アイリスオーヤマが一部の製造拠点を国内回帰へ=報道

円安のためでしょうか、アイリスオーヤマが一部の製品の製造拠点を中国から日本に戻すそうです。こうした流れが続くのかどうかには注目したいと思いますが、すでに日本企業の経常利益が上昇し始めているというデータも出て来ています。もちろん、円高や円安が日本経済に与える影響は単純なものではありませんが、アイリスオーヤマのケースに続く企業が出てくるのかどうかは興味深いところです。

円高と円安の関係:2ドルの製品は日本でいくら?

当ウェブサイトでもこれまでに何度となく取り上げてきましたが、変動相場制のもとで自国通貨の価値が上昇したり、下降したりすることには、さまざまな影響があります(日本の場合、自国通貨高を「円高」、自国通貨安を「円安」と呼ぶことが一般的です)。

以下の議論では、輸送コスト、関税、輸出入業者の利潤などについては、一切無視します。

さて、自国通貨高の場合は、輸出競争力が低下する一方、輸入購買力が上昇します。

たとえば1ドル=200円の時代だと、外国で2ドルで売られている物を輸入してくると、その値段は日本国内では400円です。しかし、これが1ドル=100円の円高になれば、これまで400円だった輸入品の値段は200円に下落するはずです。

2ドルの製品は日本国内でいくらで販売されるか
  • 1ドル=200円のとき…400円
  • 1ドル=100円のとき…200円

同じ製品を日本で作れば…

ここまでの議論は、おそらくは小学生でもわかるはずです。そして、この理解に基づけば、日本製品が外国でどうなるか、という議論にも続きます。

ここで同じ製品を、外国から1ドルの原材料を購入して日本国内で製造する場合を考えてみましょう(国内での加工賃は100円、利潤は100円とします)。

1ドル=200円の時代だと、原材料費1ドル=200円と加工賃100円、利潤100円の合計で、この製品の国内での販売価格は400円ですし、これを外国に輸出したら2ドルです。したがって、国産品と海外製品の価格はまったく同じです。

しかし、この状態で1ドル=100円の円高になれば、この製品の価格は国内での販売は300円に下落します。加工賃100円と利潤100円は変わらないのですが、1ドルの原材料費の円換算額が200円から100円に下落するからです。これが円高の「恩恵」のようなものでしょう。

しかし、せっかく300円に下落したとしても、1ドル=100円のときにこれを外国に輸出すれば、その価格は3ドルです。1ドル=200円の時代だと2ドルでしたので、逆に1ドル値上がりしてしまう格好です。

円高による輸出競争力の変化
  • 1ドル=200円のとき…400円→2ドル
  • 1ドル=100円のとき…300円→3ドル

このため、1ドル=200円の時代だと、外国製品も日本製品も、外国で2ドル、日本で400円で売られていた製品が、1ドル=100円の時代になってしまうと、外国製品は2ドル・200円ですが、日本製品は3ドル・300円です。同じ品質なら、だれもが日本製品ではなく外国製品を買うでしょう。

円高は日本の製造業者にとっては大変な逆風

このように、ごく単純化すれば、円高になれば外国製品の値段が下がり、また、材料費の下落を通じて国内の製品の価格も下がる(可能性がある)一方、輸出企業にとっては大変な逆風であることがわかります。

ちなみに「1ドル=100円が200円になるような極端な円高を例に出されても困る」、といったお叱りを受けるかもしれませんが、かつては1ドル=360円だったドル円相場が、民主党政権時代の2011年10月28日には1ドル=75.77円という史上最高水準を記録していた事実を忘れてはなりません(※約4.7倍です)。

結局、日本はこの円高に対応するため、トヨタ自動車の「カンバン方式」にみられるように、コストカットや経営の合理化、あるいは製品の高付加価値化などによって乗り切ってきたのですが、さすがに1ドル=100円を割り込む円高には無理があったようです。

ちなみにエルピーダメモリが経営破綻したのは2012年2月のことです。エルピーダの経営破綻の理由が円高のみにあると申し上げるつもりはありませんが(とくに当時の民主党政権の無為無策という要因もありました)、それでもエルピーダの経営破綻は円高を象徴するエピソードであることは間違いないでしょう。

