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【読者投稿】武漢肺炎の死亡率はなぜ低下しているのか

当ウェブサイトでは「読者投稿」を歓迎しており、投稿要領等やし、武漢コロナ禍関連も含めた人気投稿シリーズについては『読者投稿要領、読者コメント要領、過去の読者投稿一覧等』などでもまとめています。こうしたなか、本稿では「伊江太」様という読者様からの通算7本目の投稿を紹介したいと思います(記事タイトルについては当ウェブサイト側にて勝手に付しています)。いったいどのような議論が展開されているのでしょうか。

読者投稿

読者投稿要領、読者コメント要領、過去の読者投稿一覧等』などでもお知らせしているとおり、当ウェブサイトでは読者投稿を歓迎しております(投稿要領等の詳細については上記リンクにまとめております)。是非、これらのページをご参照のうえ、ふるってご投稿を賜りますと幸いです。

さて、本稿では過去に6本の論考を寄せてくださった、微生物関係研究室に勤務されていた「伊江太」様という読者の方から、通算7本目の読者投稿を紹介したいと思います(伊江太様の過去論考は下記にて読むことが可能です)。

いったいどのようなことが論じられているのでしょうか。さっそく始めてみましょう。

(※ここから先が、伊江太様からの投稿の原文です。)

データで読み解く武漢肺炎 第7報

これは流行の第2波なのか?

日々報告される武漢肺炎感染者の数が青天井の勢いで増え続けています。

あの3月末から4月半ばにかけての、欧米諸国からの帰国者のウイルス持ち込みによる感染の急拡大でさえ、短い期間に抑え込んだ日本の感染抑制メカニズムの「3点セット」が、今回に限っては全く働かなかったことになります。

※日本の感染抑制メカニズムの「3点セット」とは:
  • ①低く保たれたヒト−ヒト間のウイルス伝播効率
  • ②高い医療機関の患者発見の効率
  • ③これに続く保健所による濃厚接触者の調査と潜在感染者の効率的な洗い出し

この「3点セット」が働かなくなるような激変をもたらすような出来事が、最近になって何かあったのしょうか?

「夜の街」の役割というのがやたら強調されるようですが、春節の時期に中国人観光客によって本格的に持ち込まれて以来、日本に定着したウイルスと夜の街は変わらず共在しています。

緊急事態宣言で自粛が求められていた時期を除き、大勢の人達がそこに出入りしていたことを思えば、今になって夜の街にそこまで破壊的な力が出てきたというのは、どうにも疑問を感じます。

ともかくも、報告数だけで言うならこれは間違いなく流行第2波ですし、「重症者や死者数が少ないのは感染の中心が若年者のせいだ」、「やがて周辺の高齢者にまで感染が及べば」…、といった種類の警告もさかんに行われています。

あるいは、もし「周辺の高齢者にまで感染が及ぶ」などの事態にはならず、今の状態があと何週間も続いたとしたら、こんな「大したこともない」疾患のために、なぜ不自由な生活を強いられなければいけないのかという不満が、当然噴出してくると思います。

その矛先がどこに向くかはともかく、わたしは、マスク着用の遵守など個人でできる疾患への予防対策までなおざりになってしまわないか、むしろそちらの方を恐れます。

武漢肺炎の重篤度は今どうやら低下しているらしい

前稿『【読者投稿】あまりに不自然な東京都のPCR検査結果』では、「いま報告されている感染数のなかには相当の偽陽性が混じっているのではないか」という議論を提示しましたが、こうしたなか、今般の武漢肺炎の感染拡大を追っていて気付いたことがもうひとつあります。

それは、どうやら最近、死亡率に顕著な低下が起きているらしい、ということです。

もちろん、死者が出るばかりがこの疾患の恐ろしい点ではないのですが、その反面、死亡率がどれほどかは疾患の危険度を示す重要な目安であるのも間違いないところです。元「ウイルス屋」としては、検査で出る偽陽性を巡って議論するより、むしろこの「死亡率の低下」の方に興味をひかれています。

図表1は日本とドイツ、スイスの感染数と死亡数の3月以来の推移を示しています。

図表1 日本、ドイツ、スイスにおける武漢肺炎の感染者と死亡者の発生状況

(【出所】日本の発生状況については厚生労働省『新型コロナウイルス感染症について』のページの『国内の発生状況』に記載されているデータ、海外の発生状況については日本経済新聞電子版『新型コロナウイルス感染世界マップ』をもとに投稿者作成。なお、各日の発生数は一週間移動平均値を計算し、グラフに表示している)

