先日の『主権免除を無視した判決で日韓関係破綻、悪いことか?』でも触れた、韓国国内における日本政府に対する訴訟について、報道によれば本日にも判決が出てくるそうです。先ほどの『【総論】国家免除条約と「主権免除が認められる事例」』とあわせて、主権免除に係る今回の訴訟の重大な問題点を整理するとともに、もしも日本政府が敗訴した場合は、これが確定判決となってしまう可能性があるという点について、抑えておきたいと思います。
目次
主権免除違反の判決?
いよいよ本日、主権免除違反判決が出るのか?
先日の『主権免除を無視した判決で日韓関係破綻、悪いことか?』の続報です。「旧日本軍の慰安婦だった」と自称する者たちが日本政府を相手取って起こした訴訟の一審の結論が、本日午前9時55分から、韓国のソウル中央地裁で言い渡されるのだそうです。
これは、日韓関係という観点からは、非常に注目されるべき裁判です。
本来、国家やその財産は、外国の裁判所からは免除されるという、いわゆる「主権免除」が働くからです。
当然、わが国もこの立場を取っており、日本政府は昨年5月、韓国政府に対し、この訴訟については「却下されなければならない」としたうえで、慰安婦問題を含めた日韓間の財産・請求権の問題は、1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決済みだと申し入れています。
元慰安婦等による韓国国内の訴訟に係る我が国の立場の韓国政府への伝達
- 本21日、我が国は、韓国政府に対し、2016年12月28日に元慰安婦等が日本国政府に対して提起した韓国ソウル中央地方裁判所における訴訟について、国際法上の主権免除の原則から、日本国政府が韓国の裁判権に服することは認められず、本件訴訟は却下されなければならない旨を伝達しました。
- いずれにせよ、慰安婦問題を含め、日韓間の財産・請求権の問題は、1965年の日韓請求権・経済協力協定で完全かつ最終的に解決済みです。また、慰安婦問題については、2015年の日韓合意において「最終的かつ不可逆的な解決」が日韓両政府の間で確認されています。
―――2020/05/21付 外務省HPより
これは、非常に当たり前の話です。
主権免除そのものについては『【総論】国家免除条約と「主権免除が認められる事例」』でも触れたとおり、国連国際法委員会が作成した「国連国家免除条約」によると、主権免除が認められない事例は商業的取引、雇用契約、身体障害や財産損傷などに関する裁判に限られるからです。
いくつかの注意点も
ただし、この国家免除条約を巡り、いちおう注意しなければならない点がいくつかあります。
まず、国家免除条約自体、発効するためには30ヵ国以上が締結する必要がありますが(同条約第30条)、現時点の締結国は22ヵ国に過ぎません。日本はすでに条約を締結していて、国内法の整備も済んでいますが、国際的には条約自体、まだ発効していないのです。
次に、この条約については韓国は署名しておらず、また、加入手続も取っていません。このため、韓国国内ではこの国家免除条約に従った取り扱いがなされない可能性がある、という点です。
さらには、韓国の地裁が今回の訴訟について、「身体障害や財産損傷に関する訴訟だから主権免除は適用されない」などと騙り、自称元慰安婦らを勝たせる可能性はありますが、この場合、見た目は国家免除条約の精神に則っているように装うこともできます。
といっても、同条約第4条に規定される「不遡及の原則」から判断すれば、第2次世界大戦のころまで遡ってこの条項を適用することができるとも思えませんが、このあたりは法治国家ではない韓国のことですから、きっとアクロバティックな法理で彼らなりに「解決」するのでしょう。
さらには、毎日新聞論説委員の澤田克己氏によると、本件訴訟について、「これは主権免除の例外だ」と主張する人も、わが国にはいるそうです。
日韓の新たな火種に? 「慰安婦賠償請求で日本政府が敗北」するかもしれない驚くべき事情
―――2021年1月5日付 エコノミストONLINEより
澤田氏の解説は、こうです。
「具体的に『逸脱の許されない行為』を決めるのは難しい。国際司法裁判所(ICJ)によって強行規範だと認定されたのは、拷問とジェノサイド(民族や宗教的集団の全部または一部を破壊する意図を持って行われる集団殺害や危害行為)だけだ。」
自称元慰安婦らが主張する「慰安婦問題」が拷問だのジェノサイドだのと同列に議論されるものではありませんし、澤田氏自身もこれについて、「韓国の運動団体は慰安婦とジェノサイドを同列に並べて論じることがあるものの、国際社会の認識は異なる」と批判的です。
しかし、澤田氏によると、「(自称元)徴用工問題に詳しく、多くの戦後補償裁判で原告側代理人を務めてきた弁護士」は、今回の訴訟に関する論文で、次のように述べているのだそうです。
