韓国企業で為替デリバティブ損失発生が相次ぐ=韓国紙
すでに通貨危機に片足?年間利益が吹き飛ぶ事例も!
すでに韓国が通貨危機に片足を突っ込んでいる可能性が出てきました。韓国メディア『韓国経済新聞』によると、為替デリバティブ取引で巨額の損失が発生したと開示した企業が、先週17日までにすでに20社を超えたのだそうです。なかには為替デリバティブ損失で純利益が吹き飛んだケースもあるようです。ただ、日本企業の常識からすれば、これは考え辛い話です。なぜなら、こうした損失の裏には「オーバーヘッジ」と呼ばれる状態が生じていた可能性があるからです。
目次
為替KIKOの記憶
2008年の金融危機当時、韓国で猛威を振るったた金融商品のひとつに、「為替KIKO」と呼ばれるものがあります。
これは「ノックイン・ノックアウト」、すなわち “Knock-In/Knock-Out” の頭文字をとったもので、デリバティブの一種である「オプション」と呼ばれる取引の一形態です。これを簡単に定義すれば、次のような取引のことです。
「ある金融指標(たとえば為替レート)が一定の水準に到達すれば何らかの権利(たとえばその一定の為替レートで外貨と自国通貨の交換ができる、など)が生じ(=ノックイン)、そこからさらに一定の水準に到達すれば権利が消滅(=ノックアウト)する」。
いきなりこんな話でスタートして、圧倒的多数の読者の皆さまはきょとんとされているのではないでしょうか?
おそらくこの説明だけで「すんなり理解できる」という人は少ないでしょうし、金融の専門家であっても、普段からオプションを触っている人でもない限りは、いきなり複雑なオプション戦略を説明されても、理解するのに少し時間がかかるのが通常でしょう。
架空のウォン建て為替KIKOの事例
ごく大雑把にいえば、「ウォン建て為替KIKO」とは、為替レートが一定水準よりもウォン高になれば儲かるけれども、一定水準以上のウォン安になると損をする、という商品です。ここでは架空の事例で「ウォン建て為替KIKO」の商品設計を紹介しましょう。
架空のウォン建て為替KIKO商品の具体例
- 契約期間:2022年9月1日~11月30日
- ノック・イン水準:1ドル=1500ウォン
- 権利行使価格:1ドル=1400ウォン
- ノックアウト水準:1ドル=1300ウォン
- ポイント① 契約期間中、直物為替相場がノック・イン水準(1ドル=1500ウォン)とノック・アウト水準(1ドル=1300ウォン)の範囲内で推移した場合には、オプション契約は契約満期日である11月30日で終了する
- ポイント② 契約期間中、直物為替相場が1度でもノック・アウト水準(1ドル=1300ウォン)を割り込んだ場合、そのオプション契約は直ちに終了する
- ポイント③ 契約期間中、直物為替相場が1度でもノック・イン水準(1ドル=1500ウォン)を超過した場合、かつ、契約満期日である11月30日時点で1ドル=1400ウォン以上だったときは、1ドル=1400ウォンで相手にドルを引き渡さなければならない
…。
文章で読むと、何とも複雑な取引です。
ですが、これについてはざっくり、こう考えていただければわかりやすいと思います。
- 9月1日から11月30日の間に1ドル=1300を割り込まず、1ドル=1500ウォンを超過しなかった場合、この企業は1ドル=1400ウォンでドルを銀行に売りつけることができる(為替相場が1ドル=1350ウォンなら高値で売りつけることができ、1ドル=1450ウォンなら権利放棄すれば良い)
- 9月1日から11月30日の間に、1度でも1ドル=1300ウォンを割り込んだ場合、オプション自体が消滅してしまう
- 9月1日から11月30日の間に、1度でも1ドル=1500ウォンを超過した場合、顧客は為替レートがいくらであろうが(たとえば1ドル=2000ウォンであろうが)、銀行に1ドル=1400ウォンでドルを引き渡さなければならない
ウォン安方向に行けば損失無限大
それでこの商品、いったい何が問題なのでしょうか。端的にいえば、想定以上のウォン安に向かえば、損失が無限に拡大するリスクがある、という点にあります。
まず、為替相場が契約期間中、1度も1ドル=1300ウォンを割り込まず、1度も1ドル=1500ウォンを突破しなかった場合には、この企業は1ドルを1400ウォンで銀行に売却する権利を持っているというわけであり、この場合に1ドル=1300~1400ウォンならば儲かることになります。
