国際決済でルーブルに代わって浮上した「意外な通貨」
SWIFT通貨別決済シェアランキングの最新版が本日、公表されています。これによると人民元の国際化は相変わらず進んでいないことに加え、ロシアの通貨・ルーブルが国際的な決済市場から完全に姿を消したことがわかります。また、特筆すべき点があるとしたら、サウジアラビアの通貨・リヤルが前月に続き、今月もランキングの20位に姿を見せている、という点かもしれません。
RMBトラッカー
国際的な決済システムを運営しているSWIFTが毎月公表している『RMBトラッカー』というレポートがあります。
これはSWIFTが2012年ごろから公表しているものすが、「RMB」の名前からもわかるとおり、SWIFTがこのレポートを公表し始めた理由はおそらく、「人民元という通貨自体がこれから国際化されるに違いない」という、2012年ごろの妙な期待感に基づくものでしょう。
当時、人民元はまだ国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)にも組み込まれていませんでしたが、それと同時に中国当局は人民元の国際化を世界に対してコミットしており、実際、人民元の国際的な市場における取引量も増加基調にあったのです。
ただ、このSWIFTデータで見る限りにおいては、人民元の国際化が近年、進んでいるとは言い難い状況にあることは間違いありません。
SWIFTのレポートでは、国際送金市場(顧客を送金人とする取引や銀行間の取引)における通貨別シェアが示されており、また、2015年12月以降は、「ユーロ圏を除外したデータ」についても同様に公表されています。
(※ただし、SWIFTのレポートは毎月必ず公表されているものであるとは限らないので、グラフ化するにあたっては、公表されていない月については、その前月のデータをそのまま流用する、という処理を行っています。)
人民元の国際化は遅々として進まず
さっそく、人民元の状況について見ておきましょう(図表1)。
図表1-1 人民元(ユーロ圏含む)
図表1-2 人民元(ユーロ圏除外)
(【出所】SWIFT『RMBトラッカー』より著者作成)
いかがでしょうか。
人民元はユーロ圏除外データにおいても、ユーロ圏を含めたデータにおいても、その順位や決済シェアは2015年以降、ほぼ一定です。2021年12月と2022年1月には一時的に決済シェアが増え、ランキングでも日本円を抜いていたのですが、また元に戻ってしまいました。
一時期、「これからは人民元の時代だ」、などと華々しく喧伝されていたわりには、近年、SWIFT決済シェアはほとんど増えておらず、ランキングも微妙に上昇したり、下落したり、を繰り返しているのです。
ルーブルが完全に姿を消した
さて、当ウェブサイトではこのSWIFTデータをかなり以前から注目してきたのですが、なにかと面白い姿が見えて来ます。「RMBトラッカー」の名前と異なり、さまざまな通貨の状況についても確認することができるからです。
たとえば、「米ドルが常に1位だったわけではなく、過去においてはユーロと1位を争っていたこともある」、「英ポンドはユーロ圏を含めたデータでは常に3位であるものの、ユーロ圏を除外したデータでは、日本円と英ポンドが3位を争っている状況にある」、といったデータも判明します。
ただ、それと同時に興味深いのは、決済ランキングから「姿を消した通貨」、「今までたった1度も登場したことがない通貨」などが存在することでしょう。
「姿を消した通貨」の典型例は、ロシアのルーブルです(図表2)。
図表2-1 ルーブル(ユーロ圏含む)
図表2-2 ルーブル(ユーロ圏除く)
(【出所】SWIFT『RMBトラッカー』より著者作成)
ルーブルはユーロ圏を含めたデータでは2015年ごろから姿を消し始め、また、ユーロ圏を除外したデータでは2022年(つまり今年)の3月以降、ふっつりと姿を消しました。ロシアの主要銀行のSWIFT除外といった国際社会の制裁が、見事に効いている証拠でしょう。
G20なのに登場したことがない通貨
なお、2022年7月時点におけるSWIFTランキングは図表3のとおりです。
図表3-1 SWIFTランキング(2022年7月、ユーロ圏含む)
