プーチン大統領は「非友好国」に対し、天然ガスをルーブルでしか売らない、と宣言したようです。この宣言を受け、外為市場ではルーブルが米ドルに対し、久しぶりに100ドルを割り込む通貨高となっているようです。もっとも、ロシアは石油・天然ガスなどの資源輸出に依存した「モノカルチャー国家」でもありますので、マクドを「イワンおじさん」に変更したところで、ロシア国民の不満を吸収し切れるとも限りません。
ロシアは資源国:いざとなれば「内に籠る」
ロシアは現在、西側諸国からの経済・金融制裁を受けています。
その具体的な内容としては、①ロシアの主要銀行のSWIFTNetからの除外措置、②ロシアが保有する外貨準備の凍結、③ロシアの政府・政府機関等による起債の禁止――などです。
このほかにもウラジミル・プーチン大統領自身を含めた政府高官らに対する資産凍結措置なども適用されており、実際、一部のロシア企業は外貨建て債券のクーポンの支払に支障を来す状況が生じているとも報じられています(『金融市場でロシア企業にも波及する「デフォルト懸念」』等参照)。
デフォルトが懸念されているのは、ロシア政府だけではありません。経済制裁を喰らっているオリガルヒに関連する企業なども、やはり利払が滞るとの懸念が、国際的な金融市場では高まっているようです。このあたり、ロシアが本気で西側諸国の外貨建て債務の踏み倒しに出るかどうかは微妙ですが、注目に値する論点のひとつとはいえるでしょう。ロシアからハード・カレンシーを奪った金融制裁ロシアのウクライナ侵攻に伴う国際社会からの制裁は、多岐にわたっていますが、なかでも影響が大きい項目は、▼ロシアが保有する外貨準備の凍結、▼... 金融市場でロシア企業にも波及する「デフォルト懸念」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただ、それと同時に、『意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える』などでも議論してきたとおり、ロシア自身は資源国でもありますので、これらの金融制裁を通じて「国家破綻状態」にまで追い込まれるかどうかは微妙だ、というのが当ウェブサイトでこれまで指摘してきた内容でもあります。
北朝鮮を道連れでどうぞルーブルが、意外としぶといです。もちろん、国際社会が対露制裁をさらに強化すれば、ルーブルがさらに下落することはあるかもしれませんが、だからとって「紙屑化」するのかどうかに関しては、非常に気になるテーマです。ロシアは内に籠ることができる国でもありますし、北朝鮮のように長年にわたる経済制裁にしぶとく耐えているという事例もあるからです。金融制裁・現時点までの効果金融制裁発表から1週間ロシアがウクライナに軍事侵攻したことを受け、国際社会がロシアに対する厳格な金融制裁を発表してか... 意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える - 新宿会計士の政治経済評論 |
プーチン大統領「天然ガスをルーブル決済」
こうしたなか、当ウェブサイトの指摘がなかば正しい証拠でしょうか、ロシアがハード・カレンシーなどへのアクセスから締め出されたことに関連し、ちょっと気になる記事も出ていました。
ロシアのメディア『タス通信』(英語版)によると、プーチン大統領はロシア産の天然ガスを「非友好国」に輸出するに際し、23日の閣議で「ドル、ユーロなどの『欠陥のある通貨』での支払いを拒絶し、ルーブル建てにする」と宣言したのだそうです。
Putin orders to supply gas to unfriendly countries for rubles only
―――2022/03/23付 タス通信英語版より
プーチン大統領はまた、すでに締結された契約を巡って、「契約に規定された量と価格に従って、他の国々にガスを供給し続けるだろう」とも述べた、としています。
こうした報道があったことも影響しているのか、ロシア・ルーブルの対米ドル相場(USDRUB)については久しぶりに1ドル=100ルーブルを割り込んだようです。
いわば、「非友好国」がロシアから天然ガスの輸入を続けるうえでは、ドル、ユーロなどの外貨で直接支払うのではなく、いったんルーブルに両替し、それで支払いに充てる必要が出てきたと認識されたためでしょう。
つまり、西側諸国がロシアから「ハード・カレンシー」を奪おうとする制裁措置を、(完全ではないにせよ)部分的に緩和する措置だともいえます。このあたり、やはり「資源国」としての強みが出てきたという言い方もできるかもしれません。
当ウェブサイトでこれまで、「資源国でもあるロシアに対する経済・金融制裁には限界がある」と指摘してきましたが、やはりとくに欧州諸国が欲しがる天然ガスという資源を抱え込んでいるというのは、ロシアの強みであり、我々西側諸国としては苦しい点でもあるのでしょう。
「イワンおじさん」はマクドに代替できるのか?
