徴用工「原告敗訴」も問題の本質はまったく変わらない

自称元徴用工問題で、またちょっとした動きがありました。韓国メディアの報道によると、「消滅時効」の起算時点は2018年の大法院判決ではなく、2012年の大法院判決だ、とする判断が、地裁レベルで再び下されたのだとか。もっとも、そもそもの自称元徴用工判決問題自体が国際法違反であるという点に議論の余地はなく、その意味で、今回の訴訟も日本にとっては基本的には関係ないと考えて良いでしょう。

自称元徴用工問題で韓国は二重に国際法を侵害している

自称元徴用工問題とは、「戦時中、強制徴用された」などと自称する者やその遺族らが日本企業を相手に韓国国内で訴訟を起こしている問題であり、その中核を占めているのは、2018年10月と11月に、相次いで日本企業に対して下された、大法院(※最高裁に相当)による判決です。

日本政府の立場としては、日韓間のあらゆる請求権の問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みだ、とするもので一貫しており、また、敗訴した日本企業も、現時点に至るまで自称元徴用工らへの損害賠償には応じていません。

一方、韓国政府側は、当初は「三権分立だから政府には司法に介入できない」などとする姿勢で一貫していたのですが、途中から「被害者中心主義で韓日両国政府が協議すべき」、などと主張し始めています。

ただ、本件については、日本政府としてはすでに2019年の時点で、日韓請求権協定に基づく外交協議を韓国側に呼び掛け、次いで同協定に基づく第三国仲裁・国際仲裁手続の付託を通告しましたが、韓国側はこうした日本側の手続の一切を無視した、という実績も残っています。

つまり、判決自体が日韓請求権協定や国際法に違反しているという点に加え、日本政府による日韓請求権協定に従った問題解決プロセスを韓国政府が無視したという点、という意味で、韓国は二重に国際法を侵害している、というわけです。

レッドラインは資産売却

いずれにせよ、2社に対する2018年の大法院判決を含め、自称元徴用工問題を巡る違法状態を解消し、事態を収拾する全責任は、基本的には韓国の側にあります。

わが国にできることといえば、第一義的には韓国に対して「国際法を守ってほしい」と要請することであり、また、それでも韓国が国際法を守ってくれないのであれば、日本企業としては「自衛する」(たとえば「韓国との関わりを最低限に留める」、など)しかありません。

その一方で、ここでもうひとつの論点があるとしたら、「レッドライン」です。

日本政府は自称元徴用工判決問題を巡り、韓国側で日本企業の資産の現金化がなされた場合には、何らかの対抗策を講じる可能性があるとして、韓国側にはこれまで強く警告してきました。日本政府はいわば、「資産現金化」を一種のレッドラインに設定してきた、というわけです。

これについては、相手に「レッドライン」を示してしまったことが、日本の国家戦略として正しかったのか、という点については、個人的には疑問でもあります。なぜなら、「瀬戸際外交」を仕掛ける側としては、「越えてはならない一線」がわかっているほうが、都合が良いからです。

不自然極まりない原告側の動き

もっとも、本件についてはこれまでに当ウェブサイトでも何度も触れてきたとおり、どうも、原告側の動きが不自然です。

かつて『個人的実体験に基づく「自称元徴用工訴訟の不自然さ」』でも指摘したとおり、もしも原告側が、本気で裁判を通じてカネを取るつもりがあるのならば、最初から換金可能な資産を差し押さえ、裁判が終わったら即座にそれらを換金する、というのが、訴訟の「鉄則」のようなものです。

それなのに、原告側は勝訴判決を手にしてから初めて資産の差押に踏み切りましたし、原告側が現時点で差し押さえている資産は、日本製鉄と不二越の両社に関しては非上場の合弁会社株式、三菱重工に関しては特許権と商標権であり、どれも換金が容易な資産ではありません。

さらには、昨年夏には三菱重工(の孫会社)の売掛債権を差し押さえる、という騒動もありましたが、不思議なことに、原告側はこの差押を、そそくさと撤回してしまいました(『債権差押「取下げ」も顕在化してしまったコリアリスク』等参照)。

この点、「非上場株式や知的財産権と異なり、売掛債権の場合は差し押さえたら短期間で換金される」という点については、当ウェブサイトでかなり指摘した点です。まさかとは思いますが、自称元徴用工訴訟の韓国側の関係者が、当ウェブサイトをチェックしているとでもいうのでしょうか?

