外交青書、「中露朝韓」に対する厳格姿勢を維持・強化

昨年に続き価値外交の重要性堅持

日本は自由・民主主義を愛し、基本的価値を共有する米国、豪州、インド、欧州、ASEAN、台湾などとの連携を深める一方で、中国、ロシア、韓国、北朝鮮に対しては一貫した態度で国際法の順守を求める――。これが日本外交の姿です。外務省が本日公表した外交青書からは、菅義偉総理の時代に公表された昨年版の外交青書と比べ、さらに一歩踏み込んだ記述が目立ちました。このことは、素直に評価して良いでしょう。

今年の外交青書

今年の外交青書が公表されました。

原文は外務省のウェブサイト『外交青書』のページから全文(329ページ)をダウンロードすることができますが、現時点ではPDF版の一括ダウンロードしかできないため、とくにモバイルデバイス等でご参照になる場合には、ご注意ください。

これについて、さっそく入手して概要を確認してみると、興味深いことがいくつか判明します。ここでは「日本外交の展望」の部分を確認してみましょう。

骨格を確認する

「7つの重点分野」はなくなったが骨格は変わらない

昨年の外交青書では「日本外交の7つの重点分野」として、①日米同盟、②自由で開かれたインド太平洋(FOIP)、③中国・韓国・ロシアなどの近隣諸国外交、④北朝鮮、⑤中東情勢、⑥新たなルール作りに向けた国際的取り組みの主導、⑦地球規模課題への対応、が挙げられていました(P20~)。

これに対し、今年の外交青書では、こうした「7つの重点分野」という小見出しが削除されてはいますが、①日米同盟、②FOIP、③近隣諸国との関係、④地域外交の課題、⑤自由で公正な経済秩序の拡大、⑥地球規模課題への対応、に言及がなされています。

昨年と比べて「中東情勢」に関する記述がなくなりましたが、FOIPについては引き続き維持されています。その意味では、菅義偉総理大臣が実現した「近隣国重視外交から価値観重視外交」という日本外交の基本姿勢は維持されていると考えて良いでしょう。

中国

次に、「近隣国」についてはこんな具合です。

中国(P18)

日中両国間には隣国であるが故に様々な懸案も存在する。尖閣諸島周辺海域を含む東シナ海における一方的な現状変更の試みは、断じて認められず、冷静かつ毅然と対応していく。

同時に、日中関係は、日中双方にとってのみならず、地域及び国際社会の平和と繁栄にとって重要である。主張すべきは主張し、責任ある行動を求めつつ、共通の諸課題については協力するという「建設的かつ安定的な日中関係」を双方の努力で構築していくことが重要である。

中国に関しては、昨年は「東シナ海を隔てた隣国である中国との関係は、日本にとって最も重要な二国間関係のひとつである」とする記述で始まっていたのですが、今年に関しては「最も重要な二国間関係のひとつ」とする趣旨の記述が欠落。

「日中関係は、日中双方にとってのみならず、地域及び国際社会の平和と繁栄にとって重要である」と述べるに留まっています。

韓国

韓国(P18)

韓国は重要な隣国であり、北朝鮮への対応を始め、地域の安定にとって日韓、日米韓の連携は不可欠である。日韓関係は、旧朝鮮半島出身労働者問題や慰安婦問題などにより非常に厳しい状況にあるが、このまま放置することはできない。国と国との約束を守ることは国家間の関係の基本である。日韓関係を健全な関係に戻すべく、日本の一貫した立場に基づき、韓国側に適切な対応を強く求めていく。また、竹島は、歴史的事実に照らしても、かつ、国際法上も日本固有の領土であり、この基本的な立場に基づき、毅然と対応していく。

韓国に関しては、「韓国は重要な国である」云々のくだりについては昨年のものがそのまま踏襲されていますが、これに「日韓関係を健全な関係に戻すべく~韓国側に適切な対応を求める」とする趣旨の記述や竹島問題に関する記述が加わっています。

