オフショア円債券発行額が28年ぶりに4千億ドル割れ

世界のオフショア債券市場では2022年3月末時点において、日本円での債券発行額が4000億ドルを割り込みました。4000ドル割れは1994年以来28年ぶりのことです。その一方で、相変わらず債券市場では米ドルとユーロが圧倒的な存在感を放っており、人民元は小幅で債券発行額を増やしているものの、依然として「国際通貨」と呼ぶには規模が小さすぎます。

通貨の実力を読む手段

通貨の実力を読むうえで重要な要素はいくつかあるのですが、そのひとつが、「その通貨が発行国を越えてどの程度通用しているか」という尺度でしょう。

そして、「その通貨が域外で通用している度合い」に関しては、①その通貨が決済手段としてどの程度使用されているか、②その通貨がどの程度、外貨準備に組み入れられているか、③その通貨で外国人がどの程度債券を発行しているか、といった客観的な統計資料で計測することができます。

このうち①の決済手段については『SWIFTデータで見る「G20スワップ」の非現実性』などで、②については『開戦準備の証拠?ロシア外貨準備でドルが急減していた』などで、それぞれ最新の統計データを詳しく紹介していますので、ご興味があれば是非ともご参照ください。

世界のオフショア債券市場ランキング

こうしたなか、本稿では久しぶりに、国際的な債券発行に関するデータを紹介してみたいと思います。

国際決済銀行(the Bank for International Settlements, BIS)が作成する『債務証券統計』(Debt Securities Statistics)と呼ばれている統計データの2022年3月末時点までの最新版が、昨日、公表されました。

これは、「非居住者が発行した債券」(俗にいう「オフショア債券」)などを通貨別に集計したもので、本稿で注目したいのはこのうち2022年3月末時点における発行残高です。とりあえず1位から40位までを一覧にし、画像ファイル化したものが、次の図表1です。

図表1 オフショア債券発行額・通貨別ランキング(2022年3月末時点)

(【出所】 the Bank for International Settlements, Debt Securities Statistcsより著者作成)

※この図表についてはテキスト化したものを本稿末尾に資料として掲載しておきますので、数値として使用したい方はご自由にご利用ください。

米ドルとユーロが双璧をなす:ドルの地位は回復傾向

これで見ると明らかですが、世界のオフショア債券の発行残高は半数近くが米ドルで占められています。過去には全世界における発行残高が30%を割り込んでいた時期もあったのですが、近年はむしろ米ドルのシェアは回復傾向にあります(図表2)。

図表2 非居住者による債券発行額(USD)

(【出所】 the Bank for International Settlements, Debt Securities Statistcsより著者作成)

これに対し、米ドルと双璧をなすのがユーロですが、統計上は1993年ごろから発行された始めたものの、ユーロが本格導入されると発行額も急増。リーマン・ブラザーズの経営破綻が発生した2008年頃には50%近くにまで増えましたが、近年は再びシェアを落としています(図表3)。

図表3 非居住者による債券発行額(EUR)

(【出所】 the Bank for International Settlements, Debt Securities Statistcsより著者作成)

日英で強弱別れるが…

一方で、「金融大国」である英国の通貨・ポンドも、オフショア債券市場では存在感を放っており、世界のオフショア債券市場に占める現在のシェアは8%を少し割り込むくらいですが、過去に10%を超えていたこともあります(図表4)。

図表4 非居住者による債券発行額(GBP)

(【出所】 the Bank for International Settlements, Debt Securities Statistcsより著者作成)

こうしたドル、ユーロ、ポンドに対し、過去に一貫してシェアを落とし続けている通貨が日本円です。

過去には世界のオフショア債券市場で発行額が20%近くに達していたこともあったのですが、2022年3月におけるオフショア債券発行額は3762億ドルで、4000億ドルの大台を割り込むのは3826億ドルだった1994年以来、じつに28年ぶりのことです(図表5)。

図表5 非居住者による債券発行額(JPY)

(【出所】 the Bank for International Settlements, Debt Securities Statistcsより著者作成)

ただし、2022年3月において日本円の債券発行額が4000億ドルを割り込んだ理由は、円建て債券が償還されただけでなく、むしろ円安の進行により債券のドル換算額が目減りしたという側面が強いのではないかと思います。

この点、直近で円安が進んでいること、それにも関わらず低金利状況が続いていることなどを踏まえるならば、「円キャリー・トレード」が盛んだった2000年代後半から2010年代前半のように、再び円建てでおカネを借りる人が世界的に増えてくる可能性はあります。

人民元とルーブルの状況

その一方で、中国の人民元に関していえば、発行額自体は増えているものの、マーケットシェアに関しては依然として0.5%に満たない水準にあります(図表6)。

図表6 非居住者による債券発行額(CNY)

(【出所】 the Bank for International Settlements, Debt Securities Statistcsより著者作成)

図表で見ても明らかですが、やはり人民元の国際化は2015年ごろで完全にストップしていることがわかります。つまり、中国の通貨・人民元は中途半端に国際化が進んでいるものの、依然として米ドルどころか日本円すら追い抜くことができていない、というわけです。