「日本の国内法は不法行為の場合には主権免除の例外だとしている。韓国の裁判所は相互主義の観点から同じ判断をすると思われる。当時の朝鮮半島は紛争地帯とは言えない」。
そのうえで、この弁護士は「イタリアやギリシャの裁判所がドイツ政府に損害賠償を命じた件で、国際司法裁判所(ICJ)でドイツが勝訴した件」(『主権免除を無視した判決で日韓関係破綻、悪いことか?』等参照)とは異なり、本件では主権免除の例外を認めることが可能と主張しているようです。
要するに、韓国が主権免除の例外を主張する際の屁理屈は、このあたりにあるのでしょう。もしかすると昨年の『慰安婦問題で国際法秩序を根底から否定する韓国弁護士』でも取り上げたような韓国人弁護士の屁理屈も、こうした反日的日本人弁護士の入れ知恵がもとになっているのかもしれませんね。
毎日新聞・澤田氏「日本は冷静に対処を」
ただし、この澤田氏の論考が優れているのは、ちゃんと反対意見にも触れている点です。
澤田氏によると、早稲田大の萬歳寛之教授(国際法)が「70年以上前の出来事について、強行規範に違反する人権侵害だからと主権免除の例外に認定するのは難しいのではないか」と述べたのだそうです。
具体的には、「主権免除を巡る司法判断の例として各国の国際法専門家が検討を加え、その中で判断の妥当性に関する相場観が形成されて行く」というプロセスを踏む、というのが萬歳教授の説明だそうですが、これは非常に理にかなった考え方といえるでしょう。
そのうえで澤田氏は、「韓国の司法判断に無理があるという考え方が国際社会の大勢となっていけば、韓国の国際的立場は弱くなり、事実上の修正を迫られることになる」としたうえで、日本は「冷静な法律論で対抗することが重要だ」と述べているのですが、この点については全面的に賛成したいと思います。
実際、韓国という国の司法はすでに、日本との関係では「越えてはならない一線」を越えてしまっています。具体的には、2018年10月30日、新日鐵住金(現在の日本製鉄)に対し、自称元徴用工に対する損害賠償を命じる判決を下してしまったからです。
さらには、『今回の鈴置論考は「先祖返りする韓国からの流れ弾」』や『鈴置論考「韓国メディアに文在寅=ヒトラー説が登場」』などでも取り上げたとおり、「韓国版ゲシュタポ」こと「高位公職者犯罪捜査処(公捜処)」の存在は、深刻です。
裁判官としても、下手に政権の意向に反した判決を下してしまえば、みずからが「公捜処」の捜査対象となってしまう可能性があるからです。だからこそ、今回の訴訟では日本政府敗訴の判決が出る確率はそれなりに高いと見るべきなのでしょう。
日韓関係は別次元へ?
日本製鉄や三菱重工の件との違い
さて、日本製鉄や三菱重工の自称元徴用工判決のケースでいえば、問題点は大きく3つあります。
自称元徴用工判決の3つの問題点
- ①日韓間のあらゆる請求権に関する問題は、1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に決着しており、韓国の大法院の一連の判決自体、国際法に違反する状態を作り出している。
- ②韓国側が主張する「被害」の多くは、(おそらくは)韓国側によるウソ、捏造のたぐいのものであり、最終的には「ウソの罪をでっち上げて日本を貶めている」のと同じである。
- ③日本政府は日韓請求権協定第3条に定める手続に従い、平和的かつ友好的に問題を解決しようと努力したが、韓国側はこの日本側の外交的協議や仲裁手続にいっさい応じなかった。
このうち、日本政府は②についてはあまり強く主張している形跡はありませんが、①については強く主張し続けており、また、被告企業ともうまく連携しているように見受けられます。
また、③については日本政府が問題解決に向けてちゃんと努力したという証拠であり、かつ、それに韓国が応じなかったという事実は、国際社会において日本に対し法的な正当性を付与する手掛かりのひとつでもあります(それを日本政府がどう使うかは別として)。
その意味では、日本政府がこの問題を巡り、みずから積極的に解決させるために動くのではなく、韓国の「一人芝居」を眺めながら、ときどき「国際法を守れ」、「約束を守れ」などと合いの手を打つことは、それなりの合理性のある戦略でもあるのです(※全面的に支持するつもりはありませんが…)。
しかし、今回の訴訟は、そもそも自称元徴用工問題とは次元が違います。なぜなら、日本製鉄も三菱重工も民間企業ですが、日本政府は主権免除が認められる国家だからです。
敗訴の場合は一審で確定してしまう
では、もしも今回、日本政府が敗訴した場合、いったいどうなるのでしょうか。
判決を不服として、控訴するのでしょうか。それとも控訴せずに判決が確定してしまうのでしょうか。