もっとも、いくらロシアが「内に籠ることができる」とはいえ、基本的にロシアは鉱物性燃料(石油・天然ガスなど)の「モノカルチャー国家」でもあります。
いくら天然ガス決済をルーブル建てにしたところで、外国の製品をルーブルで買うことはできませんし、ハード・カレンシーを凍結されているという状況自体が抜本的に変わるわけでもありません。
これに加え、ソ連崩壊以降の30年間、ロシアは西側との接点を増やし、物質的・文化的豊かさを手に入れました。街中にはマクドやKFCがあふれ、人々はiPhoneや任天堂Switchなどを手に入れ、文化的な生活を楽しんでいます。
マクドを「イワンおじさん」に、KFCを「KGB」に変更した(『マクドロゴが転倒し「イワンおじさん」に華麗に変身?』等参照)ところで、ロシアの人々が以前と同じような、西側諸国の自由で豊かな文化の雰囲気を楽しむことはできません。
金融評論家が運営する独立系ウェブ評論サイト 新宿会計士の政治経済評論 - 新宿会計士の政治経済評論 |
(※なお、「イワンおじさん」はロシア語で “Дядя Ваня” と表記するそうです。発音は「ジャージャ・バーニャ」、でしょうか。ちなみに「バーニャ」は「イワン」の変形だそうです。)
その意味で、ロシアが制裁逃れという動きを続ける一方、ロシア国民の不満が今後どのように噴出するのか(あるいはしないのか)、などに関する動向については、注意を払う必要はあるでしょう。
View Comments (21)
>23日の閣議で「ドル、ユーロなどの『欠陥のある通貨』での支払いを拒絶し、ルーブル建てにする」と宣言したのだそうです。
これ、考えましたね。思いつかなかったです。
「輸出を止める」とか、自分の首を締めるようなことは絶対言えないし、どう使うのだろうと思っていたら。
しかし、燃料価格の表示をユーロやドルからルーブルに変更するとして、そのときのルーブルのレートってどうするんでしょうね。
ロシア中銀の公定レートだと輸出企業の実入りが少なくなる?(笑)
まあ、値付けを割増にして結局、市場原理で決まる価格になってしまう気はしますけど。
見出しの100ドルは、1ドルが100ルーブルですね。
今は、天然ガスだけがルーブル決済です。しかし今後は、小麦やパラジウムの輸出を再開した時に、ルーブル決済にするかもしれません。
またロシアが勝利しウクライナの経済を支配したらどうなるでしょうか?
小麦の生産量が回復すれば、世界の小麦の輸出量の25%が、ルーブル決済となります。その上、ロシアが肥料の輸出制限を続ければ、アメリカでもオーストラリアでも肥料不足によって、穀物の生産量が激減します。結果としてロシアが穀物の主要な部分を占めてしまいます。
食料安全保障を考えたら、ロシアが強行しても、渋々認めざるをえないかもしれません。そういう国は少なくないのではないでしょうか?
それからウクライナは武器供与があるので抵抗できてしまいますし、だからロシアはミサイルや空爆をします。義勇兵は、ウクライナとロシアが合意しても、その合意には従いません。そもそも親ウクライナ、反ロシアの熱狂的なブームが、合意を否定するでしょう。
ロシアは、ロシアがネオナチとみなす部隊と義勇兵を武力で排除しなければどうにもなりません。親ロシア政権にして、親ロシア政権を樹立させ、ロシア経済圏にウクライナを組み込むところまでやるのではないでしょうか? ここまでやるならウクライナを分割したり、あるいは民族自決による自治を認めた連邦制にするかもしれません。
ロシア系だけではなく、ハンガリー系も、ハンガリーに吸収されることや自治を望むのではと思います。大ハンガリーを掲げている現在のハンガリーの政権であれば、喜ぶのではないでしょうか?