なお、ロシアの通貨・ルーブルに関していえば、もともと世界のオフショア債券市場では存在感がありませんでしたが、2014年のクリミア半島併合以来、発行額、シェアともに非常に低下しました(図表7)。

図表7 非居住者による債券発行額(RUB)

(【出所】 the Bank for International Settlements, Debt Securities Statistcsより著者作成)

おそらく今後は西側諸国の制裁の影響で、ルーブルはさらに存在感を落としていくのではないかと思う次第です。

資料:図表1のテキスト化データ

なお、先ほどの図表1をテキスト化したものが、次の図表8です。ご自由にご利用ください。

図表8 オフショア債券発行額・通貨別ランキング(1~40位)
通貨発行額構成比
【合計】27兆7754.64億ドル100.00%
1位:米ドル(USD)13兆1309.54億ドル47.28%
2位:ユーロ(EUR)10兆6415.95億ドル38.31%
3位:英ポンド(GBP)2兆1760.52億ドル7.83%
4位:日本円(JPY)3761.92億ドル1.35%
5位:豪ドル(AUD)2799.73億ドル1.01%
6位:スイスフラン(CHF)1944.53億ドル0.70%
7位:加ドル(CAD)1510.79億ドル0.54%
8位:スウェーデンクローナ(SEK)1358.95億ドル0.49%
9位:人民元(CNY)1240.85億ドル0.45%
10位:香港ドル(HKD)1110.96億ドル0.40%
11位:ノルウェークローネ(NOK)914.63億ドル0.33%
12位:メキシコペソ(MXN)393.67億ドル0.14%
13位:シンガポールドル(SGD)364.09億ドル0.13%
14位:ニュージーランドドル(NZD)355.68億ドル0.13%
15位:南アフリカランド(ZAR)351.02億ドル0.13%
16位:ブラジルレアル(BRL)220.17億ドル0.08%
17位:ロシアルーブル(RUB)161.51億ドル0.06%
18位:ポーランドズローティ(PLN)148.48億ドル0.05%
19位:トルコリラ(TRY)130.81億ドル0.05%
20位:インドネシアルピア(IDR)126.60億ドル0.05%
21位:インドルピー(INR)118.74億ドル0.04%
22位:チェココルナ(CZK)92.29億ドル0.03%
23位:イタリアリラ(ITL)78.34億ドル0.03%
24位:エジプトポンド(EGP)69.98億ドル0.03%
25位:コロンビアペソ(COP)67.89億ドル0.02%
26位:デンマーククローネ(DKK)56.25億ドル0.02%
27位:サウジアラビアリヤル(SAR)53.24億ドル0.02%
28位:ドイツマルク(DEM)45.44億ドル0.02%
29位:チリペソ(CLP)38.31億ドル0.01%
30位:フィリピンペソ(PHP)36.60億ドル0.01%
31位:タイバーツ(THB)33.53億ドル0.01%
32位:UAEディルハム(AED)25.38億ドル0.01%
33位:韓国ウォン(KRW)23.78億ドル0.01%
34位:フランスフラン(FRF)22.56億ドル0.01%
35位:マレーシアリンギット(MYR)14.64億ドル0.01%
36位:台湾ドル(TWD)13.82億ドル0.00%
37位:ハンガリーフォリント(HUF)12.74億ドル0.00%
38位:アイスランドクローナ(ISK)9.59億ドル0.00%
39位:スロバキアコルナ(SKK)4.73億ドル0.00%
40位:アルゼンチンペソ(ARS)3.04億ドル0.00%

(【出所】 the Bank for International Settlements, Debt Securities Statistcsより著者作成)

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 元日本共産党員名無し より:

    これからもっとロシアルーブルは凋落して行くでしょうが、現状、経済の規模でロシアと競ると言われた韓国ウォンのルーブルに比しての存在感の無さが私には目につきました。とは言えJPYの凋落は一時の事を思うと驚くほどですね。「円の強さ」があってこそのハードカレンシーと言う前提が崩れかねないレベル。今後はもうドルとユーロとせいぜい英ポンドも有れば足りる、みたいな寡占状態になって行くのでしょうか?よく「世界はパクスアメリカから多角化に」と言われて来て、実際に世界の富の(絶頂期には)2/3がアメリカ一国に集中していたものが今や20%台前半と言われる。「もはやアメリカは世界の警察では無い」などとアメリカ自身が言い出す。そう言う状況にあって、もっとドル以外の通貨、特に円のなどが台頭するかと思ったがそうでもない。ユーロと米ドルが圧倒的で2強他弱になっている。意外でした

  2. 団塊 より:

    >>「非居住者が発行した債券」

    合計が約10倍になり、そのなかで円が占める割合が約10分の1になったのですね、1994年から2022年で。

    2022年3月の
    >>「非居住者が発行した債券」

    >>合計
    が、27兆7755.64億ドル

    1994年3月の合計は
    約2兆7329億ドル=3826億ドル÷0.14

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