ここでひとつ、国家免除条約のなかに、気になる条文があります。
国家免除条約 第8条1
いずれの国も、次の場合には、他の国の裁判所における裁判手続において、裁判権からの免除を援用することができない。
(a)自ら当該裁判手続を開始した場合
(b)当該裁判手続に参加し、又は本案に関して他の措置をとった場合(後略)
この条文を読む限りは、日本政府が控訴したら、その瞬間、「その裁判手続に参加した」あるいは「本案に関して他の措置を取った」ことになってしまいそうです。
もちろん、韓国は国家免除条約には署名も締結もしていませんが、同条約を締結している日本の立場としては、国家免除条約第8条1を強く意識せざるを得ず、おそらく敗訴したら、日本政府としては控訴するわけにもいかず、その判決が韓国の国内法では確定してしまうのではないかと思います。
そうなると、日本は韓国の「カントリーリスク」を強く意識しなければならなくなりますが、それと同時にむしろ韓国の方が、「困ったこと」になるでしょう。なぜなら、国際法違反の実例をひとつずつ積み上げる結果となってしまうからです。
韓国人弁護士「主権免除は排斥される」
ついでに、この話題については韓国メディア『中央日報』(日本語版)にも昨日取り上げられていましたので、これについても紹介しておきましょう。
慰安婦被害者が5年間待った宣告…明日、日本政府を相手取り起こした損賠訴訟の結論へ
―――2021.01.07 07:03付 /中央日報日本語版より
中央日報は「裁判の最大争点は裁判所が『主権免除論』の例外を認めるかどうかだ」としたうえで、とある弁護士の次のような発言を引用しています。
「ギリシャ・イタリアでもドイツ・ナチスによる被害者が提起した訴訟で主権免除論を排斥した/人権侵害にあった被害者が被害を補償されるための最後の手段として裁判に出ただけに主権免除原則を適用しないだろう」。
これについては先ほども述べたとおり、ドイツがその後、ICJに提訴して勝訴しているという事実についてはまったく触れられていません。その意味では、ハンギョレ新聞に掲載された弁護士の議論の方が、まだマシだったと思ってしまいます。
また、日本政府が敗訴したとしても、「日本政府は裁判そのものを認めていないため、今回の1審が最終審になる可能性が大きい」(漢陽大学日本学科のキム・ジヨン教授)との意見が紹介されていますが、この点については同意します。
非常に大きな事実誤認
こうしたなか、先ほどの中央日報の記事に非常に大きな事実誤認があるとしたら、「聖公会大学日本学科のヤン・ギホ教授」による、次の趣旨の発言でしょう。
「2018年10月の大法院の強制動員被害補償判決以降、日本では関係回復に向けた韓国政府の提案を受け入れていない。象徴性が強い慰安婦被害者に対する賠償判決まで出る場合、日本側が外交的に韓国に圧力をかける可能性もある」。
これは、聞き捨てならない発言です。
韓国が出してきた提案といえば、基金ないし財団による補償という案であり、国際法違反の状態を是正するでもなく、日本政府にとって到底受け入れられないものです。また、請求権協定に従ったきちんとした外交的協議を拒絶したのは、ほかならぬ韓国の側だったではないですか。
その意味では、今回、主権免除が拒絶された場合も、日本政府は基本的には自称元徴用工判決問題と同様、放置するつもりなのかもしれません。いずれにせよ、判決を待ちましょう。
事務連絡
あらかじめお断りしておきますが、本日は午前中に小用が入っているため、判決が予定されている時刻にウェブサイトを更新することはできないかもしれません。
ただし、日本政府が敗訴した場合については、もしかしたら「速報」的に「日本が敗訴した」という旨だけ発信する可能性はありますが、その場合には午後にあらためてじっくりと判決を読み込んでみたいと思っています。
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> 国家免除条約自体、発効するためには30ヵ国以上が締結する必要がありますが(同条約第30条)、現時点の締結国は22ヵ国に過ぎません。
ならば、あるいは韓国が署名していないなら相互主義の原則に基づき、日本の裁判で韓国政府を裁いてもいいことになるのですね。
これまで重ねてきた数々の悪行に対して「朝鮮人は全員死刑」「韓国政府はこれを実行せよ」くらい言えればいいのに(それを導く法理は別として)。
>当時の朝鮮半島は紛争地帯とは言えない
これだと、日本が朝鮮を不当に支配していたという韓国の理屈と整合しないですね。
仮に主権免除違反の判決が出た場合、日本政府の関連資産が差し押さえられる恐れがあります(売却さえしなければ大丈夫だと朝鮮人が思い込んでいる可能性大)。
そのリスクを未然に回避するため、年金などが保有する韓国株・韓国国債などは即座に売却処分すべきでしょう。
