朝日新聞社半期決算は意外と堅調

株式会社朝日新聞社の半期報告書が出てきています。収益認識会計基準の影響で減収に見えますが、その影響を除外したら、好調な不動産事業の影響もあってか、意外と決算の内容は堅調です。また、新聞の部数が急激に落ち込んでいるにも関わらず、メディア・コンテンツ事業では堅調な黒字を確保しています。やはりウェブ事業が好調なのでしょうか。もっとも、今後の新聞業界に待っているのは、優良資産を抱えている新聞社と、そうでない新聞社の二極化なのかもしれません。

新聞社の決算分析は非常に困難

当ウェブサイトではときどき、大手メディアの決算書(有価証券報告書、半期報告書、決算短信など)を入手し、これらの社の経営状態について確認することがあります。

この点、在京キー局(の親会社)については、いずれも上場会社であるため、わりと容易に決算を入手し、詳細に分析することができるのですが(たとえば『フジテレビが実施する希望退職募集は「悪手中の悪手」』等もご参照ください)、新聞社については、こういうわけにはいきません。

なぜなら、大手全国紙の多く(たとえば日経新聞社、読売新聞社、毎日新聞社、産経新聞社など)は、いずれも決算書自体を公表していないからです。

新聞社は常日頃からさまざまな押しかけ取材をしていますが(押しかけ取材の典型例としては、たとえば『ご遺族の自宅インターフォンを真夜中に鳴らす新聞記者』等もご参照ください)、そのわりには自社の経営状態を開示するということには極めて後ろ向きであるなど、非常に透明性が低い業界と言わざるを得ません。

朝日新聞社の半期報告書

今期決算、見た目は減収だが…

ただ、こうした全国紙の例外として、株式会社朝日新聞社だけは、有報と半報、短信などを公表しています。

その理由は、株主数が1000人を超えているためだと思われます(※ちなみに朝日新聞社を含めた大手新聞社は、ほとんどの場合、非上場会社です)。

そして、有報、半報というかたちで決算書が公表されていれば、これについては基本的に、自由に誰でも分析することができますし、だからこそ、当ウェブサイトとしては、有難く、株式会社朝日新聞社の決算を分析させていただいている、というわけです。

その意味で、朝日新聞社は、「決算分析が困難である」という新聞業界の例外的な存在でもあるわけです。

さて、その朝日新聞社は最新版の半期報告書を12月13日に提出していたようですが、これが非常に興味深いものです。

当ウェブサイトでは今年6月の『株式会社朝日新聞社の有報を読む』で、同社の2021年3月期における有報をレビューしたのですが、そのときと比べると、状況にさまざまな変化が現れています。

まずは、損益計算書項目について概観してみましょう(図表1図表2)。

図表1 連結損益計算書
項目2020年9月2021年9月増減
売上高1391億円1315億円▲76億円
売上原価1025億円1003億円▲23億円
売上総利益366億円313億円▲53億円
販管費459億円281億円▲177億円
営業損益▲93億円31億円124億円
経常損益▲82億円68億円149億円
税金等調整前利益▲94億円64億円158億円
法人税等333億円17億円▲316億円
親会社株主中間純損益▲419億円50億円469億円

(【出所】株式会社朝日新聞社・2021年9月期半期報告書より著者作成)

図表2 単体損益計算書
項目2020年9月2021年9月増減
売上高1027億円917億円▲111億円
売上原価727億円677億円▲50億円
売上総利益301億円240億円▲61億円
販管費388億円212億円▲176億円
営業損益▲88億円28億円115億円
経常損益▲75億円44億円119億円
税引前純損益▲80億円42億円122億円
法人税等328億円13億円▲315億円
中間純損益▲408億円29億円437億円

(【出所】株式会社朝日新聞社・2021年9月期半期報告書より著者作成)

意外だが実質増収に

前期は連結、単体ともに営業赤字、経常赤字に転落していましたが、今期に関しては売上高が減少しているにも関わらず、売上原価、販管費を圧縮した影響で、営業・経常ともに黒字に転換しています。

また、前期は退職給付に係る繰延税金資産の取崩しが発生したため、法人税等の区分に「法人税等調整額」が計上された結果、中間純損益は連単ともに400億円台という途方もない赤字に終わりましたが、今期はその要因がなくなったため、連単ともに最終利益を確保しています。