そして、円安は上記と逆の現象が発生します。

まず、輸入品の値段が全般的に上昇しますので、同じ品質であれば日本国内で作った製品を買った方が安くなります。これが「輸入代替効果」です。また、日本製品が全般的に安くなりますので、当然、日本製品に対する需要が世界的に増えます。これが「輸出競争力の上昇」です。

アイリスオーヤマが一部製品の拠点を日本に移管

こうした議論をこれまで当ウェブサイトでは何度となく展開してきたつもりなのですが、徐々にその実例が出始めているようです。

アイリスオーヤマ、中国から国内に生産移して「コスト2割減」…SNSで議論沸騰「経済回復に貢献」「日本は安くなった」

―――2022/9/15 15:22付 Yahoo!ニュースより【※FLASH配信】

週刊誌『FLASH』が『Yahoo!ニュース』に配信した記事によれば、生活用品大手のアイリスオーヤマが衣装ケースなどプラスチック製品を中心とする約50種類の製品の生産を、中国・大連から埼玉県深谷市などの国内の3工場に移管するのだそうです。

埼玉県深谷市の工場には、すでに生産に必要な6種類の金型が到着。国内生産に切り替えることで、約2割のコスト削減が見込めるため、さらに園芸・除雪用品などの移管も検討してるという」。

また、同記事によれば、アイリスオーヤマは約100億円を投じ、岡山県瀬戸市内の新工場を2024年に着工するほか、「同社に限らず、日本の製造業の国内回帰の機運が高まっている」、などとしています。

もちろん、記事に基づけば、今回の動きはあくまでも輸送コストなどの上昇の影響もあるため、単純な円安要因によるものではなさそうです。

また、昨今はウクライナ戦争や中国のロックダウンなどの影響もあり、資源コストが全般的に上昇しているため、円安との「ダブルパンチ」が存在しています。これに加えて生産拠点の国内シフトは急速に進むものではありませんので、短期的には円安による物価上昇という弊害が生じます。

さらには、日本の製品やサービスに対する需要が世界的に高まるため、需給の関係もあり、日本製品の値段が全般的に上昇するかもしれません。

一例をあげると、『あの「地球の歩き方」シリーズについに「日本」が登場』でも取り上げましたが、もしも日本政府が外国人観光客の受入を全面的に正常化した場合、おそらく間違いなく、これから日本国内のホテル代などが上昇するでしょう。外国人観光客が日本に殺到するからです。

当然、これからしばらくは庶民の生活が苦しくなる、といった展開も考えておかねばなりません。

業績はすでに上昇し始めている!

ただ、それと同時に、企業業績がすでに上昇し始めているという事実についても、踏まえておかねばなりません。『これぞ円安の恩恵?全産業の経常利益が過去最大を記録』でも紹介したとおり、現実には日本企業の四半期経常利益が過去最高に達しているからです(図表1図表2)。

図表1 全産業(金融業・保険業を含む)の経常利益(四半期)

(【出所】『四半期別法人企業統計調査』をもとに著者作成)

図表2 全産業(金融業・保険業を除く)の経常利益(四半期)

(【出所】『四半期別法人企業統計調査』をもとに著者作成)

企業業績が向上すれば、その分、まずは大企業において人件費が上昇し、法人税などの税収が増えますし、やがてはこれらの利益が社会全般にいきわたるという効果が生じます。その意味では、円安と企業業績の関係については注目しておく価値はあるでしょう。

なお、こうした議論に加え、現在の日本が海外に対する「純債権国」である、という状況も見逃せません。

日本の金融機関などが海外に対し、5兆ドル近くに達する巨額の与信を積み上げていること、日本企業が2兆ドル近くに達する投資を積み上げていることを思い出すと、円安で日本から外国資本が引き上げられ、日本に通貨危機が生じる、といった可能性は皆無と考えて良いでしょう。

いずれにせよ、円安がいつまで、どこまで続くのかについてはまだよくわかりませんが、日本に製造業が戻る動きが続き、原発再稼働や原発の新増設が進めば、民主党政権禍で傷ついた日本経済の復興が加速すると信じたいものです。

