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トルコリラ急落:通貨スワップの「再発動」はあるのか

中東の大国・トルコの通貨が急落しているようです。「金利は悪」と叫ぶエルドアン大統領の政治的圧力を受け、中央銀行がインフレ下にあるにもかかわらず利下げに踏み切っているからであり、これはある意味で当然の現象でしょう。ただ、トルコといえば、通貨スワップに関する話題が豊富な国でもあります。トルコが韓国ウォンのスワップを引き出すことで、金融危機が東アジアに波及するという可能性はないのでしょうか。

トルコの通貨急落

中東の大国・トルコの通貨が急落しているようです。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のトルコリラ(USDTRY)の通貨市況欄を見てみると、昨日は一時、1ドル=14.6412リラと、まさに「史上最安値」を更新しています。

ちなみにトルコリラは、2019年1月3日時点で1ドル=5.3848リラでしたので、この3年弱で価値が約3分の1ちかくに下落した計算です。

これについて、Bloombergによれば、1ドル=14リラの節目を割り込んだ段階で、トルコ中央銀行が為替市場で「今年4回目の為替介入」を実施した、などとしています。

トルコ・リラ、最安値更新-1ドル=14リラ割れで中銀が再び介入

―――2021年12月13日 20:26 JST付 Bloombergより

このためでしょうか、現時点で同国通貨は1ドル=13.84リラ前後で取引されています。

インフレ下で利下げすれば急落するのも当然

ただ、このトルコの為替相場を巡っては、国際金融の世界では「インフレ下で利下げをしたら通貨が下落するのも当然だ」、というのが通説です。

トルコは先月の金融政策決定会合で、1週間物レポ金利を16%から15%へと引き下げました。日経電子版の次の記事によれば、トルコの利下げは9月から3ヵ月連続なのだとか。

トルコ3会合連続利下げ 世界に逆行、通貨安止まらず

―――2021年11月18日 22:51付 日本経済新聞電子版より

ではなぜ、トルコでは利下げがなされるのでしょうか。

日経はレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が「金利を『悪』とみなし、景気を刺激する低金利を好む」と指摘し、また、エルドアン大統領自身が政策決定会合の前日も「金利と闘う」と強調した、などと述べています。

このあたり、金融論の立場からすれば、インフレ下で利下げをすれば景気を過熱させ、通貨の価値をさらに下落させるのは当たり前すぎる話です。

「イスラム教では金利を禁止している」、といった話を耳にしますが、残念ながら金利とインフレに関する経済学的な理屈は、物理法則と同様、宗教ごときが逆らえるようなものではないのです。

日中韓との通貨スワップに関する話題

さて、こうしたなかで、トルコといえば「通貨スワップ」に関連する話題がよく出てくる国でもあります。

たとえば、『「飛ばし報道」だけでトルコリラの暴落を防いだ日本円』でも報告したとおり、昨年春先のコロナ禍のころ、トルコ国内では「トルコ中央銀行が日銀と通貨スワップを結ぼうとしている」とする観測報道が流れたことがありました。

昨日の『トルコとの100億ドルスワップ報道に「驚いた」日本』では、トルコ国内で「トルコ中央銀行が日銀と100億ドル規模の通貨スワップ締結で合意に至る直前である」などと報じられた、とする話題を紹介しました。いわば、一種の「寝耳に水」のような話ですね。わが国ではさほど話題になっている形跡はないのですが、現時点で判断するかぎりは「利下げに備えて通貨安を防衛するための一種の情報操作だった」とうい可能性が高い気がします。トルコメディアの飛ばし報道「100億ドルスワップ説」は信頼できるのか?昨日、当ウェブサイトで...
「飛ばし報道」だけでトルコリラの暴落を防いだ日本円 - 新宿会計士の政治経済評論

