為替変動理由に両替商を処刑する「金氏朝鮮」

『アジアプレス・ネットワーク』というウェブサイトで北朝鮮の物価をチェックすると、たしかに10月下旬に物価が急落していることが確認できます。こうしたなか、北朝鮮では為替変動を理由に有力両替商が処刑されるそうです。李氏朝鮮は百年経って、メンタリティがそのままの「金氏朝鮮」に生まれ変わったのかもしれません。

武漢コロナと北朝鮮の物価

本稿は、ちょっとした「感想文」です。

武漢コロナウィルス、武漢肺炎の世界的な蔓延が問題となっていますが、北朝鮮のように衛生状態も医療事情も悪い国の場合だと、かなり悲惨なことになっている可能性が高いと思われます。

ただ、北朝鮮の物価事情について調査し、公表している『アジアプレス・ネットワーク』の『<北朝鮮>市場最新物価情報』というウェブサイトを見ると、意外なことが判明します。ここのところ北朝鮮の物価は不思議なほど安定しているからです。

同サイトには北朝鮮国内の協力者が提供した情報に基づくガソリン、北朝鮮産米、トウモロコシ、1中国元、1米ドルの価格ないし為替相場の推移が掲載されていて、過去の情報についても確認することができます(※調査はおおむね月2~3回実施されているようです)。

武漢コロナの流行が始まった今年1月以降、これらの価格ないし為替相場は、品目によっては40~50%ほど急騰(つまり北朝鮮ウォンの価値が急落)したのですが、最近はいずれも武漢コロナ流行前の水準に近付いているようです。

北朝鮮の物価、意外と落ち着いている

ためしに、直近(11月27日時点)と、そこからほぼ1年前である2019年11月25日について、主要な品目の物価・為替についての変動を調べてみると、次の図表1のとおりです。

図表1 北朝鮮の物価・為替変動(2019/11/25→2020/11/27)
調査項目価格変動騰落率
ガソリン9,600ウォン→9,200ウォン▲4.17%
北朝鮮産米4,760ウォン→5,200ウォン+9.24%
トウモロコシ1,700ウォン→2,100ウォン+23.53%
中国1元1,190ウォン→930ウォン▲21.85%
USD1ドル8,401ウォン→7,200ウォン▲14.30%

(【出所】アジアプレス・ネットワーク『<北朝鮮>市場最新物価情報』を参考に著者作成)

コメ、トウモロコシについては微妙に値段は上昇していますが、経済制裁品目であるはずの石油精製品のひとつであるガソリン価格は下落していますし、中国元、米ドルに関しては、むしろ北朝鮮ウォンの価格(為替相場)は大きく上昇しています。

もちろん、北朝鮮の物価が落ち着いているからといって、北朝鮮に対する国連経済制裁が効いていないと短絡的に決めつけるべきではありません。単に北朝鮮の通貨が市中に十分に供給されていない可能性もあるからです。

ただ、10月下旬の物価変動に関しては、少なくとも為替相場だけでなく、物価も下落しています。このことから、この時期に北朝鮮に対し、中国から物資が大量に搬入されたであろうことが示唆される、というわけです。

なお、各種メディアの報道を見ていると、朝鮮語では自国通貨の価値が上昇することを「下がる」と表現することがあるようです。

日本の場合、たとえば「1ドル=120円」から「1ドル=100円」に変化することを、「20円の円高になった」、「20円上がった」、などと表現することがあります(厳密を期するならば「20円の円安・ドル高」と表現すると思います)。

しかし、北朝鮮の場合、先ほどの例にならって厳密を期するならば、「2000ウォンのウォン高・ドル安」と表現すべき事例(たとえば「1ドル=10000ウォン」から「1ドル=8000ウォン」に変化すること)を、「2000ウォン下がった」、などと表現しているようです。

これは、言葉遣いが正しい、間違っている、という問題ではなく、単純に日本語と朝鮮語の表現の違いと考えるべきでしょう。

為替変動受け両替商を処刑

さて、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日、こんな記事が掲載されていました。

「金正恩委員長、為替の急落で大物両替商を処刑」

―――2020.11.28 08:49付 中央日報日本語版より

配信したのは「韓国経済新聞」ですが、全部で200文字という非常に短い記事で、北朝鮮の独裁者である金正恩(きん・しょうおん)が10月末、為替の急落を理由に平壌(へいじょう)の「大物両替商」を処刑した、という話題です。

前述の『アジアプレス・ネットワーク』の情報を見ても、たしかに10月の中旬から下旬にかけて、米ドル、人民元の価値が大きく下落(=北朝鮮ウォンの価値が大きく上昇)していることが確認できます(図表2)。