日本経済新聞デリー支局は、インドが食糧輸出を強化すると報じています。当方はウラを取れていません。
ロシアが世界から切り離されてウクライナが疲弊するのは必至な情勢。MENA (Middle-East-North-Africa) が不安定化することを避けるためにインドが肩代わりするつもりがあるならそうしていただくほかないでしょう。
インドってそんなに大量の小麦を生産してましたっけ?
......と思いきや、世界第2位の小麦生産国で、ロシアとウクライナを合わせたくらい、アメリカの倍も生産しているとのこと。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/wheat.html
う~む、不勉強なことに存じませんでした。輸出量も年間550万トンに及ぶそうなので(2013年。生産量の約5%)、その気になればもっと輸出も可能なのかもしれません。
現在、中東諸国は完全に依存していたロシアやウクライナからの小麦輸入が停止しており、相当困っているようです。そこにインドから小麦の供給を受けられるとなると、インドの中東での政治的発言力増大ということになるかもしれません。
もっとも、人口超大国であるインドにどれほどの輸出余力があるのかは不明ですが。
これだけ日本国外の作物が高騰してきたら、日本国産品でも(価格x品質)で勝負できるようにならないでしょうか・・・・目がソーラー用地なんかにしないでAIを活用した新時代の大農場が増えないかなぁ。。。
「令和の農地解放」と銘うって規制改革の風を待ちますか…
天然ガスはロシアしか生産していないわけではありませんし。
過去に日本と中国で尖閣トラブルがあったとき、中国のレアアース恫喝がありましたが、それも含めて西側諸国は問題国家が資源恫喝したとき、徹底的にその国を経済制裁で締め上げる方向に向かうのではないでしょうか。
最近、クレディ・スイスのポーザー氏がWJだかFTに寄稿したブレトンウッズ3体制の誕生という論考がなかなか興味深いです。今回の金融制裁を目の当たりにした各国が長期的に準備資産のドルの割合を減らしてコモディティを増やしていくだろうと言うものです。今回の戦争後に存在していればビットコインが威力があるとも。さて、どうなりますか?
一見、ルーブルの買い支えに見えるのですが、ロシアの天然ガス会社からみたらルーブルでの取引しかできなくなります。ルーブルの不安定さからみて、天然ガス会社観点で本当にそれでよいのか疑問が残りますね。
また、これで継続的にルーブル高が維持されるのかどうかも正直疑問です。
元ブログとは全く関係ない話で大変恐縮ですが、『Дядя Ваня』と聞けばどうしても『ワーニャ伯父さん』を連想してしまいます。ご存じ『桜の園』や『三人姉妹』そして『カモメ』などと並ぶチェーホフの四大戯曲の一つであります。
いや、ただそれだけの話です。オチも繋がりも全くないお話で、大変失礼しました。
ジャージャ・バーニャには、バーバ・ヤーガを連想しますね。
「魔女のばあさんの呪いだッ!」
『展覧会の絵』を締めくくる楽曲は「キエフの大門」でしたね......
ELPのアルバムだと締めじゃなかったような。バーバ・ヤーガの呪いとか言うオリジナルのようなそうでないような曲もあったりして。クラシックファンの方、ごめんなさい
「ナット・ロッカー」(原曲は「くるみ割り人形」!!)はアンコールとして演奏されたものだったと記憶しています。なにしろ、あれはライブ盤でしたから。
個人的には、『展覧会の絵』はピアノ原曲が一番好きです。その次がELP版かな。ラヴェル編曲のオーケストラ版や冨田勲のシンセ版は、ちょっと装飾が多すぎるような感じがして、ちょっとね。
すみません。そんな高尚な元ネタでなくて源文ネタです。
毎度、バカバカしいお話を。
韓国がロシアに、「韓国はロシアの非友好国でないので、韓国ウォン決済を認めてくれ」と言い出したんだって。
おあとが、よろしいようで。