国際決済銀行がロシア中銀を排除
次の焦点は「G20からのロシアの追放」か、それとも…
ついにロシア中銀が国際決済銀行(BIS)の参加資格を停止されたようです。時事通信によると、BISはウクライナ中銀の要求を受け、ロシア中銀をBISのすべてのサービスや会議などから外すことを決定したのだとか。もっとも、すでに外貨建て債務の実質的な踏み倒し宣言を行い「怖いものなし」になってしまったロシアにとっては、今回の決定に実効性があるかは微妙ですが…。
形骸化著しいG20
もともとG20は、各国の中央銀行・財務相が集まり、1999年に第1回目が開催された会合であり、参加メンバーはG7に加え、アルゼンチン、豪州、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、ロシア、南アフリカ、サウジアラビア、トルコの19ヵ国、それに欧州連合(EU)です。
ただ、2008年、リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する国際的な金融危機が発生したことで、このG20財相・中銀総裁会合を「首脳会合」に格上げして、ワシントンで第1回会合が開催されたのが、この「G20」の起源、というわけです。
ただ、批判を覚悟で申し上げるなら、この「G20首脳会合」、最近では形骸化が著しく、あまり実効性のある成果が出ているとも思えません。
考えてみれば当然で、G7は日米英仏独伊加という「基本的価値を共有する国々」の会議体ですが、ここにG7とは基本的価値を共有しない国(中国、ロシア、韓国、サウジアラビア、トルコなど)が加わって、うまく機能するはずがありません。
実際、G7は2014年以前は「G8」でしたが、ロシアがウクライナのクリミア半島やセバストポリ市を併合したことを受け、ロシアがG8から追放されたことでG7に戻った、という経緯があります。武力による現状変更という試みをする国が、私たち西側社会と価値を共有しているとはいえません。
したがって、個人的には、今回のロシアによるウクライナ侵攻は、ただでさえ形骸化が著しいG20という枠組みそのものの瓦解をもたらすのではないかと考えています。
ロシアがBISの会員資格停止=時事
さて、G20という会合と、密接に関連する組織があるとすれば、それはスイス連邦・バーゼル市に本部を置く、国際決済銀行(the Bank for International Settlements, BIS)です。
このBISという組織、一般にはあまり知られていませんが、金融の世界では「中央銀行の中央銀行」と呼ばれており、また、当ウェブサイトでは『国際与信統計』だ、『債務証券統計』だ、といった具合に、わりと頻繁に登場しています。
金融規制の専門家にとっては、BISが公表してくるさまざまな国際金融規制(いわゆるバーゼル規制)は避けて通れない分野でもありますし、また、BISには西側諸国だけでなく、中国、ロシア、インドを含めた、世界各国の中央銀行が参加しています。
そして、このBISのなかには、「G20首脳会合」、「G20財相・中央銀行総裁会合」との間でも、「金融規制」という分野を通じて、密接な関係があります。G20の下位機関であるバーゼル銀行監督委員会(BCBS)の事務局がBISに置かれているからです。
「永世中立国」であるスイスに本部を置いているという点から、「各国はイデオロギーの違いを超えて、金融規制で協調している」というイメージも持たれているかもしれません。
ただ、こうしたなかで、時事通信に今朝、こんな記事が掲載されていました。
BIS、ロシア中銀を排除 国際金融で孤立深まる
―――2022年03月11日07時43分付 時事通信より
時事通信は、「BISが10日、ロシア中央銀行の参加資格を停止した」ことを「ロイター通信の報道」として紹介しています(※ただし、この話題については、BISのウェブサイト、あるいはロイターのニューズサイト上は掲載されていないようです)。
次の焦点はG20からの追放か?それとも…
時事通信はこれについて、ロシア中銀の会員資格停止を巡っては、ウクライナ中銀が要求していたものだと指摘。今回のBISの決定で、ロシア中銀は「BISのすべてのサービスや会議から外され」、「BISを通じた制裁逃れができなくなる」、などとしています。
これが事実だとしたら、じつに象徴的な出来事のひとつです。(実害があるかどうかは別として)金融の世界におけるロシアの孤立が、また一段と深まったからです。
もっとも、BISの会員資格が停止されたからといって、今度は「G20からロシアを追放してG19にする」、という制裁が実現するかどうかについては、微妙でしょう。中国、サウジなどを含めたすべての参加国が賛同しなければ、おそらくG20からのロシアの追放は実現できないからです。