通貨コード | 通貨名称 | シェア |
---|---|---|
1位:USD | 米ドル | 41.19% |
2位:EUR | ユーロ | 35.49% |
3位:GBP | 英ポンド | 6.45% |
4位:JPY | 日本円 | 2.82% |
5位:CNY | 人民元 | 2.20% |
6位:CAD | 加ドル | 1.68% |
7位:AUD | 豪ドル | 1.38% |
8位:HKD | 香港ドル | 1.30% |
9位:SGD | シンガポールドル | 1.12% |
10位:CHF | スイスフラン | 0.76% |
図表3-2 SWIFTランキング(2022年7月、ユーロ圏除く)
通貨コード | 通貨名称 | シェア |
---|---|---|
1位:USD | 米ドル | 44.36% |
2位:EUR | ユーロ | 36.59% |
3位:GBP | 英ポンド | 3.97% |
4位:JPY | 日本円 | 3.30% |
5位:CAD | 加ドル | 2.03% |
6位:CNY | 人民元 | 1.51% |
7位:AUD | 豪ドル | 1.33% |
8位:CHF | スイスフラン | 1.24% |
9位:HKD | 香港ドル | 0.92% |
10位:SEK | スウェーデンクローナ | 0.62% |
(【出所】SWIFT『RMBトラッカー』より著者作成)
これらの通貨でピンと来た人は鋭いと思いますが、上位通貨のなかには、G20でありながらランキングに入っていないものもいくつかあるのです。とくに、G20諸国の通貨のなかでは、過去に1度も登場したことがないものもいくつか存在します(図表4)。
図表4 G20諸国通貨のうち登場したことがない通貨
通貨CD | 通貨 | 備考 |
---|---|---|
ARS | アルゼンチンペソ | |
BRL | ブラジルレアル | |
INR | インドルピー | |
IDR | インドネシアルピア | |
KRW | 韓国ウォン | |
SAR | サウジアラビアリヤル | ※ユーロ圏除外データでは2022年6月以降に登場 |
(【出所】著者調べ)
この6つの通貨のうち、サウジアラビアの通貨・リヤルについては、ロシア・ルーブルがランク外に押し出されたためか、2022年6月と7月にランキングに初めて登場していますが、それ以外の5つの通貨については、過去にただの1回も登場したことがありません。
とくにインドやインドネシア、ブラジルやアルゼンチンのような「地域大国」の通貨が、国際的な取引でほとんど使用されていない、というのも、なんだか奇妙な話であるようにも思えてなりません。
逆に、SWIFTランキングで通貨が登場したこともないような国がG20を名乗るというのが適切なのかどうかについても、個人的には大変に疑問に感じている次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
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昨日のプライムニュースは、鈴置&真田ペアで、そこで「マーケットは、米ドル基軸通貨体制が崩れる可能性を考えだした」、「マーケットは、金融経済から実体経済重視も考えだした」と言ってました。ということは、今後は石油取引の決済が、サウジアラビアの通貨で行われる可能性も、あるのではないでしょうか。
>石油取引の決済が、サウジアラビアの通貨で行われる可能性
は
ないな。
リビアにガダフィーという元首がおってな、石油の取引をドルから別の通貨へ変えた。。。その結果は、、、ご存知の通り。
サウジアラビアは米国の保護国(日本と同じ)ですので、米国の意思次第と考えます。
あんまり、サウジアラビアが米国のいうことを聞かないなら、米国は中東地域でのパートナーをイランに変更するかもしれません。
いずれにせよ、ドルによる通貨覇権の維持(ドルで資源や食料が買えること)は米国の核心的利益ですので、米国は石油を産出する限り中東を抑えようとするでしょう。
ただ、バイデン政権の閣僚やスタッフ達は、自分達の行動がもたらす影響を深く考えていない傾向があるので、今後もいろいろやらかすのではないかと心配です。