外交青書に対する韓国政府の「抗議内容」に抱く違和感

日本政府が外交青書で竹島領有権問題に言及したことを受け、韓国政府が抗議したそうです。ただ、これについて報じた記事を読んで驚きました。本来、抗議するポイントは「そこじゃない」と思ったからです。外交青書を熟読すると、韓国が怒るべき「もっと大事なポイント」は、ほかにもあるのではないでしょうか。また、もしも不満に思うなら、「政策協議代表団」の訪日を中止するのが筋ではないか、などと思うのですが…。

基本的価値を共有しない近隣4ヵ国

政府が公表した今年の『外交青書』では、昨年から引き続き、日本外交が「自由・民主主義・人権・法の支配」といった「基本的価値」を共有する相手国との連携を重視する姿勢を示しました(『外交青書、「中露朝韓」に対する厳格姿勢を維持・強化』参照)。

とくに、日本の近隣5ヵ国(中露朝韓台)のうち、台湾を除く4ヵ国に関しては、いずれも「基本的価値の共有」という記述もなく、さらには領土問題ないし拉致問題など、何らかの懸案を抱えているということが明記されています。

考えてみれば、ある国が「基本的価値」を共有しているかどうかは、大変に重要な視点です。

人間関係でも「話が通じる相手」との関係は非常に楽ですが、「話が通じない相手」とは、そもそもコミュニケーションを取るだけでも、大変な労力を強いられるからです。

「国際法を守る」、「約束を守る」、「ウソをつかない」、「信義誠実に行動する」。

日本人にとっては当たり前すぎる価値観ですが、非常に残念ながら、こうした価値観が全世界でも等しく通用するということはありません。

したがって、私たちが重視しなければならないのは、私たち日本人と共通の価値を持っている相手国との関係であり、「地理的に近い」というだけの理由で、私たち日本人と価値を共有していない相手国との関係をむやみに深めるべきではないのです。

基本的価値共有という視点では「台湾>韓国」

こうしたなか、もしも自分自身が韓国の政策当局者だとしたら、まっさきに危機感を覚えるべきは、日本の外交青書から近年、「日韓両国は基本的価値を共有している」とする文言が削除されて久しいことではないかと思います。

そもそも今年の外交青書上、韓国については次のように記載されています(同P18)。

韓国は重要な隣国であり、北朝鮮への対応を始め、地域の安定にとって日韓、日米韓の連携は不可欠である。日韓関係は、旧朝鮮半島出身労働者問題や慰安婦問題などにより非常に厳しい状況にあるが、このまま放置することはできない。国と国との約束を守ることは国家間の関係の基本である。日韓関係を健全な関係に戻すべく、日本の一貫した立場に基づき、韓国側に適切な対応を強く求めていく。また、竹島は、歴史的事実に照らしても、かつ、国際法上も日本固有の領土であり、この基本的な立場に基づき、毅然と対応していく。

この記述のどこを読んでも、韓国のことを「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有」、といった文言は含まれていません。それどころか、「国と国との約束を守ることは国家間の関係の基本である」、などとも指摘されてしまっています。

暗に、「韓国は国と国との約束を守らない」、「だから日本は韓国を『基本的価値を共有する国』とはみなさない」、と述べているようなものでしょう。

これに対し、日本が公式には「国」とは認めていないはずの台湾に関しては、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である」(同P43)とはっきり記載されています。

こうした文言を踏まえ、韓国の政策当局者としては、危機意識を覚えた方が良いのではないか、などと思ってしまうのです。

韓国政府が日本に抗議!

ただ、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に掲載されたこんな記事を読むと、ちょっとズッコケてしまいます。

日本外交青書が独島領有権主張…韓国政府、駐韓公使呼んで強く抗議

―――2022.04.22 13:47付 中央日報日本語版より

中央日報によると韓国政府は22日、外交部庁舎に駐韓日本大使館の熊谷直樹総括公使を呼んで韓国政府の立場を伝えるとともに、報道官が次のような趣旨の論評を発表したそうです。

日本政府が22日に発表した外交青書で、歴史的、地理的、国際法的に明白な我々固有の領土である独島に対する不当な領有権の主張を繰り返したことに強く抗議し、これを直ちに撤回することを促す」。