もっとも、図表1、図表2を読むと、いずれも前期比で大きな減収にも見えるのですが、これは若干ミスリーディングです。

新しく導入された「収益認識会計基準」のせいで、会計処理方法が変わっているため、比較がし辛くなっているのですが、じつは、連結ベースで見れば実質的に増収であり、単体ベースで見ても減収幅は非常に小さいものです。

売上高自体は連結ベースで76億円、単体ベースで111億円の減少と出ていますが、今中間期は「収益認識会計基準」が新たに適用されたため、その影響で売上高が連結ベースで122億円、単体ベースで108億円減少し、その分、同額で売上原価や販管費も減少している、という点を見過ごしてはなりません。

このため、収益認識基準の影響を除外すれば、連結ベースでは76億円の減収ではなく、実質的には46億円の増収であり、また、単体ベースでも減収幅は111億円ではなく、3億円程度に収まる、という計算です。

経費抑制で黒字確保

言い換えれば、売上原価と販管費については、「収益認識基準」の新規適用による以上に大きく減少している、ということでもあります。

具体的には、売上原価・販管費の合計額は、連結では200億円、単体では226億円減少していますが、このうち収益認識基準適用の影響を除外すれば、連結で78億円、単体で118億円もの経費削減が実現した、というわけです(図表3)。

図表3 株式会社朝日新聞社の経費節減額(2021年9月期、前年同期比)
区分連結単体
売上原価(A)▲23億円▲50億円
販管費(B)▲177億円▲176億円
A+B合計(C)▲200億円▲226億円
収益認識基準の影響(D)▲122億円▲108億円
C-D▲78億円▲118億円

(【出所】株式会社朝日新聞社・2021年9月期半期報告書より著者作成)

したがって、株式会社朝日新聞社は、前期と比べてコストを連結ベースで78億円、単体ベースで118億円圧縮したことで、売上高の減少にも関わらず、今期は営業利益を確保した、といえそうです。

セグメント別に見れば:メディア・コンテンツ事業でも黒字に

では、具体的に株式会社朝日新聞社は、いったいどういう事業で増収・増益を確保したのでしょうか。

そのヒントが、セグメント売上高(図表4)、セグメント利益(図表5)の状況です。

図表4 株式会社朝日新聞社・セグメント売上高
セグメント20年9月21年9月増減
メディア・コンテンツ事業1242億円1153億円▲90億円
不動産事業141億円151億円+10億円
その他の事業8億円12億円+4億円
合計1391億円1315億円▲76億円

(【出所】株式会社朝日新聞社・2021年9月期半期報告書より著者作成)

図表5 株式会社朝日新聞社・セグメント利益
セグメント20年9月21年9月増減
メディア・コンテンツ事業▲116億円10億円+126億円
不動産事業24億円22億円▲3億円
その他の事業▲1億円▲1億円▲0億円
合計▲93億円30億円+123億円

(【出所】株式会社朝日新聞社・2021年9月期半期報告書より著者作成)

(※図表4の合計欄が、図表1に示した連結損益計算書の売上高とそれぞれ一致していますが、図表5の合計欄は、図表1に示した連結損益計算書の営業利益とは少し金額がズレています。これは、調整項目などを反映していないことの影響と考えられます。)

これによれば、まず、売上高に関していえば、「メディア・コンテンツ事業」が大きく落ち込む一方、不動産事業に関しては10億円の増収を確保しています(※ただし、「メディア・コンテンツ事業」の収益の減少は、おもに収益認識基準の影響によるものと考えられます)。

ただし、セグメント利益に関していえば、前期は大幅な赤字だった「メディア・コンテンツ事業」が、売上原価・販管費の圧縮の影響もあり、大幅なプラスになりました。

もっとも、セグメント別営業利益の単純合計額30億円のうち、「メディア・コンテンツ事業」は10億円に過ぎず、約3分の2に相当する22億円を、不動産事業で叩きだしています。

いずれにせよ、朝日新聞社は今中間期において、30億円程度の営業利益のうち、メディア・コンテンツ事業で3分の1、不動産事業で3分の2を稼ぎ出している、などと考えておけば、だいたい正確でしょう。このあたりはマスメディア業界ではTBSと利益構造がよく似ているといえるかもしれません。

売上原価と販管費の圧縮

さて、朝日新聞社が本業である「メディア・コンテンツ事業」で10億円の半期利益を計上したことは、わかりました。

ただ、売上高については、収益認識基準の影響を踏まえてもほぼ横ばいですから、利益が抜本的に改善したというのは、結局、売上原価や販管費を削った、ということを意味します。