また、想定以上にウォン高が進んだとしても(たとえば1ドル=1000ウォンなどのウォン高となったとしても)、オプション自体が消滅してしまいますので、(為替ヘッジ効果が得られないものの)企業にとってはこの取引から損失が発生することはありません。
しかし、想定以上にウォン安が進んでしまった場合には、極端な話、損失は無限に膨らみかねません。たとえば通貨危機が生じ、1ドル=2500ウォンなどのハイパー・ウォン安が生じた場合には、この企業は為替市場で1ドル=2500ウォンで購入したドルを銀行に1ドル=1400ウォンで売る義務を負ってしまうからです。
レバレッジ型KIKOの本質は「オーバーヘッジ」
この場合の損害は、1ドルあたり1100ウォン(=2500-1400)ですが、それだけではありません。韓国社会で猛威を振るったのは、「レバレッジ型KIKO」と呼ばれる取引です。
これは、企業が為替リスクをヘッジする対象の金融商品(たとえば外貨建ての売掛金や買掛金など)に対し、数倍から、酷いケースだと数十倍もの想定元本でKIKO契約を結ぶ、というものです。
たとえばある企業が外国に商品を販売し、1000ドルの売掛金を持っていたとしましょう。この売掛金の為替リスクをヘッジするために、日本の感覚だと、この企業はヘッジ対象である売掛金に合わせて、想定元本1000ドル分の為替ヘッジ取引を取り組みます。
ところが、2008年頃に問題となった韓国のKIKOは、1000ドルのヘッジ対象に対し、2000ドル、3000ドル、あるいは酷い場合には1万ドル、2万ドルといった具合に、かなり高いレバレッジを掛けていたケースが散見されたのです。
ちなみに古い記事で恐縮ですが、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に2013年1月に掲載された次の記事によれば、2008年の世界的な金融危機の際に韓国ウォンが暴落したことで、KIKOで国内約770社が2.2兆ウォンの損失を出したと記載されています。
KIKOの呪い…円安で追い込まれた韓国の中小企業
―――2013.01.24 09:29付 中央日報日本語版より
このあたり、日本だと銀行や証券会社などがデリバティブ内包型の金融商品を販売する際には、非常に厳しいリスク説明義務が課せられているなどの事情もあってか、「レバレッジ型為替KIKO」のような複雑な金融商品が販売されているということは考え辛いところです。
というよりも、日本の場合はシンプルに為替予約、為替スワップ、直先フラット型通貨・ベーシススワップなどの金融商品が豊富であり、わざわざ「レバレッジ型為替KIKO」のような商品をヘッジ手段として使うというニーズには乏しいのでしょう。
今度は韓国企業で為替デリバティブ損失発生が相次ぐ
さて、どうしてこんな古い話を掘り返したのかといえば、韓国でウォン安により、デリバティブ損失を計上する企業が増えている、とする話題を、とある方から教えていただいたからです。
「為替レート1200ウォンで契約したが1400ウォンを超えて…デリバティブの損失で今年の利益をすべて失う」【※韓国語】
―――2022.11.17 18:25付(2022.11.18 02:08更新) 韓国経済新聞より
韓国メディア『韓国経済新聞(韓経)』によると、今年に入り、ウォン安にともない、ドルの先渡取引などを中心とするデリバティブ取引で、上場企業に大規模な損失が発生しているというのです。
具体的には、金融監督院の「電子公示」によると、今年に入ってから第3四半期(7-9月期)において、上場会社21社が外貨デリバティブの損失の発生を開示したそうであり、これは前年同期(2社)と比べて約10倍の水準なのだとか。
韓経はまた、これら21社で生じた確定損失額が3528億ウォン、評価損失が2040億ウォンと、それぞれ前年同期の143億ウォン、169億ウォンから急拡大したと指摘。しかも、21社のうち15社は時価総額5000億ウォン以下の中小型上場会社だ、などとしています。
韓経によると、韓国の開示制度上、自己資本の10%以上(大企業の場合は自己資本の5%以上)のデリバティブ損失が発生した場合に当該金額を開示する必要があるのだそうであり、自己資本の10%ないし5%に達していない大企業などを含めると、「外貨デリバティブ損失ははるかに大きいと推定される」のだそうです。
年間利益が吹き飛ぶ損失を発生させた事例も!