図表2 北朝鮮の物価・為替変動(10/23→10/30)
調査項目価格変動騰落率
ガソリン11,025ウォン→10,500ウォン▲4.76%
北朝鮮産米4,655ウォン→4,000ウォン▲14.07%
トウモロコシ1,950ウォン→1,650ウォン▲15.38%
中国1元1,225ウォン→830ウォン▲32.24%
USD1ドル8,170ウォン→6,900ウォン▲15.54%

(【出所】アジアプレス・ネットワーク『<北朝鮮>市場最新物価情報』を参考に著者作成)

中央日報はこの北朝鮮ウォンの価値が上昇した現象を「為替の急落」と呼んでいるようです(日本のマーケット用語に合わせるならば「為替の急騰」、でしょうか)。

物価が軒並み下がっているのも、外国から物資が入ってきているということをうかがわせます。とくに、人民元の価値が30%以上切り下がっているのを見れば、それだけ大量に、北朝鮮の製品が輸出され、中国の通貨・人民元や中国の物資が入ってきた、という重要な証拠でもあります。

中央日報によると、「金正恩(?)」が「大物両替商」を処刑した理由は、新型コロナ防疫のための物資搬入禁止令を守らなかったからだ、ということですが、権力者がみずからの意にそわない人間をどんどんと処刑するというあたり、やはり日本が北朝鮮という国とはまともに付き合えないという証拠でしょう。

現在の日本人が北朝鮮を眺めるときの視点は、明治期の日本人が李氏朝鮮を眺めるときの視点と同じようなものなのかもしれません。

あるいは、過去の朝鮮を「李氏朝鮮」と呼ぶように、さしずめ現在の北朝鮮は「金氏朝鮮」、といったところでしょうか。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. だんな より:

    北朝鮮への制裁は、中露によって十分な効果が得られていないと思います。
    個人的には、
    「金正恩は海水がコロナに汚染されたのではと考え、漁業や塩の生産を禁止した」
    の方が、朝鮮人らしく非科学的で好きかな。
    朝鮮日報から
    【コラム】恐怖政治と大韓民国
    https://news.yahoo.co.jp/articles/eb8640ec8b6e20af1b66838ff5950ad2bb83886f
    最後に有りますが、「恐怖政治」というのが、朝鮮半島にお似合いなんだと思います。
    また、ソウル大学学生が、朴前大統領に「あなたの方がマシだった」と謝罪するコメントが、記事になっているようです。
    自らロウソク革命と誇り、選んだ文大統領の「恐怖政治」を受け入れるニダ。

  2. イーシャ より:

    > 日本の場合、たとえば「1ドル=120円」から「1ドル=100円」に変化することを、「20円の円高になった」、「20円上がった」、などと表現することがあります(厳密を期するならば「20円の円安・ドル高」と表現すると思います)。
    () 内、「20円の円高・ドル安」ではないでしょうか ?

  3. 阿野煮鱒 より:

    状況的に、北朝鮮への経済制裁がさほど効いていないのは間違いないでしょう。

    一説には、北朝鮮を支援しているのは中南海ではなく、中国人民解放軍・瀋陽軍区であり、習近平周辺はその制御に手を焼いているという話もあります。
    https://www.sankei.com/premium/news/161010/prm1610100010-n1.html

    事の真偽はさておき、ロシアと中国が直接海洋勢力と対峙することを避けるための緩衝地域として北朝鮮を温存したいのは間違いなく、どの程度生かさぬように殺さぬように維持するかと考えているところ、瀬戸際外交の巧者・北朝鮮が一枚上手で、中露が色々抜き取られているといった状況ではないでしょうか。(証拠はありません。)

    いつもの繰り返しになりますが、日本の対南北朝鮮外交政策は基本的にアメリカ合衆国の支配下にあり、独自の方針を掲げて動けません。そして米国は東アジアを本質的に理解するインテリジェンスを持ちません。ゆえに今後も歯がゆい状況は続くでしょう。

    突然話は変わりますが、 ドリームワークス製作の『カンフー・パンダ』というアニメ映画があります。主人公のパンダを始めキャラクターは全て擬人化された動物、舞台背景は古き良き中国で、建築物、衣装、その他美術関係の描写は素晴らしいものでした。カンフー・アクションも本格的で、入念に研究した後がが窺えます。しかし、登場人物? 達の考え方や所作がまるでアメリカ人なのです。見かけは見事に中国文化を再現できても、人の心の中までは写し取れないのがハリウッドらしいと思いました。

    また話変わって、個人的な経験です。かつての職場では年数回、各国の取引先を日本に招待して国際会議を開いていました。言語は英語です。米国代表は、販売量最多を背景に議論を仕切ります。英語ネイティブでない国々が訥々と話をする何倍もの速度でまくし立て、米国に有利な方向へ議論を導きます。母語で話せること、ディールやディベートに長けた国民性、国力などを背景に、私企業の会議ですらG20などと同じ構図が再現されるのだな、と感じました。

    異文化をありのままに受容するのは、米国に限らず誰にとっても難しいことですが、とりわけアメリカ合衆国は、他国の事情を斟酌する機会が少なく、その努力なしに自国の意向を相手に押しつけられるアドバンテージがあります。