これなど、日本のスワップの建付けから考えて、日銀が外国の中央銀行と、いわゆる狭い意味での通貨スワップ協定を締結することはあり得ませんが、トルコでは「日本とのスワップ」という話が出ただけで、一時的にリラの暴落が止まったことは事実でしょう。

また、トルコの通貨スワップといえば、中国との間での人民元建ての通貨スワップを引き出した国としても知られています。

トルコが中国との通貨スワップを実行し人民元を引出す』でも取り上げたとおり、たとえば、トルコ中央銀行は昨年6月19日、中国との間で締結した通貨スワップ協定に基づき、人民元を中国から引き出し、それらの人民元を中国企業からの輸入代金の決済に使用した、と発表しました。

慢性的な外貨不足に悩む中東の大国・トルコは先週、中国との人民元建ての通貨スワップを実行したそうです。トルコ中央銀行のウェブサイトによると、トルコは通貨スワップ協定に基づき、中国人民銀行から人民元を借り入れ、その人民元はトルコ国内企業の人民元輸入代金の決済に使われたのだとか。このプレスリリースを見て、個人的には「溺れる者は藁をも掴む」、「貧すれば鈍する」などの用語が頭をよぎった次第です。トルコの通貨不安トルコといえば、当ウェブサイトでは以前からしばしば注目していた国のひとつです。というのも、「...
トルコが中国との通貨スワップを実行し人民元を引出す - 新宿会計士の政治経済評論

いわば、トルコが自国通貨・リラを担保にして人民元を借り、その借り入れた人民元で中国から製品を輸入した、と考えれば良いでしょう。

このあたり、『中国が保有する人民元通貨スワップ等をすべて列挙する』でも紹介したとおり、著者自身の調査では、中国が外国の中央銀行などと締結している通貨スワップ等の協定は現時点で少なくとも24本、総額約3.2兆元に達します。

引き出した通貨を国際市場で売却することは?

ただ、人民元スワップの場合、引き出した資金で中国からの輸入品の決済代金に充てることは可能ですが、現状、多額の人民元を米ドルなどの国際的な通貨と自由に交換することは困難ですので、たとえば人民元を通貨防衛に使うことなどはできません。

逆にいえば、現状、人民元が「国際的決済通貨」としての勢力を拡大するチャンスは、この「弱みに付け込む」という形態などに限られています。つまり、人民元通貨スワップの本当の目的は、「弱った国を探して、その国を人民元経済圏に引き込む」という点にあるのかもしれない、などと思う次第です。

さらに、トルコといえば、韓国との間で総額20億ドル程度の通貨スワップ協定を締結している国でもあります(『トルコと韓国が「ローカル通貨建てのスワップ」を締結』等参照)。

韓国銀行が本日、なかなか興味深い報道発表を行いました。「あの」トルコ中央銀行とのあいだで、約20億ドル相当の通貨スワップ協定を結んだというのです。ただ、報道発表を委細に眺めてみると、正直、「締結していて何か意味があるのか」と思ってしまうのもまた事実です。というのも、トルコも韓国も、通貨は国際的に通用しないソフトカレンシー(ローカル通貨)だからです。国際金融協力のスワップ『あらためてスワップについてまとめてみる』のページでも説明したとおり、国際金融協力の世界では、外貨不足に備えて、「通貨スワップ...
トルコと韓国が「ローカル通貨建てのスワップ」を締結 - 新宿会計士の政治経済評論

これについて、韓国の通貨・ウォンもまた人民元と同様、国際的に広く通用する通貨ではありません。理屈の上では人民元建てスワップと同様、トルコが韓国から通貨・ウォンを引き出し、韓国企業からの輸入代金の決済に充てるという使い方をすることはできます。

ただ、中国と異なり、韓国の場合は(いちおう)公式には為替操作をしていないことになっているため、市場でのウォンの売却にはさほどの制約はありません。このため、トルコが引き出したウォンを国際的な市場で売却することで、ウォンの価値が急落する、といった可能性にも、一応の注意は必要かもしれないと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (9)

