バングラデシュで「D8スワップ」構想=現地メディア

弱小国同士の通貨スワップは基本的に融通手形のようなものであり、通貨危機を却って世界に広めかねない代物でもある、というのが当ウェブサイトの長年の仮説です。こうしたなか、バングラデシュのメディアは先日、「D8スワップ構想」なるものを取り上げました。これは、バングラデシュ、エジプト、インドネシア、イラン、マレーシア、ナイジェリア、パキスタン、トルコの8ヵ国が相互にスワップを締結するという構想だそうです。

通貨スワップ・為替スワップあれこれ

当ウェブサイトではこれまでずいぶんと議論してきたとおり、国際金融協力の世界におけるスワップにはさまざまなものがありますが、基本的に金融危機や通貨危機を防ぐためには、交換する通貨の片方が国際的な「ハード・カレンシー」との交換であることが必要である、というのが著者自身の見解です。

たとえば、通貨スワップについては、「自国通貨同士の交換」というケースと、「自国通貨と国際的に通用する通貨(米ドルなど)の交換」というケースがあります。

日本の場合だと、日本から提供する通貨は米ドルか、自国通貨である日本円のどちらかであるというケースが多いのですが、どちらの場合であっても相手国から見れば大変に好ましい条件です。米ドルは世界の基軸通貨ですが、日本円にしたって国際的に通用力が非常に高い通貨だからです。

弱小通貨同士のスワップは融通手形に似たり

しかし、「自国通貨同士の交換」、とりわけ「弱小通貨同士」のスワップのケースだと、金融危機・通貨危機を防ぐどころか、却って危機を広めてしまうという効果があり得ます。

たとえば、トルコの場合はUAE、中国、カタール、韓国の4ヵ国との間で通貨スワップを締結しています。このうち産油国であるUAEやカタールの場合、通貨はまだ安定しているのですが、韓国とのスワップ(175億リラ、2.3兆ウォン)に関していえば、弱小通貨同士のスワップです。

仮にトルコで通貨危機が発生し、トルコが韓国からスワップで韓国ウォンを調達し、それを外為市場で売却してドルに交換した場合、リラ安がそのままウォン安に転化する恐れがあります(逆もまた真なり、です)。

その意味では、弱小通貨同士のスワップは信用力が乏しい中小企業同士がお互いに融通手形を出し合うようなものであり、危機に備えるどころか却って危機を広めかねないという危険な代物ではないか、というのが当ウェブサイトの長年の仮説でもあります。

TBS「バングラデシュがD8スワップ構想を提唱する」

こうしたなか、バングラデシュのメディア『TBS』(※The Business Standardの略)に先日、なんだか非常に気になる記事が掲載されていました(※似た名前のテレビ局が日本にもありますが、別物です)。

D-8 trade body mulls cross currency swap

―――2022/07/24 22:45付 TBSより

TBSによると、「D8諸国」で構成する商工会議所聯合(D8-CCI)のシェイク・ファズル・ファヒム会頭が相互に通貨スワップ協定を締結することで、通貨危機に備えるとともに、「米ドルの圧力」を軽減することを提唱しているのだそうです。

「D8」とは耳慣れない響きですが、TBSによると、これはバングラデシュ、エジプト、インドネシア、イラン、マレーシア、ナイジェリア、パキスタン、トルコの8ヵ国だそうです。ちなみにこのなかでG20構成国はトルコだけで、見たところイスラム圏が中心であるようです。

TBSによると、ファヒム会頭は「通貨の減価やボラティリティに備えるためには代替的な貿易金融手段が必要だ」と指摘。その具体例として、D8諸国間の「バーター貿易」(物々交換)の拡充と並んで、D8諸国相互間の通貨スワップの拡充を提唱したのだとか。

そのうえで、ファヒム会頭はインドネシアがこの通貨スワップを「すでに3つの国と締結している」と述べたのだそうですが(※著者自身の調べでは、インドネシアは少なくとも日本、韓国、中国、シンガポール、豪州の5ヵ国と結んでいます)、そのインドネシア自体も恒常的な外貨不足に悩んでいる国のひとつです。

弱小国同士でスワップを結んでどうするつもりなのか

正直、インドネシアの事例はあまり参考にならないのではないかと思うのですが、この点はとりあえず脇に置きましょう。

TBSによれば、ファヒム氏が7月26日のD8-CCIビジネス・フォーラムでもこの「D8スワップ」について提唱するつもりだと述べたそうであり、 これに加えてD8諸国同士の非関税障壁の削減により、域内貿易を「何倍にも増やすことができる」との構想を提示しているのだそうです。

ちなみに現在のD8諸国の経済規模は約5兆ドルで、国家間の貿易額は600億〜700億ドルなのだとか。

いずれにせよ、「ドル依存からの脱却」という主張は、出ては消え、出ては消えるものではありますが、正直、絵空事としか言い様がありません。

たとえば『SWIFTデータで見る「G20スワップ」の非現実性』でも報告したとおり、SWIFTの国際決済通貨ランキングに登場したことがある通貨は非常に限られており、このD8諸国に限定していえば、エジプトポンド、トルコリラ、マレーシアリンギットの3通貨以外はSWIFTランキングに登場したことすらありません。

いや、むしろD8スワップのようなものが存在した場合には、ある国でスリランカのような通貨危機が発生したときに、ズルズルと引きずられるように他の国にも通貨危機が波及するのが関の山ではないかと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 世相マンボウ、 より:

    せっかくD8スワップ立ち上げるなら
    同じ脆弱通貨国でスワップクレクレの
    韓国さんも混ぜてあげてくださいな♪

    まあ、そんな共倒れスワップの話しが
    ホントにあるとも思えないので
    世界で流行っているから
    韓日もスワップニダに持ち込む
    布石工作かと思います

  2. ちょろんぼ より:

    主要国を除いた第三世界として行うのだとしたら
    インドを中心にしないと纏まらないでしょう。
    ただ、それよりも上記世相マンボウ様が仰る通り
    ふさわしいのは、世界の中心国「南国」以外にありません。
    日本はどこかの記事で、世界の〇〇国よりも
    賃金が低く貧しい国との事ですから、口をはさむことなんて
    できはしません。
    南国なら日本より賃金も高いし、世界が憧れるブランドが
    たくさんあるし、金も豊富な国だから大丈夫です。
    (ドルがあるかどうかは、解りません)

  3. 匿名 より:

    ダメエイト?

  4. ナニガシ より:

    この顔ぶれだと、エルドアン大統領みたいに、突如としてインフレになるんじゃないですかね?

  5. 農家の三男坊 より:

    これが実現した場合には
    財務省はインドネシア、マレーシアとのスワップを見直すべき時かもしれませんね。

    特にインドネシアは数々の粗相をしているので何で延長したのかは不思議。

  6. どみそ より:

    8か国連鎖倒産したら 世界は困るだろうと 恐喝のネタになりそう。

    1. 攻撃型原潜#$%&〇X より:

      そうか、その手があったか。 D8の狙いはそこですね。

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