UAEが韓国との通貨スワップ5年延長になぜか応じる
日韓通貨スワップの復活を阻むのは「あの像」
UAEにとって何のメリットがあるのかわかりませんが、韓国との通貨スワップ協定が更新されたそうです。金額は従来と変わらず、米ドル換算で約54.5億ドルですが、期間については5年延長されています。いつも思うのですが、このUAE・韓通貨スワップを巡っては、韓国が原発を格安で受注したの見返りという意味合いがあるのかもしれません。また、ついでに韓国が保有する通貨スワップの特徴と日韓通貨スワップに関する論点についても簡単に振り返っておきたいと思います。
目次
韓国、UAEとの通貨スワップを更新
国際金融協力の世界における通貨スワップについては、当ウェブサイトでは長らくテーマのひとつとして追いかけている論点のひとつであり、つい最近も『外貨準備減少の韓国は日韓スワップ復活を要求するのか』で日韓通貨スワップなどの論点を取り上げたばかりです。
その際、「韓国銀行が現在、外国の通貨当局と締結しているスワップ協定の一覧」を改めて掲載したのですが、そのなかのひとつであるアラブ首長国連邦(UAE)とのスワップについては、4月12日が期間満了だったことを、唐突に思い出しました。
なぜ思い出したのかといえば、韓国の中央銀行のウェブサイトに昨日、こんな記事が出ていたからです。
The Bank of Korea and the Central Bank of the UAE renew Bilateral Currency Swap Agreement
―――2022/04/13 15:00付 韓国銀行ウェブサイトより
韓国銀行によると、今回のスワップはUAE中央銀行との間のスワップ契約を5年延長するもので、スワップの規模は従来と同じ200億ディルハム・6.1兆ウォン、満期到来時に両者が合意した場合には延長可能、などとしています。
韓国銀行はまた、今回のスワップについては「相互貿易を促進し、金融協力を強化するもの」だと位置づけ、今回契約期間を3年ではなく5年の延長とした理由については、「両国は通貨スワップが相互協力の強化に貢献してきたとの認識を共有し、通貨スワップを安定的に維持するため」、などとしています。
UAE側にまったくメリットがないスワップ
端的にいえば、このスワップ、UAE側にはまったくメリットがありません。
UAE中央銀行(CBUAE)によると、通貨・ディルハムは、現在は1ドル=3.6725ディルハムで米ドルに固定(ペッグ)されており、いわば、UAEが保有している外貨準備(※)によって、ディルハムの価値を担保している格好です。
(※なお、IMFのデータベース上、UAEの外貨準備については掲載されていませんが、CBUAEの少し古いデータ【※PDFファイル】によれば、2018年8月時点において外貨準備は3295億ドルだったそうです。)
これに対して韓国ウォンは国際的な取引においてほとんど使われることがない、典型的な「ローカル通貨」です。これに加えて韓国ウォンの場合はべつに米ドルにペッグされているわけではなく、基本的には価値が不安定な通貨でもあります。UAEにとっては、韓国ウォンを引き出したとしても、使い様がないのです。
したがって、今回のUAE・韓国間の通貨スワップが発動されるとしたら、最も可能性が高いのは、韓国が通貨危機に陥り、外貨準備が枯渇するなどした際に、韓国銀行側の要請でUAEからディルハムを引き出す、というパターンでしょう。
この場合、韓国銀行は引き出したディルハムを米ドルなどの国際的に通用する通貨に両替する必要があるのですが、そのようなことになれば、UAE側はディルハムの価格が下落するのを防ぐために、米ドル売り・ディルハム買いの介入を実施しなければなりません。
したがって、UAEが韓国からの200億ディルハム(≒54.5億ドル)の引き出し要請に応じた場合、為替介入により、結果的には外貨準備がだいたい54.5億ドル前後減少せざるを得ないのです。つまり、UAEは自国にとってほぼ一方的に不利になるような契約を締結したということです。
この点、あくまでも個人的な見解ですが、今回の韓国側にとって一方的に有利なスワップは、UAEが建設中のバラカ原発(部分的に稼働済み)で2009年、韓国企業体が格安の工事費で受注したことと、何らかの関連性を疑うのが自然な発想だと思います。
すなわち、今回のUAE・韓スワップは、「バラカ原発の建設費を安くしたことの見返り」のひとつ、という可能性があると思う次第ですが、このあたりの事情については、機会があればまた別稿で議論したいと思っている次第です。
韓国が保有するスワップの一覧と概要