    今の日本にできるとは思えませんが、米国が多年中国・北朝鮮に対して取ってきた政策を反省し、文化的背景から研究史直すように働きかけて行く必要があると思います。安倍総理は、ある程度その道筋を付けたと思いますが、相手がトランプ大統領では入るところがないでしょうし、次期大統領がバイデン氏になれば水の泡です。

    歴史・文化の成り立ちから個々の社会の政治を考察するような政治文化論が、各国間で盛んに情報交換され、実際の外交政策に活かされるようになるといいのですが…

    米国にも政治文化論はあるのですが、メカニカルなのです。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BF%E6%B2%BB%E6%96%87%E5%8C%96

  4. はぐれ鳥 より:

    一般的に王朝国家では、特定の家族内で世襲する君主を主権者とします。稀に例外も有りますが、普通は、国政はその君主による独裁です。そして殆どの場合、国家(領土・人民)は、究極的には君主個人の「財産=私有物」です。ですから王朝国家の国民は、家畜同然の譲渡可能な奴隷ということです。それ故、君主の一存で、領土を人民付きで他国に持参金代わりに持って行くことも可能だった訳です。日本による半島併合なんかも、見方によれば、朝鮮国王(李氏)が、自分の私有財産を譲り渡しただけと見る事も可能です。

    この点が、現代の国民国家(主権者=国民、国家=国民の共有物)に住み、人権(これも世界的にはごく最近の概念)を保証されている現代人には、最もピンとこない点でしょう。

    で、現在の北朝鮮は、上記王朝国家の定義にピッタリ当てはまります。世襲君主、君主独裁、人権や自由とは無縁の国民、などなど。無論、21世紀の現代ですから、西洋啓蒙思想(共産主義もその派生)などの影響を受けているはずです。なので、古代・中世のバリバリの王朝国家とは多少は異なってはいるでしょう。とはいえ、現代では、王朝国家に最も近いのが北朝鮮だとは言えるでしょう。ですから、かつての王朝時代をナマで体験したい人には、北朝鮮国民として彼の地に住んでみることをお勧めします。私はゴメンですが。www

  5. 伊江太 より:

    >人民元の価値が30%以上切り下がっているのを見れば、それだけ大量に、北朝鮮の製品が輸出され、中国の通貨・人民元や中国の物資が入ってきた、という重要な証拠でもあります

    本文中のこの指摘ですが、両替商の処刑に絡んで韓国から出ているニュースのニュアンスとかなり違っているようです。もっとも最近韓国が収集しうるヒューミント情報の質はかつてほど高くはないというはなしではありますが。

    例えば、
    【萬物相】金正恩委員長「海がコロナで汚染される」(朝鮮日報日本語版11/28付け)
    http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2020/11/28/2020112880008_2.html

    金正恩は武漢肺炎に感染することを極度に恐れ、国境を徹底的に閉ざして、中国が支援するコメ10万トンすら拒否している、などと報じています。これが本当なら人民元や中国の物資が大量に入ってくる事態はちょっと考えられない気がします。

    キタの指導者層はひょっとして通貨というものを、経済を円滑に回す手段とは見ず、必要ならいつでも好きに自分のものにできる財物の等価物とでも考えているんじゃないでしょうか。そうであれば、ジンバブエみたいなハイパーインフレを起こして、その値打ちを毀損してしまうわけにいかないから、流通量を徹底的にコントロール下に置こうとするのは当然でしょう。その結果起きる、国民生活の痛みなんかは知ったことではない。

    想像されるような凄まじい人災的デフレが、本当に起きているのかどうか知ろうと思えば、ガソリン、コメ、トウモロコシのような供給が極度に逼迫しているものを指標にするのではなく、女性のカラダのお値段あたりを調べてみるのが一番ではないかと(笑)。もっとも、そういうのは今は現金決済ではないかも知れませんが。

    件の両替商がやった悪事というのは、手元にたんまりため込んでいた人民元が、当面用を為さないと踏んで、ウォンに替えたことではないでしょうか。それが為替レートを大きく動かすほどの額であれば、足りなくなった通貨を政府が市中に放出した後になってしまえば、そいつがいつ何時ハイパーインフレの引き金となるか分かったものではない。かくしてこの人物、人民ならぬ金一族および朝鮮労働党の敵となり、消されて、隠匿していたウォンはめでたく国庫に回収されたというのがことに顛末ではないでしょうか。

  6. 分際怨 より:

    物価は物品と貨幣の需要と供給のバランスの上に成り立っているので、北朝鮮の物価が下がったのは「物資が豊富である」か、「貨幣が足りない」か、或いは「コロナのせいで需要をを支える人口が減っている」可能性があります。

    北朝鮮市場の価格調査に「棺桶」があれば一目瞭然かも知れません。

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