林外相がG20外相会合欠席の可能性でさらに焦る韓国
林芳正外相が3月1日から2日にかけてインドで開催されるG20外相会合やクアッド外相会合に、国会日程の都合上、参加できない可能性が出てきました。せっかくのG20やクアッドの会合の場に日本の外相が出席しないこと自体、ゆゆしき話ではありますが、その反面、悪い話ばかりではありません。「日本に非を認めさせる努力」しかしてこなかった韓国政府にとっては、当てが外れることにもなるからです。
目次
G20メンバー国は必ずしも基本的価値を共有せず
来月にはインドでG20外相会合が予定されています。
ちょうどロシアによるウクライナ侵攻から1年が経過するタイミングということもあり、自由とルールに基づく国際秩序を愛する私たち西側諸国にとっては、このG20関連会合の場は、国際法秩序の重要性を共有するうえでの大変重要な機会ではあります。
ただ、G20に参加している国を見ると、必ずしも西側の価値観を重視する国とは限りません。
G20はG7諸国(日米英独仏伊加の7ヵ国とEU)に加え、オーストラリア、アルゼンチン、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、韓国、トルコの12ヵ国も参加する「大所帯」です。
正直、豪州以外の11ヵ国に関しては、どれも「自由」「民主主義」「法の支配」「人権尊重」などを巡って、西側諸国とはかなりの温度差がある国ばかりであり、とりわけ共産党一党独裁国家の中国、厳格なイスラム国家であるサウジアラビアなどは、G7とはそもそも価値をほとんど共有していません。
G20自体、いちおうは「価値観が異なる国が一堂に会する場」というくらいの意味はあるのかもしれませんが、著者自身はかなり以前から、「G20そのものが形骸化していてほとんど意味がない会合である」と考えている人間のひとりでもあります(というか「金融評論家」ならば、そのような結論になるのは当然だと思います)。
FOIP/クアッドという安倍、菅両総理の遺産
こうしたなかで、日本にとって意味があるとしたら、G20そのものというよりも、G20の内部でグループを作ることではないでしょうか。
たとえば、故・安倍晋三総理大臣の大いなる遺産のひとつが、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の概念の発明と、「クアッド」と呼ばれる日米豪印4ヵ国の連携を推進したことにあります。そして、「FOIP」「クアッド」はその後継者である菅義偉総理大臣が具体的なかたちに落とし込みました。
現在でこそこのFOIPは米国や豪州なども積極的に取り入れている考え方ですが、「日本発の構想」が世界各国に受け入れられるようになったという意味では、おそらくは史上初の事例であり、その意味で安倍、菅両総理の功績は大変に大きいものです。
この点、岸田文雄・現首相のFOIPやクアッドに対するコミットメント度合いを巡っては若干の疑義もありますが、ただ、FOIP、クアッドともに、岸田首相が退陣して以降もおそらくは継続します。なぜなら、外国を巻き込んでいるからです。
じっさい米国もこのFOIPやクアッドはドナルド・J・トランプ前大統領が受け入れたものですが、後任者であるジョー・バイデン現大統領も、就任直後からこのFOIPやクアッドを積極推進しました。
バイデン氏自身はバラク・オバマ政権時代に副大統領として、当時官房長官だった菅総理ともおそらく懇意であったという事情もあるのかもしれませんが、それにしても日米関係は安倍・トランプ時代だけでなく、菅・バイデン時代においても深化したのです。
また、インドが日米豪各国と基本的価値を共有しているといえるのか、若干疑問もありますが、それ以上にクアッドに意義があったとしたら、西側と東側で中立的なポジションにあったインドを「こっち側」に引き込んだことにあります。
安倍総理が昨年7月に暗殺された際、マンモハン・シン印首相は深く悲しんだと報じられていますが(『「弔問外交」でわかる安倍総理と外国要人との深い親交』等参照)、これも安倍総理(や菅総理)がシン首相と個人的に相当深い友誼を結んでいた証拠でしょう。
林外相がG20・クアッド外相会談に欠席か
さて、数日前、少し気になる記事がありました。
クアッド外相、3月上旬会合へ=G20に合わせインドで
―――2023-02-20 16:53付 時事通信ニュースより
時事通信によると、日米豪印4ヵ国は3月上旬にインドで外相会合を開催する方向で調整に入ったものの、肝心の日本の林芳正外相は「オンライン参加となる可能性がある」、というのです。
林外相が「オンライン参加」となる可能性がある理由は、現在、国会で2023年度予算を審議中だからなのだそうであり、3月1日と2日にかけてインド・ニューデリーで開催されるG20外相会合も、外務副大臣が代理出席する方向で検討されているとのことです。
なんだか、よくわかりません。
先日の『岸田首相の隠密外国訪問はゴーン式?クレオパトラ式?』でも議論しましたが、日本では国会会期中の首相・外相の外国訪問には大きな制約があります。憲法や国会法の規定上、首相や国務大臣らは出席を求められたら国会を離れるわけにはいかないからです。
