フジテレビが実施する希望退職募集は「悪手中の悪手」
フジテレビが50歳以上の従業員を対象に希望退職を実施するそうですが、結論的にいえば、悪手中の悪手でしょう。希望退職は「辞めてほしい人が辞めず、辞めてほしくない人が辞める」というものだからです。そして、以前の『コロナ禍でのテレビ局経営:在京5局はすべて減収減益』でも述べたとおり、在京民放キー局も経営状況は悲喜こもごもですが、総じてテレビ事業は減収が続いているようです。
在京キー局の親会社の売上高
当ウェブサイトでは以前の『コロナ禍でのテレビ局経営:在京5局はすべて減収減益』で、在京民放5社(の持株会社)の決算分析を展開したことがあります。
詳細については過去記事をご確認いただきたいのですが、結論的にいえば、在京民放5社の2021年3月期決算は、いずれも前年度比で減収となったものの赤字転落したケースはありませんでした(図表1)。
図表1 在京キー局の親会社の2021年3月期連結業績(カッコ内は前年同期比)
社 | 売上高 | 当期純利益 |
---|---|---|
フジ | 5199.41億円(▲17.66%) | 101.12億円(▲75.52%) |
TBS | 3256.82億円(▲8.72%) | 280.72億円(▲6.97%) |
日テレ | 3913.35億円(▲8.27%) | 240.42億円(▲21.32%) |
テレ朝 | 2645.57億円(▲9.90%) | 126.00億円(▲52.27%) |
テレ東 | 1390.84億円(▲4.19%) | 25.75億円(▲0.58%) |
(【出所】各社決算短信より著者作成。なお、上記図表を含め、本稿では「親会社株主に帰属する当期純利益」を「当期純利益」と称している)
セグメント別に分解してみたら…
ただし、各社の決算を委細に検討すると、まさに「悲喜こもごも」です(図表2)。
図表2 事業セグメント別の売上高・営業利益(2021年3月期)
2-1 フジ
事業セグメント | 売上高 | 営業利益 |
---|---|---|
メディア・コンテンツ事業 | 4394.66億円(▲759億円) | 137.23億円(▲2億円) |
都市開発・観光事業 | 760.48億円(▲347億円) | 37.28億円(▲100億円) |
2-2 TBS
事業セグメント | 売上高 | 営業利益 |
---|---|---|
メディア・コンテンツ | 2537.78億円(▲165億円) | 28.81億円(+5億円) |
ライフスタイル | 559.83億円(▲140億円) | 2.81億円(▲25億円) |
不動産・その他 | 159.20億円(▲6億円) | 76.79億円(▲3億円) |
2-3 日テレ
事業セグメント | 売上高 | 営業利益 |
---|---|---|
メディア・コンテンツ | 3641.27億円(▲198億円) | 386.24億円(▲20億円) |
生活・健康関連 | 206.07億円(▲153億円) | ▲72.64億円(―) |
不動産関連 | 32.74億円(+3億円) | 37.15億円(+3億円) |
2-4 テレ朝
事業セグメント | 売上高 | 営業利益 |
---|---|---|
テレビ放送 | 2094.85億円(▲264億円) | 110.59億円(+41億円) |
音楽出版 | 61.68億円(▲35億円) | 7.21億円(▲3億円) |
(【出所】各社決算短信より著者作成。なお、テレ東についてはセグメント分析自体を本稿では割愛している)
経費節減で利益を確保したテレビ業界:TBSの独り勝ち
まず、どの社も「メディア・コンテンツ」ないし「テレビ放送」事業では、日テレを除いて売上高が1~2割程度減少していますが、営業利益に関してはフジ、日テレともに小幅な減少に留まり、テレ朝やTBSについてはむしろ増益でした。
このことは、会計的には「経費節減で利益を確保した」と評価されます。
つまり、売上高が一定であっても、経費を抑制する(平たい言葉でいえば「テレビ番組の製作費などをケチる」)ことで、なんとか利益を確保したということです。中・長期的に見れば、「テレビのコンテンツがますますつまらなくなり、視聴者がテレビから離れる」という悪影響が生じるかもしれません。
ただ、本業以外の事業に関していえば、各社で明暗がクッキリ別れた格好です。
たとえばTBSはテレ東と並び、減益幅が非常に小さかった局ですが、実際にセグメント開示を確認すると「不動産・その他」が営業利益の70%以上を占めており、コロナ禍のなかでも不動産部門が安定的に収益をたたき出したことが伺えます。
その一方、TBSのような安定収益源を持たない他社は、コロナ禍の広告収入減少の影響もあってか、テレ東を例外として、軒並み減益です。とくに「メディア・コンテンツ事業」の規模が大きいフジの減益幅が大きいのが特徴的でしょう。
