高齢者の50%近くが1回目接種、今後の焦点は若年層

コロナワクチン接種の進捗状況を巡っては、当ウェブサイトでしばしば指摘してきたとおり、各自治体などにおける「ワクチン接種記録システム(VRS)」へのデータの入力遅れのため、実態よりも進捗はかなり遅れているように見えてしまいます。しかし、おそらく高齢者への接種も現時点で少なくとも半数への1回目接種が完了していると考えて良く、これから本格化する職域接種では若年層へのワクチン接種普及に期待がかかります。

ワクチンはすでに「1日100万回」

当ウェブサイトで何度となく報告しているとおり、6月中旬ごろからでしょうか、ワクチン接種は1日100万回を超えた可能性が高いと考えています。

ただし、「ワクチン接種記録システム(VRS)」が提供するデータで確認する限り、1日当たりの接種回数は多くてもせいぜい80万回を少し超えるくらいであり、これに別途提供されている「医療従事者等」に対する接種データを合算しても、1日100万回行くかどうかは微妙です。

ではなぜ、「客観的なデータ」から確認できないのに、1日100万回を達成したと考えられるのでしょうか。

これについては「バックデートで過去のデータを書き換える」というVRSの特徴にあります。

さきほどVRSにアクセスしたところ、6月22日(火)時点、すなわち6月21日(月)までの接種状況についてのデータを取得することが出来ました(※おそらく現時点でアクセスすれば、データは本日・23日(水)時点、すなわち22日(火)までのものに更新されているのだと思います)。

元データの取得方法
  • 「https://vrs-data.cio.go.jp/vaccination/opendata/latest/prefecture.ndjson」をウェブブラウザのURL欄に打ち込むと、その時点の最新データが取得可能
  • 上記文字列のうちの「latest」以降の部分を「{dt}/prefecture.ndjson」(※)に変えると過去データの入手が可能(※なお、{dt}は「yyyy-mm-dd」形式で日付を入力。たとえば「2021年6月21日時点のデータ」なら、{dt}の部分を「2021-06-21」に変換)

過去データで100万回を超えたのは2日だけだが…

まずは、事実関係をまとめておきましょう。

この6月22日時点のVRSデータと、別途、首相官邸ウェブサイトに公表されている「医療従事者等」に対する接種データ(エクセルファイル)を使って、6月21日までの日々の接種回数をグラフ化したものが、次の図表1です。

図表1 1日あたり接種回数(医療従事者等+一般人の合算)

(【出所】VRS『新型コロナワクチンの接種状況(高齢者等)』オープンデータ、首相官邸『新型コロナワクチンについて』公表データより著者作成)

すなわち、6月11日(金)、6月16日(水)の2回、1日の接種数が100万回を超えていることが確認できます。具体的な実数でいえば、次のとおりです。

  • 6/11(金)…1,005,785回
  • 6/16(水)…1,038,490回

ただ、逆にいえば、現時点における公式データで「100万回を超えた」ことが確認できたのはこの2日間のみであり、それ以外の日は100万回を割り込んでいます。

ではなぜ、「1日100万回を超えている可能性が高い」といえるのか。

そもそも図表1に示した接種回数のうち、とくに直近の数値が落ち込んでいることが確認できると思います。

これは、「最近になって接種回数が減った」のではなく、単純に、「接種をしているのだけれどもVRSへのデータの入力がなされていない」という可能性が極めて高いのです。

曜日の変動も勘案する必要がある

さて、現時点で首相官邸ウェブサイト『新型コロナワクチンについて』のページを確認すると、6月21日時点の「一般接種(高齢者含む)」が22,911,274回で「増分」が+1,131,482回、「医療従事者等」が10,011,018回で「増分」は+198,780回です。

合計して1,330,262回(!)で、菅義偉政権が目標として掲げて来た「1日100万回接種」を大幅に上回っているかに見えますが、これについては「医療従事者等」のデータは毎週火曜日に土、日、月の3日分がカウントされるため、データ通りに受け取るべきではありません。

さらには、VRSの6月22日(火)時点のデータには、前日・6月21日(月)の接種状況データだけでなく、6月20日(日)以前のデータも含まれているからです。これについて、VRSの過去データの「書換え状況」を検証してみたものが、図表2です。

