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韓国紙の「円安でアジア通貨危機が再来か」という珍説

「アジア通貨危機では長兄・中国が面目を保った」

円安がアジア通貨危機のようなリスクをもたらしているとする珍説が出てきました。韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日掲載された記事によれば、日銀の政策は「金融緩和と円安で投資を増やし、企業の業績改善を通じた賃金引き上げと消費拡大で物価が上がる好循環を期待している」ものだ、というのです。ずいぶんとムチャクチャな言い分ですが、ただ、同記事からは、韓国独特の世界観が垣間見えるのも興味深い点です。

宣伝:鈴置氏の最新刊

本稿では、最初に重要な「宣伝」を行っておきたいと思います。

韓国観察者である鈴置高史氏が先週、『韓国民主政治の自壊』という書籍を上梓されました。

当ウェブサイトではこれについて、『鈴置高史氏最新刊「韓国民主政治の自壊」の「読み方」』でも「ポイント」を(勝手に)取り上げて紹介した次第ですが、「儒教と民主主義の相性が悪い」、「韓国では約束よりも『正義』が重視される」、「日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ」といった諸論点は、必読です。

これについては正直、「日本人必読」の書籍のひとつだと思いますし、また、普段、『デイリー新潮』の『鈴置高史 半島を読む』を愛読している人にとっては、鈴置論考をまとめて読むことができるという意味では、大変に有益なものでもあります。

書店などで見かけた場合は、是非ともお手に取ってご確認いただきたいと思う次第です。

金融緩和と円安の関係

黒田総裁の異次元緩和

宣伝はこのくらいにして、本論に進みましょう。

黒田東彦(はるひこ)氏が日銀総裁に就任したのは2013年3月のことです。

その黒田総裁は就任直後の4月4日の政策決定会合で、「異次元緩和」を宣言したのですが、それ以降、日銀は低金利政策・量的緩和政策を推し進めてきました。おかげで日銀当預は551兆円に膨張し、マネタリーベースは676兆円に達しています。

ただ、米FRBが利上げや金融引締めに乗り出したこともあってか、現在、円安が進んでおり、先週は一時1ドル=135円の大台を突破するほどの水準が見られました。ちなみにBISデータによれば、1ドル=135円の大台を超えたのは、1998年10月5日以来、じつに四半世紀ぶりのことでもあります。

円安の日本経済への影響は良いのか、悪いのか

こうしたなか、既存メディアの報道を眺めていると、「いったいどこまで円安が進むのか」、「円安で庶民の生活は破壊される!」、といった報道を見ることもあるのですが、これもまた理解に苦しむ意見です。

そもそも論として、2011年から12年にかけての1ドル=70円台という状況を、メディアは「円高で輸出に依存した日本経済が崩壊する!」などとしきりに煽っていたことを思い出してしまいます(ちなみに「日本経済が輸出に依存している」という主張は、最近、とんと見かけませんが…)。

この点、『「20年ぶり円安」の好機生かすには原発再稼働が必要』でもふれたとおり、円安が日本経済に対し、悪影響をもたらさない、というわけではありません。

昨夜、20年4か月ぶりの円安水準となる「1ドル=134円台」を記録しました。本来ならば、日本の製造業、観光業にとっては大変に歓迎すべき現象です。ただ、ここで立ちはだかるのが電力の安定供給という課題であり、鉱物性燃料の輸入コストが日本経済の足を引っ張るという問題です。政府は早急に原発再稼働に道筋をつけるべきですし、また、インバウンド観光再開に当たっては1人あたり支出単価が高い国から優先的に受け入れるべきでしょう。為替変動とはなにか為替相場は日々刻々と変動する日本は変動相場制を採用しており、為替相場は...
「20年ぶり円安」の好機生かすには原発再稼働が必要 - 新宿会計士の政治経済評論

円安が日本経済にもたらす大きな影響としては、たしかに「輸入購買力の低下」というものが大きいでしょう。実際、鉱物性燃料(石油、石炭、天然ガスなど)の輸入額は押し上げられていますが、これは世界的なエネルギー価格上昇に加え、円安という側面があることも否定できません。

ただ、それと同時に、長い目で見たら輸出競争力が上昇すること、輸入代替効果が生じることを通じ、間違いなく、日本の産業にとっては良い影響をもたらします。現在の日本経済の最大のボトルネックである「電力の安定供給」の問題さえクリアすれば、円安で日本経済が大きく復活することが期待できます。