日本の第1波の流行と比較すると、ピーク時の感染数はドイツが約10倍、スイスで約2倍、感染初期の拡大の速さも日本よりかなり早いという違いはあるのですが、拡大・収束の全体的なパターンはよく似ています。

グラフ上に表示している感染数と死亡数の縮尺比は20対1に揃えているので、5月頃まで3ヵ国の死亡率はだいたい同じ5%程度であったことがわかります。

また、死亡者数のピークを感染数のピークと比べると、日本では18日、ドイツでは17日遅れて現れているのに対し、そのズレはスイスでは8日程度ですから、症状が重篤化する速さは、スイスでは日独よりも2倍以上速かったといえるでしょう。

一方で、日独瑞3ヵ国の共通点として、4月に見られた感染のピークを2ヵ月以内に一気に収束させたことが目立ちますが、それに加えて6月頃に死亡率の顕著な低下があったことも見逃せません。流行拡大時の死亡率が5%程度だったのが、1%以下にまで低下しています。

日本の場合、「流行第2波が到来した」というのが本当ならば、もうしばらくしてその死亡率を計算してみると、コンマ何パーセントという数字になってしまいそうです。

日本よりはるかに激烈な被害に見舞われた英仏伊西の4ヵ国ですが、イギリスでは3ヵ月、他の3ヵ国国は2ヵ月で、感染、死亡とも大きく減少させています(図表2)。

図表2 スペイン、フランス、イタリア、英国の武漢肺炎の発生動向

(【出所】日本経済新聞電子版『新型コロナウイルス感染世界マップ』をもとに投稿者作成。なお、各日の発生数は一週間移動平均値を計算し、グラフに表示している)

流行の規模や経過、死亡率などの相互比較に便利なように、4ヵ国のグラフは目盛りをすべて同じにしてあります。感染数と死亡数の縮尺比は10対1に設定してあるので、たとえば「グラフ上で死者数が感染者数と同じ高さである」という状態は、死亡率が10%であるということを意味します。

流行の拡大期を通じて、これらの国ではスペインで10%、フランスで20%超という具合に、非常に高い死亡率が記録されています。また、日独のパターンとは異なり、感染数と死亡数の増減が時間的にほぼ重なっているますが、これは重篤化する症例で病状の進行が極めて速かったことを示しています。

以前、日本に比べて欧米諸国で流行初期の拡大速度が桁違いに大きい理由として、身体接触を伴う日常の挨拶習慣を挙げましたが(『【読者投稿】武漢肺炎、なぜ日本で感染爆発しないのか』参照)、この見方は今でも変えていません。

ただ、図表2をみれば、「西欧諸国の死亡率が高いことにも同じ要因が関わっていそうだ」と書いた点については、訂正しなければいけないでしょう。ソーシャルディスタンスの重要性がやかましく言われた中、そうした習慣はすぐに廃れたはずなのに、高い死亡率は流行拡大期間中ずっと持続しているからです。

あるいは、これらの国々では何らかの「増悪要因」が作用し続けていたと考えられそうです。

そして、重要なのは、感染の減少に合わせるように、この4ヵ国でも6月頃から死亡率の顕著な低下が観察されることです。

感染減少が急激だったフランス、スペインでは、死亡率は日独並みの1%くらいにまで低下しています。7月まで感染減少が続いたイタリアでの死亡率は現在でも3~4%程度、他の3ヵ国に比べて感染減少が緩やかだったイギリスの場合は、かつて20%だった死亡率が10%弱に低下した程度です。

言及しなかった西~中欧諸国の状況も、概ね図表2か、後述する図表3のいずれかのパターンです。もし「増悪要因」なるものが存在するのなら、武漢ウイルスの感染の抑制により効果的に成功するほど、その要因の排除にも成功していると言えそうに思えます。

なお、感染が相当程度まで収束した後再び感染数が増加に向かう現象は、多かれ少なかれ、ほとんどのヨーロッパ諸国で認められる現象で、とくにフランス、スペインで最近目立ってきています。

