英国防衛省「5月9日に向けロシアは功を焦っている」

G20ではロシア財相に抗議し、米ジャネット・イエレン財務長官らが退席する一幕も見られたようです。その一方でG7声明では今回の戦争を「クライナに対する侵略戦争」と断定し、ロシアを強く非難しました。こうしたなか、もうひとつ気になる点があるとしたら、5月9日の「対独戦勝利記念日」に向けて、ロシアが「功を焦っている」可能性です。

鈴木財相、退席せず

ワシントンDCで4月20日に開かれたG20財相・中央銀行総裁会合では、ロシアのアントン・シルアノフ財相の出席に抗議するかたちで、米国のジャネット・イエレン財務長官らが退席したことなどが話題となっているようです。

Yellen, other officials bolt G-20 meeting in protest against Russia

―――2022/04/20/2022 13:47 EDT付 POLITICOより

ポリティコによると、オンラインで会議に参加したシルアノフ財相の演説が始まると、米FRBのジェローム・パウエル議長、欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド総裁、カナダのクリスティア・フリーランド財務相、さらにはゲストとして招かれていたウクライナのセリイ・マルチェンコ財相らが退席したそうです。

ちなみに時事通信によると、日本の鈴木俊一財相は退席せず「ロシアを強く非難」した、などと報じられています。

退席せず、ロシアを強く非難 鈴木財務相、米英などと一線―G20

―――2022年04月21日12時55分付 時事通信より

…。

G20よりG7に力点が置かれた?

それはともかくとして、当ウェブサイトでは『ロシアの参加強行ならG20の形骸化がなし崩しに進む』でも報告したとおり、今回のG20財相・中銀総裁会合は、G20の形骸化がさらに加速するきっかけとなった可能性があると考えています。

というのも、G20と同日、ワシントンでG7財相・中銀総裁会合も行われ、現時点ではこちらの声名のほうに力点が置かれているフシがあるからです。ここでは、財務省のウェブサイトに本日掲載された声明の仮訳を紹介しておきましょう。

ロシアのウクライナに対する侵略戦争に関するG7財務大臣・中央銀行総裁声明(仮訳)

―――2022/04/21付 財務省HPより

G7は今回の声名において、今回のロシアによるウクライナ侵攻を「侵略戦争」と断定したうえで「強く非難する」と宣言。ロシアに対し、軍事侵略の停止を命じた国際司法裁判所(ICJ)の判決に直ちに従うように要求したうえで、こんなことを述べています。

  • 国際機関や多国間フォーラムは、もはやこれまでどおりにロシアとの間で活動を行うべきではない」。
  • 今週のG20、国際通貨基金および世界銀行の会合を含む国際フォーラムへのロシアの参加は遺憾である」。

G7はほかにも、ウクライナに対するさまざまな支援を全力で行うことを強調し、それと同時に対露経済制裁はロシア経済に「甚大な影響」を及ぼしていると評価。ロシアによる制裁回避などの行動を阻止すべく「パートナーとともに引き続き緊密に連携して取り組む」、などと述べています。

ロシアが「落としどころ」を探り始めたか

こうしたなか、ロシアの国営メディア『タス通信』(英語版)には本日、こんな記事が配信されていました。

Russia to end special operation after removing threats due to Ukraine capturing by NATO

―――2022/04/21 11:30付 タス通信英語版より

タス通信によると、ロシア外務省・CIS部のアレクシー・ポリスチュク第2部長がタス通信との会見に応じ、ロシアの「特殊軍事作戦」は「NATOによるウクライナ占領に関連した脅威から解放されたときに」終了する、との見方を示したのだそうです。

そのうえでポリスチュク氏は、こうした脅威には具体的に次ようなものが含まれていると述べたのだとか。

  • ドンバス地域における住民の安全が保障されること
  • ウクライナの非軍事化・非ナチス化
  • ウクライナ領土がNATOに占領され、ロシアの脅威となるという可能性を排除すること

ウクライナを侵略している側であるロシアが「ウクライナはNATOに侵略されている」と言い出すというのも、大変に面黒い発想ですが、それだけではありません。ポリスチュク氏は軍事作戦を巡って、「すべての目標は達成されるだろう」、などとも述べたのだそうです。

ロシアは功を焦り始めている?

こうした記事がタス通信に配信されること自体、今回の戦争を巡り、ロシア自身も「落としどころ」を探っている可能性を示唆する間接的証拠かもしれません。

そして、ロシアが「功を焦っている」可能性を示すのが、英国防衛省が発表した本日付の『インテリジェンス・アップデート』でしょう。

英国防衛省はロシアが5月9日の対独戦勝利記念日に向けて「重大な戦果」を望んでいるのではないか、としつつ、この日までにロシアが「迅速かつ強引に」何らかの作戦を強行しようとする可能性には留意が必要、と述べています。該当する記述は次のとおりです。

Russia likely desires to demonstrate significant successes ahead of their annual 9th May Victory Day celebrations. This could affect how quickly and forcefully they attempt to conduct operations in the run-up to this date.