読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    バイトの時給は既に大幅に上がり始めてますからね
    円安で損するのは金持ちインフルエンサーや、生活保護受給者、ニートなどかな
    うーん、どれも日本からしたらどうでも良い奴らばかりww

    1. トーシロ より:

      生保受給者も皆が好きで受けてるわけじゃないですから、その言い方は・・・。

      まぁ中途雇用の促進とそれに向けた職業学校の拡充・教育カリキュラムの徹底・再雇用手順の明確化などは必要とは思います。
      売り手市場で欲される被雇用者の養成が必要でしょう。

      1. 一之介 より:

        トーシロ様
        まったくもっておっしゃるとおりだと思います。
        同感です。

  2. Sky より:

    アイリスオーヤマは、COVID-19の影響で日本国内でマスク需要が急拡大して市場在庫切れとなったとき、いち早く国内生産を名乗り出た企業の一つであったと記憶しています。元々フットワークの軽い企業文化をお持ちであると推察しますが、これを機にフォロワー企業が現れることを期待します。なんたって国内に職場があるのは重要なことだと思います。

  3. わんわん より:

    テーマからズレます
    なんかな〜
    (一部のネット民だが)在韓企業だと散々叩いておいて都合の良いときだけ「国内回帰歓迎」は恥ずかしい

     卓球の張本 テニスの大坂等も同じ
    ※敬称略

  4. 犬HK より:

    うーむ、アイリスオーヤマか…

    微妙なラインですね。
    国内回帰自体はいいことなんでしょうけど。

  5. まだない より:

    アイリスオーヤマは在日企業だからロッテみたいになる前に脱出を図ったか?

  6. 匿名 より:

    さて日本に移管しても電力不足、労働力不足ですからね

    今年の冬は原発の再稼働が間に合わないので本当に厳しくなりそうとのことです
    また地方の若者は高齢者向けの介護などの仕事に就いているので、よほど給与面や労働時間などでメリットが無いと働いてくれないでしょう

    1. はるちゃん より:

      >さて日本に移管しても電力不足、労働力不足ですからね

      日本の電力が安いわけでもありませんし、労働力も不足気味ですので、単なる国内回帰だけではいけません。
      過去の例を見ると、一般的に不景気などの試練を乗り越えた企業は、以前よりも競争力が強化された例が多いようです。
      生産性の向上や競合他社との差別化も併せて行う必要があります。

  7. クマ より:

    本当に「企業業績が向上すれば、その分、まずは大企業において人件費が上昇」するのでしょうか。来年の春闘で、大幅なベースアップが行われるのでしょうか。

  8. ジン より:

     ウチは大手の下請けですが毎月値上げに
    応じてもらっていますが、天然ガスなどの値段
    により損益分岐点がかなり変わってきます。
     円安の影響なのか中国に移管されていた仕事が
    ジワジワ戻ってきています。中国でもできる仕事は利が薄いのですが無いよりはマシな状況です。
     品質などの兼合いによりコスパを日本国内での
    生産はコスパが良いようです。 
     生産を向上させつつ技術技能をさらに磨くこと
    が必要かと思います。

    1. ジン より:

       品質などの兼合いにより日本国内で生産
      する方がコスパが良いようです。 
       生産性を向上させつつ
      でした。

  9. まんさく より:

    為替は5〜10年周期で高くなったり低くなったりします。しかし、為替が変動するたびに大規模な生産地移転とかしてられません。特に高価な設備が必要な業界は、長期戦略に基づいて生産地配置を考えます。また、企業もバカではないので、短期の為替変動に対しては為替予約などの対策はしています。

    アイリスの場合、衣装ケースなど樹脂製品が多いので、金型だけ移管すれば比較的簡単に生産地移転ができるので、今回の様な話になったのでしょう。

    今後は経済安保の観点での移転が増えると思います。サプライチェーンと先端技術保護が、生産地決定の鍵になるかと思います。

  10. 名無しのPCパーツ より:

    まあ中国の人件費もかなり上がったしね。

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