ロックダウンが解除され、EU域内の移動制限も緩められ、バカンスシーズンに入ったこれらの国々で、人々の武漢肺炎に対する警戒がどうなっているのか、みずから確かめることはできませんが、現地でもある程度の感染拡大は事前に予想されていただろうと思います。

しかし、それらと比べても、日本の流行第2波の様相はいかにも異様というほかないと思います。

感染拡大が止まらない国でも

図表3には、感染が一向収束しないか、未だ拡大が止まらない、米典印伯4ヵ国のグラフを掲げています。

図表3 米国、スウェーデン、ブラジル、インドの武漢肺炎の発生動向

(【出所】日本経済新聞電子版『新型コロナウイルス感染世界マップ』をもとに投稿者作成。なお、各日の発生数は一週間移動平均値を計算し、グラフに表示している)

これらの国でも、5~6月頃に明らかな死亡率の低下が生じているのですが、前節に挙げた国々と異なり、感染の収束との関連性は認められません、いや、それどころかむしろ、米国、スウェーデンに至っては、死亡率低下のあと、いちだんの感染拡大が起こっています。

ブラジル、インドの場合は、死亡率の低下が起こった後も、感染数は影響されることなく増えています。感染数が多い状態で低下傾向が現われるため、グラフ上では減少幅が目立って見えますが、これら4ヵ国の死亡率はいずれも今のところ2~3%程度に低下した水準に止まっています。

それでもこの死亡率の低下がなければ、これらの国の状況はもっと深刻なものになっていたでしょう。

南半球諸国とロシア

逆に、死亡率が上昇に転じた国もあります(図表4)。

図表4 オーストラリア、南アフリカ、ロシアの武漢肺炎の発生動向

(【出所】日本経済新聞電子版『新型コロナウイルス感染世界マップ』をもとに投稿者作成。なお、各日の発生数は一週間移動平均値を計算し、グラフに表示している)

オーストラリアは、日本と同じく、最初の流行の波をいったん収束させたあと、より大きな流行に見舞われている希有の国ですが、死亡率の上昇が伴っている点では、状況が日本とは異なります。

7月以後に限るなら、感染者数は日本の約4割であるにも関わらず、死亡数は2倍以上であり、疾患の危険性が増していることは明らかです。

3月から5月にかけての流行の第1波は、感染数はグラフ上で単一の山を形成していますが、死亡者の数は双耳峰的な形になっています。先のピークは死亡率1%くらいに相当しますが、後の方は正確には見積もれないもののそれより相当高くなっています。

その後感染自体ほぼ発生しなったため死亡者も出なかったが、病状を増悪させる要因は、オーストラリアではすでに4月半ばから拡がっていたのでしょう。その「増悪要因」は武漢ウイルスとは無関係に増減することを意味していると思います。

南半球のほぼ等緯度にあるチリでも6月に、また南アフリカの場合は7月に入って、やはり死亡率の急上昇が起きています。これだけで見れば「増悪要因」は季節的に変化する何かと言えそうですが、どうやらことはそう簡単な話でもありません。

なぜなら、チリの隣国であるアルゼンチンのデータでは、このような死亡率の変化は見られないからです。

さらに、感染者数が爆発的に増加する中でも不思議に死者数が少なかったロシアでも、死亡率の増加が起きています(といっても、5月頃から1%から2%に上がった程度ですが)。

面白いのはベラルーシではロシア同様のパターンが見られるのですが、地続きのポーランド、ルーマニア、ウクライナ辺りはむしろ米国に近いパターン、つまり夏に向けて死亡率が低下していく状況が生じています。

まさかNATOとロシアの勢力圏を反映しているということはないでしょうが、死亡率に起きている上昇/低下が単純な季節変動で説明できる現象でないことも確かだと思います。

武漢ウイルス本来の病原性とは?