さて、昨日のUAEとの通貨スワップ更新にともない、現時点で韓国が保有するスワップ(二国間通貨スワップ、多国間通貨スワップ、二国間為替スワップ)の一覧と米ドル換算額は、次のとおりです(図表)。
図表 韓国が保有するスワップの一覧
相手国と失効日 | 相手通貨とドル換算額 | 韓国ウォンとドル換算額 |
---|---|---|
マレーシア(2023/2/2) | 150億リンギット ≒ 35.5億ドル | 5兆ウォン≒40.7億ドル |
オーストラリア(2023/2/22) | 120億豪ドル ≒ 88.9億ドル | 9.6兆ウォン≒78.2億ドル |
インドネシア(2023/3/5) | 115兆ルピア ≒ 80.1億ドル | 10.7兆ウォン≒87.2億ドル |
中国(2025/10/10) | 4000億元 ≒ 628.1億ドル | 70兆ウォン≒570.3億ドル |
スイス(2026/3/31) | 100億フラン ≒ 107億ドル | 11.2兆ウォン≒91.2億ドル |
トルコ(2024/8/11) | 175億リラ ≒ 12億ドル | 2.3兆ウォン≒18.7億ドル |
UAE(2027/4/12) | 200億ディルハム ≒ 54.5億ドル | 6.1兆ウォン≒49.7億ドル |
二国間通貨スワップ 小計…① | 1,006.0億ドル | 114.9兆ウォン≒936.1億ドル |
多国間通貨スワップ(CMIM)…② | 384.0億ドル | ― |
通貨スワップ合計(①+②) | 1,390.0億ドル | |
カナダ(期間無期限)※ | 金額無制限 | ― |
(【出所】各国中央銀行の報道発表等を参考に著者作成。なお、カナダとのスワップは通貨スワップではなく為替スワップ。米ドル換算額は日本時間昨日深夜時点のものを使用)
韓国は現在、マレーシア、豪州、インドネシア、中国、スイス、トルコ、UAEの7ヵ国との間で、米ドル換算したらちょうど1000億ドル程度の通貨スワップ協定を保有しており、これとは別に多国間通貨スワップの枠組みであるチェンマイ・イニシアティブ・マルチ化協定(CMIM、上限384億ドル)を保有しています。
ただし、米ドルで引き出せるのはCMIMのみであり、ほかの7ヵ国との協定については、いずれも米ドル建てのものではありません(※厳密にいえば、UAEとのスワップについては事実上、米ドル建てのようなものだ、という言い方もできなくはありませんが…)。
なお、カナダとのスワップは為替スワップであり、通貨当局が自由に引き出せるというものではなく、また、現時点においてカナダ銀行のウェブサイト上、韓国ウォン供給オペレーションなどがアクティベートされているという情報は見当たりませんので、事実上、発動することは、ほとんどないと考えておいて良さそうです。
韓国が保有するスワップの問題点
さて、CMIMと加韓為替スワップを除く7ヵ国との通貨スワップについては、特徴がいくつかあります。
まず、相手国通貨についてはドル換算して総額1000億ドル程度ですが、昨今のウォン安の都合もあり、韓国の通貨については、総額114.9兆ウォンを1ドル=1227ウォンで換算すると936.1億ドルに過ぎません。
次に、総額1000億ドルのうち、約6割を超える628億ドル分が、中国との上限4000億元のスワップですが、基本的に中国とのスワップを発動して引き出したとしても、得られるのは人民元であって米ドルではありませんし、人民元自体が国際的に自由に流通する通貨ではないため、利用できる局面は限られています。
インドネシアとの115兆ルピア(≒80.1億ドル)のスワップ、マレーシアとの150億リンギット(≒35.5億ドル)のスワップについては、基本的にはウォンも相手国通貨も国際的に脆弱な通貨であるという特徴があります(いわば、「融通手形」のようなもの、といえば良いでしょうか)。
さらにはトルコとのスワップについては、175億リラの米ドル換算額は約12億ドルに過ぎず、韓国ウォン(2.3兆ウォン)の価値約18.7億ドルには遠く及びません。土韓スワップの場合、トルコ側の要請で発動され、韓国からの輸入代金の決済などに充てられる可能性があると思われます。
(ちなみにトルコがスワップを引き出した事例としては、『トルコが中国との通貨スワップを実行し人民元を引出す』あたりもご参照ください。)
米韓為替スワップ、日韓通貨スワップへの待望論の行方
結局のところ、韓国が保有するスワップのなかで「有事の際に使い物になる」ものがあるとしたら、UAEとのスワップ以外には、スイスとのスワップ(100億フラン≒107億ドル)、豪州とのスワップ(120億豪ドル≒88.9億米ドル)くらいなものでしょう。
スイス・フランや豪ドルはいずれも国際的な市場で通用する「ハード・カレンシー」ですので、120億豪ドル、100億スイスフラン程度のボリュームであれば、外為市場で売却して米ドルを購入したとしても、為替相場に大した影響を与えません。