では、いったい具体的にはどの費目を大きく削ったのでしょうか。

株式会社朝日新聞社・半期報告書によれば、販管費の主要費目と金額が開示されていますが、これによれば、給与・手当を8億円、退職給付費用を9億円削減したほか、「販売・発送費」を154億円も圧縮していることがわかります(図表6)。

図表6 販管費の主要費目と金額
費目20年9月21年9月増減
給与手当99億円91億円▲8億円
販売・発送費268億円114億円▲154億円
退職給付費用10億円2億円▲9億円

(【出所】株式会社朝日新聞社・2021年9月期半期報告書より著者作成)

この「販売・発送費」は、先ほど申し上げた、「収益認識基準」の影響が、最大で122億円ほど出ているはずですが、それでも説明がつかない部分が32億円分ほど残ります。これに、売上原価の減少額(連結ベースで23億円)、給与手当・退職給付費用の圧縮額(17億円)を足せば、ちょうど72億円です。

すなわち、図表3に示したうちの連結ベースの78億円については、だいたい次の4つの項目で、説明がつく、というわけです。

  • 売上原価の圧縮…23億円
  • 給与手当の圧縮…8億円
  • 販売・発送費の圧縮…32億円(※収益認識基準の影響を除外)
  • 退職給付費用の圧縮…9億円

給与手当は、ざっくりと10%削減された計算ですが、それ以外にもおそらくは取材経費などを圧縮することで、なんとか利益を確保した、ということだと思います。

部数は順調に右肩下がり

もっとも、肝心の新聞部数については、残念ながら、右肩下がりが続いています(図表7)。

図表7 朝日新聞の部数

(【出所】株式会社朝日新聞社の2021年9月期半期報告書・過去の有価証券報告書等より著者作成)

具体的には、2021年9月末時点で、朝刊は468万部、夕刊は138万部だったそうですが、これは著者自身が手元に持っている最も古いデータである2014年3月期と比べると、朝刊が285万部(つまり38%)、夕刊が135万部(つまり49%)、それぞれ減少した計算です。

ちなみに、年率に換算したときの部数の減少率は、

決算期朝刊年換算増減率
2014年3月期753万部
2015年3月期710万部-5.69%
2016年3月期670万部-5.55%
2017年3月期641万部-4.33%
2018年3月期611万部-4.77%
2019年3月期576万部-5.62%
2020年3月期537万部-6.76%
2021年3月期495万部-7.93%
2021年9月期468万部-10.85%

(【出所】株式会社朝日新聞社の2021年9月期半期報告書・過去の有価証券報告書等より著者作成。なお、「年換算増減率」は「[(当期末の部数)−(前期末の部数)]÷(前期末の部数)×365日÷実日数」で計算している)

2021年9月期の朝刊部数は468万部であり、これは2021年3月末時点と比べて5.44%の減少ですが、これを年換算に直すと10.85%の減少です。すなわち、部数の減少率が、だんだんと加速しているのです。

このように考えていくと、やなり何やら不自然です。

先ほどの図表4では、収益認識基準の影響を除外すれば、メディア・コンテンツ事業は事実上の増益だったわけですが、部数については減少しているわけですから。

これについて考えられるとしたら、「株式会社朝日新聞社がデジタル戦略に成功し、有料会員が増えていたり、電子媒体からの広告収入が増えたりしていることで、ウェブからの売上高が増収となっている」、という可能性はあるでしょう。

朝日新聞社は財務基盤が強固

いずれにせよ、(紙媒体の)朝日新聞の部数が急激に減っていることは間違いないのですが、同社の半報が正しければ、意外と同社は収益の多角化、コストの圧縮で、新聞事業から収益を上げ続けている、という構図が浮かび上がってきます。

もっとも、仮に――あくまでも「仮に」、ですが――、朝日新聞が今すぐ1部も売れなくなり、ウェブ版も読者が訪れなくなったとしても、朝日新聞社が直ちに潰れることはありません。というのも、連結ベースの総資産が5739億円ですが、純資産は3539億円と、自己資本比率は62%にも達しているからです。

そして、資産側には現金・預金が1000億円弱計上されているほか、おそらくはかなりの優良物件であろうと思われる不動産物件、テレビ朝日などの株式を含め、換金可能な優良資産などを多数保有しているため、極端な話、新聞がまったく売れなくなっても、しばらくは経営がビクともしません。