感染の捕捉率や判定の正確さなどに国ごとの違いがあるとしても、ほぼ同じ時期に多くの国々で死亡率の低下が観察されることは、武漢肺炎の病状を左右する共通の要因が世界中に存在していることを示すように思われます。

これについて、外的な「増悪」要因を想定して書き進めてきたのですが、そう断言できる根拠は今のところありません。病状を「軽減」する要因の増減にその理由を求めても、あるいはウイルス自体の病原性が変わったと考えても、死亡率の変化を説明することは可能でしょう。

からだの深部で起きている武漢肺炎の進展を抑えてくれるような、都合の良い外部要因を想像するのは難しいので、「軽減」要因があるとするなら、それはからだ自体がもつ抵抗力、いわゆる自然免疫的なものを考えることになるでしょう。

ただ、一部の西欧諸国では感染者の20%にも及ぶ死亡を許した、脆弱だったその力が、短期間に集団の中で死亡率を1%にまで引き下げるほど力を増すというのは、ちょっと信じがたい気がします。

人的交流が極めて制限されている現状で、世界各地に分散したウイルスが、申し合わせたように病原性を変化させたというのも、またおかしなはなしです。「増悪要因」を想定したのは、そういう消去法的な部分もあってのことです。

ただ、それにしても、ウイルス単独でなら感染者の「たかだか」1%を死亡させる程度の疾患の重篤度を(※たとえそうであっても危険な疾患であるには違いないのですが)、ときに死亡率20%を超えるまでに高める、そんな激烈な作用をもつものって、あり得るんでしょうか?

以下は(今までもそうだったかも知れませんが)、わたしの独断と偏見に基づく推論に過ぎません。世の中にはこんなことを考える人間もいるんだと、好奇心の足しにでもなればくらいのつもりで、読んでいただければと思います。

マスクの効用

ネットで探した情報程度の知識ですから誤解もあるかも知れませんが、地域差を生む生活習慣として特に重要ではないかと考えるのがマスクの着用です。

流行拡大時にマスク着用を厳しく義務づけた西欧諸国では感染の収束だけでなく、死亡率の減少幅も大きい一方、どうやら衛生当局者のマスク不信が大きいらしいスウェーデン、銃規制と同様にマスク着用の強制など自由の侵害と考える人が相当数いる米国などでは、どちらについても劣ります。

他の西欧諸国に遅れ、6月頃ようやくマスク着用を対策に取り入れた英国では、感染は相当程度まで抑え込めたものの、死亡率低下については今ひとつ。感染収束と死亡率低下、それらとマスク習慣との相関がないとは思えないのです。

インフルエンザのシーズンになると外出時マスクを着用するのが当たり前になっている日本の風景は、欧米人には奇異に映るようです。あちらではマスクにインフルエンザの予防効果が無いのは常識になっているからです。

その彼らが、一部の国では罰則を伴う強制をしてまで、なぜマスクを武漢肺炎対策の重要ツールとしたのか、理由はよく分かりません。わたしもインフルエンザ予防にマスクは大して役に立たないだろうとは思っています。ただしその時期にマスクをするには十分な効用があるとも考えています。

毎冬インフルエンザとならんで感染性胃腸炎が流行します。これは単一の病原による疾患ではなく、似たような症状を起こす感染症の総称で、冬季の主役はノロウイルス、次いでロタウイルスです。図表5は2007~2011年にかけての両疾患の流行の様子を示したものです。

図表5 インフルエンザと感染性胃腸炎の国内発生動向

(【出所】国立感染症研究所が公表する『感染症発生動向調査週報』のデータより投稿者作成。なお、矢印は感染性胃腸炎発生のピークを示す。本来現われるはずの発生のピークが2009年には消失している(点線矢印)ことがわかる)

例年、感染性胃腸炎には晩秋~初冬と春先という2つの感染のピークがあり、その間にインフルエンザの流行が挟まります。

2つの疾患が排反的関係にあるのは2009年の流行パターンを見れば明らかで、この年は夏からすでに始まっていた新型インフルエンザの流行が年内いっぱい続きましたが、この年に限って現われるはずの感染性胃腸炎の第1のピークが全く見られなくなっています。

アメリカでもインフルエンザとノロウイルスは冬季に流行しますが、流行のピークはほぼ一致していて、日本に見られるような相互排反的な現象はありません。

わたしはこの日本独特とも言える現象をマスク習慣と関連付けて捉えています。

インフルエンザのような飛沫感染タイプの病原には大して役に立たなくとも、ノロウイルスのような経口感染タイプの病原には有効というわけです。本命の予防には実は役立たずとも、別の疾患と感染のピークをずらすことで、医療機関の負担を軽減する効果なら十分にあると考えるのです。