いずれにせよ、自称元徴用工判決からはすでに3年以上が経過していますが、待てど暮らせど、「日本企業の資産の売却が実現した」という報道を目にすることはありません。

それどころか、原告側は裁判で勝ったにも関わらず、「日本企業は交渉に応じよ」、などと言い出す始末です(『徴用工弁護士、裁判で勝ったのに「交渉に応じよ」の怪』等参照)。

通常、裁判で勝ったのならば、とっとと差し押さえている資産を換金するものですが、なぜそれをやらないのかという理由については、結局のところ、自称元徴用工側が自称元慰安婦問題と同様の「利権化」を狙っているからではないか、という仮説に行き着くのです。

したがって、少なくとも日本の側としては、日本政府にせよ、日本企業にせよ、韓国側との「交渉」には、絶対に応じてはなりません。法が許す範囲内で、韓国に対して不法行為のコストを負担させるために、抜かりなく準備を行うべきでしょう。

消滅時効理由に原告敗訴

もっとも、こうしたなか、韓国側ではこの問題を巡り、次から次へと日本企業の敗訴判決が出ている、というものでもありません。韓国メディアの報道によれば、昨日は日本製鉄を相手取った訴訟で、「消滅時効」を理由に自称元徴用工側が敗訴する、という判決がありました。

日帝強制動員被害者遺族、また敗訴…「形式的判決」批判も=韓国

―――2022.02.09 06:47付 中央日報日本語版より

強制動員被害者、戦犯企業日本製鉄を相手取った訴訟でまたも敗訴

―――2022-02-09 07:52付 ハンギョレ新聞日本語版より

「保守派」とされる『中央日報』、「左派」とされる『ハンギョレ新聞』ともに、この話題を取り上げています。

自称元徴用工の呼称を巡り、どちらのメディアも「強制徴用被害者」ではなく、「強制動員被害者」と、微妙に表現を変えてきているのも興味深い点ですが、それだけではありません。

これらのメディアによると、韓国のソウル中央地裁は自称元徴用工側の請求に対し、「消滅時効」を理由に原告側の損害賠償請求を棄却したのだそうです。こうした消滅時効を理由とした原告敗訴は、『自称元徴用工が韓国政府を提訴したのは「焦り」の証拠』などでも取り上げた昨年の事例に続くものでもあります。

韓国側の判決のポイントは、「被害者」が「損害および加害者」を認知した日から3年以内に損害賠償請求権を行使しなければ、その権利は消滅する、とされている韓国の民法の規定をどう解釈するか、というものです。

報道によれば、自称元徴用工側の請求権が初めて認められたのは2012年の大法院判決ですが、この事件が破棄差し戻しを経て確定したのが2018年であり、したがって、「認知した日」を2012年と見るか、2018年と見るかで、消滅時効の起算の時点が異なる、という論点があるのだとか。

したがって、起算時点を2012年と見るのであれば、2015年までに提起されていない訴訟については、基本的には原告側が敗訴する、という考え方です(※もっとも、どちらが起算時点かという点に関して大法院は判断を示しておらず、実際、地裁レベルでは異なる判断も出ているようです)。

日本にとっては関係ない

ただ、2012年、2018年のいずれを起算時点とするかについては、わが国にとってはあまり関係ありません。2012年であれ、2018年であれ、そもそもの大法院判決自体が日韓請求権協定に違反する状態を創り出している、という点については変わらないからです。

それよりも、今回のような、一見すると日本企業にとって有利な判決が出て来ることで、日本国内にも「韓国が譲歩した」、などと言い出す勢力が出てこないとも限りません。

ここで思い出していただきたいのが、「ゼロ対100理論」です。

これは、自分たちの側に100%の過失がある場合であっても、さまざまなンチキ論法などを使い、過失割合を「50対50」、あわよくば「ゼロ対100」に持って行こうとする屁理屈のことです。

※ゼロ対100理論とは?

自分たちの側に100%の過失がある場合でも、インチキ外交の数々を駆使し、過失割合を「50対50」、あるいは「ゼロ対100」だと言い募るなど、まるで相手側にも落ち度があるかのように持っていく屁理屈のこと。

(【出所】著者作成)

そもそもの2018年に違法判決を韓国の司法府が出したこと自体、過失は全面的に韓国側にあります。

それに、もっといえば、「朝鮮人の違法な強制労働」というウソを全世界でばら撒いていることに対し、適正なコストを負担させることも必要でしょう。

このように考えていくと、今回の判決をもって、「韓国の司法府が日本に配慮した」、などと結論付けるべきではないことだけは間違いないといえるでしょう。

読者コメント一覧

  1. だんな より:

    そのうち時効は違法だという裁判が、起こるでしょう。

    1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      欧米では、ナチスによる人道犯罪には時効が無いらしい
      刑事コロンボでもそのネタがある
      大日本帝国=アジアのナチスとする国連規範の大前提に照らせば、今まで時効が存在したのが国連憲法違反というわけだ

      1. 宇宙戦士バルディオス より:

        >欧米では、ナチスによる人道犯罪には時効が無いらしい
        「犯罪」と呼ぶためには、権限のある刑事裁判所による有罪判決が必要である。
         我が国の場合、慰安婦問題も徴用工問題も、一つとして刑事裁判所の有罪判決が出たものはない。つまり、人道「犯罪」ではないのである。
         また、ここでいう「時効」も、刑事に関する時効と、民事に関する時効は同じ問題ではない。ナチスによる戦争犯罪には時効は適用されないと言われることがあるが、これは刑事責任の時効である。我が国が韓国に吹っかけられているのは、民事訴訟であって、刑事責任が追及されているわけではない。つまり、「時効がない」とは言えないのである。