そのうえ、日本政府(財務省・外為特会)は1.3兆ドルもの外貨準備を抱えているのに加え、日本の金融機関は「世界最大の対外与信」を保有しており、これらの莫大な外貨建て資産は日本の「国富」を大きく押し上げています。

このように考えていけば、円安は結果的に、現在の日本経済には大変に大きな恩恵をもたらすのです。「電力の安定供給」、「ベースロード電源としての原発」が重要であるというのは、現在の日本経済にとってのみならず、将来的な日本経済の発展のためにも、大変に重要なのです。

  • 円安になれば輸入品価格が押し上げられ、短期的には国民生活にも悪影響が生じかねない
  • ただし、円安になれば輸出競争力が上昇するほうか、国内では輸入代替効果が生じるため、結果的に輸出・内需を通じて国内産業が振興される
  • ただし、製造業の国内回帰などを進めるうえで、現在の日本は電力の安定供給というボトルネックを早急に解消する必要がある
  • 円安が進めば外貨建ての資産(外貨準備、外貨建ての対外与信など)の為替換算額が増える効果が期待できる

金融政策は為替相場と無関係に決まる

ただし、ここで大変に重要な点があるとしたら、日銀の金融緩和は決して「円安を誘導するためのもの」ではない、という事実です。あくまでも日銀の緩和は「インフレ目標を達成すること」を目的としており、円安になろうが、円高になろうが、本質的には無関係です。基本的に日銀は為替相場を気にしているわけではありません。

その理由はとても簡単で、この世界は「国際収支のトリレンマ」と呼ばれる「掟」に支配されているからです。この「国際収支のトリレンマ」は、「①資本移動の自由」、「②金融政策の独立」、「③為替相場の安定」という3つの政策目標を同時に達成することが「絶対にできない」、とする経済学の鉄則です。

国際収支のトリレンマ

次の3つの政策目標を同時に達成することができないとする経済学の鉄則

  • ①資本移動の自由
  • ②金融政策の独立
  • ③為替相場の安定

①の「資本移動の自由」は、日本円という通貨自体が国際的に通用するハード・カレンシーであり続けるための絶対条件のようなものであり、日本がこの目標を捨てるということは、選択肢としては絶対にあり得ません。

現在のロシアのように、厳しい資本規制を導入することによって無理やり為替相場を守っているという事例もありますが、その場合は通貨自体の使い勝手が悪化する可能性がありますし、最悪の場合、通貨が国際的な信頼を失うでしょう。

一方の②の「金融政策の独立」とは、金融政策を決定するにあたって、あくまでも国内の経済成長率・インフレ率・失業率などを最適化する手段として自由に使うことができる、という意味です。

日本が2013年以降、大規模な金融緩和を行っているのも、まさに「デフレ脱却」という目標を達成するためです。日本の場合は金融政策が独立しているため、政策金利水準やマネタリーベースは、外国の経済現象とは無関係に決定することができるのです。

この①、②の政策目標を重視すれば、③の「為替相場の安定」が損なわれるのは、ある意味では当然の話でしょう。資本移動が自由であるという状態で、外国と比べて通貨供給量や金利が異なれば、それだけで為替相場は不安定になるからです。

したがって、日銀の金融政策も、基本的には国内の経済状態だけを見て決定されるべきですし、為替相場を誘導するためのものであってはなりません。それに、為替相場を市場メカニズム以外の手段で決定することは、G20などの合意内容にも大きく反する行為です。

  • 日本の金融政策は、為替相場(円高・円安など)と無関係に決定される
  • 現在の金融緩和政策に関しても、「デフレ脱却」が最大の目的である
  • ただし、「国際収支のトリレンマ」にしたがい、結果的に日銀の緩和政策が円安を加速させることがある

基本的な知識を欠いた韓国紙の記事

以上の議論は、常識的な経済学の前提条件を知っていれば、だれでも理解できる話でしょう。

ただ、非常に残念なことに、世の中の大手メディアは、こうした基本的な前提条件をうまく理解していないフシがあります。いくつかのメディアがこの期に及んで、「物価上昇を食い止めるために、日銀は金融緩和を今すぐやめるべきだ」、といった主張を垂れ流しているのです。

大変当たり前の話ですが、為替相場の変動(とくに円安)には常に良い側面と悪い側面がありますし、「輸入品物価の上昇」という短期的なデメリットもあれば、「製造業の国内回帰」という良い側面もあります。物事の一面のみを見て「良い」、「悪い」と短絡的に決めつけるのは、いかがなものかと思います。