じつはこれと似た現象が日本で今大規模に生じています。国立感染症研究所が毎週発表している『感染症発生動向調査週報』の『グラフ総覧』の項をご覧になると、様々な流行性疾患が、3月以降、発生数が極めて低いレベルにまで低下していることがわかると思います。

ほとんどの流行性疾患のおもな患者は小児ですから、これらのデータは小児科の報告定点から上がってきたものです。学校の春、夏、冬期休暇やゴールデンウィークの影響で報告数の一時的減少があっても、流行期間であればすぐに元のレベルに戻るのが普通です。

今年この状況が長く続いているのは、緊急事態宣言に基づく休校措置と、解除後もマスク着用や身体接触を避ける指導が校内で厳しく行われている効果と思われます。

私の住む町では、これだけ暑くなっても、電車、バスに乗っても、通りを行き交う人も、ほぼ100%マスクをしています。日本のどこでもが多分同じような状況でしょう。とすれば、学校に限らず、今多くの流行性の病原が社会で存在頻度を減らしている可能性があると思います。

武漢肺炎とその「増悪要因」が同時に数を減らしたことで、日本、そしておそらく西欧諸国に、感染数と死亡率、両方の低下がもたらされた、というのがわたしの仮説です。

「増悪要因」は溶連菌?

わたしが「増悪要因」の第一候補と考えているのが溶連菌(A群溶血性連鎖球菌)という細菌です。

おもに小児に咽頭炎や扁桃炎を起こし、患部は痛みを伴って赤く腫れるうえ、悪化すると、高熱とともに全身に発疹を生じる猩紅熱の症状となり、抗生物質の登場以前は死亡率の高い小児にとって怖い病気でした。

猩紅熱(しょうこうねつ)の発症まで病状が進むと、しばしば急性腎炎、リウマチ熱などの免疫が絡む合併症が起きることは古くから知られています。川崎病もまた溶連菌の関与が疑われている疾患のひとつです。

溶連菌が放出する毒素には免疫細胞の機能を異常に昂進させる作用があり、血流に乗って全身を巡るため、増殖の場である喉から遠く離れた組織に病変を生じると考えられています。

傷口から侵入した溶連菌がまれに組織の大規模な壊死を引き起こす現象から、「人食いバクテリア」というおどろおどろしい異名がありますが、これなどもやはり毒素が引き起こす一症状でしょう。

溶連菌は健康な成人の喉から高頻度に検出される常在菌で、わたしたち大人の大抵は、この菌が一時的に喉に定着しても発症には至らない強い免疫をもっています。血液中には毒素に対する抗体も含まれているはずです。

しかし、たまたま抗体濃度が低い人、加齢のためにその産生量が低下している人などが武漢肺炎に罹り、その上で溶連菌の侵入を受けたなら、ウイルスの排除とともに回復するはずの肺組織の炎症が、溶連菌毒素の作用で免疫細胞の機能が異常に昂進する結果、不可逆的なダメージとなり得ます。

これこそ、「もし溶連菌が『増悪要因』としてはたらくならば」、でわたしが考えるイメージです、米国で武漢肺炎に罹患した小児に、川崎病様の症状が頻出したという報告も、溶連菌毒素の作用で説明できるかも知れません。

日本で武漢肺炎による死亡が異様に少ない説明として、この「溶連菌悪玉説」が直接的証拠を伴っていないことは、BCG説、交叉免疫説、自然免疫・HLA説、弱毒ウイルス蔓延説など様々な仮説とご同様です。

ただし、ひとつ他説との違いがあります。

この考えでは、日本に他国では容易に真似られない特別なアドバンテージを想定していません。今見ている低病原性は世界中どこにでも存在する外部要因によってもたらされた一時的なもので、状況が変われば再び危険度が増すと考えます。

図表6に示したように、小児の溶連菌感染症は春以降低値で推移してきましたが、本来発生数は盛夏の時期に極小となるため、現在ではほぼ通常水準になっています。

図表6 過去10年間の溶連菌感染症の国内発生動向(2020年は第30週まで)

(【出所】国立感染症研究所『感染症発生動向調査週報』第30号、グラフ総覧より転載)

マスク着用などの予防対策の遵守がおろそかになれば、これからは例年どおり冬にかけて、発生数が増加していくはずです。はじめに「警戒心を緩めるべきでない」と言ったのは、このことも考慮してのことなのです。