というよりも、もともと営業利益の3分の2は、不動産事業で稼いでいるわけですし、さらにはテレビ朝日などを持分法適用関連会社にしている関係からか、半期で26億円もの持分法投資利益を上げています。

このように考えていくと、「朝日新聞の部数が減少した」からといって、直ちに株式会社朝日新聞社の経営が揺らぐ、ということはないのです。

新聞業界は二極化

もっとも、上記の分析は株式会社朝日新聞社について成り立つものです。

おそらく、日経新聞社や読売新聞社についても、状況は似たようなものではないかと思います。すなわち、次のとおりです。

  • ①紙媒体の新聞の部数は大きく減少しているにせよ、ウェブ媒体である程度の有料読者、広告収入などは期待できる
  • ②不動産、関連会社株式など、優良資産がたくさんあり、新聞事業が傾いたとしても、会社の屋台骨が揺らぐことはない

ただし、上記の前提条件(とくに②)が成り立たない新聞社の場合(たとえば某Mの場合などや、多くの地方紙の場合など)は、また全然、条件が異なります。

すなわち、おそらく現在の新聞業界は、過去の遺産で優良資産をたくさん抱え込んでいる株式会社朝日新聞社のような事例と、ほとんど資産がなく、資産を切り売りしながら辛うじて新聞事業を続けているという事例があるのではないでしょうか。すなわち、新聞事業の二極化です。

とある全国紙などの場合、ごく近い将来(下手をすると数年のうちに)、資金繰りが詰まって経営破綻状態に陥る可能性すらあります。

そのような日がごく近い将来、訪れやしないかと考えると、個人的には不安で不安で、先日の『金融工学等の立場からコスパで論じるハンバーガー概論』で論じたとおり、夕食は肉2倍化ビッグハンバーガーとポテナゲ大盛りハッピーセットくらいしか喉を通らない日々がしばらく続くかもしれない、などと思う次第です。

読者コメント一覧

  1. 引っ掛かったオタク より:

    ポテト…
    しばらく小盛で堪えてつかあさい

  2. sqsq より:

    >販売・発送費の圧縮

    原因は交通費、交際費、会議費の減少でしょう。
    コロナの影響で人と会えなくなったのが最大の原因。

    これは朝日に限らず、どこの会社でも同じでしょう。
    これに味しめて電話取材が多くなるのでは。

  3. たか より:

    >朝日新聞が今すぐ1部も売れなくなり、ウェブ版も読者が訪れなくなったとしても、朝日新聞社が直ちに潰れることはありません。

    朝日の影響力がなくなれば、本体がどうなろうとかまいませんね。

    1. KN より:

      同人誌を発行する不動産屋に華麗に転身中。だったら、軽減税率の対象でなくてもいいよね。

  4. カズ より:

    >部数は順調に右肩下がり

    コアな読者への”傾斜の現れ”なのかな・・?
    ”角度”が順当に反映されてるみたいですね。

  5. sqsq より:

    新聞を定期購読しているのは高齢者世帯が多い。
    さまざまな理由で購読をやめる。高齢で知的好奇心がなくなり新聞を読まなくなる。老眼が進み、そもそも読むことが疲れる。年金暮らしで定期購読する余裕がなくなる。施設に入るので新聞の購読をやめる。死亡する。朝日の主張が気に入らなくて購読をやめるという人は、サンゴ事件、慰安婦捏造記事のような事件で、ほぼいなくなっているかもしれない。
    一方高齢者で、これから朝日を購読しようかという人はあまりいないのではないか。
    であれば今後朝日に限らず新聞の発行部数はつるべ落としに減っていくのではないだろうか。
    あと数年でベビーブーム世代が全員後期高齢者になる。その後は上記のような理由で購読をやめていく。2017年3月から2021年3月まで減少率が増えているのはその表れか?

  6. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

    栗鼠虎したから儲けが出ているのかな?

  7. 埼玉県民 より:

    自粛か忖度か東京オリンピックを契機に本社屋上の社旗掲揚を中止してしました。 CIで社旗を五星紅旗か太極旗をモチーフにして社旗掲揚を再開して欲しいです。 旗幟鮮明となってわかりやすいです。

  8. ひろた より:

    産経新聞社の子会社であるサンケイ印刷(東京)が特別清算で大阪のサンケイ印刷へ統合されます。負債は15億円です。
    新聞とは違いますが印刷紙の値段がまた上がります。
    従前からの印刷だとかなり経営は厳しそうです。
    パッケージ印刷などの世界市場規模は成長しています。

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