日本の防衛予算増額は「非常に危険」=中国政府報道官

中国外交部の毛寧(もう・ねい)報道官は6日、定例会見で、日本の軍事費増額を「非常に危険だ」批判。「日本は地域の緊張を高めている」としたうえで、「軍事安全分野における言動を慎むべき」などと述べました。自己紹介も良いところです。「地域の緊張を高めており、非常に危険」なのはこの場合、中国の方だからです。ただ、中国政府からこうした反応が出て来ること自体、日本の防衛費増額が政策として正しいという証拠そのものでしょう。

中国外交部報道官と記者のやり取り

またしても、「答え合わせ」でしょうか。あるいはもはや隠し立てもしなくなったのでしょうか。

来年度から5年間の防衛費が約43兆円と決まった件を巡って、中国政府・外交部の毛寧(もう・ねい)報道官は6日、これに強く反発したというのです。

【参考】毛寧氏

(【出所】中国政府外交部

該当する記事のリンクは、次のとおりです。

2022年12月6日外交部发言人毛宁主持例行记者会【※中国語】

―――2022-12-06 18:55付 中国政府外交部HPより

該当する質疑を抜粋しておくと、こんな具合です。

彭博社者:我有两个问题,第一个问题关于日本国防算。日本首相岸田文雄指示大幅增加国防算,新算接近俄斯国防算水平。岸田首相要求主管大臣将2023至2027年国防算增加到3180亿美元。外交部此有何评论<後略>

毛宁:关于你的第一个问题,近年来,日本防卫预算已连续10年增,日方还动辄渲染地区紧张求自身力突破,向十分危,不得不让亚国和国社会日本能否保持守防持走和平展道路生强烈疑。日方真反省侵略史,尊重国的安全关切,在事安全言慎行,多做有利于维护地区和平定的事。<後略>

「彭博社」とはブルームバーグのことだそうです。

毛寧氏、防衛費増額は「非常に危険、日本は慎め」

意訳すると、質問の方はこんな具合です。

2つ質問があります。ひとつめは日本の国防予算です。日本の岸田文雄首相は国防予算の規模をロシアのそれと近い水準にまで大幅に増額するように指示しました。岸田首相は担当大臣に対し、来年から5年間の国防予算を3180億ドルに増額するよう要請しています。外交部のコメントをお聞かせください。」<※後略>

これに対し毛寧氏は、次のように答えました。

最初の質問への答えです。近年来、日本の防衛費は10年連続で増額されており、自国の軍事力の突破口を求め、地域の緊張をたびたび高める行動を取ってきました。これは非常に危険であり、これに立ち向かわなければなりません。アジアの隣国や国際社会にとって、日本が専守防衛を維持し、平和的発展の道を歩み続けるかどうかを巡っては、かなりの疑問があります。日本は侵略の歴史を真摯に反省するとともに、アジアの近隣諸国が抱く安全保障上の懸念を尊重し、軍事安全分野における言動を慎むとともに、地域の安全と安定に役立つような行動を取るべきです。」<※後略>

…。

見事な自己紹介

あれでしょうか?中国やロシア、北朝鮮などの4ヵ国には、自分たちが行っている不法行為を、あたかも相手国がやっているかのごとく言い換えるような共通の文化でもあるのでしょうか?

あまりにも見事な自己紹介であり、ちょっと驚いて市h舞います。この毛寧氏の発言、前半部分は「日本」を「中国」に置き換えたら、そのまま正しい記述になるからです。急速な軍拡で地域の緊張を高める行動を取っているのも、アジアの周辺国や国際社会に不安を与えているのも、この場合、明らかに中国の側でしょう。

また、「侵略の歴史を反省せよ」、「アジアの近隣諸国の懸念を尊重せよ」という主張なども、どこかの国とまったく同じです(※ここでいう「アジア」とはもちろん、中国、北朝鮮など3ヵ国の無法国家に限定されることはいうまでもありませんが…)。