ただし、逆にいえば、韓国にとって「有事に際し使い物になるスワップ」はUAE、豪州、スイスとのスワップ(総額250億ドル前後)に過ぎません。
その意味では、昨年末に失効した米韓為替スワップ(上限600億ドル)、数年前に失効した日韓通貨スワップ(最大のときで700億ドル)などの復活は、韓国の次期政権ではおそらく大きな課題として浮上する可能性が高いでしょう。
日韓通貨スワップの復活を阻む邪神像
さて、日本との通貨スワップについては、2016年8月27日の『日韓財相対話』において、当時の副総理兼財相だった麻生太郎総理と、当時の韓国側の柳一鎬(りゅう・いちこう)副総理兼企画財政部長官との間で、再開に向けての議論がスタートしたことがありました。
「韓国政府は、二国間の経済協力を強化すること、及び、その証として双方同額の新しい通貨スワップ取極を締結することを提案した。本通貨スワップ取極は、地域金融市場の安定を高めるものである。両国政府は、本通貨スワップ取極の詳細について議論を開始することに合意した」。
この表現自体、まるで日韓双方にメリットがあるかの書き方ですが、もちろん、そんなことはありません。
基本的に通貨スワップは通貨ポジションが強い国から弱い国に対する支援という性格がありますので、日韓通貨スワップに関しても、もし協定が再開されていたならば、日本から韓国への一方的な支援という意味合いを伴っていたものと考えて良いでしょう。
そして、この日韓通貨スワップ再開議論については、釜山の日本総領事館前に2016年12月末に慰安婦像が設置されたことを契機に、日本政府(当時の官房長官だった菅義偉総理)が打ち切りを発表し、再開しないままで今日に至っています。
ということは、通貨スワップが再開されるためには、少なくとも韓国が2015年12月の日韓慰安婦合意の趣旨に基づき、ソウルの日本大使館前に慰安婦像が設置されている問題を適切に解決することに加え、釜山の日本総領事館前の慰安婦像問題についても適切に処理しなければならない、というわけです。
尹錫悦(いん・しゃくえつ)次期政権にそれができるかどうか。できると良いですね~(棒)。
その意味では、慰安婦像は日韓通貨スワップの復活を阻む「邪神の像」のようなものだと考えると、あの像にも一定の意味合いがあったといえるのかもしれない、などと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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UAEが対ロ制裁に参加しないことにも関係があると予測します。ドバイ万博を成功裏に終わらせ MENA 地域でのプレゼンスは高まっています。きっと自信と野心があるのでしょう。
単純に、UAE が 韓国にウォンで支払う 契約を抱えているからじゃないかな。
もはやあの像は、日本にとっては「韓国が約束を守らないことの象徴」になってますね。
原発のメンテナンスに影響が出るかもしれないなどと言ったのかもしれない。
韓国にUAEを出し抜くカードがあるとは思えないですね。
仰る通り、恐らくは何らかの交換材料である可能性が高いでしょう。
それにしても、日本大使館前の「ご神体」は結果として「バリヤー」として
役だっていますね。”御覧の通り、韓国は国際法を守らない国だぞ?”と言われても、
親韓派たちは”ぐぬぬ……”と黙るしかなくなる、とても便利なバリヤーです。
「レーダー事件」も「自称徴用工」も同様にありがたい。
”でも、軍事的に韓国の協力は必要だ!””ビジネスの為に韓国との仲を修復しないと!”の
どちらも(身内同士以外では)言えなくなってしまって、昨今の親韓派は大変ですね。
日本経済新聞社のちぐはぐ出鱈目がこれまで以上に浮かび上がってくることと予測します。
彼らの正体は一体何か当方は以前より興味深く見守って来ました。
一見、融通手形のようにしか見えないインドネシア・マレーシアとの通貨スワップについても、発動のタイミング如何では、”相手国が締結済みの対日スワップ協定で得られる米ドル”が担保となりえる韓国側にとって一方的に有利な内容なのかと。
トルコとの協定は、中国の意向に同調したものか、武器輸出の下心によるものなのかも。
uaeとの協定の実態は、”通貨スワップの体で交わされた原発補償契約(韓国側に引出制限)”のように思えてなりません。
*****
邪神像の結界は、彼らの発動によるもの。
本気で解除したいのなら、
まずは仏像(ぶつぞぅ!)との強い返還要求に素直に応じ、
そして銅像(どうぞぅ!)と、真摯に撤去しなくちゃ・・。
>まずは仏像(ぶつぞぅ!)