これが、当ウェブサイト的にいえば「TBS独り勝ち」という状況です。
ただし、そのTBSにしたって、メディア・コンテンツ事業で儲けているわけではなく、赤坂サカスなどの本社エリアの街づくりで儲けているというのが実情であり、これこそTBSが「テレビ局ではなく不動産業者だ」と呼ばれるゆえんではないでしょうか。
いずれにせよ、放送免許という「特権」に依存した商売も曲がり角に来ているように思えてなりません。
フジテレビが50歳以上の希望退職を実施
こうしたなか、昨日はフジテレビの親会社である株式会社フジ・メディア・ホールディングスが、子会社である株式会社フジテレビジョンにおける希望退職制度の取締役会決議について公表しています。
当社連結子会社における「ネクストキャリア支援希望退職制度」に関するお知らせ【※PDF】
―――2021/11/25付 株式会社フジ・メディア・ホールディングスHPより
フジによると、今回の希望退職は50代の従業員を対象としたもので、実施内容の詳細は次のとおりだそうです。
- 対象者…満50歳以上かつ勤続10年以上
- 募集期間…2022年1月5日~2月10日
- 退職日…2022年3月31日
- 優遇措置…通常の退職金に加え特別優遇加算金を支給、希望者への再就職支援
- 業績影響…特別優遇加算金は2022年3月期に特別損失計上予定
…。
株式会社フジ・メディア・ホールディングスは、ここ数年、売上高が6000~7000億円前後で安定していましたが、コロナ禍の影響でしょうか、直近の2021年3月期決算においては、売上高が一気に5000億円台にまで下落し、経常利益、当期純利益の水準もここ数年で最も低い水準に下落しています(図表3)。
図表3 株式会社フジ・メディア・ホールディングスの業績ハイライト(2013年3月期以降)
(【出所】同社有価証券報告書より著者作成)
想像するに、年功序列で給与水準が高い50歳代以上の従業員に希望退職を募るという狙いがあるのだと思います。
悪手中の悪手
ただし、当ウェブサイトではいつも申し上げているとおり、この「希望退職」というものは、日本企業にありがちではあるものの、基本的には「悪手中の悪手」です。
あくまでも一般論ですが、他社に移れるほどの実力がある人が真っ先に手を挙げ、正直、「お荷物」となっている従業員は手を挙げずに会社に居座ろうとするからです。いわば、「辞めてほしい人は辞めず、辞めてほしくない人を辞めさせる」という仕組みですね。
このあたり、「会社の業績が傾いても、なかなか従業員を整理解雇することができない」という日本の労働慣行の苦しさという事情があることは仕方がないのですが、それにしても悪手です。
ちなみに株式会社フジ・メディア・ホールディングスはくだんの報道発表の末尾に、こんなことを記しています。
「現時点では応募者数および特別優遇加算金総額が未確定である」。
このあたり、応募者数の目標もろくに設定しないでやみくもに希望退職を実施しても、「辞めてほしい人が辞めてくれなくて、辞めてほしくない人が辞めてしまう」というオチになるのは火を見るより明らかだと思うのですが…。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
フジテレビといえば、1980年代から90年代の「テレビ全盛期」を知る者からすれば、まさに「あこがれの存在」だったのではないでしょうか。
そのフジテレビが2011年8月、「反・韓流お台場デモ」で一般人に取り囲まれた(『ウェブ評論の10年史から見たマスメディア業界の自滅』等参照)あたりからケチをつけ始め、それから10年が経過した今年、ついにはリストラを開始したというのも、時代の変化を感じる出来事です。
いずれにせよ、著者自身の仮説では、テレビ業界は新聞業界より5年から10年遅れて衰退しています。
今後のインターネットの発達速度にもよりますが、現在は辛うじて社会的な影響力を保っているテレビ業界が、現在の新聞業界のように社会的影響力を喪失していくまで、案外時間はかからないのかもしれません。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
他の会社や他の業界でも通用する人財から辞めていく、というのはホント日本のリストラあるあるですよね。
そんな中途半端なリストラをする位なら、一度倒産して切りたい人罪を切って再出発すれば良いのに、と思います。
ネットはその人の望む情報に偏るという人がいるが、
新聞テレビも、社の方針や広告主で偏りがでる。
そして新旧メディア関わらず、発信者記者編集者のバイアスが当然ある
結局は情報の受け手次第だと思う。
このサイトでも度々出てくるように
客観的事実と主観的意見についての理解、
一次情報の取得、情報の裏付けの有無
これだけでも注意していれば、変なことにはならないと思う