このように考えると、ロシアに対する金融制裁は、そろそろ材料が出尽くしたといえるかもしれません。
これに加えて、すでにロシアは永世中立国であるスイスを含めた「非友好国リスト」を作成し、その「非友好国」からの外貨建ての借金を「ルーブルで支払っても良い」、などとするメチャクチャな大統領令を発しています(『ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠』等参照)。
ある意味、ロシアは「外貨建て債務のデフォルト上等」とばかりに、開き直ってしまった格好です。
残る措置といえば、インターネットからのロシアの遮断くらいなものでしょうか。
金融制裁には対中警告としての意味合いもある
ただし、だからといって国際社会からの制裁が無意味、というわけではありません。
陰に陽にロシアを支持する中国に対しては、ロシアとの経済的関係を深める契機となるだけでなく、ロシアが中国に対し「おんぶにだっこ」状態となり、中国の経済・金融上の負担が増える、という効果がもたらされるかもしれません。
これに加えて、中国にとっては、国際社会がロシアに対して適用している金融制裁を見せつけられることで、「強引に台湾侵攻をすれば、中国もロシアと同じ目に遭うぞ」、という警告にもつながっているのかもしれません。
いずれにせよ、ロシアを巡る国際金融の動向からは、目が離せない展開が続きそうです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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ロシアの自爆的国権発動により様々な可能性が追求できる状況も期待されうるかと
北方四島、千島列島、樺太を返上させる手立てを準備…してねえだろうなぁ
千島列島は講和条約で日本政府が放棄していたはずだが
サンフランシスコ平和条約により、日本が放棄したと宣言した南樺太と、北方4島を除く千島列島は、日本の領土ではないことが明確になっている場所です。従ってロシアの前身であるソビエト連邦は何の問題もなく併合が可能であり実効支配しています。
ただ、ソビエトはサンフランシスコ平和条約に署名していないので、日本が武力行使により取り戻すことは、平和条約の範囲外であるともいえるか?
言えないでしょうね.
日本が領有権の放棄を約束した相手はサンフランシスコ条約の締結国全てに対してであってソ連ではありません.
従って,原理的なことを言えば,日本の領有権放棄によって南樺太と千島列島は無主地になり,それを最初に実効支配したのがソ連ということになります.
日本が放棄を約束して無主地となったそれらの地域を条約締結国でもないソ連が実効支配していることに対して異議を唱え同地域の領有権を主張を有するのは,日本に領有権放棄を約束させ無主地としたサンフランシスコ条約締結国であって,放棄した日本ではないということになります.
無主地に対する領有権は最初に領有権を宣言して実効支配した国というルールだったのでは? だとすると,条約締結国がソ連→ロシアの領有に異議を唱えない限り,ロシアの領有権が認められるということになると思いますが.
ついでに言えば,「南千島は別で領有権放棄の対象ではない」という日本の主張に関しても個人的には非常に疑問に思っています.(英語正文で使用されている同地域の名称としてのKuril Islandsに対する条約締結当時の米英での常識的解釈の範囲に,日本が領有権を主張している北方四島が含まれていないとは考え難いからです…但し,歯舞群島と色丹島はそれらの位置からしてKuril Islandsの一部でなく同条約で日本に領有が認められた北海道島の附属島嶼だと主張して領有権を争う余地はあると思いますが)
何れにしても,国際法上で日本が北方四島の領有権を主張する法的根拠があるか否かは別にして,ロシアに対しては「北方四島を返せ!」と声高に主張して,返すまでは1円も出さない姿勢を貫くべきですね.要するにロシアあるいは他の国々によって日本がロシア向け資金を引き出すためのATM扱いされるのを避ける手段に北方「領土」を活用すれば良いというだけで.
なお,ソ連は条約締結国でないのですから,ソ連に対しては日本の領有権放棄は約束していないというロジックで戦うつもりであるのならば,「戦争終結後の火事場泥棒で奪ったもので不法占拠だ,返せ!」と主張するべき領域は,北方四島だけではなくて,千島列島全体と南樺太の方が筋が通っていると思いますが.(そもそも実際に四島を返して欲しいと真剣に考えているのであれば,返還要求はもっとずっと広い領域に対して行わねば.交渉事で一方の要求が100%満たされるなんてまず現実にはほぼ有り得ないのですから)
>日本が武力行使により取り戻すことは、平和条約の範囲外であるともいえるか?
