対韓輸出管理、むしろもう一段の厳格化の可能性は?
韓国メディアに昨日、「日本の輸出規制で日本企業に打撃が生じている」、「高純度フッ化水素の国産化などに韓国は成功を収めつつある」などとする記事が掲載されていました。個人的には、たしか韓国で国産化したフッ化水素は「12N」ではなく「5N」に過ぎなかったと記憶しているのですが、ただ、韓国側が日本の輸出「規制」で何も困っていないというのであれば、日本としても気兼ねなく、もう一段、輸出管理を厳格化する余地が出て来るのかもしれません。
とてもおかしな輸出規制論
日本政府が昨年7月に発表した韓国に対する輸出管理の強化措置を、韓国政府などが自称元徴用工問題などに対する報復としての輸出「規制」であると偽っているという話題は、以前から当ウェブサイトでしばしば紹介してきたとおりです。
とくに、韓国政府の言い分は、次のとおり、なにかと支離滅裂です。
韓国政府の輸出「規制」論
- ①日本の対韓輸出「規制」措置は強制徴用問題に対する報復である
- ②韓国は順調に「脱日本化」を進めているため、日本の輸出「規制」では困っていない
- ③日本の輸出「規制」はノージャパン運動を通じむしろ日本に打撃を与えている
- ④日本は今すぐこの輸出「規制」を全面撤回すべきだ
(※「強制徴用問題」とは自称元徴用工問題のこと。)
このうち「②韓国は日本の輸出『規制』では困っていない」とする主張と、「④日本は今すぐ輸出『規制』を全面撤回せよ」とする主張が正面から矛盾している点については、彼ら自身も気づいていないのかどうかについてはよくわかりません。
もしかすると文在寅(ぶん・ざいいん)政権の幹部らはナチュラルに気が付いていないのか、あるいは少なくとも韓国政府の産業通商資源部の担当者レベルでは知っているにも関わらず、わざとそうやっているのか。個人的には後者の可能性の方が高い気がしてなりません。
韓国メディア「日本が輸出規制で自国企業に大きな赤字」
ただ、この4つの主張は、韓国国内では、ストーリーとしてはほぼ確立していて、韓国国内のメディアもこのストーリーに合致するように記事を組み立てているフシがあります。こうした記事のひとつでしょうか、韓国メディアに昨日、こんな記事が掲載されているのを発見しました。
日本政府の対韓輸出規制に自国企業の大規模な赤字、輸出再開後60%水準にとどまる【※韓国語】
―――2020.09.30 15:04付 Daumより【※世界日報配信】
記事のサブタイトルに、「輸出規制に続きコロナ事態で日本企業が不振、韓国は技術開発が続き検証設備まで完成」、とあります。そのうえで、冒頭のリード文には
「日本政府が日帝強占期徴用問題判決に対する報復措置として韓国に対する輸出規制を強化したため、日本のメーカーが大きな打撃を受けたと伝えられている。サムスン、SKハイニックスにフッ化水素を供給していた森田化学工業が日本の輸出規制により利益が90%減少した。」
などとあり、具体的事例として「森田化学工業の2020年6月期決算では、純利益が前年比90%減少の約7867万円に留まった」、「韓国企業が高純度フッ化水素の生産に成功した」、「高純度ガス材料の品質を正確に評価できる設備を開発した」、などと述べています。
もしこの報道が事実なのであれば、「良かったですね」、と申し上げたいと思います。
個人的な記憶では、韓国で国産化したフッ化水素の品質は12Nではなく5Nに過ぎないという報道もあったようにも思えるのですが、いずれにせよ韓国で「脱日本」が進んでいると彼ら自身が大いに喧伝していることは間違いないといえるでしょう。
HS2811.11-000の輸出の不自然さ
さて、日本政府がこの対韓輸出管理適正化措置を発表したのは昨年7月1日のことですが、タイミング的に自称元徴用工問題に対する報復措置と誤解されかねないことがわかっていて、なぜ敢えてこの時期にこれを発表したのでしょうか。
また、7月1日の段階では、自称元徴用工判決問題に関する第三国仲裁手続が進行中の時期であり、もし日本政府がこんな措置を発表すれば、韓国が激高し、第三国仲裁手続がストップしてしまうかもしれないという懸念を持たなかったのでしょうか。
これについて考察する前に、折しも先日発表されたばかりの、今年8月までの日本の輸出統計をもとに、フッ化水素の貿易高について簡単に振り返っておきましょう。
普通貿易統計上の「HS2811.11-000」が「フッ化水素・フッ酸」ですが、日本政府が対韓輸出管理適正化措置を発動して以来、たしかに韓国に対する「HS2811.11-000」の輸出が急減していることが確認できます。
図表1が数量、図表2が金額で、それぞれ韓国に対する輸出(A)と全世界に対する輸出(B)を左軸に、AのBに対する比率を右軸に示しています。
図表1 HS2811.11-000の輸出(数量)
(【出所】財務省『普通貿易統計』より著者作成)
図表2 HS2811.11-000の輸出(金額)
(【出所】財務省『普通貿易統計』より著者作成)
※ただし、日本のフッ化水素等の輸出は、この「HS2811.11-000」だけでなく、再輸出品「HS0000.00-190」にも含まれている可能性があるため、図表1、図表2が日本から外国に輸出されたフッ化水素等の全量ではないかもしれないという点にはご注意ください。
これで見ると、ちょうど1年前、つまり2019年8月以降、韓国に対する「HS2811.11-000」の輸出は、数量、金額ともに激減していることがわかります。
そして、輸出管理適正化措置が発表されたのが7月であることから、過去4年間について、7月から6月までの1年間の「HS2811.11-000」の対韓輸出数量・金額を集計してみると、激減していることは、さらに明らかでしょう。
図表3 HS2811.11-000の対韓輸出数量・金額の集計
期間 | 数量 | 金額 |
---|---|---|
2016年7月~2017年6月 | 23,937トン | 38億5182万円 |