ついでながら、例のイソジンうがい薬のはなし。

溶連菌の喉への定着を防ぐという意味でなら、必ずしもナンセンスとは言えないと、個人的には考えていることを付言します。<了>

読後感

…。

当ウェブサイトの著者は金融評論家であり、医学の知識には疎い部分があるのですが、客観的なデータを集め、それに対して何らかの仮説を提示していくというスタイルは、当ウェブサイトとは非常に親和性が高いものであり、それだけに、読んでいて安心感があることはまちがいありません。

もちろん、本稿の信頼性については、読んだ皆さまがご判断いただくべきものですが、少なくとも豊富な図表と経験に裏打ちされた考察には、注目する価値があるように思えてなりません。

いずれにせよ、7月以来の武漢コロナの流行は初期(3~4月)のものを超えているにも関わらず、重症患者数、死亡者数が遥かに少ないまま2ヵ月近く経過しているわけです。いずれにせよ本稿は、読者の皆さまの知的好奇心を刺激するような議論が深まるきっかけとなるでしょう。

伊江太様、今回も大変な力作、本当にありがとうございました。

新宿会計士:

View Comments (34)

  • いつも興味深い内容を拝読させて頂いております。
    コロナとインフルエンザは違うとはいえ、今が本当に第二波なのかと言う疑問を抱きながら感染動向を見ております。
    早くコロナ感染者が「非国民」扱いされなくなる日が来ると良いのですが。
    病気に罹って「謝罪会見」は、不倫謝罪以上に不思議です。

  • 今朝もこのニュースで東京に比べ大阪の方が重症率が高い
    しかし、東京ではICUの患者を重症としていないなど、国内ですら算定基準が統一されていない
    大阪の方が重症化は病院、高齢者施設でクラスターが発生
    などの要因を十分に説明解説しないと、誤った捉え方をしかねません。

    感染症である以上、感染拡大は当然、如何に死者数を減らすか
    それについてどうすべきかの報道がなされるよう望みます

    •  重症者・中等者・軽症者の統一基準がなければ地方同士の比較の意味が薄れる 
       国が基準の統一をすすめるべきでは?

       気になる後遺症
       後遺症で恐怖感を煽っているがどのくらい(比率)の方が後遺症に悩んでいるのか?
      肝心なところの報道が欠ける

       データの信憑性
       不確かな記憶で申し訳ないが
      最近 英国で基準見直しにより死亡者が(発表死亡者)から5000名減少との報道に接した
       各国事情により基準が違うのは理解できるが(日本国内でさえ統一基準での発表ではないのに)本当にデータの信憑性はあるのでしょうか?
      (中国・北朝鮮等怪しい国多数)

    • ウイルスが大阪株に代わって大阪弁を喋るようになったわけではないと思います。
      問題があるとすれば医療提供体制の方ではありませんか?
      コロナで病院経営が、宜しくないのは確かなことです。
      でも何となくなっているのは公立病院のおかげです。
      某市立病院副院長の同級生は、売り上げが減って来年の市議会での吊し上げを恐れているという話を以前書きました。
      基本的に「維新」が大阪府と大阪市の合併を企んだ段階から府立病院や市立病院の職員は、自分の「席」が無くなるのか?降格なのか?そのままでも給料下がるのか?
      と疑心暗鬼に囚われています。
      基本的に、新自由主義で小さな政府志向の維新が権力を握れば官立機関は民営化となるのは明らかです。
      公共交通機関の民営化の先にあるのは府立・市立病院の統合と民営化でしょう。
      其処には、当然民間への下げ渡しによる「リベート」も発生するわけです。
      それが解っていれば安定した就職先として選択されませんよ。
      だから、「維新」がコロナ騒動で「救世主」的存在として扱われるのチャンチャラ可笑しいです。
      抵抗勢力が大阪都構想に抵抗していたから今のレベルの医療が維持できているのです。
      次の選挙で「維新」が票を伸ばせば、公立病院が崩壊して、次の新型感染症で大阪は地獄に落ちるでしょう。
      維新好きの方々には申し訳ありませんが、新自由主義は自殺や自滅する自由も含んだ自由です。