SF条約の範囲内か範囲外かなんて実際には余り意味がないと思いますが.
日本が武力を行使して北方四島奪還を行う上で重要なのは,
0.北方四島(特に国後・択捉両島)や極東に配備されているロシアの軍事力に打ち勝って実際に奪還しその後もずっと領有を維持できるだけの実力(攻撃力,防御力,兵站能力など)が自衛隊にあるのか?
→ 確実に勝ち,かつ今後も維持出来るだけの力が自衛隊になければ止めるべきですね.
1.アメリカやEUが武力に訴えた日本をどう見て今後の外交にどう影響するか?
→ アメリカやEUといった日本にとって基本的価値観を最も共有し,また対中封じ込めでの協力が必要な相手との外交に重大な障害を生ずる可能性が高いのならば止めるべきですね.
2.ロシアの反撃に核が使われるか,また核が使われないとしても極東ロシア軍によって北海道や東北(の日本海側)報復攻撃されて重大なダメージを受ける心配はないのか?
→ ロシアの核攻撃を封じ込める手段つまり「日本に核を撃てばモスクワやサンクトペテルブルクを必ず日本の核で焼き払ってやるぞ」と言えない現状では止めるべきですね.またロシアの核を封じ込めたとしても,日本海やオホーツク海にいるロシア原潜から放たれる対地ミサイルによる北海道や東北への攻撃を防御できないならば止めるべきです.北方四島なんて当面は使い道のない土地のために現時点ではずっと価値の高い北海道や東北の諸都市を危険に曝すのは全く割に合いません.
西欧諸国が露のウクライナへの軍事侵攻に対し、露に経済制裁をしております。
これを中共が「他山の石」として受け止める事ができるでしょうか?
もし、中共が受け止める事ができれば台湾・日本にとっても喜ばしい事なのですが
中共の台湾侵攻時、露に対して西欧が行っている経済制裁を中共が受ける事は無いと
判断すれば、元首の実績作り・国民へ希望を齎す為に止める事はできないと思います。
ウクライナと西欧は地続きだが、台湾問題はアジア人同士の問題であり、欧州がそこまで
経済制裁するメリットが無いと判断する事もあり得る話ある―欧米のアジア人差別は
根源的なものがある―G7も日本が欧州Gに混じらせてもらっているだけ
始まりは仏英米日の財務大臣会議G4。
翌年ドイツが入りG5。それが軈て大統領・首相の会議となり、そこにイタリアが入り込み仏独英伊VS日米ではかなわんと米国がカナダを入れG7
ド・ゴール大統領の呼び掛けから始まったと記憶する。
日本は最初の最初からメンバーですよ、G7どころかG5のときから。
ド・ゴール大統領が始めたG5!なにもできない国連に業を煮やしド・ゴールが先進国だけを集合して始めたのがG5と…記憶する。
それと同時に経済の勢い著しい日本を制御するため…だったかな?
>>「G20首脳会合」、最近では形骸化が著しく
そ
うですね、このところG20の噂を聞かない。
リーマンショックで自信をなくした西欧先進国が、新興国を
G20と持ち上げた。
リーマンショックを乗り越えた西欧先進国に、もはやG20は用済み…というか、なんの役にも立たない…面倒ごとが起こったとき利用する…くらいなんでしょうね。
G20からの追放か?それとも…国連常任理事国からの除名が希望
まともに考えれば、こんな輩は常任理事国の資格はありません。
国連の規約をフル活用(裏活用?)して、理事国から追い出すか、拒否権を剥奪するか、出来ないもんなんでしょうか?出来ないんでしょうねエ。
G20からの追放なんて何の効果も無いでしょう。G8から追い出された実績もあるんですから。
ソ連崩壊で資産をたたき売りされた超苦い経験があるので、そんなにホイホイと中国の手には落ちないかな。最悪うちに籠ればいいわけですし。腹立ち紛れに叩き売り勢だった韓国を懲罰したりしそう。