いや、もちろん、議会制民主主義においては、「国権の最高機関」たる国会は重要です。
しかし、さすがにG20にもクアッドにも外務大臣自身が参加しないというのは不自然ですし、場合によってはこのこと自体、明らかに国益に反する状況でもあります。林外相自身が訪印できない理由についてはよくわかりませんが、もう少し何とかならなかったものでしょうか。
(※どうでも良い話ですが、林「外相」のG20外相会合参加は、今年が最後になる可能性もある、というのが著者自身の見立てです。これについては菅総理の再登板の可能性などとも関係する論点ですが、今後とも随時、当ウェブサイトで議論していきたいと思います。)
林氏不在に焦る韓国
ところで、この「林外相のG20外相会合欠席(の可能性)」が、思わぬところで影響を生じているようです。韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)は23日、「韓日外相会談の来月初旬の開催が不透明になった」と報じているのです。
韓日外相会談 来月初旬開催は不透明に=林氏がG20不参加か
―――2023.02.23 20:42付 聯合ニュース日本語版より
これはいったいどういうことでしょうか。
日韓外相といえば、18日にドイツ・ミュンヘンで行われた会談で、韓国の朴振(ぼく・しん)外交部長官が林外相に対し、自称元徴用工問題を巡って「日本の政治的決断」を求めるというやり取りが行われたばかりです(『日韓外相会談進展なし:韓国は日本に「政治決断」要求』等参照)。
ただ、どうやらこの会談では、韓国が求めた「政治的決断」とやらを、林外相は下さなかったようです。
その理由はよくわかりません。
林外相が確固たる国家観を持ち、韓国政府が打ち出してきた「財団方式」など日本にとっては到底受け入れられないものだとの認識に基づき、韓国側の要請を一蹴したからなのか、それとも単純に林氏が忙しすぎ、朴振氏の要求が「馬耳東風」状態だっただけなのか。
個人的には後者の可能性の方が遥かに高いとは思いますが、いずれにせよ、韓国側の「強制徴用問題(※自称元徴用工問題のこと)の早期決着」という目論見は失敗に終わった格好です。
そもそも日韓連携と関係改善は別の論点
これについて日本で最も信頼のおける韓国観察者である鈴置高史氏は、韓国側の狙いについて、「日本人に深く考える時間を与えない作戦を採ってきた」と説明しています(『徴用工「早期決着」に失敗した韓国の次の手=鈴置論考』参照)。
「相手に深く考える時間を与えない」というのは詐欺師の常套手段ですが、冷静に考えてみたら、韓国側が焦るのも当然のことです。現在、韓国政府が打ち出している「解決案」とは、2018年の大法院判決を根本から解決することなく、財団方式でお茶を濁そうとしているものだからです。
このあたり、自民党の議員(しかも安倍派)のなかにも、「尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権が発足したいまこそ、日韓関係改善のモメンタムが生じている」などと詭弁を垂れ流す者もいます(『「徴用工解決で安保協力が進む」という松川議員の詭弁』等参照)。
しかし、鈴置氏も指摘する通り、こうした考え方は正しくありません。
そもそも現時点において、日米韓軍事協力はそこそこうまく廻っていますし、わざわざ日本が譲歩する形で自称元徴用工問題を無理やり「解決」する必要などありません。米国も日本に対し、「日韓関係を改善せよ」と圧力をかけてきているという事実はありません。
いずれにせよ、韓国としては自称元徴用工問題を含めた日韓諸懸案の「グランドバーゲン(一括妥結)」方式での解決を急ぎたいなかで、「騙しやすい」はずの岸田「宏池会」政権がなかなか韓国に折れてくれないという「焦り」が出て来ているのです。
「韓日外相会談見送りなら徴用被害者賠償問題も先送り」
こうした点を踏まえ、先ほどの聯合ニュースの記事の続きを読んでいきましょう。
「G20外相会合に合わせた韓日外相会談が開催されなければ、徴用被害者への賠償問題を巡り、両国が接点を模索する機会も先送りされることになる」。
しかも、話はそれだけではありません。
韓国にとって非常に騙しやすいはずの「キシダ・フミオ」政権を巡り、万が一、「サミット花道論」が実現してしまったら、韓国にとってはさまざまな目論見が外れてしまうことになりかねません。岸田首相が退陣し、菅総理が再登板となれば、それこそ韓国にとっては悪夢のようなシナリオでしょう。
いずれにせよ、林外相がG20外相会合やクアッド外相会合に参加しないというのはゆゆしき話ではあるものの、脇の甘い宏池会政権の外相が韓国の外相と会って余計な話をしなくて済むという意味では、必ずしも悪い話ばかりとは言い切れないのかもしれません。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
顔見知り同士であればオンライン会議でも、意思疎通にあまり影響ない、或いは影響ないように訓練できたのは、COVID-19 の良い効果だったと思います。
まさかとは思いますが、本来の目的はオンラインでも同等効果が望めるとふんで、韓国のような鬱陶しいノイジーマイノリティーをまくためにオンラインにしたのかも?