さらに、現在進行形で東シナ海や南シナ海などへの侵略行為、台湾海峡や尖閣諸島などでの挑発行為を続けているのも中国ならば、チベット、ウイグル、香港などにおいて明らかな人権侵害行為を行っているのも、地域の安全と安定を損なうような行動を取っているのも、中国です。

だいいち、なぜ日本が防衛予算を増額するのに、「相手(?)」の許可を得なければならないというのでしょうか?あるいは、日本が防衛費の増額に踏み切らざるを得なくなった原因を作ったのは中国自身であり、したがって、言動を慎まなければならないのは中国であり、日本ではありません。

ある意味ではわかりやすいアラート

もっとも、個人的にはこの中国外交部の報道官の発言には、正直、感謝したい気持ちもあります。

なぜなら、この人物の発言、日本の特定のメディアが普段から行っている主張とまったく同じだからです。

インターネットが出現する前、新聞、テレビなどのオールドメディアが絶大な社会的影響力を持っていた時代ならば、新聞、テレビが「日本は防衛費を増額すべきではない」などと主張すれば、そうした主張にコロッと騙されていた人も多かったのかもしれません。

しかし、このインターネット時代においては、「タテ検証」、「ヨコ検証」がずいぶんと簡単にできるようになりました。

ここで、「タテ検証」とは同じメディアがこれまでどういう主張をしてきたのかを時系列(タテ)に並べる作業、「ヨコ検証」とは同じ事実を異なるメディアがどう報じているかをヨコに並べる作業のことを意味します。

ある特定のメディアが、日本の防衛費増額については舌鋒鋭く批判しているわりに、中国の軍事費増大についてはなにも指摘していない、といった事実が、いとも簡単に共有できるようになったのです。

さらには、今回の中国の報道官による「防衛費を増額すればアジアなど近隣国に不安感を与える」などの発言は、まさに立憲民主党や日本共産党などの特定野党の議員のそれと、ソックリでもあります。

酷い場合には「侵略に備えれば相手国を刺激し、相手国からの侵略を招く」といった支離滅裂な主張もあるのですが、その「最大の軍事的脅威」である中国政府自体がこの手の「答え」を開陳してくれること自体、ある意味ではわかりやすいアラートでもあるのです。

中国など4ヵ国は、じつは外交が下手?

余談ですが、このように考えていくと、中国という国自体、じつはあまり「外交上手」ではないのかもしれません。

不用意な発言で相手国の国民を刺激し、結果的に自身にとって都合が悪い状態をみずから作り出しているのですから、案外中国という国の行動も、わかりやすいものではないでしょうか。

というよりも、こうした「外交下手」は、じつは中国だけでなく、ロシア、北朝鮮などの4ヵ国(いわゆる「赤クアッド」)に共通する特徴でもあります。

たとえば違法なウクライナ侵略戦争を継続しているロシアの場合も、『タス通信』などのメディアを眺めていると、聞かれてもいないのに「答え」を述べていることがあるのに気づきます(『むしろロシアのメディアを読むとわかる?ロシアのウソ』等参照)。

あるいは、自分たちが相手を批判するときは、たいていの場合、「ゼロ対100理論」、すなわち「自分たちに側に100%の過失があったとしても、屁理屈を駆使し、とにかく責任の一端を相手の側にも押し付ける詭弁」を展開するというのも、中国、ロシア、北朝鮮などの4ヵ国の特徴といえるかもしれません。

ゼロ対100理論とは?

自分たちの側に100%の過失がある場合でも、屁理屈を駆使し、過失割合を「50対50」、あるいは「ゼロ対100」だと言い募るなど、まるで相手側にも落ち度があるかのように持っていく態度のこと。

(【出所】著者作成)

いずれにせよ、日本にとって現状、最大の軍事的脅威のひとつが中国であることを踏まえるなら、毛寧氏の発言自体、防衛費増額が日本にとっての正解であるという証拠そのものであることは間違いないでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. めたぼーん より:

    その四カ国は、基本的にブーメランが得意な国であり、無数のブーメランが後頭部に刺さっているのが特徴だな、と思います。またそれぞれタイプは違いますが、瀬戸際外交的なやり口も共通している気がします。

    1. KY より:

       そんな国々に媚びるパヨクって、裏切り者の自覚なんて皆無ですよね。

  2. Sky より:

    本件、正しく本投稿の序文で示した要約の通り。
    その場で質問した記者も、この発言を報道官に言わせたくて、予想通りの回答が出て、「キタ~、これこれ。こう来なくっちゃ」と思ったことでしょうね。

    1. 匿名 より:

      「感想お願いします、おおしまさん」
      「児嶋だよっ」
      みたいなやり取りってことか。

  3. はにわファクトリー より:

    サイト主がおっしゃっているタテヨコ検証は OSINT 界で言う cross checking 指針に対応しています
    これらとは別に、インターネット「記事」の信憑性判定を社会的に実験した例において、サイト同士(情報源)を見比べるだけでなく、サイトの傾向(編集部が好むストーリーやトレンド)に注目して評価すると信憑性結論が違っていたという指摘も出てます。ソースが出てきたらいつか再報告します。

  4. カズ より:

    敵基地攻撃能力は自衛手段の範疇ですね。
    侵略行為とは、異なる概念なのかと・・。

    1. より:

      侵略を企図している(と強く推定される)相手の軍事施設に対して予防的に行う攻撃は、一応自衛権の範囲ということになっているはずです。ただし、どこまでを自衛的措置として認めるかどうかは、学会内でも一致した見解はないと聞いています。
      実際、近代以降の多くの戦争でも、自国の存立に関わる自衛的な措置と称して攻撃が開始されたりしていますので(おそらくロシアは今回のウクライナ侵攻でもそのように主張しているはずです)、ある種慎重な運用が求められると思います。

      とは言え、攻撃手段を持つこと自体は、自衛的措置を実行するための手段を保持したということに過ぎませんので、とやかく言われる筋合いはありません。

  5. 元ジェネラリスト より:

    ロシアといっしょですよね。
    ウクライナはロシアの秩序の下にあらねばならない。
    日本は中国の秩序の下にあらねばならない。

    日本国内でも喜んでその秩序を受け入れたがる人もいるんですよね。
    今のままじゃウダツが上がらないから新秩序で日本の頭になりたいだけなんじゃないの。(偏見の私見)

  6. 通りすがり より:

    己の危険さを棚上げしてお前が言うな、と。
    あちら界隈は等しくレベルの低い言動行動を繰り返すというのは衆知の事実ですが、やたら大袈裟なだけにいちいち面倒くさいという共通点も。

    いっそゼロコロナ政策への反発で国家が転覆すればいいのに。

  7. 陰謀論者 より:

    この事関しては中国の言い分に全面的に賛同いたします。
     (中途半端な)防衛予算増額はたいへん危険です。忠告を真摯に受け止め、防衛予算を大幅に増額して、安全にしましょう。

    1. はにわファクトリー より:

      そして使い方には大いに気を付けましょう。
      乱脈経営、不正会計、粉飾決算の気配を当方は強く感じます。首の後ろをサンドペーパーでこすられる感触がするのは気のせいでしょうけれど。

  8. 引きこもり中年 より:

    毎度、ばかばかしいお話しを。
    朝日新聞&サンデーモーニング&社民党:「「日本は防衛予算を増額すべきでない」という自分たちの気持ちが分かってくれるのは、中国だけだ。本当に日本の愚民は、自分たちを忖度してくれない」
    だれか、笑い話だと言ってくれ。

  9. めがねのおやじ より:

    アレだけ外交部の毛寧報道官がヒートアップするところを見ると、中国は分かりやすい国だ(笑)。「来年度から5年間の防衛費が約43兆円」。まだまだぜんぜん大した額じゃないですか(笑)。GNPの2%前後?米国中国は幾ら使ってんの?遥かに多いでしょうに!この報道官は「日本は専守防衛という足枷で、そのまま中国に睨まれてろ!」と言いたげ。GNPの3%でも無駄じゃないと思いますが。