>そして銅像(どうぞぅ!)
…。
審議拒否!
“もっとぁいない”お言葉をありがとうございました。
悪ノリが過ぎたときには、ご指摘ください。
コミュニティの品位を損わない範囲で精進いたします。
邪神像は皮肉なことに、日本の守り神的な感じになってるのねw
永遠に設置していて欲しいものです。
UAEにKの法則が発動しなければいいのですが。。。
日本は、Kからのウソや捏造、タカリ、強請り、嫌がらせなどなどの被害者として、世界にもっとKの法則を広めてほしいです。助けても恨まれるだけだぞ、と。
民族性を象徴してるんじゃないかな。中身より体面。
実効性よりも、多くの国とスワップを結んでいることが気分がいいんでしょうね。
どなたも指摘しておられないようなので書いておきますが,
>UAEにとって何のメリットがあるのかわかりませんが、韓国との通貨スワップ協定が更新されたそうです。
この件,韓国はUAEと原発だけでなくUAEにとっての防衛用の兵器も輸出しています.今年の1月にも4,000億円という決して無視できない規模の取引の覚書(契約書ではないので本決まりではありませんが)を交わしたところです.
空軍のお偉いさん(将官)が地上でF-15Kの後席座席を射出させてしまうとか,海軍の強襲揚陸艦の自衛用ガトリング砲の射界に自分の飛行甲板が入っている等の韓国軍のトンデモぶりや,最新鋭の救難艦(統営)に備え付けられる筈のソナーが魚群探知機になってしまっていた(要するに建造資金の横領)といった不正の横行や,例えば韓国の新型戦車の駆動系(エンジンやトランスミッション)をいつまでも自前開発できない問題といった件が理由だと思いますが,ここのコメント欄では韓国の兵器や兵器輸出に関して蔑視した論調が目立ちます.
ですが,確かしばらく前にりょうちん様も指摘していたと記憶していますが,韓国の兵器輸出の規模とそれに支えられた韓国兵器産業の自立度は我が国の兵器産業の遥かに上を行くレベルであり,韓国を(我が国と比較して)批判しようとする人間は,この現実を事実としてきちんと認識しておくべきです.
事実を無視していくら敵を蔑視し馬鹿にしようと,油断を生み出して敗北する可能性が増えることはあって,勝利の可能性が増えることは有り得ないのですから.
国士様では,(己の国力を過大評価し敵を侮蔑し過小評価した無責任な言動で大衆を煽り太平洋戦争に突入させたように)亡国の徒にはなれても,国を勝利させ栄えさせることは出来ません.
済みません,ソースを明記するのを,また忘れていました.
韓国のUAEとの兵器輸出の覚書の記事としては,例えば次の日経の記事があります.
韓国、UAEに兵器輸出 4千億円規模
中東と防衛協力強化
2022年1月22日 2:00 [有料会員限定]
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO79458950R20C22A1FF8000/
注:有料会員限定とありますが,無料会員の登録をすれば読める筈ですし,記事の最初の部分は会員か否かにかかわらず誰でも読めます.
高い兵器を買うと国民からの突き上げが激しいから
「戦場では役に立たない」と悟りながら安い韓国産を買うらしい