それを踏まえて、TVと新聞は必要なしと判断した。
新聞テレビがやっていることを考えると
本業でまだまだ売り上げがあるのが不思議なくらいだ。
素朴な疑問ですけど、(もちろん、一概には言えませんが)50歳以上のテレビマンの感覚は、いま、テレビ局が重視するコア視聴者の感覚とあっているのでしょうか。
蛇足ですが、今後、フジテレビは、(もちろん、体裁は整えるでしょうが)事実上の追い出し部屋をつくるのでしょうか。(もしかしたら、下請けの制作会社に押し付けたりして)
駄文にて失礼しました。
すみません。追加です。
BSフジのプライムニュースは、どうなるのでしょうか。
一般的に、こういう時にはまっ先に下請け、孫請けが切られるのですが、テレビ業界の構造はよく知らないので、どうなんでしょうね。
こんにちは。
まさかと思いますけど、今、希望退職を呼びかけている人もかつては「辞めてほしい人」で、そういう人が次々と管理職・経営側になっているから、結局同じような人しか残らない(残さない)ってことではないでしょうね(汗)
ネットは互いに牽制し合うけど、マスメディアはそういうのがないのが衰退の原因でしょう。
辞めさせたい人を真っ先に辞めさせれるような解雇法法改正を検討しているらしい
>希望退職は「辞めてほしい人が辞めず、辞めてほしくない人が辞める」という悪手中の悪手
どうでしょうか…。
優秀かもしれませんが、逆に「自分のことだけ」を考える人材という見方もあります。ちょっと厚遇しただけで出ていくような人が会社にとって本当に優秀(必要)な人材だと言えるのか、みたいな。(ダメな会社に見切りをつける、というケースも勿論あるでしょうけど)
また、希望退職者には「会社は自分を正当に評価していない(他で正当に評価してもらえるはず)」という人も意外といるかもしれません。「能力の低い人は自分の能力を過大評価する」という有名な認知バイアスですが、そんな人には去ってもらった方が吉でしょう。
転職希望者ご本人の能力認識如何よりも、転職先が評価して引き受けるなら事態はそれで確定してしまうのではありませんか。転職ってそんなものです。
今の若者はテレビなど見ない。
それが全局必死になって若者向けの番組を作ってるんだから笑えるよなw
視聴率も上がらずスポンサー収益も逓減していくだろう。
https://bunshun.jp/articles/-/50270
部内騒然 共同通信の若手記者が連続退職
共同通信も内部が相当きしんでいるようだね。
オールドメディアの崩壊が緩やかに、だが確実に進んでいく!
意外と知られてませんがTBSは業績&株価絶好調の東京エレクトロンの大株主(4%弱、約600万株)です。
羊山羊様
東京エレクトロンは元々はTBSの子会社でした。
本社がTBSの所有する赤坂Bizタワーにあるのはその名残です。
そうですね。当初はこんな超優良企業になるとは考えられてなかったでしょうね。配当だけで数十億円。
素人なんでよくわからんのですが、持ち株が騰がると有価証券評価益、税引前当期純剰余(税引前当期純利益)となり特別利益に計上されるのでしょうか???
フジテレビは嫌なので見ません。
まぁ、フジテレビ以外も見ないけど、多分フジテレビはもう二度と見ないと思う。
若い世代の人達なら、テレビを見るよりYouTubeで興味のある動画を見たり、友達とオンラインゲームでもやっていた方がよほど有意義だと感じるでしょう。
フジテレビが倒産しても、テレビを主な活動の場にしているお笑い芸人やタレント以外の一般人は、誰も何も困らないんじゃないですかねぇ。
テレビ業界は一般的な会社とは給与水準が違うのでちょっとかも。
優秀な人は3000万くらいもらっているわけでその人達が転職して受け入れる会社があるだろうか。
それより割り増し退職金と下請けの会社の役員や顧問をやりながら悠々自適と考える人はあるでしょうね。会社としてもトータルで支出が減らせるのて良いと思いますよ。
私はこの年代ですがかなり計算しますよ。
番組制作費は基本的にスポンサー負担じゃないかな?
スポンサーが高いコストを嫌がるからショボい番組ばかりになる。高いコストを嫌がる理由はテレビ広告の効果に疑問をもっているため。
テレビをつけるとどのチャンネルも“歩いている”か“食っているか”の低予算番組。
韓流ドラマが多いのも放映権が安いため。挙句の果てのジャパネット。これなど番組そのものがコマーシャル。ジャパネットは自前のスタジオで制作できるので、もらえるのは電波料だけ。テレビ局として、このようなビジネスモデルは想定していなかったのではないかな?
今後テレビは衰退していくだろうが、フジの希望退職はこれに合わせた「ライトサイジング」とも受け取れる。産経新聞が夕刊を廃止したように、このグループは結構思い切ったことをやる。他局は「おっ、フジがやった。うちもやろう」ということになるのでは。