韓国でウォン安が進行:「通貨危機」の心配はないのか

韓国メディアの報道などに基づけば、韓国ウォンが本日、13年4ヵ月ぶりに1ドル=1330ウォンを超えました。今回のウォン安局面自体、韓国に対する先行き不安から生じたものというよりはむしろ、米国の利上げ観測などに基づくものではあります。しかし、多くの企業が外国から外貨などで資金を調達しているという韓国にとって、ウォン安は韓国からの資金流出のきっかけとなりかねないものでもあります。

対外債務は過去最大=韓国

どうも最近、隣国の資金フローが不安定化しているように思えてなりません。

先週金曜日の『韓国の対外債務は過去最大:外貨準備高との関係は…?』で話題として触れたとおり、韓国銀行が発表したデータに基づけば、2022年6月末時点における韓国の対外債務は6620億ドルで、リーマン時の2008年6月時点の3663億ドルと比べ1.8倍に膨張していることが明らかになりました。

あらためてグラフで示しておくと、その膨張ぶりは明らかでしょう(図表1)。

図表1 韓国の対外債務

(【出所】韓国銀行データをもとに著者作成)

これで見ると、とくに長期債務が増大していることがわかりますが、その一方で短期債務についても1838億ドルとリーマン時(1768億ドル)を超過し、史上最大水準にあります。

また、韓国の外貨準備のうち、すぐに現金化できる部分(現金預金+有価証券)の残高とこの短期対外債務を比較してみたものが、図表2です。

図表2 韓国の外貨準備と短期債務

(【出所】韓国銀行データをもとに著者作成)

韓国の外貨準備、本当に大丈夫なのか?

韓国の外貨準備は危機に際して急減するという特徴がありますが、実際、最近の韓国の外貨準備高が減少傾向にあるというのは、「同国が事実上の通貨防衛を余儀なくされている」とする仮定を置くと、すっきりと説明がつく現象でもあります。

しかも、韓国銀行が「保有している」と自称する外貨準備については、その実在性、換金可能性を巡っては何かと疑義があることも事実です。

たとえば『韓国外貨準備データと米財務省データの「大きな差額」』でも述べたとおり、韓国銀行が発表している外貨準備高と、米国財務省が発表している「外国からの米国債投資」を比べると、両者には明らかな差異(あるいは矛盾)が生じています。韓国が保有する米国債の金額が少なすぎるのです。

こうした差異を説明する要因としては、『韓国が外貨準備高のうち1573億ドルを「積極投資」』などでも述べたとおり、どうも韓国銀行自身が本来ならば安全資産に投資すべき外貨準備を「積極投資」していることで、外貨準備高に、即時換金が困難な資産が多数紛れ込んでいる可能性は指摘できるでしょう。

いずれにせよ、図表2で見る限り、韓国の外貨準備高は短期対外債務の金額を大きく上回っているかにも見えますが、仮にこの外貨準備のうちの2000億ドル前後が「即時換金が困難な資産」だったとしたら、韓国で「第三次通貨危機」が生じるという危険性は排除できません。

約13年4ヵ月ぶりの通貨安

こうしたなか、同国の外為市場では最近、ジリジリと通貨安が続いています。

韓国ウォンの対米ドル相場(USDKRW)はアジア通貨危機直前だと1ドル=900ウォン前後で取引されていましたが、危機が最も深刻化した1997年12月23日には最安値ベースで1ドル=1,995.0ウォンを記録。

また、USDKRWは2008年のグローバル金融危機(GFC、リーマン・ショック)時の2008年11月21日に1ドル=1,525.0ウォン、翌・3月6日には1ドル=1,597.0(いずれも最安値ベース)にまで売りこまれています。

ただ、2009年4月29日に1ドル=1,357.6ウォンの水準を記録して以降は、同国通貨は落ち着きを取り戻し、1ドル=1000~1200ウォンの狭いレンジで取引されていました。この均衡が明らかに破られ始めたのが、今年の為替市場です。

図表3は、USDKRWの年初来の水準をグラフ化したものです。

図表3 USDKRW(2022年1月3日以降)

(【出所】韓国銀行データをもとに著者作成)

これで見ると、見事に「つるべ落とし」のようにウォンが値下がりしている状況がわかります。

もちろん、年初来のウォン安は、「ウォンの価値が下がった」というよりはむしろ、米国でインフレ退治を名目にした旺盛な利上げが行われていることなどを受けた「世界的なドル高」という側面の方が強いのですが、それにしてもウォン安は止まりません。