      • ポプラン様
        >新自由主義は自殺や自滅する自由も含んだ自由です。

        これだと新自由主義をまだまだ良く言いすぎでしょう。

        新自由主義の行き着くところは「全てのことは自己責任」ですよ。当然ながら今回のような疾病の大流行をも含むあらゆる災害(大地震なども含め)に対しても個々の住民それぞれが自己責任で対応しなさい、これが新自由主義という主義つまり価値観の行き着く先ですよ。

        もちろん災厄に対して対応できない人が自殺する自由(というよりも自殺に追い込まれる責任)も社会や行政でなく自殺する当人自身に帰せられるわけです。

        (少なくとも1980年代あたりまでの)西ヨーロッパのように伝染病の大流行以外の大規模な自然災害はかなり稀という地球上では極めて恵まれたエリアの住民ならばいざ知らず、大地震・津波・火山噴火・台風・洪水と自然災害のデパートとでも言うべき日本列島に暮らす人間にとって全てを個々人の責任で対応すべしという新自由主義は最も適さない(日本国民の大多数が新自由主義を信奉すれば日本国民は文字通り絶滅の危機に晒されかねない)価値観だと常日頃から個人的には思っているのですがね。

        この日本列島で暮らしながら何にでも自己責任と声高に叫ぶ新自由主義を信奉する人間は、憲法9条があれば日本の平和は守られると信じられる9条教徒と向きは違いますが同じレベルの脳内お花畑な人種だと思いますよ。

        それ以前の問題として、そもそも人類社会がここまで大発展を遂げた最大の原因は社会の構成方法として分業制を徹底することで社会全体としての生産性を高めてきたことにあります。文明社会の最大の特徴である個々人の能力の適性に応じた徹底した分業化と、様々な重大事態に対する個々人の自己責任での対処能力の用意を求めることとは、完全に矛盾している。この簡単な事実に気付かない新自由主義者は、余程の間抜けか気付いて主張しているなら実に質の悪い詐欺師としか言い様がありません。

      • 大阪維新の消極的支持者として少し私見を述べさせていただきたく存じます
        既得権益受益者擁護者連中の所業が余りに酷過ぎだと有権者に判断された結果が現在の大阪の政治状況だと考えますが?
        「府市合わせ」しかり、行政の放漫経営しかり…
        このまま維新体制が強化されて大阪が氏の仰る状況に進んだとしてもそれは大阪の有権者の選択であり、結果についてネガティブな評価が当地にて優勢になれば選挙によって維新体制は縮小喪失していくことでしょう
        まさに旧民主党が政権を手に入れ、そして手放すに至った歴史を我々は身を以て経験してきたのではありませんか?
        それが民主主義統治機構の欲するコストではありませんかね?

  • 伊江太様
     論考ありがとうございます。
     新宿会計士様には、失礼になりますが、国内症例だけ私も分析していますので、この場をお借りさせていただきます。
    ・男女別、年齢別死亡率の推定と、厚労省オープンデータからの、陽性者数・死亡率の変化(8/15アップデート)。陽性者数が増加しているが、過剰なPCRによる無症状の掘り起こしのため、特に意味はないという推定。
    「防衛大臣に触発されたので、COVD-19による死について考えてみる」
    https://ncode.syosetu.com/n5542gk/

    ・細菌やウイルスの変異の多様性。今後拡大するか収束するかの予測は不可能であることの考察(弱毒性と強毒性についてオカルト的な推測にも言及)。
    「医師から今後を予測できないか?と問われたので、感染症について考えてみる。」
    https://ncode.syosetu.com/n1279gl/

    • 2つのWEB読みました。的を射た分析がと思います。公表データが少ないので,あまり手の込んだ分析はできません。

    • Epiyaさま

      リンク先を拝読しました。

      >そして逆にいうと、3月末の感染拡大時には、潜在的な感染者が多数いた可能性があります。ですから、陽性者数が多いのを悲観的に捉えるのではなく、状況はコントロールされていると捉えてください。

      この下りの前半はおっしゃる通りかと思います。

      後半についてはコントロールできているかは疑問です。
      この後、高齢者に感染が拡大すると死者数も増えてくるのでは無いかと心配しているところです。
      実際、30代以下の新規感染者数の割合が七割から四割に減ってきているので、状況は悪化していると思います。
      何かの拍子に高齢者のクラスタが発生すると医療崩壊リスクが顕在化するので注意が必要です。