誰だって面倒くさい奴とは、たとえ仕事であっても会いたく遭いたくないですからねぇ。
林外相が韓国に良い返事をしなかったのは、中国に比べて大幅に実入りが少なすぎたせいでしょうか?との陰謀論がある?かな?どうだろう?と何故私は思ってしまうのでしょうか?そんなことよりも、国会審議で必ずしも総理や大臣が常に出席していないといけないような、制度?惰性習慣?はそろそろ止めるべきだと思います。国益を考えるならばクワッドとの連携が死活的重要な日本にとって、G20に出席してその貴重な時間を韓国との個別会談というくだらないことに費やせずクワッド連携に使うべきではありませんかね。顔をあわせて話合う意義がある国と、たいしてそうでも無い国との区別をはっきりつけないと時間と労力の無駄ですよ。と思います。
このあいだ会ったばかりまた会ってどうすんねんっちゅー話
韓国無視するヨロシ
無視してれば勝手に詰んで逝く
韓国政府は、岸田宏池会政権から譲歩を引き出すために、外務省や日経新聞などの協力を得て工作活動を積極的に行なって来ましたが、最後の詰めの段階で目論見が外れてしまいそうですね。
朝鮮半島有事を演出して韓国の存在価値を上げるために、北朝鮮も頑張ってミサイルを打ち上げて韓国を応援して来ましたが、無駄な努力になるかも知れません。
ただ、簡単には諦めないと思いますので、警戒を緩めてはいけないと思います。
これから、野党が「国会どうでもいいからG20に行け行け何故行かぬ」と言い出したりして…
最近、丁寧に無視を忘れている感が有りましたので、オンラインは悪くないと思います。説明会を協議と読み替える珍しい思考回路をお持ちの方が沢山いますので、韓国は…。
国会の本会議や委員会において有意義な討論が行われるのであれば、首相や閣僚を拘束するのも当然と言えるのでしょうが、さて、国会でそんな有意義と言えるような討論が行われた試しがあったっけと暫し考えてみましたが、少なくとも、ここ30年で思い当たる節がありませんでした。
戦前の国会ですら、斎藤隆夫議員の「粛軍演説」「反軍演説」など、まさしく政府を厳しく追及するような質問が行われていたのですが、このところの野党側の質問は「厳しい追及」と称したただの揚げ足取りや、どうでもいいような重箱の隅を突いたもの、果ては火のないところに水煙としか言えないようなくだらない案件ばかりで、あの程度の質問しかできないのであれば、わざわざ閣僚に答弁を求めるまでもありません。副大臣でも政務官でも、なんだったら役所の課長級くらいでも十分なくらいです。
マスメディアは慣用句のように「国会での激しい論戦」などと言ってますが、大嘘もいいところで、そもそも論戦など行われていません。どーでもいー質問に対してどーでもいー答弁が交換されているだけです。結局のところ、与野党議員に実質的な討論を行うだけの資質と見識が欠落しているということなのですが(そんなもんを選ばされる国民こそいい面の皮)、それでもまだ閣僚は重要な任務を担っており、そんなお気楽な放言を行っていればよいようなポジションではありません(ないはずですけれども)。
国会がある種のセレモニーの場、ワイドショーのネタ元と化しているのは、すぐにどうこうできるものでもありませんが、せめて閣僚の任務を阻害するような真似はするべきではないだろうと思います。
インドだけに“カレー”にスルー、と♪( ´ω`)
ハヤシもあるでよ?
G20は価値観を共有するグループじゃないから外相会議に欠席するのもさほど大問題とは思わないけれど,QUADは日本が提唱して来たFOIPの理念を実装するための価値観同盟の集まりなのだから,その外相会議にそもそもの理念の提案国の日本の外相が欠席するというのは極めて拙いと思うのですが.
林外相がQUAD外相会議をパスしたら,他の3ヵ国とりわけ故安倍総理が一所懸命に説得し信頼関係を構築しQUADに参加してもらったインドのモディ首相らが「日本は岸田政権を押さえていたMr.安倍が亡くなり,林外相はチャイナに対する言動が甘いし、Mr.岸田はQUADも含めて安倍ー菅路線を全てリセットしようとしてるんじゃないか?」と日本の今後の外交方針に対して疑念を抱いてしまう(そして最終的にはQUAD解体=FOIPの理念がそれを実世界で裏付ける実体を持たず空理空論化に至る)のではと危惧します.