CMIMでなぜか「支援受ける気満々」=韓国メディア
昨日の『多国間通貨スワップ「CMIM」増額などは見送られた』で、せっかく「チェンマイ・イニシアティブ・マルチ化協定(CMIM)」の改訂契約について触れたのに、「肝心の話題」に触れるのを忘れていました。それは、隣国・韓国のメディアがこのCMIMの改訂契約について、あたかも自分たちが「支援を受ける立場」であるかのごとく取り上げていた、というものです。とりあえず本日、米韓為替スワップの第一弾の資金については返済するつもりらしいのですが、同国の外貨資金繰りの実態はどうなのでしょうか。
CMIMの復習
昨日の『多国間通貨スワップ「CMIM」増額などは見送られた』では、「チェンマイ・イニシアティブ・マルチ化協定(CMIM)」と呼ばれる多国間通貨スワップの仕組みに関し、「改訂契約が発効した」と日銀などが発表した、とする話題を取り上げました。
このCMIMとは、わかりやすくいえば、東南アジア諸国連合(ASEAN)10ヵ国プラス日中韓・香港の14ヵ国・地域が参加し、東南アジア各国の通貨危機・金融危機などを未然に防ごうというものです。現時点における総額、各国の「拠出額」と「引出可能額」については、図表1にまとめています。
図表1 日本が参加する多国間通貨スワップであるCMIM
国 | 拠出額 | 引出可能額 |
---|---|---|
日本 | 768億ドル | 384億ドル |
中国(※) | 768億ドル | 405億ドル |
韓国 | 384億ドル | 384億ドル |
インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン | 各 91.04億ドル | 各 227.6億ドル |
ベトナム | 20億ドル | 100億ドル |
カンボジア | 2.4億ドル | 12億ドル |
ミャンマー | 1.2億ドル | 6億ドル |
ブルネイ、ラオス | 各0.6億ドル | 各3億ドル |
合計 | 2400億ドル | 2400億ドル |
(【出所】財務省『CMIM 貢献額、買入乗数、引出可能総額、投票権率』。ただし、中国については香港との合算値。中国以外のIMFとの「デリンク」割合は30%。また、香港はIMFに加盟していないため、中国の引出可能額に占める「IMFデリンク」割合は他の国と異なる)
「日中韓がASEANを支援」?
これで見ると、ASEAN諸国はいずれも拠出額に対して引出可能額の方が多く、それと対照的に日本と中国は引出可能額に対し、拠出額が上回っていることがわかります。つまり、日中(+香港)が支援する側、ASEANが支援を受ける側、というわけですね。
ただし、このCMIM、上限が2400億ドルであり、この2400億ドルが各国に配分されるため、ASEAN諸国も最大で合計227.6億ドルまでしか受け取ることができません。
また、「30%のデリンク割合」というものが定められていますが、これは、「限度額の30%を超えて通貨スワップを引き出そうとすれば、国際通貨基金(IMF)が介入して来ますよ」、という条項です。
したがって、とくにIMFに対する「トラウマ」を抱いているであろう国(インドネシアなど)にとっては、この227.6億ドルの全額を引き出すというのはなかなか憚られるのでしょう。
いずれにせよ、著者としてはこのCMIMについて、現実に引き出すための仕組みというよりも、どちらかといえば「ASEANにはこういう多国間の通貨スワップという仕組みがあるから、通貨危機を防ぐことができますよ~」という、市場参加者などへのアピールの目的があると考えています。
また、支援する側である日本にとっても、相手国からはそれなりに感謝してもらう必要があります。その意味では、おなじ通貨スワップならば多国間のものではなく、二国間のものの方が、日本が援助しているという点が明らかになりやすいでしょう。
その意味では、著者としては、このCMIMについては上限額2400億ドル、デリンク割合30%を維持するのが望ましいと考えており、当ウェブサイトでも昨日紹介したとおり、今回の改定では、このもっとも重要な部分については改訂が見送られた点については歓迎すべきだと思います。
なぜ自分たちが支援を受けることを前提にしている!?