しかも、韓経の記事には、こんな趣旨の記述もあります。
「一部の企業はウォン弱でドル売上債権で為替差益が発生したが、デリバティブ関連損失を相殺するには逆不足だった」。
この情報自体はかなり断片的なものですが、これをそのまま信頼するならば、韓国企業において、いわゆる「オーバーヘッジ」、つまりヘッジ対象である金融資産・負債の額を上回る為替デリバティブを取り組んでいるという実務が、いまでも続いている可能性がある、ということです。
実際、韓経の記事によると、こんな趣旨の記述もあります(※企業会計の用語はJP-GAAPなどに準拠して修正しているほか、引用に当たって企業の実名は伏せています)。
「ディスプレイ機器メーカーの●●は市場拡大に支えられ、今期はサプライズ業績を上げることが期待されていた。しかし、1ドル=1400ウォンを超えるウォン安となり、1ドル=1200ウォンのときに契約した為替デリバティブで342億ウォンの損失が発生し、270億ドルを超える当期純損失を計上した」。
「●●では今年第3四半期までに133億ウォンの外貨デリバティブ損失が発生した。これは同社の昨年の純利益(171億ウォン)に匹敵する規模だ。結局、同社は第3四半期において60億ウォンの最終損失に転落した」。
このあたりは本当に不思議です。なんどか記事を読み返してみたのですが、通常のヘッジ活動で、利益を吹き飛ばす損失が発生することは、基本的にはあり得ないからです。
すでに通貨危機は始まりかけている!?
ただ、先ほど挙げた2008年頃のレバレッジ型KIKOの事例でも見たとおり、考えられる可能性としてはやはり、韓国企業ではいわゆるオーバーヘッジ(たとえば1000ドルの金銭債権に2000ドルのデリバティブでヘッジを掛ける行為)という取引慣行が横行しているのではないかと疑わざるを得ません。
このあたり、日本企業の事例でいえば、企業会計上、ヘッジ会計の適用要件が厳格であるなどの事情もあり、たとえば1000ドルの売掛債権に対して2000ドルの為替ヘッジを掛けるということは、通常であれば考えられません。
ただし、日本の常識は海外の非常識でもありますし、著者も自身の認識の甘さを痛感しています。
というのも、当ウェブサイトではこれまで、「ウォン安になれば通貨危機のリスクが高まる」、という点を中心に議論してきたからですが、まさかすでに通貨危機に片足を突っ込んでいるとは思わなかったからです。
しかも、韓経によれば、輸出比率が高い大企業でも外貨デリバティブで大きな損失が発生している可能性があるとして、現代重工業が想定元本12兆6225億ウォン分の通貨先渡契約を、サムスン電子が2717件の通貨先渡契約を締結している、などと説明しています。
「オーバーヘッジ(ヘッジのし過ぎ)による為替損失」というのは、韓国経済について議論するうえで、じつは隠れた重要なテーマのひとつなのかもしれません。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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鈴置高史氏もどこかで書いておられましたが、やはり彼の国は政府(通貨当局)も国民もバクチがお好きな民族性なんだね、ということなのでしょうか?
日本が彼の国にできることといったら、「(オーバーヘッジの)ご利用は計画的に、且つ自己責任で」と云ってあげる程度ではないでしょうか。
というか、せいぜいそれぐらいでとどめておいてもらいたいものです。
そんな余計なことは言わないこと…ですよ。
団塊 様
返信有り難うございます。
自己責任で、ここだけははっきり言っておく必要があると考えております。
ということを,わざわざ日本が韓国に言う必要など皆無で余計なお世話だということですよ.