        1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

          民事の時効は刑事より長いのだから
          刑事に時効が無いということは、民事の時効は宇宙が終わるまでってことだ

          1. 宇宙戦士バルディオス より:

             日本には、そもそも刑事責任がない。
             民事責任は、民法の規定するとおり。

  2. カズ より:

    >レッドラインは資産売却

    外国政府の関与に基づく不当な利益侵害(資産現金化)は、カントリーリスクの発露にほかならず、日本政府としても”やむを得ず”システマチックに評価の引き下げを示唆せざるを得ないのかと・・。
    そして、日系の金融機関が資金を引き揚げようが、進出企業が撤退しようが、民間企業の自主判断でしかなく”制裁でも何でもない”のですから、面倒な法整備を経る必要もないのかと・・。

    >不自然極まりない原告側の動き

    訴訟の目的は、資産の現金化(ゲンキンカ)なんかじゃなくて、
    日本からの自主的な義援金化(ギエンキンカ)なんですものね。

  3. M1A2 より:

     日本政府が賠償にも交渉にも応じないから落としどころに困って、韓国側はこの消滅時効で問題をうやむやにする気だったんじゃないの?
    だから無駄に時間稼ぎしていたんじゃないの?

    日本がなかなか賠償に応じようとしない
     ↓
    国際司法裁判所で決着をつけましょうなんて事になったら嘘が全部バレる
     ↓
    そんなことは絶対に認めたくない
     ↓
    消滅時効まで時間を稼ぐ
     ↓
    あー悔しいけど時効だからもう請求できないニダ←今ここ!
     ↓
    でも日本が悪いのは間違いないニダ
     ↓
    日本が悪いけど、どうしてもと言うなら関係を改善してやってもいいニダ

     この流れでしょ?

  4. 宇宙戦士バルディオス より:

    https://twitter.com/shiikazuo/status/1490990986222522368?t=PkSwvswpfVIYHp5qeqj9zQ&s=19
    志位和夫
    @shiikazuo
    《歴史の偽造は許されない――「河野談話」と日本軍「慰安婦」問題の真実》
    愚かしくも恥ずかしい歴史修正主義が台頭しつつあるので、わが党の見解を再録いたします。この見解については、歴史修正主義派は一切の反論ができないまま、今日に至っていることも付言しておきます。
     だから、河野談話こそが、歴史の偽造なんだ。偽造された歴史は、学問の力によって修正されなければならない。その点では、私も歴史修正主義者の一人だ。

    1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      欧米においては、ナチスの犯したとされる人道犯罪に対して異を唱えたり歴史的検証をすることは重大な犯罪であり禁止されている
      大日本帝国=アジアのナチスとする国連憲法(つまりグローバルスタンダード)の精神からして
      河野談話の見直しをしようとする奴は全員逮捕するのが地球基準であり
      志位の発言は国際的には「非常に生ぬるくて話にならない」とされる

      1. 宇宙戦士バルディオス より:

        >欧米においては、ナチスの犯したとされる人道犯罪に対して異を唱えたり歴史的検証をすることは重大な犯罪であり禁止されている
         ここは日本である。無関係な話。

      2. より:

        ナチスを称揚することについて、確かにドイツでは法的に明確に禁止されているけど、他国でも法的に禁止されてたっけ?まして、歴史的な検証すら”禁止”されているなどとは聞いたことがないけれど。

        # どういう評価を得るかは、また別の話。

  5. 匿名 より:

    日本に理不尽な話をすれば、大恥かかせて、大損をさせる
    そうしないと何も変わらない
    韓国には関わらない、助けない、相手にしないとか言ってるのは過去30年と同じだ
    結局韓国が粘り勝ちしてきた
    ピシャっと叩く、それができないから日本の無脳は変わらない
    現金化? なんで今まで何もできずに放置してきたんだろね
    結局、過去の自民のレールだな
    朝鮮人が粘り勝ちするでしょうね、実績がありすぎる

  6. 宇宙戦士バルディオス より:

     なお、国連憲法などという国際法は存在しない。
     国連憲章にも、そのような条文は見られない。

    1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      敵国条項知らないのか?
      (旧敵国条項と違訳されているが、旧ではなく今でも一貫して敵国と規定されている)

      1. 宇宙戦士バルディオス より:

         旧敵国条項にも、そのような記述はない。
         ついでに申し上げるが、旧枢軸国が全部国連加盟国になった現在では、国連憲章上の旧敵国条項は死文化している。

        1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

          国連加盟国になったくらいで敵国が敵国でなくなるということはないよ

          1. 宇宙戦士バルディオス より:

             では、どこぞで国際法学者をつかまえて、質問されるがよい。

  7. WindKnight.jp より:

    ま、外交は、政府次第なので、こういう判決は気にしなくても良いのです。
    隣国の国内問題として、眺めておきましょう。

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