ロシア

ロシア(P18)

2022年2月のロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更を認めないとの国際社会の基本原則に対する挑戦であり、冷戦後の世界秩序を脅かすものである。日本としては、G7を始め国際社会と結束し、ロシアが軍隊を撤退させ、あらゆる国際法違反の行為を中止するよう求め、各国と協調した制裁措置の実施を通じ、ロシアの一連の行動には高い代償が伴うことを示していく。

日露関係にとって最大の懸案は北方領土問題である。戦後75年以上を経過した今も未解決のままとなっている。日本政府として、北方領土問題に関する日本の立場や御高齢になられた元島民の方々の思いに応えていくとの考えに変わりはない。しかし、ロシアによるウクライナ侵略という現下の状況で、平和条約交渉の展望を語れる状況にはない。まずは、ロシアが国際社会の非難を真摯に受け止め、軍を即時に撤収し、国際法を遵守することを強く求めている。

ロシアに関しては、昨年は「ロシアと安定的な関係を構築することは、日本の国益のみならず、地域の安定と発展にとっても極めて重要」などとする記述があったのですが、今年はウクライナ侵略の発生を受けて、極めて批判的な記述に変わりました。

そのうえで、北方領土問題については外交青書の119ページで、「日本固有の領土であるが、現在ロシアに不法占拠されている」とハッキリと記載しています。

北朝鮮

北朝鮮(P18~P19)

北朝鮮との間では、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化の実現を目指している。日本としては、引き続き、米国や韓国と緊密に連携し、国際社会とも協力しながら、関連する国連安保理決議の完全な履行を進め、北朝鮮の完全な非核化を目指していく。

また、北朝鮮による拉致は、日本の主権や国民の生命と安全に関わる重大な問題であると同時に、基本的人権の侵害という国際社会全体の普遍的問題である。日本は、拉致問題の解決を最重要課題と位置付けており、引き続き米国を始めとする関係国と緊密に連携し、一日も早い全ての拉致被害者の帰国を実現すべく、全力を尽くしていく。

北朝鮮に関しては、昨年に引き続き、「不幸な過去の清算」などの記述とともに、「非核化」「拉致解決」に言及がなされました。

台湾

台湾(P43)

台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である。日本と台湾との関係は、1972年の日中共同声明に従い、非政府間の実務関係として維持されている。日台双方の市民感情は総じて良好であり、公益財団法人日本台湾交流協会の調査(2019年2月実施)によれば、「日本に親しみを感じる(どちらかというと親しみを感じる)」と台湾住民の70%が回答し、台北駐日経済文化代表処の調査(2021年11月実施)によれば、「台湾に親しみを感じる(どちらかというと親しみを感じる)」と日本人の75%が回答したとの結果も出ている。<…以下略>

台湾に関していえば、冒頭の「近隣国」の箇所には記載されていませんが、それでも中露朝韓4ヵ国と異なり、「基本的価値を共有」、「極めて重要なパートナー」、「大切な友人」という表現が今年も維持されています。

FOIP

FOIP(P17~18)

インド太平洋は、世界人口の半数を擁する世界の活力の中核であると同時に、各国の「力」と「力」が複雑にせめぎ合い、力関係の変化が激しい地域でもある。この地域において、法の支配に基づく自由で開かれた秩序を実現し、地域全体、ひいては世界の平和と繁栄を確保していくことが重要である。

こうした観点から、日本は、法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組を、考え方を共有する国々と連携しつつ戦略的に推進してきている。この構想は今や、米国、オーストラリア、インド、ASEAN、EU及び欧州の各国などとも共有され、国際社会において幅広い支持を集めており、様々な協議や協力が進んでいる。ポスト・コロナの時代に向けて、このビジョンの意義、重要性はますます高まっており、二国間や日米豪印を含む様々な多国間対話の機会を捉え、その実現に向けた取組を一層推進していく。