  • 素朴な感想ですが、韓国も(トルコという)他国のことなら、(自国のことを棚にあげて)理解できるのではないでしょうか。

  • イスラム金融に関しては、以下の三菱UFJ信託銀行による解説がとても分かりやすいと思います。

    https://www.tr.mufg.jp/houjin/jutaku/pdf/u201608_1.pdf

    トルコ共和国は国父ケマル・アタテュルク以来の国是として「世俗国家」を掲げており、国内のシステムもイスラム法に沿った形にはなっていないはずです。しかし、現職のエルドゥアン大統領は強固なイスラム主義者であり、トルコのイスラム化を推進しようとしていると言われています。
    もっとも、エルドゥアン大統領が金利の引き上げを極端に嫌うのは、イスラム法に沿うためではなく(前掲の解説によれば、イスラム法ではそもそも金利という概念がない)、同大統領が「金利引き上げ=不景気」と固く信じ、とにかく金利を引き下げることこそが景気対策だと信じているからだという解説を、以前どこかで読みました。その真偽については何とも言えませんが、トルコ中央銀行が状況も考えずに利下げに踏み切るのは、大統領からの強い圧力に屈した結果であるというのは、おそらく間違っていないでしょう。確か、以前金利政策で大統領と対立した中央銀行総裁が更迭されたなんてこともあったと記憶しています。

    まあ、通貨スワップで引き出されたウォンが市場で売られてウォン暴落なんてことがあったとしても、それは以前に韓国がブラジルに対してやったことのツケが回ってきただけと思えば、韓国通貨当局が自力で何とかするしかないでしょう。少なくとも、トルコ中央銀行よりは韓国中央銀行のほうが信用格付けは上位だろうと思われるので、外平債をたくさん発行すればよいのではないかと思います。後のことは知らんけど。

  • トルコ・リラと南国ウォーンのSWAPって、未だやっていなかったのですか?
    早くSWAPしなくちゃ!!
    トルコ・リラと南国ウォーンを直接交換する市場が有りませんので
    当然その間で米ドルが動く事になりますよね。
    トルコ・リラや南国ウォーンに関心はまったくありませんが
    米ドルがどのように動くか大変興味があるところです。
    又、日本円もどのように動くのでしょうか? 興味シンシン。

  • 危険なのは、トルコが先進的に保持している攻撃的ドローン技術を韓国に売り飛ばす脅威かなぁ。

    あれは戦闘のあり方を変えるだけでなく、簡単に思慮の無いあほな国が戦争始める武器でもある。

  • 自国通貨安で金利を下げれば、通貨安が悪化しますよね。感染が収束していないうちに、ウィズコロナするようなもんです。トルコと韓国は、一緒に中国側に行ったから、共通点があるんじゃないかな。
    トルコが介入するドルを使い終わったら、スワップ発動じゃないでしょうか。
    ウォンは、範囲内で少し安い方に動いてますね。

  • トルコリラの暴落を見ると、日本の経済政策の失敗と重なって見えます。

    インフレ下に金利を引き下げる事=デフレ下に緊縮財政や増税する事。まったく同じことをしていますね。

    日本は一刻も早く、大規模な財政出動で景気を良くして、その結果で税収が増えるようにしなくてはいけないと思います。

    あと、働いている人の賃金アップは「ブラック企業に懲罰的罰金」を科せる法をつくり、「やったもん勝ち」にしない事です。

    ブラック企業のおかげで、まじめな企業が競争に負けて消えていくのを防がなくてはなりません。

    • 仰る通り、選挙で選ばれた訳でもない財務省が、実質的に首相以上に実権を握っている事が問題ですね。
      日本は、民主主義を装った専制国家なのかもしれませんね。

  • 確かヨーロッパにはトルコ系移民がたくさんいたはず
    韓国も似たようなものだけど

  • チャラリラリラリリラ♪

    トルコの兵器製造会社が外資に買われるのかなあ。