図表2 VRSの過去データ「書き換え」状況

(【出所】VRSオープンデータより著者作成)

いかがでしょうか。

データの集計回数が土、日に急減するという傾向もさることながら、前日以前のデータについては、酷い場合で70万回以上も上書き・加算されているのです。

つまり、現時点でVRS上、「前日の接種回数」が「50~60万回」と表示されていても、当日中に記録されていなかったデータが、現実には、少なくとも30~40万回分、下手をすると50~70万回分はある、という可能性が非常に濃厚、というわけです。

若年層接種がこれから加速する

さて、現時点において65歳以上の高齢層への接種率は、1回目が47.22%、2回目が14.44%とされていますが(図表3)、先ほど申し上げた理由により、現時点で高齢者接種率はすでに50%を超えている可能性が高いと見て良いでしょう。

図表3 累計接種数・接種率(65歳以上)

(『新型コロナワクチンの接種状況(高齢者等)』オープンデータより著者作成。なお、「接種率」とは累計接種数を『令和2年住民基本台帳年齢階級別人口』【※エクセルファイル】記載の日本の65歳以上人口3548万6339人で割った数値)

こうしたなか、先ほどの図表1に戻って、もうひとつ気付くのは、少しずつですが、「64歳以下」への接種数が増えていることです。そして、注目すべきは職域接種でしょう。

菅義偉総理大臣は6月21日、日本郵政グループなどを訪れ、今週から始まった職域接種の会場を視察しています。

新型コロナウイルスワクチン職域接種会場視察

―――2021/06/21付 首相官邸HPより

また、森ビルは6月21日以降、同社および同社グループの従業員やその家族に加え、施設の管理・運営に関わる協力会社のスタッフ、テナント企業のワーカー、住宅居住者、商業店舗スタッフなど約10万人を対象にした「職域接種」を開始しています。

森ビル、新型コロナワクチン職域接種を開始

―――2021年6月21日 16時00分付 住宅新報WEBより

さらに、金融界の場合、みずほフィナンシャルグループが1日1800人を対象に見込み、7月1日以降、職域接種を始めるなどの動きもみられます。

2021年6月11日号1面 金融界、ワクチン「職域接種」拡大、みずほFG・一日1800人

―――2021/06/11付 ニッキンより

職域接種が始まれば、若年層に対してもさらにワクチン接種が進んでいくことが期待されると考えて良いでしょう。これから7月初旬にかけて、日本は1日100万回以上の速度でワクチン接種が進んでいき、東京五輪開会式までに高齢者のかなりの割合が接種を終えるでしょう。

もちろん、ワクチン接種が「万能」というわけではありませんし、副作用が懸念されるという短所や、ワクチンが効かない変異株(最近だと「デルタ株」など)の存在も知られています。ワクチン接種が完了すれば、コロナ禍はお終い、というわけではありません。

しかし、菅政権のコロナ対応を見るにつけ、「短期間でよくぞここまで持ち直したな」という印象を抱く次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. Sky より:

    本取り組みの関連情報のできるだけ源流を把握したいので、以下のHPをワッチングしています。次回会議は本日開催なので、更新内容が楽しみです。
    厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)
    https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei_284075.html
    このような情報を自席にいながらにして得ることができてありがたいです。

  2. G より:

    高齢者の1回目接種が50パーセント超えたということで、そろそろ医療機関の負荷が減る徴候も出てくるように思います。
    相変わらず新規感染者だけを気にしてますが、そろそろ医療機関の空き状況に注目を移していくべきですね。
    もっと簡単に日ごとの死者数とかで何か徴候ないものかと思ったり

    1. まんなっか より:

      北陸の片田舎の現場の話として。
      最近の病床状況は報道では目に見えて改善しており、入院率、重症病床使用率とも平常時に近いところまで戻ってきています。(データ見る限り、沖縄は未だ戦場で間違いなさそうですが…)
      現場でもそれで間違いなく、高年齢層のワクチン接種が進んでいるからか、高年齢者の入院患者は(わかる範囲で)以前ほどは見かけなくなりました。重症者用向けベッドは一部削減できています。
      今後知見が蓄積されチェック体制が整うことで軽症者と中・重症者の振り分けが進むようになり、一部除いた医療機関の負担は減っていくのは間違いないと考えています。
      反面、危惧されている通り第五波が来る可能性は極めて高く(既に東京は増加に転じている)、その際の波の高さはワクチン接種率と相関関係になるんじゃないかな、と。第四波を超えないことを祈ります。