個人的邪推も交えるならば、例の「レンド・リース法」(『レンドリース法とNATO拡大がロシアを追い詰める?』等参照)の動向も、ロシアはかなり気にしているのではないでしょうか。下手をするとロシアの目と鼻の先に米軍基地ができる可能性があるからです。

このため、ドンバス、マリウポルなどを「制圧」したことをもって「戦果」とするために、ますます非人道的・無差別な攻撃が行われることへの警戒が必要ですし、また、ロシアがそのような行動に出た場合、そうした行動を国際社会がみすみす許すのかどうか、大変に気がかりでもあります。

いずれにせよ、自由や民主主義を愛し、国際社会の法と秩序を尊重する私たちの国・日本こそ、国際法を守らない無法国家が利益を得るような状況を絶対に許さないという覚悟を示すことが必要ではないかと思う次第です。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

    素朴な疑問ですけど、ロシアのプーチン大統領支持層の間では、独ソ戦と同じく、ウクライナを占領した(ヒットラーのような独裁者に率いられた)NATO軍+(一部の)裏切り者のウクライナ人を相手に、ロシア軍+愛国的(?)ウクライナ人が、戦っていることになっているのでしょうか。

  2. 元ジェネラリスト より:

    ポリスチュクの発言が5/9を意識したものかはちょっとわかりませんね。
    ロシアが一方的に戦闘を停止したからと言って、今のままではウクライナが戦闘を停止しないでしょう。
    非ナチ化はまあ、元の定義が曖昧だからどうとでもなりそうですが、非軍事化は、どんなアクロバットな定義も思い浮かびません。

    5/9に何らか勝利宣言はするでしょうけども、それ以降も、ウクライナが力尽きるまで戦闘が継続しそうな気がします。

    ロシアが、マリウポリを陥落させない代わりに公開で停戦を呼びかける?
    まあちょっと、無いかな。

  3. トシ より:

    ロシアの求める条件はウクライナの朝鮮化。

    ドニエプル川を境にウクライナを東西に分割。
    クリミアを含む東南部分をロシアへ帰属。
    これでドニエプル川を38度線とするウクライナの朝鮮化が完了。

    これならプーチンも正々堂々と勝利宣言を発することができる。

    これを達成するまでロシアは軍事行動をやめないだろう。

  4. 迷王星 より:

    全く岸田政権の外交はダメダメですねえ.

    鈴木さんが他のG7諸国等の代表らと行動を共にして退席するというアクションをしなかったのは,恐らくロシアへのアタリを和らげようという発想からだろうし,それは鈴木さんの勝手は判断でなくて首相の岸田さんらと良く相談した結果なんだろうが,ロシア政府・中銀の資産を凍結したりロシア銀行との決済停止などの経済制裁に日本も参加している限り,G20で財務相が退席しようがしまいが,ロシアが制裁している日本をアメリカや独仏らと同じく恨み憎んでいる状況は何も変わらないし,ロシアによる北海道侵攻の可能性も全く変わらない.

    何しろG7諸国が先導(ロシアから見れば「煽動」と言いたいところだろう)したロシアに対する外貨準備の凍結やSWIFTからのロシアの銀行の排除によってロシアは国債の利払いが徹底的に妨害されて強制的にデフォールト扱いにされてしまっている事実とそれによりG7諸国に対してロシア政府が抱く恨みや憎しみ反発は,ロシアの面子を慮って日本の財務相が退席しなかったことぐらいで軽減されるされかも知れないと期待するほうがどうかしている.(考えが甘いにも程がある)

    日本の代表である鈴木さんが他のG7諸国の代表と足並みを揃えずロシアに阿るような行動をした結果は,日本に対するプーチンロシアからの恨みや憎しみを軽減する役には全く立たず,他のG7諸国からの日本政府の対ロ姿勢やその裏側にある覚悟に対する疑念を抱かせただけだ.

    本当に岸田さんの子供染みた甘すぎる外交は日本の国益をどんどん損ない,日本の国際的な信用を毀損し続けている.

    己の無能さを少しは自覚して下さいよ,岸田さん.(まあ自分が馬鹿だとか無能だとか自覚できるなら,全くの馬鹿でもないし無能でもないから,それを岸田さんに望むことは最初から無い物ねだりで全くの無理な要望というものか)

    1. 世相マンボウ_ より:

      私も同感です。
      岸田さんに限らずそうした
      リーダーシップのかけらもなく
      自身の保身の皮算用でのエリートが
      日本の政治と企業の発展を阻んで来たとは感じます。
      ただ、
      今の自民党には安倍さん菅さんたちや続く若手もいて
      頼りない首相をサポートしてるので
      安心はできないもののでも静観注視したいと思います。

      一方、一番気をつけなければいけないのは
      そんな頼りない岸田さんですが
      それを批判する言葉は同じでも
      その目的は、岸田さんどころか
      根っからの売国の特定野党が
      自分たちの呆れた生きザマ隠して
      どさくさで政権狙いのいわば
      詐欺行為のようなものを
      狙っていることです。

      半島とウッシッシをして
      あっという間に叩き出された民主党政権は、
      党名ロンダリングを繰り返しても
      その呆れた根本は反省せず
      それどころか二匹目のドジョウを狙ってます。

      韓流政党立憲民主党と
      オウム真理教と同じ公安指定の、
      日本共産党は、その彼らの実態を
      正しく把握して、それにふさわしい
      位置づけを与えてあげて扱ってあげる
      ことが大切と考えます。

    2. 匿名 より:

      G7で退席したのって米英加だけですよね。見方によっては米英加がG7と行動をともにしなかったとも言えますよ。まあ、ドイツと一緒にされるのは避けたほうがいいけど。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告