者、三菱国内資産の取り立て訴訟【※韓国語】

―――2023-03-16 09:21 付 聯合ニュースより

韓国メディア『聯合ニュース』によると、「強制徴用被害者」(※自称元徴用工の間違い)らの代理人が16日、三菱重工業の孫会社である「MHパワーシステムズコリア」が韓国国内に保有する金銭債権の取り立てを申し立てる訴訟を15日、ソウル地裁に提起したと明らかにしたのだそうです。

これについて代理人団は次のように述べているそうです。

三菱重工業が持つ国内法人に対する金銭債権に対する訴訟であり、現金化手続が必要な株式や特許権とは異なり、オークションなどの手続なしに一審判決で原告が勝訴し、仮執行判決まで出ればすぐに債権回収が可能と思われる」。

もちろん、この報道だけだと、自称元徴用工側がいかなる手続を踏んでいるのか、よくわかりません。

ただ、日本の民事執行法上の一般論でいえば、金銭債権の場合だと原告側が債権差押命令を申し立て、裁判所は差押命令を当事者に送達して差押が行われ、原告は直ちにおカネを回収することができます。

抽象的な文章だけだとわかり辛いので、ここでは具体例を使います。仮に原告である自称元徴用工をA、三菱重工をM社、M社が金銭債権を持っている相手を韓国のX社とでもしておきましょう。

日本のM社は韓国のX社に対し、1000万円分の製品を「掛け売り」し、それに基づき金銭債権を保有しているものとします。この場合、X社はM社に対し、期日までに1億円を支払わなければなりません(M社から見ると金銭債権、X社から見ると金銭債務)。

自称元徴用工であるAがこのM社のX社に対する1000万円の金銭債権の差押を申し立て、韓国の裁判所が差押を認めると、M社、X社の双方に差押命令を送達します。この送達を受け、X社はM社に対してではなく、Aに対して1000万円を支払わなければならなくなります。

これが金銭債権の差し押さえです。

どうする岸田「宏池会」政権

ただし、ここに法的な論点があるとしたら、今回の報道を読む限り、差押が申し立てられたのは三菱重工本体ではなく、その在韓子会社であるようである、という点でしょう。会社名から判断して、おそらくは会計上の連結子会社だと思われるものの、法的には別法人です。

果たしてソウル地裁はこの申し立てを認めるのでしょうか。

その場合、ソウル地裁はいかなる法理を援用するのでしょうか?もしかして法人格否認法理でしょうか?

今回の申立、法技術的にも興味深いところです。

ただ、それ以上に興味深いのは、岸田首相ら宏池会政権、外務省関係者の動きでしょう。

韓国側の「解決案」を「評価する」と述べてしまった直後に金銭債権の差し押さえが発生し、万が一にもこれらの債権の現金化が実現しようものなら、それは日本政府が以前から警告していた「日本企業に不当な損害が発生すること」に該当してしまいそうです。

昔から「何とかの浅知恵」と言われますが、宏池会政権と外務省の浅知恵がさっそく破綻するのかどうかという観点からも、注目に値する一件であることは間違いないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (16)

  • あれれ~

    松川議員は、訴訟を起こすこともできなくなるっていってなったっけ?

  • 中東の英語ニュース Aljazeera が日韓会議を巡る長い記事を出しています。
     Yoon visits Japan, seeking to restore ties amid N Korea threat
    普段彼らは日本に目を配っていないのに今回は妙に長い。執筆は Aljazeera Staff とあります。全体基調は意識高いジャーナリズムそのものです。文中にこんなくだりがあります。
    Japan, in apparent retaliation, imposed export controls on chemicals critical to the South Korean semiconductor industry.
    日本政府はこの報道機関に説明と抗議を通知すべきと考えます。

  • これ、是非とも現金化して頂きたいですね。
    日本企業の韓国撤退、韓国取引の前払い化が加速して貰いたいものです。

    • 国際法違反の判決を放置し、小手先の解決策とやらでお茶を濁したまま対応しようとするからこんなことになるのでは。
       これが事実だとするとおもしろいことになりそうですね。(おもしろいは不謹慎でしたね)

  • 確か、2021年に似たような訴訟が起こされましたが、韓国企業から支払い先である実際の取引相手は三菱重工ではなく、その子会社だとの申し出があり、原告の弁護士らが裁判所に命令の取り消しを申請したと記憶しています。

    この件が蒸し返されて再度訴訟となったのか、あるいは別件なのか定かではありませんが、いずれにせよ人治主義の韓国裁判所、裁判官が左派ならば差し押さえ命令がなされる可能性も大かと思います。

    いかに(連結)子会社であれ、法人格は別なので本来は差し押さえ命令などできるはずがありませんが、法人格否認の法理を強引に適用すれば「法理論を無視した」ということにはなりません。