13年4ヵ月ぶりのウォン安

そして本日、ついには1ドル=1330ウォンの大台を突破したようです。

ウォン相場、13年4カ月ぶりに1ドル=1330ウォン突破

―――2022.08.22 09:46付 中央日報日本語版より

韓国メディア『中央日報』の報道によると、ソウル外為市場では22日午前9時時点で1ドル=1335.50ウォンで寄り付き、2009年4月29日の1357.50ウォン以来、13年4ヵ月ぶりに1330ウォンの大台を超えた、などとしています。

もちろん、外為市場ではドルに対する円安・ユーロ安なども進んでおり、今回のウォン安は「韓国の通貨危機不安を受けたもの」というよりはむしろ、FRBの追加利上げ観測などを受けた「米国要因」に基づくものと考えた方が正確でしょう。

しかし、対外的な債務が資金循環構造上の重要性を持たない日本の場合と異なり、韓国のように、外貨建てなどで外国から資金調達をしている国の場合、ウォン安は韓国からの資金流出(通貨危機)をもたらす一種の「引き金」となりかねません。

こうした状況に照らすなら、韓国の通貨当局としては、行き過ぎた通貨安を牽制せざるを得ず、為替介入でさらに貴重な外貨を溶かさざるを得なくなるという展開は続きそうです。なにより韓国銀行の国際投機筋などとの攻防の帰趨は気になるところですし、韓国銀行による通貨防衛戦は、むしろこれからが本番といえるのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 引っ掛かったオタク より:

    いつの間にやら…こりゃ湊川もあっさり突破するんでしょーな
    韓銀の銀玉鉄砲まだ無駄撃ちしてるのかしら?
    すでに弾切れ??
    韓だけにゾンビしそうではある…

  2. sey g より:

    97年の通貨危機を越えて、ドラえもんや21エモンを突破して欲しいと期待してるのは秘密です。

  3. 通りすがりの自由人 より:

    最近はノーガード戦法に切り替えたのでしょうかね。
    癒し系コンテンツとして生温かく見守っています。

  4. 豆鉄砲 より:

    グイグイっと安くなってますが。水曜くらいからですかね?本気で抵抗始めるのは。

  5. 怒髪天 より:

    そう言えば、イランの原油代金どうなったのでしょうかね。

  6. サムライアベンジャー(「匿名」というHNを使っている方には返信しません) より:

    現在、1ドル=1339ウォンくらい。
    介入資金がないのですかね、まあ跳ね返してもヘッジファンドたちは韓国通貨攻撃をやめる気配がないようですが。

    通貨がやばいのに、ホワイト国とか、ニセ徴用工とかやってる暇あるんですかね。

    1. 甲茶が飲みたい より:

      逆ですよ
      通貨がヤバいので「チョッパリ! 助けさせてやるからカネをよこすニダ!!」しないと生きていけないんですよ

      1. サムライアベンジャー より:

        >>甲茶が飲みたい様
         確かに、ですよね。「助けさせてやるからカネをよこすニダ!!」ってゆう態度ですからね、いつも。

         そういえば最近、スワップスワップ喚きませんね。さすがにあきらめたかな?彼らがそう簡単にあきらめるとも思えませんが。

  7. がみ より:

    日米中イラン:

    「ごめんなさいが聞こえない! ごめんなさいが聞こえないっ!」

  8. クロワッサン より:

    韓国は、冊封国に戻って通貨を「人民元」にすれば通貨防衛も出来て万々歳な気がしますが。

    身の程を知らずに独立国で居ようとするから大変な訳ですし。

  9. ちょっと待って より:

    >>日韓両国の中堅議員らが米国務省の招待で8月末にワシントンで「合宿」する。「最悪」とされる日韓関係の改善を目指し、米側が「仲介役」に ..

    せっかく最高の日韓関係になりつつあるのにアメリカ余計な事スンナ💢

    しかしソースは聯合ニュース
    「そんな事は言っていない」であってほしい。

  10. 丸に違い矢 より:

    前回、デフォルトを起こした時に韓国の有力起業家に米国資本がなだれ込みデフォルト以前の様な打たれ弱さが無くなった(米国の投資が簡単に資金を撤収しなくなった)のでは…と思っていはじめてます。
    まぁ、米国資本が本格的に逃げたとか韓国市場に見切りつけたと為れば、前回より速く“倒壊”するのでしょうけど…

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