日本が対ロシアで「4番目の債権国」に浮上してしまう

べつに日本の金融機関が対露与信を増やしたわけではなさそう

本稿以降、しばらくは国際決済銀行(BIS)が公表する『国際与信統計』をもとに、いくつかの国の国際与信状況について確認してみたいと思います。手始めに、本稿ではロシアに対する最新の与信状況を確認しておきます。なんと、ロシアにとって日本が第4番目の債権者に浮上したようです。といっても、べつに邦銀がロシア向けの貸出を増やしたからではありません。フランスがロシア向けの債権を圧縮したからです。

2022/11/10 12:15追記

記事ジャンル指定を誤っていましたので修正しております。

国際与信統計

昨日の『世界最大の債権国・日本はどこにいくら貸しているのか』では、国際決済銀行(BIS)が公表している『国際与信統計』(Consolidated Banking Statistics, CBS)をもとに、日本が世界最大の債権国であること、その日本がカネを貸している相手国としては米国が圧倒的に多いこと――などを概観しました。

ただ、このBIS統計自体は日本だけでなく、さまざまな国のデータを確認することができます。

そこで、本稿を含め、いくつかの「各論」で、日本と外国の「カネのつながり」、あるいは外国同士の「カネのつながり」を確認してみたいと思います。

ロシアに対する与信相手国

さっそくですが、かなり以前の『対ロシア与信リスクは仏伊墺の3ヵ国に集中=与信統計』でも触れた論点の続きで、ロシアと西側諸国の「カネのつながり」を確認してみましょう。

昨年12月末の時点では、ロシアはBIS報告国の金融機関からは1052億ドルの資金を借り入れていましたが、これが6月末時点で見ると、残高は847億ドルほどに減っていることが確認できます(図表1)。

図表1 ロシアに対する国際与信の状況(2022年6月末時点)
相手国金額構成割合
1位:イタリア240億ドル28.37%
2位:オーストリア227億ドル26.78%
3位:米国99億ドル11.75%
4位:日本94億ドル11.06%
5位:フランス71億ドル8.42%
6位:ドイツ42億ドル4.97%
7位:韓国12億ドル1.43%
8位:英国5億ドル0.64%
9位:スペイン2億ドル0.22%
10位:フィンランド2億ドル0.21%
その他52億ドル6.14%
合計847億ドル100.00%

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Consolidated banking statistics データより著者作成)

日本が4位に浮上!?→たんにフランスがロシア向け与信を圧縮したから

注目すべきは日本がロシアに対する与信相手国として第4位に浮上したことでしょう。

ただ、これはべつに日本の金融機関がロシアに対する与信を増やしたためではありません。フランスがロシアに対する与信を大きく落とすなどしたため、これによって結果的に日本が4位に浮上したに過ぎないのです。これを図示したものが、次の図表2です。

図表2 対露与信の変化(2021年12月→2022年6月)
相手国2021年12月末2022年6月末
1位:イタリア229億ドル240億ドル
2位:オーストリア179億ドル227億ドル
3位:米国157億ドル99億ドル
4位:日本98億ドル94億ドル
5位:フランス252億ドル71億ドル
6位:ドイツ46億ドル42億ドル
7位:韓国14億ドル12億ドル
8位:英国16億ドル5億ドル
9位:スペイン3億ドル2億ドル
10位:フィンランド6億ドル2億ドル
その他51億ドル52億ドル
合計1052億ドル847億ドル

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Consolidated banking statistics データより著者作成)

ここでも明らかなとおり、ウクライナ戦争開始直前の2021年12月時点において、ロシアに対する与信を積み上げていた欧州の3大国がフランス、イタリア、オーストリアだったのですが、この順位には変動が生じています。

具体的には、フランスの対露与信は252億ドルから71億ドルに激減する一方、イタリアは229億ドルから240億ドルへと微増。さらにオーストリアは179億ドルから227億ドルへと大きく残高を積み増しているのが確認できるのです。