しかし、世の中はなかなかに面白いもので、円安が日本にとって「メリット」がある、というのは、皮肉なことに、本邦のメディアではなく外国メディアを眺めていて気付かされることもあります。

その典型例が、円安を牽制する韓国メディアの記事でしょう。

たとえば、「日本が円安を食い止めるためには、日銀が通貨政策を修正しなければならない」などと主張している韓国紙の記事については、『20年ぶりの円安水準のメリットと、円安を恐れる韓国』でも取り上げました。

20年ぶりの円安水準です。エネルギーや最終製品などの輸入が多い日本にとっては、急激な円安の進行は短期的に経済に大きな悪影響を与えかねませんが、それだけではありません。対外債権国である日本にとっては外貨建て資産の価値を押し上げる効果をもたらすとともに、中・長期的には製造業の国内回帰を促すという、意味で、日本にメリットももたらします。こうしたなか、韓国メディアには金融政策と為替相場の関係を理解していないと思しき記事も掲載されていたようです。いや、正確には、「円安を恐れている」、とでも言えばよいでし...
20年ぶりの円安水準のメリットと、円安を恐れる韓国 - 新宿会計士の政治経済評論

また、韓国における経常収支赤字や財政赤字とともに、円安が韓国自身の輸出競争力の阻害を通じて韓国経済の悪化要因となる、という韓国メディアの指摘については、『円安・家計債務・FRB・資源高の韓国通貨は大丈夫か』などでも取り上げたとおりです。

韓国で経常収支・財政収支の「双子の赤字」状況が出現するなか、週末、韓国ウォンが1ドル=1280ウォン前後の水準にまで売られたようです。これが一時的な現象なのか、それとも「なにか」の前兆なのかはまだわかりません。いずれにせよ、「FRBの金融引締め」+「円安」+「資源高」+「家計債務」という四重苦に「双子の赤字」が重なれば通貨危機は再来するのでしょうか?韓国資産バブルFRB主犯説当ウェブサイトで以前から何度となく提示してきた仮説のひとつが、韓国でコロナ禍以降に生じた資産バブルが米FRBの金融緩和と密...
円安・家計債務・FRB・資源高の韓国通貨は大丈夫か - 新宿会計士の政治経済評論

円安がアジア危機を招くとの珍説

韓国メディアの「2つの特徴」①円安への恐怖

これらの韓国メディアの記事を眺めていて気づくことは、大きく2点あります。

1点目は、韓国が日本の円安を極端に恐れている、ということ。そして2点目は、いくつかの韓国メディアは中央銀行の役割を「為替相場を安定させること」にあると勘違いしている、ということです。

このうち前者については、自然に考えて、納得ができるものでもあります。

韓国自体は、そもそも日本経済をベンチマーキングすることで発展してきたような国です。これに加えて韓国経済は輸出にかなり依存しているため、ドルに対するウォン安(あるいは輸出で競合している日本の円に対するウォン安)は、自国の輸出競争力を高めるうえで、大変に重要です。

その一方で、行き過ぎたウォン安には、耐性がありません。というのも、韓国の企業は多かれ少なかれ、外国の金融機関から外貨でおカネを借りているからであり、もしもウォン安が行き過ぎた場合、外貨建ての借金の返済負担が重くなることを通じて、韓国企業の財務構造は大きく悪化しかねないからです。

だからこそ、韓国は常に「ほどほどのウォン安」の状況を望みます。

具体的には、1ドル=1100~1200ウォン程度のレンジで為替相場が推移するのが韓国にとっては最も快適な水準であり、この水準を逸脱するようなウォン高、ウォン安に対しては、韓国の通貨当局は何らかの介入を行うのが一般的でもあります。

ただし、最近だと1ドル=130円台という円安水準が常態化しつつあるためでしょうか、韓国にとっての「許容レンジ」が少し拡大しているようにも見受けられます。具体的には、日本との輸出競合の関係上、1ドル=1250ウォンを超えていても、最近だとあまり為替介入をしている形跡が見られないのです。

産業構造が日本と重複しているという点において、円安は韓国経済にとっては大変に大きな脅威でもある、ということなのかもしれません。

韓国メディアの「2つの特徴」②金融政策と為替介入の混同

一方で2点目の、「韓国メディアは金融政策の役割を正しく理解していないフシがある」、「金融政策と為替介入を混同しているフシがある」、という点については、ちょうど良い事例が昨日、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に掲載されていました。