  10. sey g より:

    そういえば、中国の軍拡に対して日本は中国への侵略したいという衝動にかられたのでしょうか?
    日本のメディアは中国の軍拡に対して日本政府に中国への侵略をほどこしたのてしょうか?
    日本の軍備増強が逆に侵略を招くというのであれば 今迄の中国の軍備増強に対してどうしたのか知りたいですね。

  11. とおる より:

    >中国という国自体、じつはあまり「外交上手」ではないのかも

    日中国交正常化交渉と日中平和友好条約交渉に関する裏話を読むと、周恩来がいた頃の中国外交はけっこう強かな印象がありますが、最近の中国からはそうしたものは感じられないですね。

    >今回の中国の報道官による「防衛費を増額すればアジアなど近隣国に不安感を与える」などの発言は、まさに立憲民主党や日本共産党などの特定野党の議員のそれと、ソックリ

    上の裏話の一つですけど、日中国交正常化の翌年、社会党の川崎国際局長が訪中して、「日本の非武装中立」、「日米安全保障条約廃棄」、「日本の軍国主義化の防止」などの党の方針を中国側に伝えたところ、応対した中国側の代表から「軍隊を持たずして独立を維持することはできない」と自衛のため軍を持つべきと釘を刺されたというエピソードがあったとか。

    この頃、ダマンスキー島事件などで中ソ関係はかなり悪化していたため、中国には日米まで敵に回している余裕がなく、むしろ日本の自衛隊と日米同盟を容認してソ連を牽制する目論見だったところ、空気の読めていない社会党がやらかして中国から見限られることになったというから、なんだか笑ってしまいます。

    そういえば、未だに自衛隊の解消を目標に掲げている政党もあるようですが、配慮すべきだとする外国の一つ、中国さんがこのように仰っているんですから耳を傾けないといけませんね(棒)

    1. 引きこもり中年 より:

      とおる様
      (聞き流したので、エビデンスははっきりしないのですが)最近の中国の外交官は、相手国と交渉しないで、中国共産党内部に「自分は、相手国に、いかに強硬姿勢をとったか」を示すことをしているのだそうです。

      1. とおる より:

        なるほど、外国との駆け引きよりも、党内での出世や保身のための駆け引きに懸命になっているというわけですね。
        でも、それも無理もないのかもしれません。

        近頃ロシアでは、現体制に批判的な発言を行った人物が窓から転落して亡くなったり、国会議事堂内で転倒して亡くなったりしているそうで、どうも口を滑らせると足元が滑りやすくなるという謎の現象が起こっているようです。

        ロシアほどあからさまではないのかもしれませんが、同じ権威主義的な土壌の上に成り立つ中国で同様の謎現象が起こっても不思議はないですからね。

      2. より:

        まあ、現在の外相からして、全力で尻尾を振ることで政治局員にまで昇り詰めましたから、部下がそれに倣うのも無理はありません。

        王毅氏は、経歴を見る限り、ちょっと主流派とは思えないジャパンスクール上がりで、外交官としてかなりまともな人物だった(過去形)なんですがねえ。外相就任後はひたすら忠犬であることに徹してますね。

  12. 匿名 より:

    じつは中国だけでなく、ロシア、北朝鮮などの4ヵ国(いわゆる「赤クアッド」)に共通する特徴でもあります。
    ⇒中国、ロシア、北朝鮮、の3つと。あと1か国は敢えて書かなかったのですね?
    多分みんな分かっていますけどねw

  13. 同業者 より:

    まさに「どの口が言う」ですね。

    その4ヶ国の特徴と問われて、
    まず思い浮かぶのは「約束を守らない」ことでしょうね。
    故に、うち1国を除いて、有効な同盟国がありません。
    約束を守らない国と同盟を組んでも意味がありませんからね。
    例外の1国は、自国が得た僥倖を理解していないようです。
    契約書は紙くず扱いですし、他国との約束を守ろうとしません。

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