FOIPに関しては、ほぼ昨年どおりの表現が踏襲されました。違いといえば「EU及び欧州の各国」が「欧州の主要国」に変わったのと、最後に「ポスト・コロナ時代におけるFOIPの重要性」という部分が付け加えられたことくらいでしょう。

総評

このあたり、菅義偉総理が岸田文雄首相に、茂木敏充外相が林芳正外相に、それぞれ交代したことを受け、日本のFOIPに対するコミットメントが後退するのかどうか、中露朝韓に対する記述がより有効的なものになるのか、はたまた台湾に対する記述が欠落するのかについて懸念していたのですが、これらは杞憂でした。

いずれにせよ、引き続き日本外交は(すくなくとも外交青書上は)基本的価値を重視するという姿勢を堅持したと考えておいて間違いありません。

実際に岸田政権が日本の近隣の無法国家に毅然と対処するかどうかについては別問題ですが、今回の外交青書、少なくとも「日本外交の展望」の部分に関しては、高く評価して良いのではないかと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 雪だんご より:

    相変わらず岸田政権は
    「何かと”遅い”が、とりあえず最低限やるべき事はやっていて、別に問題な事はやっていない」
    と言う何とも困った評価になってしまいますね。

    維新がロシアがらみで自爆して、立憲が相変わらず役立たず、国民はほとんど空気のまま、
    共産は永遠にうるさい引きこもり路線、その他は有象無象……
    良くも悪くも、自民政権はまだまだ安泰ですね。

  2. クロワッサン より:

    北朝鮮に関する『不幸な過去を清算して』の部分ですが、大韓民国が代表する事で精算を終えたんじゃなかったでしたっけ?

    もしかして、日朝交渉の中で北朝鮮が日本に賠償金を要求し、日本が経済支援で応えたりする展開があるんですかねぇ。。。

    それとも、日本国内の朝鮮半島北部にルーツを有するコリアンを全員引き取るとか?
    であれば、南部も含めて「日本に合法的に渡航した証拠」を提示出来ない者達を不法入国者及びその子孫として強制送還するのが良いのではないかと考えるのですが。

  3. マスオ より:

    まとめてくださりありがとうございます。大変分かりやすかったです。
    自分でPDFを何百ページも読むのは大変ですw

    感想としては、とりわけロシアの下りなど、一安心と言ったところですが、外面のいい岸田首相の事ですので油断はできませんね。

  4. 世相マンボウ_ より:

    新宿会計士さまの木jのタイトルにもあるとおり
    外交青書が『中露朝韓」に対する厳格姿勢を維持・強化』
    していることを歓迎し評価します。

    それに引き合え、今ネットの
    ヤフコメや爺爺通信のコメント欄では
    『GSOMIA破棄文在寅の乱』以降敗走し、
    古巣の安倍があ スガがあに合流
    していた少数韓流の人たちがゾンビ復活し
    韓国に従え~誘導的な書き込みで溢れています。

    また日本のマスコミも
    表立っては以前のような
    韓流脱糞派主張はしてませんが
    迷惑千万の工作団訪日で
    なんとか日本国民を騙しての
    おかしな韓日友好(?)に逆回転させたい
    画策記事が散見されます。

    そうした時期にこの外交青書が
    そうした画策への布石として
    とてもいいタイミングで発表されたのは
    GJだと感じます。

    これから梅雨のシーズンですが
    しぶとく台所の食物を狙ってくる方面には
    設置してあるホイホイ増設で対抗するのと同様に
    とても効果的であるとも感じます。

    1. 世相マンボウ_ より:

      多くの誤変換すいません

      ☓木jのタイトル
      ○記事のタイトル

      ☓それに引き合え、
      ○それに引き換え

      ちなみに
      『爺爺通信のコメント欄』表記は
      時事通信という表立っての表記より
      それを歓迎するのは情弱高齢鬱憤層である
      という実態を踏まえてのふさわしい表現のつもりです。
      ただ、爺爺だけあって婆婆が欠落しているのは
      男女平等に反するとのご指摘は甘んじてお受けします。

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