佐渡金山世界遺産登録断念に「落胆」すべきでない理由

結果として、佐渡金山の世界遺産登録は失敗に終わったようです。産経などの報道によれば、2023年の世界遺産登録に向けた推薦書に対し、ユネスコ側から不備を指摘されたとして、末松文科相は28日、登録を断念すると表明したからです。ただ、政府には捲土重来を期していただくのは当然ですが、今回の件に関しては、「きちんと推薦した」という実績が大切です。その意味では楽観はできないにせよ、落胆すべき話でもないのです。

政府、2023年の佐渡金山の登録断念へ

政府は2023年の佐渡金山の世界文化遺産登録を断念するようです。

佐渡金山、来年の世界遺産登録断念 推薦書に不備、再提出へ

―――2022/7/28 21:16付 産経ニュースより

産経ニュースが報じた記事によると、末松信介文部科学相は28日、佐渡金山の世界遺産登録に向けた推薦書の記載が不十分であるとする指摘をユネスコから受けたとして、当初目指していた2023年の登録を断念する考えを示したそうです。

この「不備」とは、金山を構成する水路が途切れている部分があり、その説明が「欠落している」と指摘された、ということだそうです。

ではどうして、今回の不備が「修正できなかった」のでしょうか。

この点、産経によれば、登録審査は通常、推薦書提出期限前年(つまり今回のケースでいえば2021年)の9月末までに暫定版を任意で提出し、ユネスコから不備などの指摘があれば修正したうえで、2月1日までに正式な推薦書を出す、というのが基本的な流れなのだそうです。

しかし、佐渡金山に関しては、そもそも国の文化審議会が佐渡金山を登録に向けた国内候補に選出したのが昨年末、つまりこの暫定版の提出期限を過ぎたタイミングであったため、いきなり正式な推薦書を出さざるを得なかった、というのです。

2021年9月末といえば菅義偉内閣の末期ですが、ちょうど内閣総辞職直前でもあったことと関係しているのでしょうか。いずれにせよ、ぶっつけ本番での推薦書に不備が指摘され、結果として2023年の登録に間に合わなくなった、というのが真相に近そうです。

「違法な強制労働」というウソに負けるな!

もっとも、佐渡金山といえば、韓国が一方的に「朝鮮人が違法な強制労働をさせられた場所である」と主張していることでも知られます。

産経の記事によると、今年2月に当時の韓国の外交部長官(ということは、鄭義溶=てい・ぎよう=氏でしょうか?)がユネスコのオードレ・アズレ事務局長に対し「強い懸念」を伝えたそうであり、これについて次のように指摘します。

政府関係者によると、ユネスコは歴史問題を巡る日韓対立が世界遺産委員会に持ち込まれることも懸念しているという」。

なにやら気になる記述でもあります。

実際、長崎県の端島(いわゆる軍艦島)の世界遺産登録に際しては、現首相でもある岸田文雄外相(当時)が2015年6月に韓国の尹炳世(いん・へいせい)外交部長官との間で、世界遺産登録に向けた日韓協力を確認。

それにも関わらず、韓国側が土壇場で日本を騙し、ユネスコ総会の場で世界遺産登録に反対し、これに外務省の佐藤地(さとう・くに)ユネスコ大使が、あたかも軍艦島などで朝鮮人の違法な強制労働が行われたかのような誤解を与える演説を行ってしまったという苦い記憶もあります。

いちおう、その原文を紹介しておきましょう。

日本は、1940年代にいくつかのサイトにおいて、その意思に反して連れて来られ( brought against their will )、厳しい環境の下で働かされた( forced to work )多くの朝鮮半島出身者等がいたこと、また、第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である」。

まったく、とんでもない発言です。なぜなら、この佐藤地大使の “brought against their will” と “forced to work” こそ、「朝鮮人労働者の強制連行があったことを日本政府が認めた証拠」として、現在、韓国政府によって利用されてしまっているからです。

そのうえ、この “brought against their will” や “forced to work” について、呆れることに、外務省が2015年7月14日付で公表したページではこんな説明が書かれています。

『意思に反して連れて来られ(brought against their will)』と『働かされた(forced to work)』との点は、朝鮮半島出身者については当時、朝鮮半島に適用された国民徴用令に基づき徴用が行われ、その政策の性質上、対象者の意思に反し徴用されたこともあったという意味で用いている」。

つまり、外務省に言わせれば、佐藤地大使の発言は「従来の政府の立場を踏まえたものであり、新しい内容を含むものではない」としたうえで、「今回の日本側の発言は、違法な『強制労働』があったと認めるものではないことは繰り返し述べており、その旨は韓国側にも明確に伝達している」、のだそうです。

このように、「明らかな失敗」であるにも関わらず、頑として失敗として認めないというのは、外務省という組織自体が腐敗している証拠でしょう。ちなみに外務省は佐藤地大使を懲戒免職処分にしなかったどころか、のちにハンガリー大使に栄転させています。外務省という役所は、つくづく愚かな組織です。

虚偽の主張をものともせずに登録申請したという「実績」が大事

もっとも、今回の佐渡金山の一件については、もともとは「今回は提出を見送る」という流れがあったのを、自民党の高市早苗政調会長が今年1月24日に衆院予算委員会で「韓国への配慮なのか」と岸田首相を詰め、それにより一転して実現したという経緯があります。