文章に含まれる「独島(どくとう)」とは、韓国が不法占拠している日本領・島根県竹島に対し、韓国側が勝手につけた呼び名のことですが、要するに、「竹島の領有権を主張するな」とするもので、これはこれで外交青書の記述が韓国に刺さっている証拠のひとつでしょう。

これに加えて中央日報が報じた外交部声名に対する「ツッコミどころ」はほかにもあります。2015年12月の日韓慰安婦合意に関する、こんな記述です。

2015年の韓日慰安婦合意は被害者の名誉と尊厳の回復および心の傷の治癒をその核心としているため、日本政府は合意の精神に合う行動を示すべきだ」。

そもそも慰安婦合意形成に向けた外交機密文書を勝手に公開したばかりか、慰安婦に関する「和解・癒やし財団」の事業を停止し、最終的には法人格そのものを解散してしまうなど、慰安婦合意自体を覆したのは韓国の側です。

また、日本政府は慰安婦合意におけるすべての義務(安倍晋三総理の謝罪と10億円の拠出)を履行していますが、韓国政府が負った義務、とりわけ「日本大使館前の慰安婦像問題を解決する義務」についてはまったく履行されていません。

自分で約束を破っておいて、なにが「日本政府は合意の精神に合う行動を示すべき」、ですか。

抗議するポイントは、そこですかい!

ただ、ここで疑問に感じるのが、「抗議すべきポイントは、そこですか?」、です。

非常に不思議なことに、中央日報の記事のどこを読んでも、台湾の記述ですら含まれている「基本的価値の共有」という記述が、韓国の記述に含まれていないという点に対し、韓国政府・外交部が遺憾の意を表した、といった内容はないのです。

このことは、韓国政府側も暗に「韓国は日本と基本的価値を共有していない」という事実を認めている、という意味なのでしょうか?

本当に疑問です。

ついでにもうひとつ疑問を呈しておくならば、今回の「独島領有権問題」に関する外交青書の記述に抗議するならば、尹錫悦(いん・しゃくえつ)次期大統領が来週、日本に派遣する予定の「政策協議代表団」に対しても、何らかの批判が向けられてしかるべきでしょう。

もちろん、尹錫悦氏自身はまだ韓国大統領ではなく、また、今回の声明を出したのが韓国政府・外交部であり、「政策協議団」を派遣する立場ではありません。

しかし、韓国国内ではこの「政策協議団の日本への派遣」を巡って、韓国が国として日本に「手を差し出した」ことになっているようですので、「わが国が先に手を差し出したのに、日本は独島挑発で答えた」という発想が韓国国内で出て来ても不思議ではありません。

ただ、現時点において、政策協議団の派遣を取りやめる、といった報道は見当たりません。

個人的には、「そんなに外交青書の記述が気に入らないのなら、政策協議団の派遣も見送れば良いのに」、などと感じているのはここだけの話です。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. ジロウ より:

    会計士様、記事更新ありがとうございます。一方で、「林外相と韓国「政策協議代表団」、25日に夕食会」という話もあり、岸田政権って何考えているんだろうと思います。国民に厳しく、外面だけ気にする姑息な岸田首相の一面を垣間見た気がします。髭の隊長とかがツイッターでいろいろ批判していますが、ツイッターで批判するなら与党議員なら直接言えばいいのにと思います。これも単なるガス抜きのためじゃないかと疑心暗鬼になります。私利私欲じゃなく日本のために働いてくれる議員っていないんでしょうかねぇ・・・。

    1. 引っ掛かったオタク より:

      “日本のために”と動こうとするヒトが必ずしも”働ける”ワケでもナイ…のがツラいトコロですかな

      1. 匿名 より:

        無能だが勤勉な人が時と場合によっては「善意と誠意で組織に特大急の害をなす」と言うのはよくある事だと思います。

  2. 攻撃型原潜#$%〇X より:

    日本のやることなすことに必ずケチを付ける韓国をいちいち構う必要は、韓国利権の甘い汁を吸ってきた人達以外はもうないでしょう。
    韓国の「政策協議代表団」は何も政策を持っていないのに政策を協議しに本当に来るんですか。実質は陳情団でしょう。もし脇の甘い所を見せて政府が対応すれば、夏の参院選は自民が票を減らす可能性が出てきます。マスコミが陰に陽に支援して内閣支持率を底上げされている岸田政権が続くくらいなら立憲共産党ではない野党連合に過半を取られてしまえ、と個人的には思います。