また、日本の対露与信は近年、100億ドル前後で安定しているのですが、逆に「これ以上減らせない」というレベルにあるのでしょう。実際、『3メガバンク、対ロシア貸倒引当計上にも関わらず増益』でも触れたとおり、すでにメガバンクを含めた邦銀は対露与信の償却・引当処理をひととおり終えています。

おそらく統計に掲載されている金額は償却引当前の取得原価ベースの数値でしょう。したがって、日本の金融機関の対露与信が西側諸国で第4位に浮上したからといって、さして気にする必要はなさそうです(タイトル詐欺のようになってしまいましたが…)。

クリミア半島併合後に激減した対露与信

ところで、ロシアに対する国際与信の状況を2005年6月からグラフ化(図表3)してみると、興味深いことがわかります。西側諸国の対ロシア与信は2013年3月末において2586億ドルと過去最高を記録したものの、その後は減少の一途をたどっているのです。

図表3 ロシアに対する国際与信

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Consolidated banking statistics データより著者作成)

オーストリアの対露与信データが一部損なわれているため、グラフ作成の都合上、グラフが若干わかり辛い年が含まれていることについてはご容赦ください。ロシアがクリミア半島を「併合」したのが2014年3月のことですが、それ以降、「つるべ落とし」のように対露与信が減少しているのです。

また、この2014年以降の対露与信の減少を踏まえると、ウクライナ戦争開始後もたしかに対露与信は減っているのですが、正直、これ以上減りようがないというレベルではないでしょうか。

なお、オーストリアといえば、ウクライナに対する与信が多い国でもあります。

といっても、そもそも近年、西側諸国のウクライナに対する国際与信はせいぜい100億ドル少々に過ぎませんが、やはりオーストリアは欧州・西側諸国のなかでも地理的に見て最も東側に近い国のひとつだったという歴史的経緯も影響しているのかもしれません(図表4)。

図表4 ウクライナに対する国際与信

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Consolidated banking statistics データより著者作成)

ただ、近いうちにロシアが敗北し、西側諸国が凍結しているロシアの外貨準備資産などが没収され、ウクライナの復興支援に廻されるなどの構想が実現すれば、ロシアの負担でウクライナの復興が加速することも想定されます。

したがって、近い将来、ウクライナに対する国際与信が大きく増えるという展開が生じるのかどうかにも注目したいと思う次第です。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. カズ より:

    >クリミア半島併合後に激減した対露与信

    我が物として占拠したクリミアが、(it’s mine)
    経済の地雷だったのかもですね。(it’s a mine)

    G8落ちで ”the end” 的なオチも・・。

  2. 土地家屋調査士 より:

    おはようございます。
    早朝からの記事更新をありがとうございます。

    日本国は債権回収下手と思います。
    昨日のCRUSH 様の主張通り、「債権は回収して初めて価値が生じる」です。
    ウクライナへはいかに早い内に勝ち馬に乗れると判断するか?、と思います。
    ウクライナの小麦などの輸入利権が欲しければ、早い内に復興援助すべきで、他国に遅れを取れば輸入利権の枠が無くなる。
    ある意味、投資なので、日本国は下手と考えます。

  3. とある福岡市民 より:

    >オーストリアは欧州・西側諸国のなかでも地理的に見て最も東側に近い国のひとつ

     ウクライナはオーストリア帝国の領土の一つでしたから、ウクライナとはソ連時代も含めて何らかの経済的な繋がりがあったのでしょう。
     ウクライナ西部のリヴィウ周辺の地域「東ガリツィア」はオーストリア帝国の領土の一つでした。

     日本が韓国に多額の債権や資産を保有しているように、過去200年以内に領土の一部だったところには積極的な融資や投資をする傾向があるようです。理由は分かりませんが。

  4. 引きこもり中年 より:

    素朴な感想ですが、所詮、世界は、建前は守りつつ、利益優先ということでしょう。(建前を本気で信じているのは、日本だけでしょうか。綺麗なら上手くいくと信じているのでしょう)

    1. 攻撃型原潜#$%&〇X より:

      それはケンポーキュウジョー教信者の方々へ言ってください。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

引きこもり中年 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告