KOSPI は史上最高値を更新しているので売り時です(そろそろ外資が売り逃げ、朝鮮人が買っています)。
一気に売るとサーキットブレーカーが発動し、それをきっかけにKバブルが崩壊するかもしれませんが、それはそれ、これはこれ。
日本政府に責任が有ると言うなら、彼らがいつ、どこで誰に(いわゆる5W1H)誘拐されたのか証明する義務があるでしょう。
そこをすっ飛ばして「当たり屋」のお婆さん、あるいはそう仕立て上げた人たちが証拠はなく証言のみで「はい勝訴」ではたまったものではありません。
自分で転んで「ひき逃げされたから金よこせ」と言われてもねぇ⋅⋅⋅
かえすがえすも「河野談話」というオウンゴールが存在してるのが残念です。
いわゆる「河野談話」は閣議決定されたものではないそうです。ではどういう性格のものなのかというと「内閣の意思」というものだそうです。法的に何なのかよくわからない代物ですが…
詳細はリンク先ご確認ください
追記
名前がリンク先になっています
リンクを貼っていただき有り難うございます。
「内閣の意思」とは特定の個人の責任が曖昧な極めて日本的な表現ですね。ただあらためて読むと韓国の主張のように軍人が銃を突きつけて無理矢理いたいけな少女をトラックに乗せた、みたいな事はなかったようです。
まあ、不当判決が出てしまったあとに今書き込んでいるので、なんとも空しい気はします。
国際法の効力を担保する根源は違反国家に対する他国からの武力行使です。
韓国が行う第三国の武力行使に頼る外交と非常に相性が良いので、国際法違反の判決を日本に対して執行を実現する可能性大と思います。
韓国が天文学的な金額を取れる方策としては
①歴史的不法行為に対する保証は人道行為の名目でアメリカに負債の取り立てを実現させる。
日本の抵抗には日銀保有の米国債の名義変更で強制取り立てする。
②中国に債権を売り払い、日本の抵抗には国連敵国条項に基づき国連加盟国の権利として日本への武力制裁を行い、中国が日本に領土、カネ、特許無料利用権等の知的財産で強制的に取り立てする。
ざっと考えても上記2つの実現方法が浮かびますが、もっと他の方法で強制的に日本から主権や財産を収奪するかもしれないと思います。
例えば複数国家に日本への債権を売り払い、最終的に多国籍軍での軍事制裁による強制的な取り立て等が発生するかもしれないと思います。
力に基づく制裁を嫌った結果、ナチスドイツのラインラント進駐のように後日大きな災いとして日本に不幸がもたらされなければ良いのですが。
災いの基は小さな芽の内に力ずくで摘み取るべきです。
以上です。駄文失礼しました。
>歴史的不法行為に対する保証は人道行為の名目でアメリカに負債の取り立てを実現させる。
これをやったのが「癒やし財団」だったんですけどねw
あと米国債を中国に売るのは、米国への宣戦布告も同様。やったら面白いことになります。
国際法とか条約があれば、それを守る必要があるし、結果として不利益を蒙っても、ある程度甘受しなければいけないとは思うのです♪
ただ、そういう縛りがないなら不利益を蒙れば、ちゃんと取り戻すための措置をとるべきだと思うのですが♪
自称元慰安婦の裁判に主権免除を適用するか否かは韓国の判断だと思うのですが、適用しなかった場合の対応策を準備して、いざとなったら発動させるのは日本政府の努めだと思うのです♪
心配なのは、外務省あたりが主権免除だけにたよって、そういった必要な準備をしてないんじゃないかなってことなのです♪
自称元徴用工については、売却したら相応の措置を取るとか言ったのに、これには何も言ってないのが、不安なのです♪
あたし自身は日韓関係が改善したら良いなって思うけど、それは今までみたいな歪な関係じゃなくて、協力できるとこは協力する、対立があるところはちゃんと対立する、でも、一線は超えないって、当たり前の関係なのです♪
だから、ここで一旦関係が破綻しても、100年後にちゃんとした関係になるためには必要なことだと思うのです♪
法律があったら
どうやったら遵守できるか考える→日本人
どうやったら裏をかけるか考える→韓国人を含めた世界の大多数
加えて
どうやったら都合よく法律を変えられるか考える⇒共産党
どうやったら正義を実現する良い法律に改正できるか考える⇒日本の国会議員(いるかな?)
国際条約以前に、戦争や紛争防止のガイドラインとして認識していますが。
"主権免除"を無視するのであれば、宣戦布告と取られるわけで、
イタリアにしろ、ギリシャにしろ、それを望まなかったというお話。
これは、国際社会での孤立を招きかねない事案なんですが、分かっているんでしょうか?
韓国という国は。
出ましたね。賠償命令。ある意味不可逆になりますね、関係が。
今こそ企業経営者はK国と関係を断つタイミングですね。不愉快なだけですから。