日本銀行「低金利マイウェイ」…円安が「アジア通貨危機」呼ぶか

―――2022.06.19 12:46付 中央日報日本語版より

中央日報の記事は、主要国の中央銀行が金融引き締めに動くなか、日本だけがマイナス金利政策やイールドカーブ・コントロール政策といった金融緩和政策を維持していることをめぐって、こう述べます。

日本銀行の『マイウェイ』は進行形だ」。

そのうえ、主要国の中央銀行が相次いで金融引締めの動きに出るなか、「日本銀行のこうしたぶれなさ」が「市場の不安を刺激している」、というのです。具体的には、「24年ぶりに最も低い水準に落ちた円相場」が問題だ、というのです。

円がこのように落ち込んでいるのは日本と米国の通貨政策デカップリング(脱同調化)が深まっているためだ。依然として金融を緩和している日本銀行と違い米連邦準備制度理事会(FRB)は今年に入り3回にわたり政策金利を1.5%引き上げた」。

経済学について詳しい人間がこの記述を読むと、「日米でインフレ率がまったく異なるのだから、金融政策をめぐるスタンスが違うのも当然ではないか」、と呆れてしまいそうになりますが、我慢して記事を読み進めてみると、こんな記述も出てきます。

米国と日本の金利差が拡大し円安圧力はさらに大きくなっている。このため円防御に向け日本銀行が通貨政策方向の微調整に出るとの見方もあったが、期待は間違いなく崩れた。黒田総裁は『賃金の本格的な上昇には、金融緩和を粘り強く続ける必要がある』と話した」。

このあたり、当ウェブサイトでは『外国人投資家が日本国債市場を「売り崩す」のは難しい』あたりでも議論したとおり、「黒田日銀」の金融政策はインフレ率を見ているのであって、為替市場を見ているわけではない、と申し上げた内容と、見事に整合した動きです。

矢野康治次官が1年で退任へ海外勢と日本銀行との日本国債市場をめぐる「攻防」が激しくなってきたのだそうです。日本の資金循環構造に照らすならば、なんとなく「海外勢の敗退」という結論は見えているのですが、いちおう本稿ではこれについて、いくつかのデータを使ってツッコミを入れておきたいと思います。ついでに、財務省が保有する無駄に巨額な外貨準備についても、解消する好機が到来しているといえます。表向き、「円安の抑止が目的」とでも言っておけば良いのではないでしょうか。時事通信「海外勢が日本国債売り浴びせ」あ...
外国人投資家が日本国債市場を「売り崩す」のは難しい - 新宿会計士の政治経済評論

それにも関わらず、中央日報の記事では、こんな事実誤認の記述も見られます。

日本銀行は金融緩和と円安で投資を増やし、企業の業績改善を通じた賃金引き上げと消費拡大で物価が上がる好循環を期待している」(下線は引用者による加工)。

この「円安で投資を増やし、」の記述、まったくの事実誤認です。くどいようですが、日銀は為替相場を特定水準に誘導するために金融緩和を行っているのではないからです。

「円安が市場の危険を育てる」という珍説

こうしたなかで、中央日報のこの記事が興味深いと思うのは、こんな記述が含まれている点でしょう。

問題は円安が市場の危険を育てるというところにある。アジア金融危機再現の可能性に対する声も出ている」。

「円安が市場の危険を育てる」、というのは、なんとも面妖な説ですが、中央日報はこう続けます。

英王立国際問題研究所のジム・オニール氏はこのほどブルームバーグとのインタビューで『円が1ドル=150円水準まで落ちれば1997年のアジア通貨危機水準の混乱を引き起こしかねない』と話した。中国当局が人民元安に出て連鎖的動きを呼び起こしかねないという話だ」。

思わず、頭の中に「?」マークがいくつも浮かびます。

この点、中国(と韓国)が金融政策を為替相場政策だと勘違いしているフシがある点はそのとおりですが、そもそも日本の円安はべつに日銀が人為的に起こしたものではありません。なぜ日本の円安がアジア通貨危機のような混乱を発生させるというのでしょうか?