2017年7月~2018年6月 | 33,701トン | 61億5623万円 |
2018年7月~2019年6月 | 37,987トン | 78億5275万円 |
2019年7月~2020年6月 | 3,459トン | 12億4429万円 |
(【出所】財務省『普通貿易統計』より著者作成)
フッ化水素目的外使用疑惑
もっとも、2019年7月からの1年間に関しては、数量は前年同期比で10分の1以下に減っているのですが、金額についてはそこまで激しい落ち込みは見られません。このことから、日本から韓国に対し、輸出数量が急減したのは、単価が低いフッ化水素ではないかという想像が働きます。
さらに不自然な点があるとしたら、先ほどの図表1、図表2で眺めると、「HS2811.11-000」の日本からの輸出高について、2019年6月頃まで、数量、金額ともに8~9割を韓国向けが占めていた、という事実です。
さらにいえば、韓国メディアは口を開けば「フッ化水素」は「半導体材料」だと主張するのですが、そのわりに『半導体製造装置の対韓輸出はむしろ最近増えた』などでも報告したとおり、日本から韓国への半導体製造装置の輸出額は、むしろ増加しています。
なにより、2017年から18年にかけて、「HS2811.11-000」の韓国に対する輸出量が、数量、金額ともに大きく増大し、2019年7月以降に激減したにも関わらず、韓国において半導体製造に支障を来したなどとする報道は、ほとんど見られません。
このことから、当ウェブサイトとしては、やはり韓国が日本から輸入したフッ化水素などの劇薬を、なにか目的外に流用していたのではないか、という疑いが払拭できないと考えています。
フッ化水素はウラン濃縮の材料
では、具体的にいかなる「目的外使用」がなされていたのでしょうか。
産業に詳しい人であれば、「フッ化水素」といえば「半導体」を連想するようですが、安全保障の専門家からすれば、「フッ化水素」といえば「ウラン濃縮」を連想するそうですね。
実際、『イランがウラン20%精製を見送り、なぜ?』や『「北のウラン濃縮」で気になる日本産フッ化水素の行方』などでも考察しましたが、ウランは同じ核燃料であるプルトニウムと比べ、濃縮設備の規模が小さくて済むなど、「貧者の核開発」においては何かと都合が良いのもまた事実です。
仮に日本産のフッ化水素(容器を含む)が「行方不明」になっていて、世界のならず者国家がウラン濃縮に成功していたのだとすれば、これはとんでもない話です。
下手をすれば日本政府の輸出管理体制の問題点が明るみに出る可能性すらありますし、そうなれば、日本が諸外国から指定されている、「ホワイト国」などの輸出優遇措置を剥奪されてしまうおそれもあるでしょう。
あくまでも仮定の話ですが、日本の対韓輸出管理適正化措置の発動根拠となった、韓国の輸出管理を巡る「不適切な事例」は、むしろ日本が諸外国から批判されかねないリスクを抱えていたのであり、だからこそ7月1日に慌ててこれを発表したという方が実態に近いように思えてならないのです。
WTOの会合で米国は輸出管理適正化措置を巡り、全面的に日本を支持したこと(『韓国メディア「WTO提訴で米国は韓国を支持しない」』等参照)も、その有力な証拠のひとつであると思います。
さらに、韓国は昨年12月まで、輸出管理を巡る日本との政策対話に3年半応じていませんでしたし、その政策対話は3年半ぶりに開かれたものの、今年3月にもう1度行われたのみであり、その後は韓国が日本を世界貿易機関(WTO)に提訴したことで、対話は中断しています。
こうしたなか、先日の『先端技術の輸出管理が実現なら「ジャパングループ」』でも取り上げたとおり、日本経済新聞は日曜日、日本政府が先端技術に関する輸出管理のあらたな国際レジーム創設を世界主要国に提案する、などとする話題もありました。
いずれにせよ、米中対立が激化し、北朝鮮が依然としてCVID(※)方式による核放棄に応じないなか、戦略物資の輸出コントロールは強化しなければなりません。
※CVIDとは「完全な、検証可能な、かつ不可逆的な廃棄」( “complete, verifiable and irreversible dismantlement” )の略。
輸出管理上の不適切な事例を発生させただけでなく、日本との政策対話にも応じず、輸出管理(export control)をわざと「輸出『規制』」(export restrictions)と偽って韓国国民に刷り込み続ける韓国に対し、日本はむしろ輸出管理をもう一段厳格化しても良いくらいではないでしょうか。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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勿論韓国に輸出規制を始めるのも良いですが、最近の問題は、韓国が国産化する際に、特許を無視している点だと思います。
別ブログへのリンクです。
韓国の国産化に悩む日本、特許訴訟相次ぐ
http://mona-news.com/archives/84041342.html
J-CASTから。
【日韓経済戦争】第2ラウンドは「特許戦争」か! 日本の反撃に戦々恐々の韓国経済界「文大統領よ、勝った勝ったと日本を刺激するのはやめて」
https://news.so-net.ne.jp/article/detail/2051920/
韓国人は、技術(だけでは無い)はパクるものという常識です。
「韓国に売らないというから、作るようにしただけで、なんか文句が有るのか」というコメントもありました。
韓国との知的財産における法廷闘争が、増加することは、間違い無いと思います。
日本政府も積極的に関与する必要があると思います。
日本の特許を不法利用する企業には、関係する素材等を輸出禁止にする事とか、出来ないんですかね。
だんな様
ナイスアイデアです。
ついでに、範囲を親会社、子会社、孫請け、資本協力会社まで広げたらいかがでしょうか?