さて、当ウェブサイトで取り上げるのをうっかり忘れていたのが、次の記事です。
ASEAN+韓日中の通貨スワップ発効、韓国の金融危機対応力高まる
韓国銀行(韓銀)は23日、域内多者間通貨スワップ「チェンマイ・イニシアティブのマルチ化」(CMIM)改訂契約が発効したと明らかにした。<<…続きを読む>>
―――2020.06.23 16:01付 中央日報日本語版より
韓国メディア『中央日報』(日本語版)もこのCMIMの改訂契約の発効について報じているのですが、さりげなく、こんな記述が紛れています。
「危機を迎えれば、支援要請国は自国通貨を提供し、支援国は分担金比率に基づき米ドルを提供する。韓国は分担金比率に基づき危機時に最大384億ドルを引き出すことができる。」
この記述、いちおう間違ってはいません。先ほどの図表でもわかるとおり、CMIMに基づく韓国の引出可能額は、たしかに貢献額と同額の384億ドルだからです。
ただ、こうやって眺めると、何だかとてつもない違和感を覚えます。というのも、もともとCMIMは「通貨ポジションが強い日中韓+香港」が、「通貨ポジションの弱いASEAN諸国」を支援する、という建付けのものとして想定されていたはずだからです(※もちろん、明示されているわけではありませんが…)。
韓国は通貨ポジションが脆弱…
というよりも、韓国が現在保有しているスワップは、このCMIMを除けば、昨日の『多国間通貨スワップ「CMIM」増額などは見送られた』などでも触れたカテゴリーでいうところの「二国間ローカル通貨建て通貨スワップ」(BLCSA)と為替スワップしかありません(図表2)。
図表2 韓国が諸外国と結んでいるスワップ(自称含む)
相手国と失効日 | 金額とドル換算額 | 韓国ウォンとドル換算額 |
---|---|---|
中国(2020/10/13?) | 3600億元 ≒ 505.6億ドル | 64兆ウォン≒522.4億ドル |
スイス(2021/2/20) | 100億フラン ≒ 104億ドル | 11.2兆ウォン≒91.4億ドル |
UAE(2022/4/13) | 200億ディルハム ≒ 54.4億ドル | 6.1兆ウォン≒49.8億ドル |
マレーシア(2023/2/2) | 150億リンギット ≒ 34.9億ドル | 5兆ウォン≒40.8億ドル |
オーストラリア(2023/2/22) | 120億豪ドル ≒ 81.4億ドル | 9.6兆ウォン≒78.4億ドル |
インドネシア(2023/3/5) | 115兆ルピア ≒ 78.6億ドル | 10.7兆ウォン≒87.3億ドル |
二国間通貨スワップ 小計 | 859.0億ドル | 106.6兆ウォン≒870.1億ドル |
多国間通貨スワップ(CMIM) | 384.0億ドル | ― |
カナダ(期間無期限)※ | 金額無制限 | ― |
米国(2020/09/19)※ | 600億ドル | ― |
(【出所】各国中央銀行ウェブサイト、報道などを参考に著者作成。※印で示したカナダ、米国とのスワップは、通貨スワップではなく為替スワップ。米ドル換算額は6月1日午前11時ごろのWSJのマーケット欄を参考に試算)
つまり、韓国は米ドルで引き出すタイプの通貨スワップを保有しておらず、だからこそ韓国銀行や韓国メディアは折に触れ、実際には使い物にならないBLCSAも含めたスワップ全般を「通貨の安全弁」として協調しているのかもしれませんね。
また、韓国は米韓為替スワップ(上限600億ドル)に基づき、米ドル資金を187.87億ドル借り入れています(図表3)
図表3 韓国銀行の米韓為替スワップの返済予定表
借入日/返済日 | 金額 | 金利/期間 |
---|---|---|
4月2日(木)借入/6月25日(木)返済 | 79.20億ドル | 0.91%/84.00日 |
4月9日(木)借入/7月2日(木)返済 | 41.40億ドル | 0.53%/84.00日 |
4月17日(金)借入/7月9日(木)返済 | 20.15億ドル | 0.36%/83.00日 |
4月23日(木)借入/7月16日(木)返済 | 21.19億ドル | 0.34%/84.00日 |
4月29日(水)借入/7月23日(木)返済 | 12.64億ドル | 0.33%/85.00日 |
5月8日(金)借入/7月30日(木)返済 | 13.29億ドル | 0.29%/83.00日 |
合計/平均 | 187.87億ドル | 100.00%/84日 |
(【出所】ニューヨーク連銀の “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページにあるエクセルファイル “U.S. Dollar Liquidity Swap – Operation Results” を参考に著者作成)
このうち本日償還期限を迎える79.20億ドル分については、おそらく、借り換え(ロールオーバー)をせずに返済してしまうつもりなのだと思いますが、このあたりの動向も気になるところです。
人民元経済圏に戻るのは歴史の必然?