おそらく、中央日報が引用したジム・オニール氏の発言は、「日本の金融政策は、結果としてアジアにおける通貨安競争を主導することになりかねない」、といったくらいのニュアンスなのではないかと思います。

いずれにせよ、こうした中央日報の記述自体、「韓国では中央銀行の役割は為替相場を操作することにある」という、韓国社会におけるコンセンサス(そして少なくとも先進国にとっては完全に誤った認識)の存在を象徴しているものでもあるのでしょう。

記事の端々からにじみ出る「韓国式価値観」

ちなみに各国メディアの記事というものは、得てしてその国の価値観が出てきたりするものでもあります。こうしたなか、中央日報が引用しているオニール氏の発言にも、こんなくだりもあります。

中国は(円安を日本の)輸出競争力を高めるための不公正なものと判断するだろう。自国経済保護に向けた外国為替市場介入を理性的に感じることになるだろう」。

この発言をわざわざ引用するというあたり、「中国が日本の円安に対抗するために為替介入をするだろうから、韓国も同じことをしてもよい」、といった価値観が見えかくれしますが、それだけではありません。なにより驚くのは、こんな記述です。

1997年のアジア通貨危機当時、米国と日本は人民元切り下げにともなうアジア諸国の通貨下落を防ぐため中国に人民元を切り下げないよう要求した。中国は人民元下段を固定(ペッグ)して人民元の価値を維持し域内の長兄としての面目を見せた」(※下線は引用者による加工)。

「域内の長兄」(!)。

なんとも強烈な表現ですね。こうした細かい表現の端々に、韓国の世界観を垣間見ることができます。

少なくとも圧倒的多数の日本人は国際関係において「上下関係」を感じていませんし、中国や韓国のことを「兄」とも「親」とも認識していません。せいぜい「単なる隣国」であり、もっといえば「他人」でしょう。しかし、韓国メディアにしてみたら、やはり「中国をトップとする国同士の序列」が強烈に意識されている格好です。

このあたりは、やはり私たち日本人には理解できない「中韓の密やかな連帯感」(※鈴置氏談)のようなものがあるのかもしれませんね。

中国とのスワップでいかが?

さて、昨日の『自民党の外交安保「安倍路線」に見える岸田首相の限界』でも軽く触れたのですが、自民党の令和4年版の政策パンフレットに、こんな記述があります。

『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向け、米、豪、印、欧州、ASEAN、太平洋島嶼国、台湾等との連携を強化します」。

「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)は「基本的価値を共有する相手国との連携」という構想のことですが、その「連携すべき相手国」に米豪印や欧州、ASEAN諸国と並んで台湾なども名指しされているのに対し、中韓に関してはすっぽりと抜けてしまっているのは印象的です。

この点、韓国がここ数週間、日本との通貨スワップを求めているフシがあることは、当ウェブサイトでも何度となく取り上げてきたとおりですが、大変残念なことに、少なくとも政権与党である自民党は、韓国を「価値観を共有する国」とは見なしていないのです。

ただし、韓国にとってはべつに悲観する必要はありません。

その気になれば、中国との通貨スワップも存在しているからです。

もちろん、スリランカの事例のように、中国はなにかに理由をつけて通貨スワップの引き出しを拒絶する可能性もあるのですが(『スリランカからの通貨スワップ発動要請を拒否した中国』等参照)、「アジアの長兄」が韓国を見捨てることは、きっとないのでしょう(よく知りませんが…)。

中国との「人民元スワップ」はイザというときに役に立つものなのか――。これについて、ちょっと考えさせられる事例が出てきました。先月「事前調整型デフォルト」に陥ったスリランカです。一部メディアの報道によると、スリランカは中国に対し、通貨スワップの発動を要求したものの、中国側が「輸入3ヵ月分をカバーするだけの外貨準備がなければスワップ発動に応じない」として、これを拒否していたようなのです。中国のスワップ外交中国が外国と締結している通貨スワップ・為替スワップの一覧昨年の『中国が保有する人民元通貨スワッ...
スリランカからの通貨スワップ発動要請を拒否した中国 - 新宿会計士の政治経済評論
新宿会計士:

View Comments (15)

  • こういった記事を見ると、新聞社でさえこうなのだから一般国民の程度も想像できるかと思います。日本に長く住み状況はよく知っているはずの返真一氏でさえ「尹大統領は元慰安婦問題で日本から謝罪を取り付けられる!?」って記事を書いているくらいですから、日本にとっては終わっている話を何度も蒸し返す韓国ってそんなものなんだなあと思います。それにも増して、有史以来、ほぼ属国だったせいなのか、韓国には自分たちで何とかしようではなく、誰かが何とかしてくれるだろうという甘い考えが根付いているのだと思います。本当、迷惑な国が海を隔てているとはいえ、存在しているのが残念です。

  • 朴槿恵時代でしたでしょうか。日銀の金融緩和は『近隣窮乏化策』だと韓国が半年間くらい日本を糾弾するキャンペーンを張っていた。ダボス会議でも日本を糾弾していた記憶。結局、国際社会はその主張に誰も同調しなかった。

  • 国外へ脱出するのが大好きな韓国人。

    円安で日本が景気よくなれば近場だし脱出には好都合じゃないですか。ま、来ないでほしいけど。

  • 私が子供の頃、ということはとりもなおさず今から約半世紀ぐらい昔々のことなのですが、こういうジョークがありました。

    車のハンドルの値段は幾ら?    ずばり180円!