  3. Naga より:

    韓国は口でだけ関係修復などを言いますが、同時に、いつも嫌がらせだけはし続けます。
    そのことの「変」さ加減は何も感じないのでしょう。
    そもそも関係修復や友好など本当に望んでいるわけではなく、その裏に別の目的があるということです。
    真面目に相手にせず適当にあしらっておいて、油断せず日本の韓国に対する防衛も考えておくべきだと思います。(中国、北朝鮮、ロシアに対してはもちろんです)
    韓国の防衛費は日本と同程度らしいですが、これは日本を仮想敵国したものであることは間違いないでしょう。

  4. 雪だんご より:

    もしかしたら、韓国の世論は”政治的公平性”や”民主主義の成熟度”などにおいて
    「韓国は日本を圧倒している、日本は政治先進国だpgr」とでも
    思っているのかも知れませんね。ローソク革命なんぞを褒めたたえましたし。

    だから日本が「韓国は自由で民主的な価値観を持っているとは見なさない」と
    表明しても「まーたロシア並のたわごと言ってやがる」ぐらいにしか思わず、
    だからこそ新宿会計士様が述べた突っ込み所に無頓着なのかも知れません。

  5. はにわファクトリー より:

    ・日本は台湾島の本気度に確信が持てない
    ・その点に限って言えば彼らの側から日本を視ても同じこと
    そう文字に書き記してしまうといろいろまずいんでしょうね、きっと。

  6. ねこよん より:

    経団連会長の十倉雅和氏は知韓派です。
    だから余計なことしそうな気がする。

  7. クロワッサン より:

    >自分で約束を破っておいて、なにが「日本政府は合意の精神に合う行動を示すべき」、ですか。

    だって、韓国の基本的価値観では「約束を守るのは弱者か愚者だから、道徳的劣位にある日本が約束を守るのは当然で、道徳的優位にある韓国が約束を破るのは当然で。

  8. 名無しの権兵衛 より:

     憲法前文に「我が国は第二次世界大戦の戦勝国である」旨が明記されている大韓民国にとって、日本との「戦い」で唯一勝利したのが「独島(竹島)支配権を巡る戦い」だったため、独島(竹島)は大韓民国が戦勝国であることを証明する唯一の証拠物件であり、大韓民国のアイデンティティーの根源になっているのだと思います。それに比べれば、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有しているかいないか」などということは、どうでも良い問題なのだと思います。
     「従軍慰安婦問題」も、韓国にとっては日本との「戦い」で勝利した貴重な事例(財産)であり、独島(竹島)と同様にアイデンティティーの根源になっており、これらを否定されることは、彼らのアイデンティティー崩壊に直結する根源的な問題なのだと思います。

  9. マスオ より:

    > 韓国政府側も暗に「韓国は日本と基本的価値を共有していない」という事実を認めている、という意味なのでしょうか?
    会計士様も意地悪ですねw 分かって書いてるでしょ、と思います(笑)
    彼らは当然、価値を共有しているとは思ってないでしょう。自分たちの方が民度が高く「上の存在」だと思ってますよ。何せ、世界3大革命の1つ「ローソク革命」をした民族ですからw
    選挙があっても政権交代できない日本など、韓国国民からみたら、民度が下の下、とても自分たちと比べるべくもない、と思ってますよ。きっと。シランケド

  10. 世相マンボウ_ より:

    あちらの認識では
    『韓国が国として日本に
     先に手を差し出した』(?)(?)
    については大笑いです。
    なんせ、
    嘘までついて金くれえ~
    と手を差し出してくるのは
    先にもなにも、韓流のみが持つ
    特性だと知られているのですから。

    それにしても外交青書の発表は
    偶然にしてはあまりに
    グッドタイミングだなあと感じていたら
    ご親切に朝鮮日報さんの記事に
    その答えがありました。

    QUOTE
    日本政府は慣例的に、
    毎年4月下旬ごろ外交青書を発表するが、
    今年は尹錫悦(ユン・ソクヨル)韓国次期大統領の
    韓日政策協議団の訪問日(24日)直前に公開した。
    UNQUOTE
    ・・・なんだそうです。 (^.^)

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告