  3. 閑居小人 より:

    職域接種が拡大していけば、若中年層への早期接種に繋がると思うので期待しています。
    ワクチン接種に対し副反応がどうのこうのなど批判的な報道をしていた新聞社や放送局も職域接種をするのか関心があります。

  4. 墺を見倣え より:

    > 現時点で高齢者接種率はすでに50%を超えている可能性が高い

    私の知り合いの範囲に限れば、既に65歳以上は100%。

    > 職域接種が始まれば、若年層に対してもさらにワクチン接種が進んでいくことが期待されると考えて良いでしょう。

    FNNでは、「職場や大学などによるワクチン接種の申請は、21日午後5時時点で、3,795会場、対象者はおよそ1,464万人にのぼっている。」と報じられてますが、まだまだ会場数・対象者数共に増える予定。私が知っている会場も上記3,795会場には未だ含まれていない。

    > 東京五輪開会式までに高齢者のかなりの割合が接種を終えるでしょう。

    断定的には上記表現にならざるを得ないと思いますが、実質推測的には、若者も含めてかなりの割合になるのではないかと期待してます。

    ワクチン反対派は、「不妊になる」といったデマ情報を拡散に必死な様ですが、「コロナ後遺症」に関しては「報道しない自由」を満喫しているみたいです。

    ワクチンパスポートに関しても、「接種しない人への差別につながる」と言って反対キャンペーンを広げてます。

    しかし、「運転免許証が身分証明等の道路交通法以外の分野で使用できるのは差別だ、法律で禁止しろ。」といった話は全くありません。

    国が「ワクチンパスポートを有しない者は、飲食店への出入りを禁止する」といった法律でも作るのなら差別ですが、個々の飲食店経営者が、「ウチの店はワクチンパスポート保有者のみを顧客にする。」と言う自由は認められるべきでしょう。「喫煙者入店お断り」と大差ない。

    現状では、ワクチン接種者へのインセンティブ無さ過ぎ。

    1. 農家の三男坊 より:

      現状では
      バカ騒ぎ禁止&ワクチンパスポート(二回目接種後2週間経過)+COCOA稼働があれば、
      お店の裁量で酒提供も含めて営業させて良い様に思います。

      そこでクラスターが発生したら対策追加で。それが自由主義というものだと思います。

    2. 匿名 より:

      インフルエンザだと会社や学校に来るなとなります。
      感染力が非常に高いこと、無症状感染もあることから接種拒否をした人間への区別はあっても仕方ありません。
      接客業務や看護師、介護士、保育士、教師等、の職種で区別するのは差別ではありません。
      ワクチンが打てない人間に同じことをすれば差別ですからもちろんいけませんが感染対策はキッチリとしてもらいましょう。
      それが第三者にもわかるようにワクチンパスポート利用するのはよいことだと思います。

  5. 同業者 より:

    NHKの街頭インタビューで、何人かの若者が「接種しない」との回答をしてました。
    健康な若者や子どもを死に至らせるようなウイルスではないので、無理もないことです。
    因果関係はわかっておりませんが、副反応で死亡するリスクを負いたくないのでしょう。
    それでも、職場ではワクチンの接種を強要されるでしょうから、就業している若者の接種は進むのではないでしょうか。

    マン島TT(モーターサイクルの公道レース)のライダーではありませんが、ワクチン接種に備えて身辺整理を始めている今日この頃です。

  6. より:

    ちょっと切り取りで悪いですが、
    >ワクチンが効かない変異株(最近だと「デルタ株」など)の存在も知られています。

    これはどこ情報ですか?

    拙ブログで「効く」という記事を書いたばかりなので、興味があります。
    「BNT162b2ワクチンで誘導される、懸念すべき変異株などに対する中和活性:NatureとLancetの速報」
    https://reisei2.blogspot.com/2021/06/BNT162b2-vaccine-would-induce-sufficient-neutralizing-activities-against-SARSCoV2-VOCs.html
    (とさりげなく宣伝…)

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