    当時は1ドルが360円という固定レートでした。なのでハンドルは半ドル、すなわち180円という駄洒落ネタでした。

    その後19歳で車の免許を取得し、ガソリンも定期的に購入するようになった頃、ガソリンの値段は80円台だったような記憶があります。先日近所のガソリンスタンド(セルフ)へ行った際、値段はリッター163円(カード割りでー2円)がでした。私が免許取得した当時と比べほぼ倍になっているわけですが、新入社員の初任給ベースで比較すれば、さほど値上がりしているとも思えません。

    まっそんなこんなで、個人的には1ドルが180円ぐらいまで落ちても、あまり構わないような気もします。ガソリン価格やら電力料金、それにパンとかトウモロコシやら輸入商材である食料品価格は多少は値上がりしそうですが、日本人ならコメと小魚、それに野菜さえあれば何とか食いつなぐことは可能であろうと、かなりノー天気に考えております。

    それにしても、数量政策学の高橋洋一氏も言っておりますが、円安には日本のGDPを底上げさせる要素もあるのだということを、日本人、というか日本のメディア関係者はもっと自覚するべきでしょう。これなどは海外に巨額の債権を保有している日本ならではの事情なのかもしれませんが、こうした指摘をされている人物は、新宿会計士様や高橋氏その他極少数の方たち以外に、主要メディアではあまり見かけないような気がします。

    つらつら思うに、日本のメディアでは表には出て来ない裏の部分にこそ真実が隠されている事も多いのかもしれない、などと嘆息したりもする今日この頃なのです。

    • >メディアでは表には出て来ない裏の部分にこそ真実が隠されている

      そのとおりと同意します。
      新聞記者やNHKが報じるようになって初めて気が付く、初めて理解するようでは社会の機微に敏感とはとても言えないと考えます。今頃こんなこと言ってらへへへくらいでちょうどです。

      • はにわファクトリー 様

        返信有り難うございます。

        我ながら、随分とすれっからしになったのかなぁ~と思う反面、こんな当たり前のことに何で気づかないんだ!?などという思いを、たまに味わったりもします。

  • 隣国との関係が親だの兄だのというのは韓国人はそう思っているのでしょう。わたしにもその体験があります。
    仮に親なり兄としても相当な毒親、毒兄ですが。

  • (人民元の切り下げで対中通貨スワップのドル換算は減損?)

    誤:円安で"アジア"通貨危機が再来か
    正:円安で ”韓国” 通貨危機が再来か

    たとえ中国が人民元を切り下げても、アジア諸国では対日通貨スワップやCMIMの存在が、それなりのバックストップとして機能するはずなんですよね。
    だだ、一国を除いては・・。

  • 鈴置さんの「韓国民主政治の自壊」読みました。
    素晴らしいですね、「米韓同盟崩壊」と共に外務省の方の必読図書に指定して欲しいです。

  • 中央日報はサムスン系でしたっけ?
    無理筋でもナンデモ日本のセイにして「スワップよこせにだ」の布石のツモリなんでしょーかナァ??

  • この記事から読めることは、韓国は円安と同じく元安も恐れていること。

    韓国は主要産業の多くで日本や中国と競合している。

    先月、韓国は中国との貿易で27年9カ月ぶりの赤字となった。
    しかもロー、ミドルクラスの半導体の輸入急増がその主因。

    現在、韓国が中国に対して有利な分野はハイクラスの半導体だけ。
    それもキャッチアップされるのは時間の問題だろう。

    かつてサムスン電子2代目のイ・ゴンヒは「逆サンドイッチ」を唱えた。
    それは韓国が日米欧に追いつく前に中国の追撃を受けて潰される、というもの。

    ネーミングはともかく、ついにこの言葉が実現することになった。

    中国は精密化学原料を握りながら半導体産業が発展していく。
    今後も韓国の対中貿易赤字は拡大していくだろう。

    韓国にとって円安、元安は自国の経済危機に直結する。

  • 韓国が中露経済圏でいくて行く覚悟を決めればそれで済むことですね。ウォン/元スワップが活用できることをお祈りします。

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