その意味では、今回の世界遺産登録申請自体、「朝鮮人の違法な強制連行・強制労働」という、韓国側の明らかに虚偽の主張を正面から否定するという日本政府の意思表示でもあったといえます。その意味では、結果的に世界遺産登録は失敗したとはいえ、日本政府の行動としては正しかったといえます。

なお、当ウェブサイトでは普段から岸田首相には手厳しいと指摘されることが多いのですが、この佐渡金山の断念の件については、産経の記事の内容を信頼するなら、岸田首相に直接の責任はありません。むしろ「早く世界遺産推薦を決めなかった」のは菅総理の時代の話だからです。

産経はまた、政府が2023年2月に推薦書を再提出する方針だとしており、「登録は早くても24年となる見通しになった」と報じています。来年の登録を目指していた地元の方々としてもさぞや落胆されていることでしょうが、政府にはくれぐれも捲土重来を期していただきたいところです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 元ジェネラリスト より:

    文化庁職員の証言と政府関係者の話がソースのようで、単なる間抜けなミスなのか韓国の工作の影響なのか、その双方なのか。真相はよくわかりませんね。
    おっしゃる通り、決めたことをやる(再度申請にトライする)だけだと思います。

    韓国人と思われる工作のネタつながりで。
    World of Warshipsという昔の軍艦の砲撃戦を楽しむネットゲームを時々やるんですが、海外製ゲームですが当時海軍国だった日本の軍艦は主要コンテンツです。戦艦大和の3Dモデルなどよくできています。

    当然軍艦旗は旭日旗だったのですが、あるとき日の丸に変更されました。
    韓国人と思われる一団からのクレームから始まる論争が続いていたらしく、ゲームの運営元は「議論が起こること自体が面倒くさいから消した(意訳)」と説明しています。
    プレイヤーが自らMOD(修正プログラム)を入れて旭日旗表示にすることはできたのですが、最近はMOD作成者にも引き続き圧力を加えているらしいです。

    騒ぐ韓国によって、日韓に関係ない第三者がローリスクな「どっちもどっち論」に落ちる実例を目の当たりにしました、という話でした。奴らは第三者がどう反応するかよく分かっている。

    「World of Warships」、世界統一で“旭日旗”の使用を見送り
    https://game.watch.impress.co.jp/docs/news/711059.html

    1. 農民 より:

       WoWs、興味はあったのにその話題で敬遠したクチです。高雄型を操ってみたかった……ゲーム業界ではまだ[旭日旗に難癖をつける韓国人ユーザ数>難癖でゲームを見切る日本人ユーザ数]なのでしょうかねぇ。服飾やら興行ではすっかり旭日旗クレームを無視する潮流になってきたようですが。

       脇道のネタのさらに脇道へ。更に古いゲームでは[Age of Empires II]、約20年前でも似たような件がありました。世界中の様々な文明を指揮して対戦するストラテジーゲームです。まぁ誇張や誤解はあるものの、モンゴル文明ではやたら強い弓騎兵だったり、ブリトン文明ではロングボウだったりと歴史に基づいたユニークユニットという固有の駒が設定されています。拡張で登場した日本文明も武士があります、騎兵系がザコいのがリアル。
       そして「なぜか」登場した朝鮮文明。そしてユニークユニットは……2頭立て馬車に鉄板キャビンで丸太を発射する「戦車」?????そして大型船で鉄板装甲に大砲搭載という韓国でのみ語られる方の「亀甲船」。浮かない説。さらには固有テクで「神機箭」。彼らがロケットの起源と自負しているものですが、現実には脅かし花火。そしてゲーム内効果は「投石機の超強化」という謎っぷり。韓国人の夢が詰まった設定で登場し他文明を圧倒していったものの、あんまりすぎてバランス調整で即死、最低人気帯に落ち着きましたとさ。しかし「ふーんKoreaの歴史ってこんななんだ。ところでkoreaってchinaのどこだっけ?」とてきとーに信じた人もそれなりに居たでしょう。広開土大王も出るよ。
       この頃から韓国人ユーザの圧だの韓国人開発者のゴリ押しだので、イチイチこういったことをしていたようです。輝かしい。

      1. 元ジェネラリスト より:

        高雄型は愛宕で実装されてますね。有料艦なので性能はいいですよ。(笑)

        AoE2ってものすごく古いゲームだった記憶がありますが(前世紀)、今もアップデートが続いてるんですね。知りませんでした。
        MSがゲームを出したことに驚き、しかも割と面白かったので印象に残ってます。
        拡張パックは韓国人ユーザーゲットのための確信犯的超汚染の香りがしますね。ご当地マーケティングというか。

        >ふーんKoreaの歴史ってこんななんだ。
        当時の無垢な私だったら、そう思っていたかも。(笑)

  2. 匿名 より:

    >登録審査は通常、推薦書提出期限前年の9月末までに暫定版を任意で提出し、ユネスコから不備などの指摘があれば修正したうえで、2月1日までに正式な推薦書を出す

    これを事前に知っていたのなら候補選出が遅すぎるし、知らなかったのなら論外。不備の修正ができない書面をいきなり提出するとかリスクが高すぎるし、プロの代理人の仕事とはいえない。しかも不備の内容が「金山を構成する水路」ならば、韓国の工作とはおそらく関係がないので、日本側のオウンゴールといわざるを得ないのでは。

    ところで、産経の本記事は不備の内容をいちおう指摘すしているが、他の記事は不備の内容が何も書かれておらず、不完全な情報に踊らされる者が多数発生しているようだ。

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