「勝利宣言は絶望的」ロシア外交当局者の面黒い言い分

「国際社会の信頼できる一員として、良き隣国であり続けたい」と述べたロシアの外相、そして「むしろロシアはウクライナ危機を収束させようと努力している」と述べた駐米露大使…。本当に面黒い国です。「自分たちは悪くない」と言い張るレトリックが典型的な「ウソツキ国家」のそれであるとともに、現在の状況が自分たちにとって都合が悪いということも、彼らの報道を眺めていると、手に取るようにわかる、というわけです。

ロシアは「5月9日の勝利宣言」を諦めた?

ロシアにとっての大変重要な日付といえば、対独戦で勝利したとされる5月9日です。ですが、『限りなく低い「5月9日にロシアの勝利宣言」の可能性』などでも取り上げたとおり、どうもロシアはこの5月9日に「勝利宣言」をすることを、完全に諦めているフシがあります。

考えてみれば、それも当然かもしれません。2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、「戦果」らしい戦果はないからです。

それどころか、現在のロシアは西側諸国からの経済・金融制裁を喰らい、マクドもスタバも撤退し、ロシア人はクレジットカードも使えなくなり、ロシアと外国を結ぶ主要な国際航空便は運行を停止し、さらには黒海艦隊の旗艦「モスクワ」は海の底。

もちろん、ロシア自身は北朝鮮などと異なり資源国ではありますので、その気になれば「内に籠る」ことはできます(『意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える』等参照)。

しかし、それと同時に、昨今の国際化した社会において、西側諸国からさまざまな製品などが入って来なくなった場合には、経済にいかなる影響が生じるのかは予測が困難でもあります。

ラブロフ外相「中央アジア諸国と良き隣人でありたい」

こうしたなかで、ロシアの高官の発言からは、現在のロシアが置かれている状況を垣間見ることができます。

ロシアのメディア『タス通信』(英語版)に昨晩、こんな記事が掲載されていました。

Russia seeking to be good neighbors with Central Asia, Lavrov says

―――2022/05/05 16:02付 タス通信英語版より

タス通信によると、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は木曜日、『ロシア新聞』(ロシースカヤ・ガゼータ)への寄稿で、中央アジア諸国との修好30周年を記念するなかで、「近隣のすべての国とのあいだで良好で建設的な関係を維持することを模索している」、などと述べたのだそうです。

タス通信が報じたラブロフ氏の発言は、こんな具合です。

ロシアは国際社会の信頼できる一員として、良き隣国であり続け、すべての国、主に隣国と建設的な協力を維持しながら、慈悲深い外部環境を求めている。その多くが我々の同盟国でもある中央アジア諸国との戦略的パートナーシップを享受せざるを得ない」。

タス通信によると、ラブロフ氏はまた、「地政学的状況が激動するなかで」、ロシアと中央アジアとの貿易関係が成長しつつあるとし、「2010年から2021年の間だけでもロシアの累積投資額は約305億ドルに上り、1万社以上のロシア企業と合弁事業が活動しており、90万人の雇用を生み出している」と絶賛したそうです。

正直、わけがわかりません。

この人物のいう「国際社会における信頼できる一員」かつ「良き隣国」とは、ある日宣戦布告もなしにいきなり隣国に攻め込むことをさしているのでしょうか?なかなかに不可解であり、面黒い見解です。

駐米露大使は核戦争に言及

一方、同じくタス通信には今朝、こんな記事も出ていました。

Russia does not threaten US, its allies in Europe – ambassador

―――2022/05/06 10:45付 タス通信英語版より

こちらの記事では、アナトリー・アントノフ駐米ロシア大使がニューズウィークの記事で、「ロシアは米国、米国の欧州諸国の同盟国を脅かすつもりはない」、「ウクライナ危機がこれ以上悪化するのを防ぐように、ロシアはベストを尽くしている」と述べた、などとしています。

この人物の発言についても取り上げておきましょう。

我々の国は米国やその欧州の同盟国を脅かすつもりはない。それどころか、これと対照的に、我々はウクライナ危機のエスカレーションを防ごうと努力している。我々はロシアの特別軍事作戦に対するNATO諸国の介入に関連する新たなリスクについて警告することを余儀なくされている」。

これもなかなか強烈な言い分といわざるをえません。

この期に及んでロシアによるウクライナ侵略を「特別軍事作戦」と言い張るというのも興味深い点ですが、それ以上に、「むしろ我々の方が平和実現のために努力している」という言い分も強烈です。

日本の近所にある、「自分たちの側に100%の過失があるにも関わらず、あたかも相手に過失があるかのごとく振る舞う」という3ヵ国に慣れていたとしても、やはりロシアの言い分を聞けば、改めて新鮮な気持ちになれるのかもしれません。