更新ありがとうございます。
如何にも韓国ー朝鮮民族らしい狡猾な手口ですね。日本産フッ化水素の行方がイラン、北朝鮮に行っていたなら、由々しき事態です。
「輸出管理」はもう一段厳しくした方がいいでしょう。シロウトですが対象品目が3つで良いのか。考えられるモノ、すべてを管理下に置いた方が良いと思います。
*ちょっと妄想してみました。
私にはフッ化水素の5N12Nが濃度のことなのか?純度のことなのか?それとも濃度=純度なのかも定かではないのですが、韓国で国産化された5Nフッ化水素の実態が自国での濃縮工程を経たものではなく、日本製の高濃度品の希釈によるものだったりはしないのでしょうか?
例えば既存品の4N品を日本製の12N品で等量混合すると(99.99+99.9999999999)÷2=99.995→99.999(繰り上げ)みたいな感じです。
カルピス飲んでて思ったのですが、これだと薄めるだけで実現するのですから技術革新は要しない気がします。
でもこれだと「素」になるものがなければ話にならないのでしょうけれどね・・。
カズさんへ
以前ここで
12Nは
『濃度ではない、純度だ』と教えてもらいましたよ。
米中デカップリングが進むと、自然とレッドチームの韓国には輸出管理が強化されるのでは?
森田化学だってウラン濃縮に使われてるって匂わせられたら、減益もやむなしでしょう。数年前の横流し以前の水準に戻るだけです。韓国以外への輸出が増えてるようにも見えますから、韓国がはしゃぐようなことでないのは確かです。
それよりも国産フッ化水素やらで事故を起こすのはまだですかね。前回の漏出事故で規制がめちゃくちゃきつくなってて、産業レベルで増産することは法的にはそうそうできないらしいですけど。韓国メディアがフッ化水素漏出事故に触れることがあるのか知りませんが、その事故のせいで再発防止のために規制しまくったことは報道してはいけないような感じなんですかね。李明博~朴槿恵時代の法律だから悪法として改正するかと思ってたのですが、なかなか手を付けないのがとても不思議です。
ふと思いついたのですが、以下のような可能性はないでしょうか。
米中摩擦の激化により、中国はますますハイテク部品の調達に困窮しつつあります。そこで韓国をダミーとして使うのです。必要なハイテク部品をまず韓国に輸入させ、横流ししてもらうというやり方です。
当然、通常の再輸出手続きなどしていたら通関統計などにばっちり記載されてしまうので、特別扱いの貨物として、韓国からの輸出時にも、中国での輸入時にも、税関を通さず、あたかも国内流通であるかのように装うという手口です。おそらく、中韓両国の税関当局同士で話が付いていれば、つまり中韓両国政府間で話が付いていれば、十分可能であるような気がします。ハイテク部品の輸入を担う韓国の業者には、適当なマージンを乗せてやれば話に乗ってきそうです。
この手口のミソは、韓国ならばハイテク部品を「ちょっと多めに」輸入しても、けして不自然ではないという点にあります。例えば、カンボジアが突然ハイテク部品を買い漁りだしたら、誰だって不審に思うでしょうが、一応先進工業国の一端に連なる韓国であれば、いきなり10倍とかいう派手な立ち回りをしなければ、見過ごされてしまいそうです。
現在の韓国政府であれば、このような手口の共犯となることを中国に強要された場合、おそらく断れないのではないでしょうか。
龍 様へ
出島を使った抜け荷ですか。
「チャンコロ屋、お主も中々の悪ルじゃのおww」
中韓の事ですから可能性は大ですね。
日本からの輸入が減った分はちゃんと国内産や中国産に置き換わっているんだろうか?_