さて、『トルコが中国との通貨スワップを実行し人民元を引出す』で紹介した、トルコと中国の人民元建てのスワップは、トルコの中央銀行が中国人民銀行から(米ドルなどの国際通貨ではなく)ローカル通貨である人民元を借り入れる協定であるため、「二国間通貨スワップ」、とくに「BLCSA」です。
トルコの場合は中国から入手した人民元を、中国企業などからの輸入代金の決済に使ったなどと発表していますが、金額、決済条件などについては明らかにしていません。
しかし、自然に考えたら、トルコがこのBLCSAをうまく使うことができた理由は、トルコが中国からの輸入国であるという事情が大きいように思えてなりません。
このため、韓国のように対中貿易黒字を計上している国が、緊急時に外貨不足に陥ってしまった場合、人民元建て通貨スワップを引き出したとしても、果たして使い物になるのかどうかは微妙です。
しかし、考え様によっては、韓国が今後、ドル経済圏から脱却し、人民元経済圏に戻るという可能性も、あながち否定できないような気もします。というのも、韓国はほんの百数十年前まで中華属国だったわけです。
韓国が日米などの「海洋同盟勢力」から離れ、「大陸同盟勢力」に組み込まれていけば、通貨という面でも今以上に人民元の使用比率は高まっていくのではないかと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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返済が今日だとしたら為替スワップを使った借り換えのためには2営業日前くらいには入札やらなきゃいけないので、今回の為替スワップのドルは返済でしょうね
為替スワップは市中銀行にドルを供給しているので、これをやっても韓国政府や韓国の中央銀行がドルを手にすることはできません。もちろん市中銀行からキックバックをもらうと言った非常手段はあるでしょうが、そこまでの危機は今のところなさそう。
韓国政府はドルを欲しいのですが、韓国の市中銀行は国際業務活発でないのでそこまでドルは欲しくない。まあ、今回は市中銀行は韓国のスワップ実績つくりに大量に「借りさせられた」のでしょう。実績つくりのために貴重な適格担保を大量に吸い取られたので、さっさと返して担保をとりもどしたいわけですね。
中央日報の過去記事に「通貨スワップ」に対する次のような説明がありました。
https://japanese.joins.com/JArticle/219931
通貨スワップ=両国が協定を通じ為替相場や規模などの条件をあらかじめ決めておき必要時に互いに通貨を交換すること。国際金融市場の不安にともなう外貨不足事態などに備えて結ぶ。外貨準備高が有事の際に備えて積む「積立金」とすれば、通貨スワップは一種の「マイナス貸出」約定だ。韓国、中国、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)各国が参加するチェンマイイニシアチブ(CMI)のように多国間協定形態でも締結される。
「互いに通貨を交換する」とありますから、この記事を書いた記者は「通貨スワップ」がなんであるか分かっています。
では、現在の米韓スワップを中央日報は「通貨スワップ」と呼ぶのでしょう。韓国中央銀行がFRBと通貨交換した事実がないことは分かっているはずです。
小生は「政府が通貨スワップと言えば為替スワップも通貨スワップ」との有言無言の圧力が働いていると思います。
勿論、韓国政府が「通貨スワップ」が何であるか、理解しているかどうかは別問題です。
駄文にて失礼します。
韓国経済が、別に余裕がある訳では無いと思います。
韓経:韓国、外貨準備高4000億ドル超えるのに…外平債また発行
https://news.yahoo.co.jp/articles/701a6fb4d0b1a208e43a09528bee7aed916fc354
以下引用します。
外平債は政府が為替相場の安定を目的に運用する外国為替平衡基金の財源を調達するために発行する外貨建て債券だ。
引用ここまで。
要は、為替介入資金を、外平債と言う面目で発行しているという事です。
>CMIMでなぜか「支援受ける気満々」
スワップ協定のことを「マイナス通帳(当座借越?)」だと言って憚らないのですから、「共助(お互い様)である」との観念がないのでしょうね。いつだって、自分たちの一方的な利用が前提なのでしょうから・・。
そんな自分本位な彼らには「脱CMIM」をオススメしたいですね。
せっかくの拠出額がデリンク条項の足枷で活かしきれないのは、本意ではないのでしょうしね・・。
*「ASEA+2か国」でも組織内でのパワーバランスは変わりない訳なのだし、日本にしても吝かではないような気がします。
(。´・ω・)ん?・・が抜けてます。
「ASEA+2か国」→「ASEAN+2か国」ですね。
*本稿図表2の解説部分
>「通貨の安全弁」として協調→「強調」でもいいのかもですね。
更新ありがとうございます。
スワップは多国間のものではなく、二国間のものの方が良いと私も思います。CMIMについては上限額2400億ドル、デリンク割合30%に維持するのが良いでしょう。
CMIMでも、某国は384億ドル、まるまんま使う気満々です。東南アジアの弱小国ならともかく、G7+1に入りたくて仕方ない某国が何を言うやら、というのが正直なところ。
早くシナとのスワップを取極たんだから、アチラ陣営に行って欲しいと思います。シッシッ!
記事の更新ありがとうございます。
昨日、一昨日と調べているうちにいろいろと「うわさ」を耳にしたのですが、ソースが無かったので特に書きませんでしたが、せっかく続報を頂いたので書いてみます。
その噂と言うのが、
1.そもそも引き出しは拠出額を入れた分までしか引き出せない
2.拠出額と引き出し可能額を見てわかるように韓国は拠出した分しか引き出せないので、もともとの構想としてはASEAN+2だったのを韓国が無理やり割り込んできた
3.今回のCMIMの改定で、引き出した国はその額をマスコミ発表しなければならない
3は怪しいとして、2はストーカー気質の韓国なら「日本が出すならうちも出すニダ!」ってやりそうと思いました。
1に関しては理にかなっていると思いますので、その通りかもしれません。
そうすると、384億ドルも出して、115.2億ドルしか引き出せないことを考えると、韓国はいつもの「拠出するする詐欺」で、拠出すらしてないのではないかと勘ぐってます。
仮に拠出してれば、その分はとっくに引き出しているんじゃないかなとも思いました。
ちなみにですが、私も韓国は人民元が国内流通通貨になるような気がします(笑)
失礼しました。