もっとも、アントノフ氏の本当に言いたいことは、次のこんな発言ではないでしょうか。

現在の世代のNATO諸国の政治家らは、核戦争の脅威を真剣にとらえていない」。

いわば、再び核戦争の可能性に言及した、ということでしょう。

いずれにせよ、ロシアの当局者のこうした発言を眺めていると、現在のロシアが置かれている戦況が決して芳しくないことがわかります。また、自分たちが苦しい状況にあるということを自ら述べてしまうタス通信というのも、興味深いメディアと言わざるを得ないのです。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

    個人的感想ですが、5月9日にプーチン大統領としては、(勝利宣言か戦争宣言か、それとも別の宣言かは別にして)今回のウクライナ危機に関して、何らかの言及をせざるを得ません。もしかしたら、世界の予想の上をいく宣言(?)を、するのかもしれません。

    1. 引きこもり中年 より:

      すみません。追加です。
      昔、イギリスのチャーチルが、有名な「鉄のカーテン」演説をしましたが、5月9日にプーチン大統領が、「次のカーテン」演説をすることは、ないでしょうか。

  2. ホワイト国 より:

     本日(5月6日)、夜8時のBSフジプライムニュースに、安倍元首相が出演して
    『ロシア軍事侵攻と日本、国を守るための新戦略』について語るようです。

    1. 元ジェネラリスト より:

      文字には出てませんが、河野元統幕長も相方出演すると言ってました。

  3. 世相マンボウ、 より:

    敗色明らかな中とはいえ
    勝利宣言に躊躇するとは
    意外と小心もののプーチンさんです。
    その点、
    プーチンさんの肩を持つ
    ミスター民主党鳩ぽっぽさんとかは
    負けてもいつも勝利宣言して
    来てるように感じます。
    また、イスラエルに
    ナチスレッテル貼りを
    謝罪したことについては
    同じナチスレッテル貼りでも
    謝罪をしない菅直人センセに
    負けてしまってお見えです。
    今回の侵略でネットでは
    プーチンは菅直人を超えた?
    との声があがりましたが、
    いや、まだだ。プーチンは
    原発を爆発させてない?
    との書き込みも目にしました。

    1. KY より:

       >勝利宣言に躊躇する

       そのうちどっかの半島よろしく「精神的勝利宣言」でもプーチンはするつもりなのでしょうか?

  4. がみ より:

    プーチンさんの文在寅化

    なんでしたらちょうど5月9日ですし、露韓合同で「終戦宣言」と「戦勝宣言」一緒にやればいいのに。

    10日から新政権なんだし❗

  5. ナニガシ より:

    もしかしたら、ラブロフは手のひらを返しているのでしょうか?
    ウクライナが戦争を止めようとしないから、続けてるんだ?
    酔っ払いを相手にしているようで、話についていけません。

  6. 引っ掛かったオタク より:

    黒海艦隊が順調(?)に削られいるようです。
    まだ5年程の新しめの艦やらソビエト時代から造り続けて輸出もしてるフリゲートやら。

  7. 月長石 より:

    >>自分たちが苦しい状況にあるということを自ら述べてしまうタス通信

    タスケテ通信と空目しました。

  8. 匿名 より:

    慈悲深い外部環境ってw

  9. 門外漢 より:

    >この期に及んでロシアによるウクライナ侵略を「特別軍事作戦」と言い張る

    かつて帝国が支那「事変」を戦ったことを想起します。決して日中戦争ではありませんでした。
    なら、満州帝国はドンバスで、南京攻略がマリウポリってことですな。
    そのうち、国民党政府は相手にせず・・・なんて言い出すと思います。

  10. なな より:

    日ロ中韓北のネトウヨ=血の繋がった完全同類

    ロシアを「嘘つき国家」といってる割に、
    「自称元慰安婦」とか「自称元徴用工問題」とか…呆
    それの被害者の基本、日本人ですけど。

    日本のネトウヨは海外で「NETOUYO」と英語になり、
    訳は「日本の異常者」。

    まともな日本人や海外からすれば、ネトウヨ日本の妄言は、ロシアネトウヨの妄言と全く同じなのよ。

    世界「侵略戦争するな」
    ロシア・旧日本軍「うちの戦争だけは正義!侵略じゃい!」(→ブチギレて国際団体を出ていく)

    世界「何でこんなことをする?」
    ロシア・旧日本軍「欧米に追い詰められたガラ〜!」

    世界「戦争に乗じた性犯罪者が」
    ロシア・旧日本軍
    「レイプはウクライナ人がやった!」
    「慰安婦は売春婦!」

    世界「自国民まで殺してるな」
    ロシア・旧日本軍「祖国の為に散った兵士のために、豪華な教会・靖国建てました!」

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

ナニガシ へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告