    このような動きはますます、おそらく世界のリベラrル派を巻き込んで出てくるものと思われます。
    今回のアメリカ主導による韓国左派(というか一般人)を無視した強引な施策、及びそれを受けての岸田さんの「評価する」発言を契機に、韓国&欧米のリベラル派の大反撃がはじまるでしょう。
    このように世界で日韓の歴史問題が取り上げられること、それ自体がまさに、日独絶対悪論に立脚したアメリカを中心とした戦勝国に「日本は韓国に悪いことをしたのに反省していない」という偏見を助長することになるのです。
    その偏見は、アメリカと対立するロシア中国なども同調するでしょうから、日本は抗うことはできません。

    かえすがえす、「戦後レジームからの脱却」「次世代に謝罪する宿命を背負わせない」を目指した安倍さんの功績が消え去ったことを感じます、
    「解決済」。この言葉を繰り返すだけで良かったのです、アメリカと韓国の努力に報いるのなら、せいぜい、「日韓関係前進のための努力を行っていることは承知している」程度のコメントで良かったのです。

    • 日本とドイツはいくらでも悪口書いてかまわないのがジャーナリズムの基本話法です。

  • 岸田首相は、さて、どうするおつもりか?
    自称徴用工被害者側は三菱重工業の在韓、連結子会社を提訴した。ナニすんねん!前はポスコとの合弁会社の件を提訴取り下げしたが。岸田サン、アンタは舐められてるの!
    判決は韓国が出すから、彼らは日本の輸出管理適正化とかALPS水の放出停めろが狙いでもあります。玉虫色の返事しない事。三菱はじめ日本企業保護を第一に考え、国益を優先せよ。訴訟自体、日本に有害だ。即、止めさせろ!

    その場合、ソウル地裁はいかなる法理を援用するのでしょうか?もしかして法人格否認法理でしょうか?

    今回の申立、法技術的にも興味深いところです。

    ただ、それ以上に興味深いのは、岸田首相ら宏池会政権、外務省関係者の動きでしょう。

    韓国側の「解決案」を「評価する」と述べてしまった直後に金銭債権の差し押さえが発生し、万が一にもこれらの債権の現金化が実現しようものなら、それは日本政府が以前から警告していた「日本企業に不当な損害が発生すること」に該当してしまいそうです。

  • 大法院判決に従って
    直ちに現金化するのが筋でしょう
    早くしてほしい

  •  韓国は、三権分立といっても、大統領の意向を、裁判所も検事も忖度するのが通例なので、この裁判の行方を、さほど心配する必要は、ないでしょう。尹政権が続く限りは、大丈夫と考えます。
     問題は、4年後の大統領選挙で、仮に革新が勝った場合に、慰安婦合意に続く”ちゃぶ台返し”をする(韓国の国際信用は更に下がるので、日本にとってはそれも悪くない)か、そこだけですね。
     日本の対応としては、急な日韓関係改善には、十分用心すべきです。米国が「折角手助けして、韓国を譲歩に追い込んだのに、そのあと日本が冷淡だから盛り上がらないんだ」と思われてもいけないので、当面は積極姿勢も已むを得ません。しかしながら一段落したら、徐々にペースを落とし、中長期的には「放置、原則関わらない」という方針で臨むべき、と考えます。

    • 共和党政権、特にトランプさん再選ということになれば今回のアメリカの(無駄&有害)な努力も水泡に帰すのではないでしょうか?

      おそらく安倍さん時代も、国務省の官僚筋から再三韓国と協調しろ、妥協しろ的な圧力はあったかと思いますが、トランプさんとの関係でそれを跳ねつけ、結果、実効性の乏しい日米韓連携からより発展的で多極的なFOIPへと道を開くことができました。

      対中国ということであれば、あきらかにインド&オースラトリアの太平洋諸国を巻き込んだ集団防衛体制が有効かと思いますが、最近ではインドは中ロと軍事演習、オーストラリアも中国訪問と、FOIPの影が薄くなっているように思います。

      岸田さんは言いなりでなく、積極的に説得して動かすくらいの力量が欲しいですね、それが結局アメリカのためにもなるという論理構成で。。

  • 現金化しないでしょうね。
    尹錫悦の交渉を有利に進めるための援護射撃とみるべきです。
    私だったら、こんな状況でノコノコやってきたら、
    「おいおいおいおい、約束が違うじゃないか。出直してこい」
    とテーブルを叩いて交渉打ち切りですが、お上品な宏池会と外務省は、
    「何卒穏便にm__m」
    となるんじゃないですかね。
    まぁ、このタイミングと言うのはいずれにしてもなめられてますよ。

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