韓国の社債利回り急騰はクレジットクランチの兆候か?

韓国でクレジット・クランチ(信用収縮)は発生するのでしょうか?韓国銀行のデータによれば、企業の有利子負債(借入金+社債)が急速に膨らんでいることが確認できますが、その一方で米FRBの金融引締めに伴い、韓国の外貨準備が減少基調に入ったことは、韓国国内のマネタリーベースの伸びを抑制する可能性が出て来ます。こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)によると、韓国の社債利回りが急拡大しているのだそうです。

韓国資産バブルFRB主犯説

先日の『統計で読む「カネを借りて株を買う」韓国の家計の行動』を含め、当ウェブサイトでときどき言及するのが、韓国銀行が公表する「資金循環統計」を使用した、「資金の流れから見た同国経済」の概況です。

端的にいえば、韓国の家計がカネを借りて、株式を中心とするリスク資産にかなりの投資を行っているということが、統計からもクッキリと浮かび上がってくる、というものです。

このあたり、当ウェブサイトでは以前から、韓国の家計債務が増大している理由がFRBなどの金融緩和にある、とする仮説を立てています。

韓国資産バブルFRB主犯説
  • ①FRB等、主要国中央銀行による金融緩和
  • ②為替市場で韓国ウォンを含めたEM(※)通貨高
  • ③韓国の通貨当局が「ウォン高になり過ぎれば輸出業者が困る」と判断
  • ④韓国のウォン売り・ドル買い介入(→外貨準備の増加)
  • ⑤市中のウォン流通量が増大(→マネタリーベースの増加)
  • ⑥金融機関の家計向けローンが増大(→家計債務の増大)
  • ⑦カネを借りた家計がリスク資産(株式、不動産、暗号資産など)に投資
  • ⑧韓国ウォンがビットコイン取引通貨の第3位に浮上

(【出所】著者作成。なお、「EM」とは “Emerging Markets” 、つまり「新興市場諸国」のこと)

これは、米FRBがコロナ禍で金融緩和に踏み切るなか、米国で溢れ出した資金が韓国ウォンを含めた新興市場諸国(EM)通貨にも流れ込み、韓国当局がウォン高を抑制するために外貨買い・ウォン売りの為替介入を繰り返した、とする仮説です。

過剰債務を抱えているのは家計だけではない!

上記①~⑧の詳しいロジックについては、『不動産市場から「韓国資産バブル」を解説する鈴置論考』などを含め、すでに当ウェブサイトでは何度でも取り上げてきたとおりですので、詳しい説明については本稿では割愛します。

ただ、冷静に調べていくと、過剰債務を抱えている経済セクターは、家計部門だけではありません。

調べていくと、たとえば企業(正式には「非金融法人企業」)の有利子負債(短期債券、長期債券、借入金)の残高は、2021年12月末時点で2233兆ウォン(1円=9.6ウォンと仮定すれば232兆円相当)に達しているのですが、その推移をグラフ化すると興味深いことが判明します(図表)。

図表 韓国企業の有利子負債(短期債券、長期債券、借入金)の状況

(【出所】韓国銀行)

これによると、有利子負債の前年同期比の増加率が、とくに2020年3月以来、加速しているのが確認できます。企業財務分析の専門家という立場からすれば、これはなかなかに興味深い現象です。

2020年3月の増加に関しては、おそらくはコロナ関連の融資が伸びたのではないかという仮説が成り立つのですが、その後も企業債務が増え続けているのは、大変に気になるところです。

こうした企業債務の膨張も、「韓国通貨当局による自国通貨売り・外国通貨買いというオペレーションが外貨準備とマネタリーベースを同時に増やし、溢れ出したマネーが企業や家計に流れ込んだ」、とする仮説を立てると、同様にすっきりと説明がつくのです。

社債利回りが急騰中=中央日報

こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝、こんな記事が出ていました。

社債利回り2倍に急騰…企業の資金調達難始まるか=韓国

―――2022.04.21 07:37付 中央日報日本語版より

中央日報によると、「金融投資協会債券情報センター」のデータ上、20日付の「AA-」格付の3年物社債平均利回りは年3.662%と、昨年末の2.415%と比べ3ヵ月半で約125ベーシス・ポイントも上昇したのだそうです。

また、4月11日時点の同利回りは3.813%と、2012年7月5日時点の3.84%から9年9ヵ月ぶりの高水準を付けた、などとしています。さらには、「BBB-」格付の3年物社債平均利回りは年初の8.316%から20日には9.509%に上昇していたそうです。

まさに、年初以来、韓国でクレジット・クランチ(信用収縮)のリスクが目前に迫っている格好です。

ただ、今回の中央日報の記事で気になるのは、2021年12月末と比べ、2022年3月時点で企業信用がどう変わったか、という論点なのですが、資金循環統計は3ヵ月に1回しか公表されないため、今回の中央日報の記事の記載内容を検証するのは3ヵ月後を待たねばなりません。

これについて間接的に知る手段はないわけではありません。たとえば、『「為替介入」の証拠?減少基調に入った韓国の外貨準備』あたりでも指摘しましたが、韓国の外貨準備が減少基調に入ったことに伴い、マネタリーベースの伸び率も抑制される可能性が出て来ました。

中央日報の記事では「市場では低信用企業を中心に流動性危機が発生する可能性があると懸念する」として、資本市場研究員の「とくにコロナ禍で財務健全性が悪化し格付けが下落した企業は流動性危機に陥りかねないだけに留意すべき」などとするコメントを取り上げています。

韓国で生じる恐れがあるのは、流動性危機というレベルのものなのかどうか、それとも通貨危機にまで発展するのかどうかについては、引き続き観察する価値はあるかもしれない、と思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. カズ より:

    有利子負債の急激な増加要因としては、企業の債務返済の滞り(不良債権化)を一時凌ぎ的に回避する目的でなされた”限界を超えた追加融資”によるところも大きいのではないかと思います。

    自転車操業の肝は資金循環。新規資金調達も金融機関によるテコ入れも厳しさを増すばかり・・。
    ファッションだけでなく金融も、ボトルネックが固く絞まると首が回らなくなってしまうものなんですよね。きっと。

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