  • 伊江太 様

    深い考察、ありがとうございます。
    これだけ各国の状況がバラバラだと、もはや私の手にはおえません。

    子供を中心に、感染症の発生が減っていることは聞き及んでおります。
    一方、この暑さのなか、外を歩くときまでマスクはきついですね。
    今夏は冷房設定温度を下げると共に、移動は公共交通機関ではなくマイカー中心にしないと熱中症の方が心配です。

  • 伊江太さま
    いつも読者投稿、ありがとうございます。
    治療法や薬にどれほどの効果が有るのかが、知りたいところですね。
    日本の場合より衛生環境が良くなって、他の感染症の予防になっている様に思います。
    感染症は、コロナだけでは無いので、マスクだけでは無く、手洗いうがい、アルコール消毒など、効果を上げているのだと思います。

  • 伊江太様、投稿ありがとうございます。
    死亡率は他の感染症との相乗効果が影響しているのではないかという論考は私も同意致します。

    この時期の感染者増の傾向は、個々人の感染拡大防止策の緩い所を突かれているのではないかと考えている次第です。
    (個人的には、飲食中の会話がかなりリスク要因となっていると考えております)
    今一度、各人で感染拡大防止を考えた行動の見直しと実践を図って欲しいと考えております。
    (ゼロリスクは論外ではあるけど)

  • 伊江太様

    ご投稿ありがとうございます。シロウトにも武漢肺炎について分かりやすく説明していただき、ありがとうございます。

    なるほどマスクですか。確かに言われる通り、米国人2人に奇異に思われた事があります。数年前の2月に来日され、2年間居ました。当時寒さが厳しかったので、関空は皆マスクしてました(笑)。

    その方が言うには「米国人でマスクするのは刺激臭の中で仕事をするペンキ工ぐらいだ。この空港に居るのは皆ペンキ屋か?」(爆笑)。もちろんジョークです。しかし、とても驚き、自分も早速付けてました。馴染むのがとても早い方でした。

    米国に戻り、周りにも勧めたそうです。

  • 話がずれますが、K防疫の現状を少し。
    韓国でも、第二波と思しき感染拡大が起こっています。

    韓国、新型コロナの新規感染246人…地域発生だけで235人、1日で再び200人台に増加
    https://s.japanese.joins.com/JArticle/269310
    >ソウル中心に新規感染者の拡大が起こっている様です。
    「韓国サラン第一教会、コロナ陽性率16.1%」…600人隔離できず
    https://s.japanese.joins.com/JArticle/269289
    >クラスターは、以前と同様に、教会から発生している様です。
    また、宗教団体が反政府デモを行い、感染拡大しているとの話も有る様で、首都圏での集会制限が強化された様です。

    韓国らしい話として、医師の数を増やせば良いという事で、医大定員を増やす話になりましたが、医師や医大生が、大反対しており、医療機関がストに突入する様です。

  • 伊江太様
    個人的には、死亡率の低下はステロイドの使用に躊躇がなくなったからではなかろうか、と思ってます。高齢のDM患者が最も死亡率が高いのは、それも一因かしら?

    • サイトカインストームにはステロイドが有効,という話は4月頃の私の予想と大きく違ってしまいました。マスコミを賑わせた薬は,いまひとつだったものが多いですね。

      • 愛読者 さま
        私もどこかで書いたと思いますが、医者なら「トシリズマブが効くならステロイドも効くだろ」と考えるほうが普通です。まあ、功罪あるので、使い難い部分はある薬ですが、有効性が一応公に担保されたので、はっきり言えば「使ってダメでも裁判には負けない」ので、使いやすくなった、と言うことですね。
        現代医療の最大の敵は、無知な家族と裁判官なので。

  • 伊江太様
    論考、面白く読ませていただきました。
    武漢肺炎、少し飽きてきました。

    「20台、30代の若者に感染が広がって…。」
    夜の街、ガールズバーのガールたちやホストバーのホストたちに検査を集中させたら、
    当たり前。

    今着目しているのは南半球の死者の推移。
    オーストラリア、アルゼンチン、南アなど。
    日本も11月くらいから要注意かもしれません。

    • 成功できなかった新薬開発経験者 様
      今のは脇の甘い所からの感染拡大で、本当の第二波はインフルエンザの流行り始めと同じ頃の様な気がします。

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