一般論ですが,当方に全く無関係で相手が勝手にやっている事柄に対して相手に何らかの口を出せば,当方にも口を出したこと=相手に干渉したことによる何らかの責任が僅かなりとも生じてしまうのですよ.
仮に,その口出しが「それは自己責任だよ」という一種の忠告あるいは警告でさえ,です.
何故ならば,「それは(=それで大損しても)自己責任だよ」という日本からの忠告や警告によって,韓国企業が大きなレバレッジを掛けた一種のギャンブルを止めるといった形で当初彼らが考えていた行動を変更をする(そして行動を変えたことによる何らかの損失を韓国側が蒙る)可能性が生じるからです.
口を出すというのは,口を出す側にとってそういう危険性を必ず孕んでいるのです.
相手と関わり合いになりたくないのならば,当方に影響が生じない限りは徹底的に突き放しておくことです.
具体的に言えば,相手が当方に言いがかりをつけて来たり当方を誹謗中傷したりして来ない限り,余計なことは言わないで黙って放っておくことです.そして,そういう攻撃を相手が当方に仕掛けて来たら,徹底的に反論し反撃することです.
団塊さんの言いたかったこともそういうことだと推察します.
為替ゲームはゼロサムゲームに近ですから,得する人と損する人がいます。韓国のマスコミは,物事を感情的に大袈裟に書き立ててて販売部数を稼ごうとする傾向が強いように見えます。
とはいうものの,為替も個人的には今のところ0負です。韓国人やアメリカ人が博打好き(投資好き)というより,日本人が先進国の中では例外的に銀行預金好き(投資嫌い)なだけでしょう。
>「オーバーヘッジ(ヘッジのし過ぎ)による為替損失」
当局の為替介入にアグラをかいた小銭稼ぎのつもりが、「転ばぬ先の双頭槍」だったなんてデスね・・。
彼らは、K躓きマスター。愚策(グサッ)! ・・こうかは ばつぐんだ!
財テクって言葉が懐かしいですね。
その年間利益が吹き飛んだ事例は、金融商品をリスクヘッジのためじゃなくて一攫千金得るために買ってたってことでしょう?リスク回避じゃなくリスク取り。
目的が違うじゃんと。それを止める人もいなかったんでしょうかね。
こういうことやる企業、韓国内ではどれくらいの割合なんでしょうね。
まあそれでも、一攫千金狙いの人間が一定数いるのは確かなようですから、韓国だと金融商品は安全性は置いといてとりあえずレバレッジ高く設定しときゃ売れそうな気がします。
カジノ誘致でよく聞いた「射幸心を煽る」ってやつでしょうか。
とりあえず企業の業績が悪化するところまではわかるのですが
韓国経済全体への影響は
・オーバーヘッジで利益だけでなく運転資金などまで吹っ飛んで倒産する
・倒産企業の従業員がマンション投資をしていた場合、破産にまっしぐら
・上記2点で金融に大打撃
という感じなのでしょうか?
いまひとつピンと来ていないもので、ふわっとした感じになって申し訳ないです。
オーバーヘッジで損失が出た場合、自分の損失=相手の利益ですので、儲けた相手がいるわけですが、その相手はどこにいるのでしょうか?
相手が国内であれば、国全体としてみれば利益も損も発生せず、何の問題もないように見えますが、外国相手に売っていたという事でよろしいでしょか??
国全体としては問題なかったとしても、当該企業にとっては大問題なのでは?
>、外国相手に売って
い
たら、大韓民国の銀行大儲け!なんじゃありませんか
国全体でみたら問題ない事が、どうして通貨危機につながるのが疑問に思ったという事です。
相手はオーバーヘッジしていない人なんじゃないですか。
だから、設けたという感じよりも、為替リスクを回避したって感じなんだと思うよ。
バブルのとき、こういう飛ぶ鳥を落とす勢いの企業、その後をNHKでやってましたね。